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F. 不確実性への対処および予防的対応の利用
129. 複雑な生物学的システムを扱う場合は、有る程度の科学的不確実性は常に存在する。上に記したように、不確実性はリスク評価者およびリスク管理者により考慮される。ある状況下で、有害性によりもたらされるリスクに関する不確実性の度合いが科学的に決定できない場合は、多くの国は予防的対応を取るのが適当であると考える。例えばEC委員会は、予防的対応の理解を、確認された起こりうる有害性がその活動と厳密には結びついていなくても予防的措置を取りうることを意味するもの、と一歩踏み込んでいる(Commission of the EC 2000)。この問題はまだ議諭されており、予防的対応が何であるか、また、遺伝子操作生物のリスク分析において、いつどのようにこれを適用すべきかについては、まだ国際的合意はない。この問題を解決するために、この話題について、継続的な議論が必要であることは明らかである。

130. いくつかのその他の政府間機関が、科学的不確実性にどのように対処すべきかを説明するための活動に関与してきた。近年では、いくつかの国際的文書が予防的対応の問題を扱ってきた。これまでのところ、様々なアプローチがある。予防的アプローチと健全な科学の間の関係もまた、現在議論されているところである。予防的アプローチのある側面が扱われている例は、いくつかのの国際協定および国際的文書に見ることができ、そこでは「手段(measures)」、「アプローチ(approaches)」、「原則(principles)」および「措置(actions)」という言葉が予防的対応に関連して引用されている(予防的対応に関する参考文献参照)。

131. 環境と開発に関するリオ宣言の第15原則に説明されている予防的アプローチという言葉は、環境への脅威に対処するときの科学的不確実性と証拠の重みづけに対処するアプローチを示すものである。第15原則は「環境を守るために、予防的アプローチが、各国により、その能力に従って広く適用されるべきである。重大なあるいは不可逆的な障害の脅威がある場合には、十分な科学的確実性がないことを、環境劣化を予防するために費用効果の高い措置を取ることを遅らせる理由としてはならない。」と述べている。予防的アプローチは、1992年国連生物多様性条約の、バイセイフティに関するカルタヘナ議定書の前文および第1条に再確認されている(2000年1月29日にモントリオールで採択)。ここでは、「リオ宣言の第15原則に含まれている予防的アプローチ」について言及している。

132. 議定書は、「人の健康に対するリスクをも考慮し、輸入国における生物多様性の保全と維持に対する生きている改変生物の潜在的有害影響の程度に関して関連する科学的情報および知識が不十分であるために科学的確実性がないことは、同国が必要に応じて、その生きている改変生物の輸入に関して決定を行うことを妨げてはならない。(第10条6)と述べている。議定書は、「貿易と環境に関する協定は、持続可能な開発を達成するという観点において、相互に支え合うものでなければならない。」(前文)と認めており、「議定書は、いかなる既存の国際協定の下での締約国の権利および義務についても、その変更を意味していると解釈されてはならない。」(前文)と強調している。議定書はまた、リスク評価(第15条および付録III)およびリスク管理(第16条)に関する条文を含んでいる。作業グループは、議定書の付録IIIに概括されているリスク評価の一般的原則および考慮事項を認めている。

133. 世界貿易機関の衛生および植物検疫措置に国する協定の第5条7もまた、不確実性について扱っている。この条文は、「関連する科学的証拠が不十分である場合には、加盟国は、他の加盟国により適用されている衛生および植物検疫措置からの情報に加え、関連する国際機国からの情報を含めて、入手可能な関連する情報に基づいて、暫定的に衛生あるいは植物検疫措置を取ることができる。このような状況では、加盟国は、リスクのより客観的な評価を行い、それに従って衛生および植物検疫措置を適切な期間内に見直すために必要な、追加の情報を得るようにしなければならない。」と述べている。

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