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E. 遺伝子改変(GM)作物の環境への影響のモニタリング
111. モニタリングは小規模野外放出の重要な側面であった特別なリスク管理手段である(OECD,1992)。いくつかの加盟国は、GM植物の環境への放出に由来する長期のリスクを評価するために長期にわたる計画を行っている。しかし、これは、加盟国における優先順位ややり方の違いをもっとよく理解する必要のある話題である。、実際の要求項目は場合により異なると考えられるが、下記のパラグラフでは、加盟国がモニタリングプログラムの中で考慮するであろう一連の要素を例示している。

112. 遺伝子操作生物の環境中でのモニタリングは、実験的放出や商業利用後に、a)予測された影響、あるいはb)予見されていない影響を確認するために実施される可能性がある。特別なモニタリングはリスク/安全性評価で予測された影響を検出するために設計される。一般的モニタリングでは予測されていない影響を検出しようとする。

113. 統計学的に有効な方法で実施されれば、モニタリングは将来のリスク/安全性評価のための知識ベースを広げるものである。しかし、プログラムの有効性を、環境に対する潜在的なリスクやプログラムの費用と規模、作物の重要性とバランスしなければならない。モニタリングは遺伝子操作生物に対する経験が欠けていたり、未知の有害影響の可能性が在在するときには、実行可能な安全措置となりうる。いくつかの国は、これが重要な予防措置にもなりうると考えている。リスク評価の結論を検証する事に加えて、特別なモニタリングはリスク/安全性評価者に有害影響に対する対応措置、を取らなければならないことを警告する、早期警告システムとなりうる。特別な環境モニタリングの3つの重要な要素は(1)何をモニタリングするか、(2)どのようにモニタリングするか(3)モニタリングプログラムをどのように実施するかの3点である。

E.1. 何をモニタリングするか
114. 特別なモニタリングでは、何をモニタリングするかは、何を知っているかに制限される。従って、リスク評価により得られた知識に基づき影響を特別にモニタリングすることができる。一般的なモニタリングは、定義により、予見していない影響を検出するためのものであるため、一般的なモニタリングシステムの作成は特別なモニタリングシステムの作成に比較してずっと難しい。一般的なモニタリングにより予期しない影響が検出された場合は、遺伝子操作生物以外の要素が影響を引き起こしている可能性についても考慮しなければならない。しかし、特別なモニタリングを作成する能力は何を知っているかに制限されるため、一般的モニタリングは特別なモニタリングの重要な補いとなる。

E.2. どのようにモニタリングするか
115. 潜在的なインパクトを確認した後、次の課題はそれを検出するためのモニタリングシステムを案出することである。トランスジェニック植物の挙動の特別なモニタリングには、一連の統計学的、生態学的ツールが必要である。モニタリングが成功するための基本的な考慮事項としては、情報の連続的な流れに加えて、方法およびパラメータの質および選択がある。データは、適切で、比較でき、信頼でき、代表的なものでなければならない。一般に、モニタリング計画の策定に際しては、下記の事項を考慮に入れなければならない。A)「ベースラインjの確立、b」サンプリングサイトの数と場所の選択、c」サンプリングの時間割の決定、d)標本の採取/取り扱いに関する標準的方法の作成、e)試験条件の作成、標準化、および検証、f)モニタリング期間。環境モニタリングは複雑であるため、確認されている影響およびモニタリング計画によって、種々の科学的専門分野、例えば、生態学、昆虫学、植物育種などの専門的知識が、モニタリングプログラムの策定に関係するであろう。上記の各考慮事項について例示するために、昆虫の抵抗性および/あるいは雑草性をモニタリングするためのシステムの構築に、これらの考慮事項がどのように考慮されるかについの簡単な説明を以下に示す。

(a)べースラインの確立
116. 生物集団の挙動の変化を観察するためには、「ベースライン」を確立する必要がある。即ち、遺伝子操作生物の導入前に、最も影響を受けそうな環境の局面が記述されていなければならない。このべ一スラインは通常、非改変生物を含む環境を含む。遺伝子操作生物導入後の環境の挙動は、ついで、「ベースライン」の記述に比較して測定することができる。例えば、昆虫の農薬に対する抵抗性のモニタリングでは、遺伝子操作作物の広範囲の栽培前における、広い地域/異なる昆虫集団における、ガの集団の毒素に対する感受性データを得る必要がある。雑草性に関しては、懸念が生じうる様々な場所における雑草、あるいは野生近縁種の出現頻度に関する知識が存在しているか、あるいはこれを作成しなければならない。遺伝子操作生物導入前の、周辺植物群集を形成する種の知識に加えて、作物が野生近縁種と交雑しうるかどうかに関する知識も重要である。何らかの理由で科学的証拠とするのに必要なすべての基準を満たすことができない研究からの予備的データも、起こりうる有害影響を示す上では有用であろう。

(b)サンプリングサイトの数と場所の選択
117. 正確な状況を把握するためにどこをサンプリングするか、いくつのサイトをサンプリングするかは重要な考慮事項である。サンプリングサイトの数が多ければ多いほど、遺伝子操作生物による変化およびその環境への潜在的有害影響の早期の徴候が得られる可能性が高くなるが、費用も高くなる。例えば、雑草性に関係する懸念の殆どについては、雑草および野生近縁種の数、それが見られる場所、およびその生物社会の他の植物との関係に関する観察は、統計学的に有効な方法で行われなけれぱならない。モニタリングのためのサイトの選択は決定的に重要である。

(c)サンプリングの時間割の作成
118. いつサンプリングするかは重要な考慮事項である。例えば、有害昆虫集団における抵抗性発生のモニタリングシステムを構築する場合には、ある種の害虫は1シーズン(夏)中に数世代を重ねることを考慮しなければならない。他のものは1あるいは2世代しかない。

(d)標本の採取/取り扱いに関する標準的方法の作成
119. 統計学的に有意な結果を与える標本を採取するためには標準化した方法が不可欠である。例えば、殆どのガの害虫種では若い幼虫(令数の低いもの)が毒素に対する感受性が高く、従って昆虫の抵抗性のバイオアッセイに用いるのに望ましい。標本を採取する人は、うまく若い幼虫を確認しこれのみを採取する事ができなければならない。

(g)試験条件の作成、標準化、バリデーション
120. 標準化された試験条件も重要な要粟である。採集の後、幼虫は試験の状況での反応を最適化するような標準的条件下で取り扱わなくてはならない。正確な検出法を用いなければならない。また、ある種のモニタリング(例えば、害虫集団における抵抗性発生の早期の検出)においては、用量識別アッセイの作成が重要な特徴となる。別のモニタリング(例えば雑草性)ではそうではない。

(f)モニタリングの期間
121. 問題が顕在化するまでには何年もかかる可能性があるため、どのくらい長くモニタリングしなければならないかの決定も行わなければならない。適切な例として、雑草、であるBromustechtorumの米国の北西太平洋岸への導入から米国における主要な雑草としてみられるようになるまでにかかった時間(約15-20年間)がある。

122. モニタリングは、問題を検出することに加えて、将来のリスク評価、特に長期の影響に関して、科学的データを利用可能にする。また、リスクアセスメントが現実の状況で適切であるかどうかに関するフィードバックも与える(SRU、1998)。

E.3.  どのようにモニタリングシステムを実施するか
123. GM製品の環境舟モニタリングの実施のためのいくつかの選択肢を記述する。これらは排他的なものではない。

(a)有害影響の報告
124. これは遺伝子操作生物を使用する、あるいはこれに関係する人(例えば、製造者、販売者、農家、政府の技術サービス)に対し、遺伝子操作生物により引き起こされたことが疑われる有害影響を報告することを求めるものである。このような規定の利点は、比較的廉価でできることである。欠点は、モニタリングの当局が、遺伝子操作生物に関係しない影響に関する報告を受ける可能性があること、また、予見していない事柄を確認することがモニタリングの意図である場合は、何を報告すべきかに関する手引きを書くことが難しく、非生産的ですらあることである。

(b)自生植物
125. この選択肢では必然的に費用負担の問題と任意のモニタリングシステムの構築が問題となる。

(c)義務づけによる計画
126. 義務づけによる計画を実施するためには、政府に、グループあるいは個人としての使用者に対し、確認された問題に対処するための情報を省庁に提供する事を要求する権限がなければならない。

(d)「計画された」研究活動
127. GM作物の農地に対するインパクトに関する「農場規模jの評価のような、政府あるいはその他の団体から資金を受けている研究活動は、農業環境におけるGM植物の環境影響のモニタリングに有用であろう。研究者と開発者の協力はこのような活動に信頼性を与えうる。

(e)国際的な協調
128. コストを下げ、経験と効率を統合するために、環境モニタリングプログラム、農業、健康、および環境調査のような既存の活動をモニタリングプログラムの作成に利用することができる(SRU,1998)。既存の活動に基づき、一般モニタリングのためのネットワーク/プログラムを作成することができる。OECDのBioTrack Onlineのような製品の承認やリスク評価情報に関する電子的データベースがすでに存在しており、新たに合意されたバイオセイフティ議定書はクリアリングハウスメカニズムの作成を準備している。

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