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6. 予防原則を適用するためのガイドライン

6.1 実施
 環境または人間、動物もしくは植物の健康に対し、適切な措置を講じなければ重大な結果を招くおそれのあるリスクが生じることに政策決定者が気づいたとき、適切な保護措置の問題が生じる。政策決定者は、最も適切な行動方針を選択するために、組織立った取り組みを通じて、環境または健康に対するリスクのできる限り完全な科学的評価を入手しなくてはならない。

 予防原則に基づいた措置を含む適切な行動の決定は、科学的評価から始めるべきであり、できる限り客観的で完全な科学的評価を実施するために、必要ならば科学者を任命する決定から始めるべきである。それによって、既存の客観的証拠、知識のギャップ、科学的不確実性が明らかにされる。

 予防原則に基づく取り組みの実施は、できる限り完全な科学的評価から始め、可能ならば、それぞれの段階で科学的不確実性の程度を特定する。


6.2 きっかけとなる要因
 考えられる最良の科学的評価が実施されたならば、その科学的評価は予防原則を行使するか否かの決定をする場合の基礎を提供するかもしれない。この評価の結論は、環境または住民集団にとって望ましい保護レベルが達成できない可能性があることを示すべきである。その結論には、科学的不確実性の評価および科学的または統計的データの不足を補うために用いられる仮説についての説明も含まれる。措置を講じないことによって起こる可能性のある結果の評価について考慮すべきである。政策決定者はそれをきっかけとして利用するかもしれない。政策決定者は、考えられる措置を検討する前に、新たな科学的データを待つか否かの決定を最大限の透明性を保ちながら行うべきである。因果関係、定量化できる用量反応関係または暴露による悪影響の出現確率に関する定量的評価の存在を示す科学的な証拠がないことを、措置を講じないことを正当化する理由にしてはならない。たとえ科学的助言が科学界の少数派からしか支持されないとしても、この少数派の信頼性や評判が認知されているなら、彼等の見解に対し正当な配慮がなされるべきである1

 欧州委員会は、可能な限り透明性を保りながら手順に依存し、可能な限り早い段階からすべての利害関係者を参画させたいという意志を確認してきた2。これは、健康または環境の保護に関して社会が選択したレベルを達成する見込みのある合法的な措置を政策決定者が講じる際の助けになるであろう。

 予防原則に基づく措置を行使するかどうかを決定するとき、政策決定者は、措置を講じないことによって生ずる可能性のある結果および科学的評価に付随する不確実性に関する評価を考慮しなければならない。
 すべての利害関係者は、科学的評価および/またはリスクアセスメントの結果が入手可能になったら、予想されるさまざまなリスクマネジメントの選択肢の検討に可能な限り完全に参加すべきである。また、その手続きはできる限り透明性をもたものなければならない。


6.3 適用の原則
 原則は、予防原則の適用に限定されない。原則はリスクマネジメントに関するあらゆる措置に適用される。予防原則に端を発した取り組みは、完全なリスクアセスメントができる場合に一般に用いられるこれら基準を、可能な場合常に適用しなければならない。
 したがって、予防原則に依存することは、リスクマネジメントの原則から逸脱することの理由にはならない。
 これらの原則には以下のものが含まれる。

6.3.1 釣り合い
 構想される措置は、適切なレベルの保護を達成できなければならない。予防原則に基づく措置は、希望する保護のレベルと不釣合いであってはならないし、また、めったに存在しないものであるゼロリスクを目指してはならない。しかしながら、ある場合には、不完全なリスクアセスメントはリスク管理者に利用可能な選択肢の数を著しく限定するかもしれない。
 場合によっては、全面禁止は潜在的リスクに対する釣り合いのとれた対応ではないかもしれない。また、潜在的リスクに対する実施可能な対応が全面禁止しかない場合もある。
 リスク低減措置には、適切な取り扱い、暴露の低減、管理の強化、暫定的制限の採用、危険にさらされている集団への勧告など、同等の保護レベルを達成できるあまり制約的でない代替案を含めるべきである。また、懸念のある製品または手順をより安全な製品または手順に置き替えることも検討すべきである。

 リスク低減措置は、措置の釣り合いがを評価しやすい直近のリスクに限定されるべきではない。因果関係を科学的に証明するのが難しく、だからこそ予防原則をしばしば行使しなければならないいのは、暴露後長い期間が経過するまで悪影響が現れない場合である。この場合には、措置の釣り合いを評価する際に潜在的な長期的影響を考慮して、その影響が10ないし20年経過しないと現れないために、あるいは将来の世代に影響を与えるリスクを制限または排除するために、迅速な措置を講じる必要がある。このことは、特に生態系に対する影響にあてはまる。将来に持ち越されるリスクは、暴露の時点、すなわち直後を除けば、排除または低減することができないからである。

 措置は、希望する保護のレベルとの釣り合いがとれたものでなくてはならない。

6.3.2 差別のないこと
 “差別のないこと”という原則は、客観的な根拠がある場合を除き、類似した状況が異なる取扱いを受けるべきではなく、異なる状況が同じ方法で取り扱われるべきではないことを意味する。
 予防原則のもとで講じられる措置は、異なる処理を任意の方法で適用するために、地理的由来または製造プロセスの内容を引き合いに出すことなく、同等の保護レベルを達成できるよう設計されるべきである。

 措置は、その適用において差別的であってはならない。

6.3.3 一貫性
 措置は、類似した状況で以前に採用された措置または同様の方法を用いる措置との整合性が取れていなければならない。リスク評価には、評価が可能な限り詳細であることを確実にするために考慮すべき一連の要因が含まれる。ここでの目標は、特に用量と影響の関連を立証し、標的集団または環境の暴露を評価することによって、ハザードを特定しその特性を記述することである。確実な科学的データがないために評価に固有の不確実性を考慮しながらリスクの特性を記述できない場合には、予防原則のもとで講じられる措置は、すべての科学的データが入手可能な同等の分野で既に講じられた措置と内容および範囲が同等でなければならない。

 措置は、類似した状況で以前に採用された措置または同様の方法を用いる措置との整合性が取れていなければならない。

6.3.4 法的措置を講じる場合と講じない場合の便益と費用の検証
 構想された法的措置を講じた場合と講じない場合に最も起こり得る肯定的または否定的結果を、欧州共同体に対する全体的費用に換算して長期的および短期的に比較しなければならない。構想された措置は、リスクを許容レベルまで下げることに関して総合的な利点がなければならない。
 賛否両論の検証の代わりに経済費用便益分析を行うことはできない。賛否両論の検証はもっと範囲が広く、経済以外の点の考慮も含む。
 しかし、適切かつ可能な場合には、賛否両論の検証に経済費用便益分析を盛り込むべきである。

 その上、考えられる選択肢の有効性の分析や、それらの選択肢が公衆に受け入れられるかどうかに関する分析のような、他の分析方法についても考慮する必要があるかもしれない。社会は、環境や健康のような優先する利益を守るためには高額の出費を惜しまないかもしれない。

 欧州委員会は、欧州司法裁判所の判例法に従い、経済的な考慮よりも公衆衛生の保護に関連する要求事項を重視すべきであることに疑う余地のないことを確認する。

 採用される措置は、措置を講じる場合と講じない場合の便益と費用を検証することを前提としている。この検証には、それが適切かつ実行可能ならば、経済費用便益分析が含まれるべきである。しかし、さまざまな選択肢の有効性や社会経済学的影響に関する分析のような、他の分析手法も関連するかもしれない。その上、特定の状況においては、政策決定者が健康の保護のような経済以外の考慮事項に左右されるかもしれない。

6.3.5 科学の発展の検証
 措置は、科学的データが不十分、不正確または決定的でない限り、および、社会に課すにはリスクが大きすぎると考えられる限り、持続されるべきである。措置は、新たな科学的発見に照らして、特定の期限までに修正または廃止しなければならない場合がある。これは必ずしも時間的要因と関連するものではなく、科学的知識の発展と関連するものである。
 さらに科学的研究は、より進んだまたはより完全な科学的評価を得るために行なわれるべきである。これに関連して、措置は、最新の科学情報を踏まえて再評価できるように、定期的に科学的な監視を受けるべきである。

 衛生植物検疫措置(SPS)の適用に関する協定は、科学的証拠が不十分な状況で採用された措置は特定の条件を遵守しなければならないと規定している。したがって、これらの条件はSPS協定の適用範囲のみに関係するが、たとえば環境のような特定の性質の分野には、幾分異なる原則を適用する必要があることを意味しているのかもしれない。

 SPS協定第5条(7)にはいくつかの具体的規則が含まれている。

 また、すべての関連要因(たとえば、社会経済的情報、技術的展望)の統合を含めた方法論やリスク評価手段の改善のために研究が行われることもある。

 措置は、暫定的なものではあるが、科学的データが不完全、不正確または確定的でない限り、および、社会に課すにはリスクが大きすぎると考えられる限り、持続されるべきである。
 措置の維持は科学的知識の発展に依存しており、措置はそれに照らして再評価されるべきである。このことは、より完全なデータを得るために科学研究を継続しなければならないことを意味している。
 予防原則に基づく措置は、再検証し、必要があれば、科学研究の結果およびそれらの影響の追跡調査結果に基づいて修正しなければならない。


6.4 立証責任

 予防原則に基づく措置は、包括的な評価に必要な科学的証拠を作り出す責任の所在を明らかにするかもしれない。



1 参考:ホルモンに関するWTO上級委員会報告書、第124項:“場合よっては、懸案となっている問題について調査した有能な複数の科学者から提示された見解に非常に大きな隔たりのあることが、科学的不確実性の状態を表しているかもしれない”

2 特に、公衆衛生と環境に関しては、すでにかなりの努力が払われてきた。後者に関して、欧州共同体および加盟国は、1998年6月にオルフス条約に調印することによって、情報アクセスおよび司法に重きを置いていることを表明した。

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