D. リスク管理−技術的アプローチ
98. OECDの報告書、「バイオテクノロジーの安全性に関する考察:作物のスケールアップ(1993)」はリスク/安全性評価およびリスク管理の考え方がトランスジェニック植物にどのように適用できるかを詳細に検討している。この報告書は、リスクの確認とリスク管理の関係について記し、トランスジェニック作物に関するリスク考慮事項を確認し検討している。この報告書が扱っている概念の多くは、トランスジェニック微生物にも当てはまる。
99. リスク管理とは、科学に基づくリスク評価の過程で確認された潜在的有害性や有害影響を最小にするために方法を適用する仕方を指す。これには社会−経済的な価値や、倫理的問題等のその他の要因はカバーしていない。これは、全体としての意思決定プロセスの一部であろう(第II章.A.参照)。管理のための措置は、リスク評価の結果に基づき、それに釣り合ったものでなければならない。
100. 場合にもよるが、農場規膜の実験では遺伝子操作生物の利用に関連したリスク管理の一部として、リスク緩和措置が確認できるであろう。また、農場規模の実験は、実験室や小規模野外試験に追加した情報を提供できる可能性があり、それにより、知識と経験の増大に貢献するであろう(例えば、付録1の英国の農場規模の評価参照)。
101. リスク/安全性評価において確認された有害性や有害影響を管理するのに用いられる手法には下記があろう。
102. 下記のパラグラフは、特定カテゴリーのトランスジェニック作物に対して使用されたリスク管理手順の例を示している。考慮事項のあるものは、トランスジェニック微生物にも当てはまる。
D.1. 昆虫の抵抗性管理
103. 有害昆虫集団が農薬等の防除剤に対して抵抗性を発達させる事は以前から知られていた。Btデルタエンドトキシンのような重要な遺伝子資源に対する昆虫の抵抗性の発達を遅らせ、あるいは避けるための戦略が開発されている。抵抗性の発達を管理するために有効なプログラムの要素には、モニタリング、有害昆虫の生物学的性質及び行動に関するデータの収集、農民の教育プログラム、抵抗性害虫集団が検出された時の修復計画、栽培者による保護区の設置と管理、GM形質の適切な用量の使用が含まれている。また、限定的発現(例えば、生長期あるいは組織特異的、あるいは傷に誘導されるプロモーターの使用)も抵抗性発達のリスクを低減するであろう。抵抗性管理プログラムは、現在、米国、オーストラリア及びEUで開発され、使用されている。
D.2. 雑草性
104. 雑草とは人が生えてほしくないと思う場所に生える植物である。これには、自生植物、即ち、越冬や播種により、前年の生育期から残った作物も含まれる。トランスジェニック作物の自生植物は適切に管理されないと農業上の問題を生じうる。栽培者は、異なる形質を持つ作物を同じ場所に植えたり、異なる形質を持つ作物を花粉の移動が起こるほど近くに一緒に植えるなどにより、遺伝子の意図しない多重化(gene stacking)が起こることがないように、十分注意する必要がある。例として、グリホサート除草剤耐性カノーラを1年目に栽培し、イミダゾロノン除草剤耐性カノーラを2年目に植えると、今年の作物と前年からの自生植物との間に遺伝子の移動が起こるような場合には、両除草剤に耐性の形質を持つ自生カノーラが生じることになりうる。複数の除草剤に対する耐性を持つ自生植物は、このタイプの雑草に対して栽培者が使用できる農業上の管理戦略を減らしうる。栽培者が、雑草の防除および作物の輪作を含む健全な農業規範を用いることが奨励されなければならない。ある種のトランスジェニック植物については、トランスジェニック植物の「野生の」近縁植物が交雑によりGM形質を獲得しうるかどうかを検討する事が重要である。問題は、獲得したGM形質が、例えば草食者からの被害といった環境の制約要因から逃れる能力を付与する場合に、野生の近縁植物が雑草になるかどうかということである。この評価を行う際、「雑草性」が一群の生物学的形質によるものであることに留意する必要がある。雑草性は、選択圧の存在に依存しており、必ずしも野生の近縁種がトランスジェニック植物から単一の形質を獲得しただけでは生じてこない。
105. 野生、の近縁種への形質伝達の潜在性について考える際、可能な管理手法を考慮に入れる必要がある。このようなものには、花粉の障壁、隔離距離、花の除去がある。また、例えば雄性不稔形質を用いたり、クロロプラストによる形質転換を用いるなどにより、交雑が起こりそうにないトランスジェニック作物を作成する可能もある。
D.3.植物の新たなウイルス、あるいは新たなウイルス病
106. 他の生物と同様、植物種もウイルス感染を受ける。ウイルスが植物に感染するのを防止するために、ウイルスの成分、通常はウイルスの外被タンパク質(VCP)の遺伝子を作物に導入する、ウイルス病防除に利用されるモダンバイオテクノロジーが開発されている。リスクに関する考慮事項としては、a)改変した作物からのウイルスの外被タンパク質を野生の近縁種が獲得して、ウイルス抵抗性を増大させ、雑草性を増大させるか、b)組換えやトランスキャプシデーション、シナジー等のプロセスを通じて新たなウイルス株が発生しうるか、c)組換えにより宿主域の変化が生じそうかということである。
107. 雑草となる潜在性が確認された場合は、上記に説明した方法により管理することができる。ワーキンググループが作成した「外被タンパク質遺伝子を介した保護によりウイルス抵抗性となった作物のバイオセイフティに関する一般的情報に関するコンセンサスドキュメント(OECD,1996a)」を含むいくつかの研究は、この技術の使用により新たなウイルス病が生じる潜在性は極めて低いと結論している。
D.4. GM植物中の選択マーカーとしての抗生物質耐性形質の使用
108. 抗生物質に耐性を持つ病原体の発生は世界中で大きな問題となっており、ヒトの健康に重大な意味を持つ。抗生物質に耐性の病原体の環境中の集団は主として動物飼料、畜産学、あるいはとトの健康管理における抗生物質の誤った使用により作られたものである。病原体集団における抗生物質耐性の発生に効果的に対処するために、これらの問顕についても対応しなければならない。
109. ある種の抗生物質は、トランスジェニック植物品種のような遺伝子操作生物を作り、選抜するための選択因子として用いられてきた。トランスジェニック植物における抗生物質耐性形質の使用が耐性を持つ病原体集団の発生に寄与しているという証拠はないが、他の解決法があるのに潜在的な問題を大きくしているとして批判されている。トランスジェニック植物中での抗生物質耐性マーカーの使用は、いくつかの国で、リスク評価と予防的対応との関連で議論されている重要な問題である。このような様々な手法に伴う相対的なリスクを区別する事は困難であり、このことは一般の人の議論に適切に反映されるとは限らない。抗生物質耐性マーカーの使用に伴う問題は、米国FDAのガイダンスドキュメント、抗生物質耐性に関する科学ステアリングコミティーの意見(European Commission,1999)、およびベルギーのバイオセイフティ・サーバーに詳述されている(http://biosafety.ihe.be/ARGMO/ARGMOmenu.html)。
110. これらの懸念に対応し、また、予防的対応として、抗生物質耐性形質に変わるべきもの、例えば、二次的選択マーカー(例えば、緑色蛍光タンパク質)の利用が、現在、選択マーカーとしての抗生物質使用への依存を実験において減らしうるかどうかについて、評価されている。代替物もリスク評価の対象とされ、抗生物質耐性マーカーのリスクと比較される必要がある。他の技術はトランスジェニック植物から抗生物質耐性マーカーを除くことを可能にするであろう。植物については、その他の耐性形質、例えば、除草剤に対すする耐性が、抗生物質耐性の代わりに使用できるであろう。