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第3章:

モダンバイオテクノロジーの適用により栄養改善された食品および飼料の安全性アセスメント


3.1 一般原則

食品および飼料の成分に従来から適用されてきた規格は、意図された条件での使用において、害を及ぼさないことを合理的な確実性で提示しなければならない、とするものである(FAO/WHO 1996)。絶対的な安全は達成できるゴールではない、ということが認められて久しい。これは、多くの食品および飼料が固有の毒性因子(例:ジャガイモのグリコアルカロイド)や栄養素吸収阻害物質(例:フィチン酸塩)を含有しており、従来からの品種の安全性を評価するためには、これらの自然発生する物質の不可避的な存在を考慮しなければならないからである。GM作物由来の食料製品に適用されるべき安全性規格は、従来法の植物育種由来の食品および飼料に適用されるものと同等でなければならない、という一般的な同意が得られている(FAO/WHO 2000、CAST 2001、Kuiper 他 2001、Cockburn 2002)。しかし、現実的には、従来法による植物育種由来のほとんどの食品と違って、GM作物由来の新規食品および飼料のほとんどすべてが詳細な組成分析の対象となってきており、また多くが毒性学的および栄養学的研究で評価されてきている(Astwood 他 1996、Hammond 他 1996、Brake & Vlachos 1998、Kaniewski & Thomas 1999、Taylor 他 1999、Betz 他 2000、Edwards 他 2000、Martens 2000、Rogan 他 2000、Sidhu 他 2000、Aulrich 他 2001、Bohme 他 2001、CFSAN/FDA 2002、Cromwell 他 2002、Nair 他 2002)。そのため、いずれの事例においても安全規格は同一であるかもしれないが、GM作物由来の食品は、安全と栄養の観点からより詳細な精査の対象とされてきている。
GM作物由来の食品の安全性アセスメントに関する国際的に承認された原則(OECD 1993、2002、FAO/WHO 1996、2000、MacKenzie 2000、DEFRA 2001、EC 2003)に合わせ、一般的なアプローチには、新規に開発された食品と、安全な使用の歴史がある適切な比較対照物との比較が伴う。この概念は実質的同等性と称され、農業的特性の詳細な比較、および重要な栄養素、栄養素吸収阻害物質、天然毒物の組成に関し、新規作物を従来からの比較対照物と比較するなどが含まれる。この評価の目的は、新品種と比較対照物の間で類似点と相違点を同定することにある。すべての相違点は安全性アセスメントの焦点となる。
これまでに規制当局により評価されてきた50以上のGM作物から得られた経験は十分なものであり、そのため、現在適用されているバイオテクノロジーの過程が食品あるいは飼料において意図されていない大きな組成変化をもたらしていない、とかなりの確信を持って言明することができる。予想された通り、バイオテクノロジーの応用は、特別形質での意図された発現を除けば、組成において最小か、あるいはまったく変化をもたらしていない。さらに、導入された新規タンパク質は毒性およびアレルゲン性に関して詳細に検討されているため、GM作物は従来からの対応物と同程度に安全であると結論することができる。
この経験をもとにして、栄養改善されたGM食品および飼料に適用することができる安全性アセスメントの手続きを作成することが課題である。ここでの基本的な目的は、栄養改善された品種の組成が、栄養組成の点で、意図された変化は別として従来からの対応物と顕著に異なるか否かを決定し、意図された変化および意図されていなかった変化の安全性を評価することである。
栄養改善された品種は、食餌での栄養素あるいはその他の生理活性のある植物化学物質の新しい重要な供給源として寄与することが期待できるかもしれない。これらの製品の安全性および栄養学的な影響を評価するためには、人間の全体的な食事あるいは動物飼料においてこれらの製品がどの程度消費されるのかについて知ることが重要である。これらの製品の安全性および栄養学的品質は、これらの製品の意図された使用およびその結果としての摂取という文脈でのみ評価することが可能である。

3.1.1 栄養改善された食品および飼料に適用される安全性アセスメントの概念
鍵となる基本原則は、食品および飼料のいずれもが、同一の安全性および品質規格を満たさなければならず、また同一の安全性アセスメント手続きの対象とならなければならないということである。栄養改善された食品および飼料の場合、すべての新規製品に適用することができる単一の安全性アセスメントアプローチというものは存在しないが、いくつかの核となる手続き、例えば組成分析のようにGM作物に現在まで適用されてきているものには根拠がある。安全性アセスメントへのアプローチにおける指針原則は、導入された遺伝子変化を明確に理解し、これらの変化が発現産物および代謝産物の性質と量にどのような変化をもたらすかを理解することである。予想される栄養改善された製品のタイプは広範にわたるため(表2-1および表2-2を参照)、各新規製品に対しては、農業的に改善された形質を持つGM作物由来の製品に関して展開されてきた一般原則を適用し、事例ごとのアプローチを取らなければならない。

3.1.1.1 曝露アセスメント
栄養改善された品種は、ひとつあるいはそれ以上の栄養素の量に関して大幅に変化していることが予想される場合があるため、これらの製品に対する人間および動物の曝露アセスメントは、特に曝露が顕著である時には重要となる。濃度が改変された栄養素(例:脂肪酸)へのGM作物由来の食品および飼料を通じた曝露は、これらの同一物質が複数の供給源から食事に供せられる可能性があるため、食事による総曝露消費の文脈で考慮される必要がある(OECD 2002)。これには、製品が人間の場合にはその食事において消費される程度、また家畜の場合には動物飼料で使用される程度に関しての知識が必要とされる。曝露アセスメントでの鍵となる考察事項は、問題の栄養素の食事による摂取量に対し、新品種の使用が有意な変化をもたらすか否かを評価するうえで使用される基準である。「有意」という表現は、ここでは、新品種での当該の栄養組成におけるパーセンテージの変化で単純に定義されるものではなく、健康に物質的に影響を及ぼす可能性がある栄養素の食事での摂取量における変化を指している。任意の食品における特定の栄養素の含有量において大幅かつ意図されていない変化があったとしても、その栄養に関しての人間の栄養状況には比較的わずかな影響しか及ぼさない可能性も考えられる。これとは対照的に、特定の微量栄養素の含有量における微小と思われた低下が、その栄養素の摂取量が下限に近く、リスクにさらされていた特定小集団に対しては、重篤な影響を及ぼすことも考えられる。栄養素の摂取量における有意な変化を構成するものは何かという問題は、国際食品バイオテクノロジー評議会の報告書で考察されている(IFBC 1990)。栄養素に関しては、問題となる人口集団が1日あたりに消費する当該食品の一般的な量において、栄養素の1日平均所要量(摂取量)の5%以下を当該食品が供給している場合、その供給源からの摂取量は無視できるものと見なすことができる、と勧告されている。同様に、GM作物由来の食品あるいは飼料からの本来的な構成物の摂取量の増加が、5%以下であれば、有意な変化とは見なされない。IFBC(1990)が指摘したように、有意ではない変化と有意な変化の区別は判断に任せられている。また栄養素濃度での変化の有意性に関する決定は、当該食品の栄養学的な重要性および当該人口集団の食品供給における当該栄養素の利用可能性によって様々である。ほとんどの栄養素に関し、勧告された所要量を設定することができるか、既に設定されている。各栄養素は固有の役割と機能を有しており、また異なる食品では異なる濃度で存在するため、栄養素の食品含有量における変化が及ぼす可能性のある影響は、事例ごとに評価されなければならない。
また特定の年齢あるいは性別グループ内で特定の栄養上の目的を達成するために、特定の新品種が開発される可能性があることも認識されなければならない。この場合には、摂取量アセスメントが、新規製品を最大量で消費する特定の人口学的グループに合わせたものとなることが要求される。食事による摂取量での有意な変化を構成するものは何かという問題は、第5章で詳細に考察される。
栄養素およびその他の食品構成物の摂取に関するアセスメントの方法論では、幅広いものが利用できる。これらは、一人当たりの方法から、利用できる食品消費データベースを使用するもの、あるいは実際の食品消費調査まで様々である(Anderson 1986、Löwik 1996)。
一人当たりの方法には、食品の利用可能推定値あるいは、食べられた食品と仮定しての食品消失データなどが含まれる。一人当たりの方法は、典型的一般人口集団での食品消費平均を提供するが、人口集団内の特定区分における消費推定値は提供できない。特定区分には、年齢、健康状態、選択などの作用により特定食品をより多く消費する人口集団(例:児童、スポーツ選手、菜食主義)が含まれることがある(Lauer & Kirkpatrick 1991)。
食品消費調査方法は、そのデザインおよび食事摂取量データの採集方法で様々あり、24時間思い出し法から複数日にわたる食物記録まで幅広い。短期間の食品消費データは、長期間にわたる実際の摂取量を示すものではない、ということはよく知られている。24時間思い出し法データは、特定の食事成分の消費を過大評価することが判明しており、特に特定の食物製品の使用者あるいは摂食者にあてはまる(Lauer & Kirkpatrick 1991)。さらに、これらのタイプの調査は、多数の控えめな仮定が摂取量推定の方法論に内在するため、一般的に最悪の場合の消費推定値を提供すると見なされている。食品消費には人によって顕著なばらつきがあるため正規分布に従っておらず、90〜99パーセンタイルにいるこれらの個人の消費を正確に決定することは困難である。食事調査の期間が長くなればなるほど、消費が極端な消費者での消費推定値がより正確になる。栄養素およびその他の食品構成物の摂取をアセスメントする方法は、その詳細がKroesら(2002)および栄養学会誌補遺の「統合CSFII-NHANES」で提示されている(Madans 他 2003)。栄養素摂取のアセスメントに関連した統計学的および計算的問題は、第5章で考察される。


3.2 特定の評価問題

バイオテクノロジー由来の食品に対する安全性および栄養の評価における勧告されたアプローチでは、親作物あるいは従来作物に関する広範な知識、導入されたDNAの分子学的特徴づけ、導入された遺伝子が発現するすべてのタンパク質およびその他の産物に関する安全性の評価、適切な対照となる従来からの対応物との比較で組成の類似点および相違点の同定を目的とした実質的同等性の概念の適用、栄養組成での意図された改変およびその他の同定されたすべての改変による安全性および栄養学的な結果に関する評価が含まれる(OECD 1993、2002、FAO/WHO 2000、Kuiper 他 2001、Cockburn 2002)。

3.2.1 分子学的特徴付け
GM作物由来の食品に関する安全性アセスメントの核となる構成要素は、導入されたDNAの分子学的特徴付けである。この分析の主要目的は、ベクターDNAの完全性が形質転換過程の結果、改変されていないことを確立することにある。GM植物の分子学的特徴付けは、基本的に2つの基本要素で構成される。(1)植物形質転換で使用された遺伝子的要素およびコンストラクトの包括的な記述、(2)問題のトランスジェニック事例で統合された状態でのこれらの要素に関する記述。下記に概略したものは、北米で適用される分子学的特徴付けに対する一般的な必要事項である。分子学的特徴付けに関する規制による必要事項は、ヨーロッパ(EEC 2001)、日本(厚生労働省 2000)、オーストラリアおよびニュージーランド(ANZFA 2001)、アルゼンチン、その他の国では異なる場合があることは注意しなければならない。

3.2.1.1 形質転換システムおよびDNA
GM植物を生成するために使用されたコンストラクトおよび形質転換方法が記述されなければならない。これには、形質転換方法の詳細な記述(例:アグロバクテリウム仲介の形質転換、あるいはパーティクルガン、電気窄孔法、プロトプラストのPEG形質転換などの直接形質転換法)が含まれる。アグロバクテリウム仲介形質転換法では、形質転換過程で使用されたすべてのアグロバクテリウムに関する系統株名称、およびTiプラスミドベースのベクターが無害化された方法、また形質転換が完了した段階で残っているアグロバクテリウム細胞システムを遊離するために使用された方法が記述されなければならない。DNAベースの直接形質転換システムでは、システムが病原性生物を利用したのかあるいは病原体からの核酸配列を使用したのか、そのような配列が存在する場合には形質転換に先立って配列をどのように除去したのか、形質転換過程にヘルパープラスミドまたは混合したプラスミドあるいは担体DNAの使用が関与していたのか、などの情報が含まれていなければならない。
形質転換に使用されたベクターの詳細な物理的地図は、おおまかな制限酵素認識部位の位置を含め、PCR分析のプライマーとしてあるいはサザン法でのプローブとして使用されたベクターのこれらの部分を注記して、提示されなければならない。さらに、ベクターを構成するすべての遺伝子構成要素の概略は、既知の機能に関するコード領域および非コード配列を含め、提示されなければならない。コード領域に関するデータは、ベクター内での個々のDNA要素のサイズ、位置、順序、エレメントの向き、各エレメントの供給源、植物内で可能性がある機能(もしある場合には)を詳細に記さなければならない。さらに、ドナー生物あるいはそれに由来する遺伝子構成要素が、植物あるいはその他の生物に疾患あるいは傷害を惹起することが知られているか否か、またこれらのものが既知の毒物、アレルゲン、病原性因子、刺激物であるか否かを示唆する情報も提供されなければならない。ドナー生物あるいはその一部の構成物に関して、安全な使用の歴史がある場合には、これも考慮される。
コード配列(オープンリーディングフレーム)に関しては、アミノ酸配列の変化をもたらす野生型遺伝子に対する大幅なDNA配列の変更は、記述されなければならない。改変されたアミノ酸配列がこれまで発表されていない場合には、完全配列が(修飾をハイライトして)報告されなければならないが、数個のアミノ酸のみに影響するDNA配列の改変は、完全配列を提供せずに記述することができる。翻訳後修飾がもたらされることが分かっているか期待される改変、または遺伝子産物の構造あるいは機能への改変は、記述されなければならない。

3.2.1.2 植物に導入されたDNAの特徴付け
植物に導入されたDNAの完全ヌクレオチド配列は、一般的には必要とされない。しかし、形質転換過程で使用されたベクターDNAに存在していた遺伝子要素の性質と順序が、植物への導入によって実質的に改変されていないことを示すために、十分なデータが提示されなければならない。これには、予想されたタンパク質が植物で発現されたことを示す目的で、サザンブロット法、適切なPCR分析による分析、DNA配列決定、RT-PCRデータ、導入DNAにより産生されるタンパク質生成物の特徴付けなどが含まれるだろう。植物に導入された遺伝子のコピー数は、遺伝子断片の部分的組み込みも含め、これを記述するデータが提供されなければならない。異質倍数性植物の場合には、親植物のどのゲノムにトランスジェニックDNAが導入されたのかを示す情報も必要となることがある。

3.2.1.3 導入DNAの遺伝、安定性、安全性
導入遺伝子(および遺伝子機能)の遺伝に関するパターンおよび安定性が、稔性雄、稔性雌、あるいはその両方で、その植物について示されなければならない。この提示には様々な方法を使用することができ、これには表現型の維持、イムノアッセイ、PCR、サザンハイブリダイゼーションなどがある。不稔性あるいは種子生産が困難な植物(栄養繁殖する雄性不稔ジャガイモなど)では、当該作物に適切な数代にわたって栄養繁殖をする間に、トランスジェニック形質が安定して維持され発現されることを示すデータが提供されなければならない。
DNAはすべての植物細胞に不可欠な部分であり、通常の消化過程で急速に分解されるため、GM作物に導入されたDNAを含めDNAの摂食は安全であるという結論に多くの団体が達している(Kessler 他 1992、OECD 1998、2000、FAO/WHO 2000)。現在まで、コピー数の少ない植物導入遺伝子の断片は、人間が一般的に消費する動物の組織からは検出されていない(Jonas 他 2001、Aumaitre 他 2002)。

3.2.2 タンパク質の安全性の評価
農業的に改善された形質を持つGM作物由来の食品および飼料と同様、栄養改善されたGM作物由来の製品において、遺伝子改変の結果導入されたDNAから発現される可能性があるすべてのタンパク質について、安全性が確立されなければならない。安全性を支持するための調査の必要性は、事例ごとに考慮することが要求され、それまでの曝露の歴史のみならず、そのタンパク質の機能および生物学的活性について利用できる知識に部分的に依存している。該当する場合には、安全性調査に、毒性作用を評価するための標準動物検査あるいはアレルゲン性の可能性を評価するために必要な免疫学的調査やバイオインフォマティックアプローチが含まれることがある(WHO 1987、Munro 他 1996a、LSRO 1998、FAO/WHO 2000、NAS 2000b、Codex 2002)。これには、植物からのタンパク質の分離あるいは、大腸菌の使用などのその他の方法によるタンパク質合成が必要とされることがあるが、この場合には、試験検体と植物内で検出されるものとが、生化学的、構造的、機能的に同等であることを示す必要がある(Codex 2002)。

3.2.3 実質的同等性の概念の適用
1993年に、OECDは、GM作物の安全性アセスメントに関する開始地点として実質的同等性の概念を形成した。1996年にFAO/WHO共同審議会が、そして2000年および2002年にFAO/WHOのコーデックス食品規格委員会が、概念はGM作物の安全性アセスメントの開始地点として強力で堅牢性があるものとして承認した。また概念は、Chesson(2001)、Kuiper 他(2001)、Aumaitre 他(2002)、Cockburn(2002)などの多数の作業者によって検討された。既に他で指摘されているように(OECD 1993、2002、FAO/WHO 2000、2001)、実質的同等性概念の適用は、それ自体では安全性アセスメントでないが、新品種といくつかの適切な比較品種との間で類似点および相違点を同定するための基盤を提供する。相違点は、その後、さらなる安全性アセスメントの対象となる。実質的同等性の適用の例を第4章で提示した。
栄養改善された製品は、2種類の製品から構成されると思われる。一つ目の種類は、人間の食事および動物の食餌において、従来品種と置き換えることを目的に栄養改善された食品および飼料である。二つ目の種類は、栄養改善された作物由来の食品および飼料成分である。これらの中には食品作物由来の現在の成分と化学的に同一のものあるが、特定の加工あるいは健康上の利点を持つよう改変された架橋改変澱粉のように、化学的に改変された製品もあるだろう。これら2種類に対する評価アプローチは異なり、このことは後に詳しく考察する。

3.2.3.1 組成分析
組成分析は、実質的同等性の決定において評価される主要因子である。様々な穀粒、植物部位、加工された分画を分析し、基質中の特定分析物を定量化する。これらの分析は、粗一般分析(タンパク質、繊維、脂肪)から基質のアミノ酸構成の非常に詳細な分析にいたるまで様々ある。そのため、典型的な組成プロファイルは、水分、粗タンパク質、粗脂肪、灰分、繊維分画、アミノ酸、脂肪酸プロファイル、ビタミン、ミネラルで構成される。さらに、作物に存在する栄養素吸収阻害物質および他の生物学的に顕著な化合物(例:トリプシン阻害物、内因性毒物、イソフラボン、フィチン酸)などに関する情報も得られなければならない。

3.2.3.2 統計学的な問題
組成アセスメントで使用されたデータが統計学的に堅牢であることはきわめて重要である。これは、代表的かつ実質的に堅牢性のあるサンプルを採取するため、定義されたプロトコルに準拠して設定されたサンプリング方法を通じてデータが得られなければならないことを意味している。開発者は、EPA(1996)の要求事項であり、コーデックス(1987)勧告に準拠する形で残留農薬試験に適用されている実践を採用することがしばしばある。その他の試験では、同型サンプルを採取するか、あるいは同一区域の複数の区画からサンプルを採取する。いくつかの事例では、サンプルは、かなり大量の数の植物からのサンプル(例:大区画からの大量サンプル)となることもあるが、これらの事例では大量サンプルから代表サンプルを得るために注意が必要であり、これは適切なサンプリング法を採用するか、あるいは区画の収穫時に複数回サンプル採取することのいずれかで行われる。
多くの分析物は正規分布を示すものの、このことは仮定することはできない。そのため、そのような効果に対して比較的感受性の低い統計学的検査を利用することが好ましい。データの比較では、データの分布を考慮するよう注意しなければならない。

3.2.3.3 適切な比較対照物の選択
実質的同等性の概念を適用するうえで鍵となる考慮点の一つは、適切な比較対照物の選択である。トウモロコシの新品種は、遺伝的に近接に関連している(ほぼ同質遺伝子)の素材と比較するべきか、それとも実世界の当該作物の総集団と比較するべきか(すなわち単一品種のトウモロコシと比較するべきか、それとも全トウモロコシ品種とするべきか)?特定の食品あるいは飼料成分が改変された場合(例:油脂の脂肪酸成分)、改変された作物由来の油脂と成分を比較するより、他の作物あるいは他の供給源由来の油脂組成と比較した方が適切となることがある。この方法は、ラウリン酸濃度を上昇させたカノーラで使用され、油脂成分は従来のカノーラ油ではなく熱帯産植物油と比較された。
使用されているアプローチには二種類ある。最初のアプローチでは、GM作物の傍らで栽培された遺伝子的に類似の比較対照物からのデータ、および当該作物の他の品種からの組成範囲に関するデータ(専用に作成されたデータあるいは公表された文献からのもの)を含んでいなければならない。いくつかの事例では、GM作物が多くの商業品種とも比較されてきた。実際的には、GM作物の登録を望む申請者は、両方の比較を実践してきた。このアプローチにはいくつかの制限がある。まず、比較対照物はほぼ同質遺伝子と見なされるかもしれないが、通常のメンデル遺伝学により多数の遺伝子座がGM作物と最も近接な比較対照物とでも異なっている可能性があり、これがほぼ確実に当てはまる。このことは、比較対照物が、検査される系統の比較対照物となることを目的として特別に育種された系統ではない場合に特に該当する。
二つ目のアプローチでは、GM作物から得られたデータを公的に入手できるデータと比較する。トウモロコシでは、データは飼料取引のために蓄積されてきた公表物から一般的に採取される。これには、Watson(1987)、Ensminger 他(1990)、様々な公表物(例:米国/カナダ飼料表)、様々な民間公刊物などが含まれる。北米で栽培されるトウモロコシに関しては莫大な資料があるが、その他の地理区域についてはデータが限られている可能性がある。これらのデータに関する最大の問題は、供給源がしばしば古く、特定の分析方法との関連を欠いていることである。そのため、使用者は彼らのデータを、同一の定量化法を使用して得られたデータと直接比較することができない。
この問題を改善するため、ILSI国際食品バイオテクノロジー委員会(ILSI 2003)は、インターネットを通じてアクセスできる作物組成に関する最新の包括的データベースを構築した(www.cropcomposition.org)。農業バイオテクノロジー産業が生成したデータを集めることで、組成データを各作物のより大きなデータ群と比較するための科学的基盤が顕著に向上するだろう。承認基準を満たした公表データは受容されデータベースに追加されるので、世界中からのその他の公的に入手できるデータを一貫した方法で統合することが可能である。この堅牢性のあるデータベースにより、従来作物およびその製品の組成における表現型の多様性に関する理解が深まり、栄養改善されたGM作物およびその製品の組成に対する評価が向上するだろう。

3.2.3.4 同等性アセスメントの例
農業的形質を持つ作物での同等性分析の適用により、現在までにかなりの量の経験が得られており、栄養改善されたGM作物への同等性分析の適用も始まろうとしている。Shewmaker 他(1999)の論文から得た例では、栄養改善されたGMカノーラ品種の脂肪酸およびカロチノイド組成の分析を提示している。細菌由来フィトエン合成遺伝子の挿入により、カロチノイド濃度で50倍の増加およびオレイン酸組成でのかなりの増加がもたらされた(表3-1および3-2)。

表3-1

フィトエン合成酵素(crtB)遺伝子で形質転換された選抜系統からのカノーラ種子におけるカロチノイド濃度(Shewmaker 他 1999より転載)

サンプルID

世代、分離比
および栽培場所

カロチノイド濃度(µg gFW-1

ルテイン

リコピン

α-カロチン

β-カロチン

フィトエン

総計

Q対照群

ホモ, GH

30

ND

ND

3

ND

33

Q3390-2

T2, 15:1, GH

50

6

372

721

192

1341

Q3390-9

T2, >63:1, GH

68

12

394

949

194

1617

Q3390-12

T2, 3:1, GH

48

10

400

739

171

1368

Q3390-15

T2, ヌル, GH

27

ND

ND

1

ND

28

Q3390-18

T2, >63:1, GH

50

8

449

759

128

1394

Q3390-26

T2, 3:1, GH

34

9

311

584

149

1087

Q3390-37

T2, 3:1, GH

50

10

291

626

119

1096

Q3390-49

T2, 15:1, GH

28

2

346

677

146

1199

Q3390-12

T4, ホモ, GH

45

10

395

565

443

1458

Q3390-26

T4, ホモ, GH

30

9

234

672

393

1337

Q3390-26

T4, ホモ, 圃場

57

14

279

379

344

1073

S対照群

ホモ, GH

31

ND

ND

5

ND

36

S3390-1

T3, ホモ, GH

52

2

440

669

430

1163

S3390-4

T3, ホモ, GH

44

17

282

637

239

1219

S3390-5

T3, ヘテロ, GH

51

2

191

387

120

751

S3390-5

T3, ホモ, GH

46

4

256

633

220

1159

S3390-11

T3, ホモ, GH

54

10

406

556

427

1453

S3390-14

T3, ホモ, GH

66

13

431

674

263

1447

S3390-35

T3, ヘテロ, GH

38

2

125

314

76

555

S3390-35

T3, ホモ, GH

44

5

234

504

169

956

S3390-1

T4, ホモ, GH

44

26

344

599

175

1188

S3390-1

T4, ホモ, 圃場

72

25

225

401

332

1055

(略語)FW:生鮮重量、GH:温室、ND:検出されず、種子は各世代で無作為的にサンプルされた。
許可を得て転載。Shewmaker CK、Sheehy JA、Daley M、Colburn S、Yang Ke D 1999「フィトエン合成酵素の種子特異的過剰発現:カロチノイドの増加およびその他の代謝作用」Plant J 20:401-12。著作権1999 Blackwell Publishing Ltd.

表3-2

napin-crb系統aの脂肪酸組成(Shewmaker 他 1999より)

系統

場所

世代

分離比

16:0

18:0

18:1

18:2

18:3

20:0

S対照群

GH

N/A

N/A

5.1

1.7

59.9

17.1

12.0

0.6

S対照群

GH

N/A

N/A

4.7

1.6

62.7

15.3

11.3

0.6

S3390-1

GH

T2

3:1

4.6

2.7

70.1

12.4

6.7

1.0

S3390-25

GH

T2

>63:1

5.0

2.1

71.6

12.8

5.8

0.9

S3390-15

GH

T2

3:1

4.4

1.5

69.3

14.9

7.7

1.4

S3390-4

GH

T2

3:1

5.0

2.4

67.4

14.5

8.6

1.2

S3390-21

GH

T2

15:1

5.6

2.2

67.6

14.5

7.7

0.8

S3390-1

GH

T4

ホモ

4.0

2.1

75.9

9.8

5.0

0.9

S対照群

圃場

N/A

N/A

5.4

1.6

56.7

20.7

13.3

0.5

S対照群

圃場

N/A

N/A

5.3

1.6

56.4

20.9

13.5

0.5

S3390-1

圃場

T4

ホモ

5.3

2.1

61.2

18.3

10.7

0.7

S3390-1

圃場

T4

ホモ

5.1

2.6

64.3

15.8

9.9

0.7

Q対照群

GH

N/A

N/A

3.8

1.8

59.8

21.2

10.1

0.7

Q3390-2

GH

T2

15:1

3.7

2.1

65.0

18.0

7.9

0.8

Q3390-12

GH

T2

3:1

4.0

2.4

62.9

18.8

8.7

0.9

a すべての値は、50種子の無作為化プールで測定された。各数値は、総脂肪酸に対する相対脂肪酸パーセンテージ(w/w)を表している。
許可を得て転載。Shewmaker CK、Sheehy JA、Daley M、Colburn S、Yang Ke D 1999「フィトエン合成酵素の種子特異的過剰発現:カロチノイドの増加およびその他の代謝作用」Plant J 20:401-12。著作権1999 Blackwell Publishing Ltd.

3.2.4 食品および飼料の安全性および栄養品質の評価に対するアプローチ
栄養改善された食品および飼料の安全性および栄養の評価で勧告されているアプローチは、農業的形質が改善されているGM作物由来の製品の評価で既に使用され成功している概念に順ずる。既に述べたように、農業的形質が改善されたGM作物由来の食品および飼料について、多量栄養素、微量栄養素、その他の固有な構成要素の濃度が顕著に改変されたという報告はなされておらず、このことは栄養改善されたGM作物由来の食品および飼料が新たな安全性での問題は提起しないだろうということに関し、高いレベルでの信頼性を提供する。そのためこれらの製品の安全性および栄養アセスメントは、現在までに採用されてきた伝統的な方法に依拠することができる。
GM作物由来の栄養改善された新製品の幅は、非常に広範となる可能性があり、これにはアミノ酸やビタミン濃度を変更した品種(例:高リジン含有トウモロコシ)、栄養素吸収阻害物質の濃度を低下させたもの(例:フィチン酸塩)、脂肪酸組成を改変したもの、当該植物に天然では存在しない新たな成分を生産するために植物を使用することなどが含まれる。このような製品での安全性および栄養価の評価に関するアプローチでは、二つの鍵となる疑問が生じる。一つ目は、製品がどのように使われるか、である。製品は従来製品を置き換える全体的な食品あるいは飼料として消費されるのか、それとも遺伝子改変による産物をその植物生産システムから切り離し、成分としての消費が意図されているのか。これら二つの事例では安全性アセスメントのアプローチが異なっている。二つ目に生起する重要な質問は、栄養改善された新規食品あるいは成分の消費の程度に関連している。このことは、安全性あるいは栄養の評価を実行する前に、判明しているか、予想可能でなければならない。
植物由来の栄養改善された食品あるいは飼料が従来製品を置き換えることを目的として使用される場合には、まずこれらの親品種と比較することが最適である。この最初のアプローチは、栄養素の改変された濃度ではなく、構成要素に焦点を当て、実質的同等性の概念を適用することである。意図された遺伝子改変が栄養組成での意図された改善以外に固有の構成要素の濃度を変更したか否かを決定するという視点から、多量成分および微量成分の詳細な分析が行われなければならない。組成分析で顕著な変化が観察されなかった場合には、安全性および栄養の評価は、遺伝子改変により生起する栄養素濃度の変化に焦点を当てる。
新規食品または飼料の意図された使用条件の下で、栄養素の濃度改変に起因する安全性の懸念が、従来の供給源と比較して増加していないことを確立しなければならない。すでに記したように、ここでの鍵となる次元は、改変された栄養素について最も起こりうる曝露レベルを決定することにある。安全性は、使用パターンおよび曝露の文脈においてのみ評価することが可能である。改変された量で栄養素を含有する新たな作物に関しては、安全な摂取量の範囲が文献から確立できる(NAS 2000a)。例えば、アミノ酸あるいは脂肪酸毒性に関しては、全体としての食品/飼料におけるこれらの物質の改変された濃度が、安全性のうえで懸念を惹起するか否かを確立できるだけの十分な量のデータがある。栄養改善されたGM品種のほとんどのものに関し、主な焦点は、栄養組成の強化、または既存の固有構成要素のバイオアベイラビリティや機能性の向上に向けられるだろう、と結論することができる。人間および動物の栄養に関しては、栄養素の果たす役割がしっかりと確立されているため、そのような組成変化が安全性での懸念を提起することはまず起こらないだろう。懸念となる可能性のある残された問題は、組成あるいは代謝経路での意図されていない改変の存在だけだろう。この可能性に関する評価手続きは、第6章で提示した。
栄養素が、食品あるいは飼料の成分としての使用を目的として、植物供給源から分離される場合には、ここでもまた使用パターンおよび曝露が安全性アセスメントのアプローチを決定する。当該製品の使用方法およびその使用から予測される消費量に関して情報が得られなければならない。既に示したように、栄養改善された作物由来の栄養素は、既存の栄養素と化学的に同一であることもあるが、その機能性あるいは生理学的特性を向上させるために化学的に改変されていることもある。これらの物質の食品あるいは飼料での使用は既存の規制の対象となり、化学的に変更された物質では、その使用に先立って詳細な安全性アセスメントおよび規制による承認が必要とされる場合がある。

3.2.4.1 動物試験の役割
実験動物での毒性検査は、人間では一般的に非常に微量消費される食品添加物や汚染物質など、食品に存在する化学物質の安全性を確証するうえで従来から顕著な役割を果たしてきている。しかし、全体としての食事あるいは主食の構成要素の安全性を評価する目的での価値は、いくつかの問題点を提起しており、これについては以下で考察する。
この問題を考慮する前に、実質的同等性の概念と一致して、GM作物由来の食品の安全性アセスメントは、適切な従来品種と新規のGM品種の間での相違点の検査に焦点を当てる、ということに注目することが重要である。この概念は動物実験の実行でも同様であり、試験群にはGM作物由来の食品を与え、対照群には適切な比較対照食を与える。将来の考察点で鍵となる課題は、従来品種から栄養組成が顕著に異なる新たなGM品種の安全性アセスメントでの動物検査の役割である。これらの事例では、適切な比較(対照)品種が入手可能ではなく、既存の検査プロトコルは、安全性アセスメントが適切かつ妥当であることを確証するために再検討の必要があるかもしれない。
動物試験などバイオアッセイによるGM作物由来の食品の安全性評価において直面する問題は、十分に認識されている(OECD 1993·2002、LSRO 1998、FAO/WHO 2000)。全体食あるいは飼料での動物給餌検査では、単一の全体食の過剰給餌に由来する栄養失調は、それ自身で有害作用をもたらす恐れがあり、これに直面する問題を回避するため、慎重にデザインされ実行されなければならない。このことはすでに多くの機会で指摘されてきている。そのような検査の実行では、真の有害作用を検出することを可能とするに十分な量の検査検体の給餌と、同時に栄養失調を誘発しないことの間でバランスをとらなければならない。いずれにしても、動物検査で得ようと望んでいる人間での予想摂取量の倍数は、単純に実際的な理由から得ることはできず、安全限界1〜3倍が許容されなければならない(WHO 1987、Hattan 1996、Munro 他 1996a)。これにより、組成の微小な変化を検出するうえで動物によるバイオアッセイの感受性が制限されているが、これらの変化は徹底した分析的な特徴づけにより容易に検出される可能性がある。この問題については、第6章で詳細に考察している。
動物検査は、組成での微小な変化を検出する感受性を欠いてはいるが、適切にデザインされた検査により、安全性アセスメントの他の要素で得られた結論を確定し、安全性のさらなる保証を提供できる例もある。しかし、GM作物由来の食品に固有な構成要素による副作用をネズミによるバイオアッセイが検出する能力は、構成要素の本質的な毒性に依存し、またバイオアッセイの条件の下で毒性を誘発するに十分な量が食品に含まれているか否かに依存していることは認識されなければならない。一般的に、実験動物に栄養失調を生じることなく25〜30%以上の食餌を食物製品で給餌することは困難であり、そのため毒性を発揮するためにはネズミの食餌に含まれる食物製品の含有する毒物濃度が十分に高い(あるいは毒性がそれだけ顕著である)必要があるだろう。そうでなければ、ネズミバイオアッセイは単に毒物の存在を検出しないだろう。
食品添加物、殺虫剤、工業用化学薬品を含む幅広い構造の化学物質に関する120件のネズミバイオアッセイ(それぞれ90日間)のレビュー(Munro 他 1996b)では、最低副作用発現量(LOAEL)が0.2〜5,000mg/kg体重の範囲にあり、中央値は100mg/kg、5パーセンタイル値は2mg/kgであった。ネズミバイオアッセイで例えば食品作物に含まれる毒性成分から5パーセンタイルの曝露を達成するためには(食品混合率が30%で)、毒物は80ppmのレベルで存在していなければならない。曝露中央値100mg/kgを達成するためには、5,000ppmで存在しなければならない。これらの濃度は、食品における内因性毒物の検出のための既存分析方法の範囲に十分入るものである。栄養改善された作物を作成するために使用されたホスト生物における既知の毒物に関する組成分析の間にも、これらの濃度は容易に検出されるはずである。
GM作物由来の食品および飼料の栄養価評価に関する有用な動物モデルとして、ブロイラーチキンが浮かび上がった。しかし急速に成長するブロイラーは、実験用ネズミと違って効率的な食料生産動物を作成することを目的として、育種努力の結果得られたものであることは注意しなければならない。そのため、食品および飼料の毒性検査に対しては最適ではない可能性がある。事実、「突然死症候群」や「腹水」などの疾患は、急速な成長と関連した代謝疾患に関係していると考えられている(Olkowski & Classen 1995)。しかしこれと同時に、ブロイラーチキンは高度に特性化された食餌と関連して成長が最適化されているため、栄養素での微小な変化あるいは食餌内での栄養素吸収阻害物質は、成長率の低下として容易に現れる。さらに、罹患動物が表す最初の兆候のひとつは、食欲減退あるいは成長率の低下である。またブロイラーチキンの急速な成長と関連するものに、体重過剰ブロイラーの産卵低下により、食餌へのアクセスが無制限となっていることがある(Robinson 他 1993)。生体重増加、飼料変換の効率、屠体体重、胸肉重量、脂肪パッド重量は、GM作物由来の飼料に関するブロイラー給餌検査で通常測定される形質である(Clark & Ipharraguerre 2001)。これらの動物の急速成長と関係した有害症状の背景を考えると、ブロイラーチキンは毒性試験に関して、ラット、マウス、ウサギ、モルモットなどの通常の実験動物ほどには有用であるとは思えない。
単一形質(害虫耐性や除草剤耐性の向上)を移入したGM作物由来の全体食に関する給餌試験の例を、表3-3で提示した(Kuiper 他 2001より改訂)。測定された形質には、体重、器官重量、飼料消費と変換、血液化学、血清のIgEおよびIgG濃度、尿組成、肝酵素活性、器官および腸組織の組織病理学などがある。動物の健康あるいは生産性に影響を及ぼす意図されていなかった作用が、遺伝子改変の過程の結果発生したことをこれらの実験は示唆していなかったが、動物モデルには先に考察したような制限があることは認識されなければならない。すべての動物実験は、国際的に認められたプロトコルに従って実行されなければならない(例:ILSI導入形質に関して遺伝子改変作物を評価するうえで動物実験を実行するための実施基準 2003)。
ラット、ブロイラー、あるいはその他の品種を動物モデルとして選択するにしても、投与する食餌の調製には非常に注意しなければならない。ここで考慮されなければならない重要問題は、適切な栄養特性を持った食餌の調製および栄養が傾いた食餌を回避することである。さらなる問題は、適切な対照群の食餌の選択である。理想的には対照群の食餌は、分析試験のために選択された食品あるいは飼料で構成されるべきである。GM作物由来の栄養改善された製品は、栄養組成が従来品種とは大幅に異なっている可能性があり、そのため直接的な比較が困難になっている。また統計学的に十分な有効性を持たせるため、実験は十分な数で反復があるよう適切にデザインすることも必須である。明らかに、GM作物由来の新たな食品あるいは飼料は、それぞれ事例ごとに評価される必要があり、動物安全性検査への定型的アプローチを前もって形成することは不可能である。栄養改善された品種に対する動物給餌検査の適用で考慮すべき重要な問題点の概略をボックス3-1で提示した。


3.3 結論

バイオテクノロジーを通じて導出された栄養改善されている食品および飼料は、新たな安全性での懸念を惹起しない。安全性アセスメントへのアプローチは、多くの点で、農業的に改善された形質を持つGM作物由来の食品および飼料に使用されているアプローチと類似している。これは、遺伝子イベントの詳細な分子的特徴づけと導入されたDNAから発現されたすべてのタンパク質あるいはその他の産物に関する安全性評価から構成され、これに本来的な構成要素の量が、意図された栄養組成の改変は別として、適切な比較対照物あるいは文献の値との比較において改変されていないことを確定するための、徹底した組成分析が組み合わされる。栄養素を改変された濃度で含有する食品および飼料の安全性アセスメントは、当該食品あるいは飼料が人間の食事や動物の食餌で使用される程度、および当該の栄養素の安全性に関する既存の知識に依存するだろう。多くの栄養素に関し、文献から安全な上限摂取レベルが確立されている(NAS 2000a)。栄養素が植物から分離され、食品あるいは飼料の成分として使用される場合には、既存の規制がその安全性アセスメントおよび使用を管理することになるだろう。

表3-3

遺伝子改変食品作物aで行われた毒性検査

作物

形質

品種

期間

測定

参照文献

綿実油

Btエンドトキシン
Bacillus thuringiensis

ラット

28日

体重
飼料変換
器官の組織病理学的検査
血液化学的検査

Chen 他
1996

トウモロコシ

Cry9C エンドトキシン
B. thuringiensis var. tolworthi)

ヒト

 

トウモロコシアレルギー性患者の血清との反応

EPA 2000

トウモロコシ

Cry9C エンドトキシン
B. thuringiensis var. tolworthi)

ラット
マウス

91日

体重
血液化学的検査
血球数
器官重量
免疫関連器官の組織病理学的検査
血清IgE、IgG、IgAのレベル

Teshima 他
2002

ジャガイモ

レクチン(Galanthus nivalis

ラット

10日

腸の組織病理学的検査

Ewen & Pusztai
1999

ジャガイモ

Cry1 エンドトキシン
B. thuringiensis var. kurstaki HD1)

マウス

14日

腸の組織病理学的検査

Fares & El Sayed
1998

ジャガイモ

グリシニン
(大豆[Glycine max])

ラット

28日

飼料消費量
体重
血液化学的検査
血球数
器官重量
肝臓および腎臓の組織病理学的検査

Hashimoto他
1999a·b

コメ

グリシニン
(大豆[Glycine max])

ラット

28日

飼料消費量
体重
血液化学的検査
血球数
器官重量
肝臓および腎臓の組織病理学的検査

Momma 他 2000

コメb

フォスフィノスリシンアセチル転移酵素
Streptomyces hygroscopicus

マウス
ラット

急性
および
30日

飼料消費量
体重
致死量中央値
血液化学的検査
器官重量
組織病理学的検査

Wang 他 2000

大豆
GTS 40-3-2

CP4 EPSPS
(アグロバクテリウム属)

ラット
マウス

105日

飼料消費量
体重
腸および免疫系の組織病理学的検査
血清IgEおよびIgEのレベル

Teshima 他2000

大豆
GTS 40-3-2

CP4 EPSPS
(アグロバクテリウム属)

>ヒト

 

大豆アレルギー性患者の血清との反応

Burks & Fuchs
1995

大豆
GTS 40-3-2

CP4 EPSPS
(アグロバクテリウム属)

ラット

150日

血液化学的検査
尿組成
肝酵素活性

Tutel’yan 他
1999

大豆

2S アルブミン
(ブラジルナット
Bertholetta excelsa])

ヒト

 

ブラジルナッツアレルギー性患者の血清との反応

Nordlee 他 1996

トマト

Cry1Ab エンドトキシン
B. thuringiensis var. kurstaki)

ラット

91日

飼料消費量
体重
器官重量
血液化学的検査
組織病理学的検査

Noteborn 他
1995

トマト

アンチセンスポリガラクツロナーゼ
(トマト
Lycopersicon esculentum])

ラット

28日

飼料消費量
体重
器官重量
血液化学的検査
組織病理学的検査

Hattan 1996

a Kuiper 他 2001、表4から転載。一般に入手可能な報告からのデータ
b 変異性も検査した。

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