国際レベルでは、予防原則は1982年の国連総会で採択された『世界自然憲章』で初めて認知された。その後、予防原則は環境保護に関するさまざまな国際条約に取り入れられた(付属書II参照)。
この原則は1992年の環境と開発に関するリオ会議で正式に記され、会期中に『リオ宣言』として採択された。その第15原則は、“環境を保護するため、国家はその能力に応じて予防的方策を広く適用しなければならない。深刻なまたは回復不可能な損害を被るおそれがある場合には、完全な科学的確実性が欠如していることを口実にして、費用対効果の大きな環境悪化を防ぐ対策を延期してはならない”と述べている。また、『気候変動に関する国際連合枠組条約』と『生物多様性条約』も、予防原則を引用している。最近では、2000年1月28日に開催された生物多様性条約締約国会議において、現代のバイオテクノロジーから得られる遺伝子改変生物の安全な移動、取り扱いおよび使用に関する『バイオセイフティに関する議定書』が予防原則の主要な機能を確認した(付属書II参照)。
このように、この原則は国際的な環境法の中で徐々に強化され、今では国際法の成熟した一般原則になっている。
WTO協定もこの見解を支持している。WTO協定の前文は、ますます密接さを増す貿易と環境保護の関係を強調している1。一貫した取り組みとは、この法的秩序においてこの一般原則が正式に施行されることを確実にするために、これらの協定において、とりわけ『衛生植物検疫措置(SPS)の適用に関する協定(Agreement of Sanitary and Phytosanitary Measures)』および『貿易の技術的障壁(TBT)に関する協定(Agreement on Technical Barriers to Trade)』において、予防原則を考慮しなければならないことを意味する。
したがって、WTOの各加盟国は、各国が適切と考える環境または健康保護のレベルを決定する独立した権利を有する。その結果、加盟国は、予防原則に基づいた措置を含め、関連する国際規格または勧告における規定よりも高い保護レベルをもたらす措置を適用してもよい。
『衛生植物検疫措置(SPS)の適用に関する協定』は、「予防原則」という用語を明示的に用いていないが、予防原則の使用を明確に是認している。すべての衛生および植物検疫措置は科学的原則に基づかなくてはならず、十分な科学的証拠なく維持されるべきではないというのが原則ではあるが、これらの原則からの逸脱について第5条(7)は次のように規定している。“関連する科学的証拠が不十分な場合には、加盟国は、関連する国際組織からの情報ならびに他の加盟国によって適用された衛生または植物検疫措置の情報を含む、入手可能な関連情報に基づいて、衛生または植物検疫措置を暫定的に採用してもよい。そのような状況において、加盟国は、より客観的なリスクアセスメントに必要な追加情報を得るよう努め、得られた情報に基づいて合理的な期間内に衛生または植物検疫措置を見直すものとする”
したがって、SPS協定によれば、科学的データが不十分なときに予防原則の適用にあたって採用される措置は暫定的なものであり、必要な科学的データを引き出しまたは生成するための努力をしなければならないことを意味している。暫定的な性質と期限との間には密接な関係はないが、暫定的な性質と科学的知識の発達との間には密接な関係があることを強調することが重要である。
第5.7における“より客観的なリスクアセスメント”という用語の使用は、予防的措置は客観性の乏しい評価に基づいているかもしれないが、それにもかかわらず予防的措置にはリスクの評価が含まれなければならないことを暗示している。
SPSにおけるリスクアセスメントの概念は、予防的措置の基礎として何を用いることができるかについての解釈に余地を残している。ある措置が拠り所とするリスクアセスメントには、事実に基づくまたは定性的な、定量化できないデータが含まれていてもよく、リスクアセスメントの対象は純粋に定量的な科学的データに一義的に限定されない。この解釈は、成長ホルモンに関する訴訟においてWTOの上級委員会(Appellate body)で確認されており、同委員会は、リスクアセスメントは定量的なものでなければならず、リスクの程度を最小にしなくてはならない、とする審議会の当初の解釈を否認した。
SPS第5.7に記された原則は、衛生および植物検疫措置の分野で遵守されるべきである。しかし、環境など他の分野はそれぞれ特徴が異なるので、それらの分野では幾分異なる原則を適用する必要があるかもしれない。
国際食品規格における予防原則の適用に関して、国際的ガイドラインが検討されている。このような分野におけるこのような手引きは、不当な貿易障壁を引き起こしかねない予防原則の誤用を防止すると同時に、WTO加盟国による調和の取れた取り組み、すなわち健康または環境保護のための措置の立案へ道を開くことができる。
これらの意見を考慮して、欧州委員会は他のWTO加盟国の前例に従い、欧州共同体には、環境ならびに人間、動物および植物の健康に関し、適切と考えられる保護のレベルを規定する権利があると考える。これに関連して、欧州共同体はEC条約第6、95、152および174条を遵守しなければならない。この目的のために、予防原則への依存は欧州共同体の政策の基本的項目を構成する。そこでなされる選択が、予防原則に頼ることに関する国際レベルおよびとりわけ多国間レベルでの共同体の立場に影響を及ぼすことは明白である。
予防原則の原点、ならびに国際法とりわけ世界貿易機関(WTO)の協定において予防原則が果たす役割の増大を念頭に、関連があると考えられるさまざまな領域において、この原則に国際レベルで適切に取り組まなければならない。 |
1 “この協定の締約国は、(中略)貿易分野と経済的努力における締約国間の関係が、生活水準を高め、完全雇用ならびに実質所得および有効需要の大幅かつ着実な増加を確保し、物品およびサービスの生産および貿易を拡大するために行われるべきであることを認め、他方において、経済開発の水準が異なるそれぞれの締約国のニーズおよび関心に従った方法で環境を保護し、保全し、そのための手段を拡充することに努めつつ、持続可能な開発の目的に従って世界の資源を最も適切な形で利用することを考慮し、(後略)”