第II章 環境リスク/安全性評価の現在のアプローチと経験
A. 国際的に確立されている科学的原則
A.1. リスク/安全性評価およびリスク管理
54.リスク/安全性評価は、環境への潜在的な有害影響あるいはハザードを確認し、ハザードが確認された揚合は、それが生じる確率を判定する作業である。潜在的なハザードあるいは有害影響が確認された場合は、それを最小にする、あるいは緩和するための措置をとることができうる。これがリスク管理である。安全性評価においては絶対的確実性やゼロリスクを達成することはできない。従って不確実性は全てのリスク評価およびリスク管理において避けがたい側面である(OECD,1993)。例えば、単一種における試験の結果を他の種における潜在的影響の確認のため
に外挿する事には不確実性が存在する。従って、リスク評価者およびリスク管理者は不確実性に対応するためにかなりの努力を払う。OECD等の政府間機関の多くの活動は、不確実性について取り扱う方法を扱っている。
A.2.OECD内部における活動
55. 1980年代以来、OECDはモダンバイオテクノロジー製品のリスク/安全性評価の調和的アプローチを開発してきた。今ヨまでに、OECDはトランスジェニック植物の野外放出に関する情報や、伝統的な作物育種法に関する考察に加えて、安全性に関する考慮事項、リスク/安全性評価の概念と原則に関するいくつかのエキスパートリポートを発表してきた。現在、OECDは、特定の生物や形質の環境利用の評価に用いられる情報に関するコンセンサス文書を発表している。
A.2.1 基礎となる科学的原則
56. 1986年、OECDは遺伝子操作生物に関する最初の安全性に関する考慮事項を発表した(OECD,1986)。これには、リスク/安全性評価において考慮されると考えられる問題点(ヒトの健康および環境および農業に関係するもの)が含まれている。その農業および環境利用に対する勧告中で、この本はリスク/安全性評価者が下記を行うことを提案している。
A2.2. 小規模試験における限局の役割
57. 1992年、OECDはGM植物およびGM微生物の小規模野外研究設計のための優良開発原則(GDP)(OECD,1992)を発表した。この文書は、とりわけ、野外試験における限局の利用について記している。限局には、例えば、物理的、時間的、あるいは生物学的な隔離(不稔の利用のような)等の、野外試験からの生物の拡散あるいは定着を避けるための措置を含んでいる。
A.2.3. 作物のスケールアップ−リスク/安全性分析
58. 1993年までには、植物育種家がGM植物の大規模生産および商業化に進み始めたのに伴い、関心の中心はスケールアップに移っていた。OECDはスケールアップのための一般的原則(OECD,1993)を発表したが、これは以下を再確認するものであった。「バイオテクノロジーの安全性は、適切なリスク/安全性分析とリスク管理の利用により達成される。リスク/安全性分析はハザードの確認および、ハザードが確認された場合は、リスクアセスメントからなっている。リスク/安全性分析は生物の特性、導入された形質、生物が導入される環境、これらの相互作用、および意図される利用に基づいている。リスク/安全性分析は意図される活動の前に行われ、実験室で行われるか・野外環境で行われるかによらず、典型的には、新たな生物の研究、開発、試験における日常的な成分である。リスク/安全性分析は科学的な手続きであり、規制的監督を意味するのでもなく、あるいはこれを排除するのでもなく、あるいはすべての事例が国家あるいはその他の権威により審査されなければならないことを意味するものでもない」(OECD,1993)。
A.2.4 リスク/安全性評価における経験的知識や理解(ファミリアリティ)の役割
59. スケールアップの問題はまた、重要な概念であるファミリアリティの概念を導いた。これはその後、トランスジェニック植物の環境安全性に対応するために使用された一つの重要なアプローチである。
60. ファイミリアリティの概念は、殆どの遺伝子操作生物が作物などのように生物学的な性質がよく理解されている生物から開発されているという事実に基づいている。これは、それ自体はリスク/安全性評価ではない(NAS,1989)。しかし、ファミリアー(経験的知識に基づきよくわかっている)であるということは、安全性やリスクについての判断を行うのに十分な情報を持っている事を意味するため(NAS,1989)、この概念はリスク/安全性評価を助ける。ファミリアリティはまた、リスクを管理するために標準的な農業規範が適切であるかあるいはその他の管理手法が必要であるかを含め、適切な管理手法を示すのにも用いることができる(OECD,1993)。ファミリアリティはリスク評価者に対し、植物や微生物の環境への導入に関するこれまでの知識や経験に依拠する事を許し、このことは適切な管理手法を指示する。ファミリアリティはまた、環境や環境と導入生物との相互作用に関する知識にも依存しているため、ある国におけるリスク/安全性評価は別の国には適用出来ない可能性がある。しかし、野外試験が実施されるにつれて、関与する生物や多数の環境との相互作用に関する情報が蓄積されるであろう。
61. ファミリアリティは新たな植物系統や作物品種を特定の環境でスケールアップするのに先立ってリスク/安全性分析を行う際に用いうる知識や経験に由来する。植物については、例えば、ファミリアリティは下記に関する知識や経験を考慮に入れているが、必ずしも下記に限られるものではない。
A.2.5. 規制の調和
62. 作業グループは、いくつかのOECD加盟国において複数のGM食品が商業化された1995年に設置された。作業グループの一つの目的は、OECDにおいて開発されたこれまでの原則や概念に基づいて、加盟国間におけるバイオテクノロジーの国際的調和を促進することである。その活動は、環境に由来するヒトの健康と環境安全性の側面が適切に評価されることを確保するように計画されている。
63. 作業グループは現在、すでに国際貿易が行われている、あるいは近い将来に行われるであろう植物、微生物および形質のコンセンサスドキュメントを作成している。これまでに出版されたドキュメントは作物(例えば、ナタネ、バレイショ、パン小麦、イネ)、林木(ドイツトウヒ、北米産トウヒ)、および微生物(Pseudomonas)を扱っている。いくつかの文書は、遺伝子改変形質(例えば、ウイルス耐性および除草剤耐性)について扱っている。現在、作業グループはさらに約15のコンセンサスドキュメントを準備中である。
64. コンセンサスドキュメントは、バイオテクノロジー製品の規制上の評価に使用するための、最新惰報のスナップショットを与えることを意図しており、OECD加盟国において相互に承認される事を意図している。コンセンサスドキュメントがリスク/安全性評価の代替となることは意図されてしていない。しかし、これらの文書は、安全上の重要な問題点に関する情報の共有化を奨励し、加盟国における努力の重複を防止する。ドキュメントは、a)規制者への申請のための情報として申請者により、b)審査の一般的手引きおよび参考情報源として規制者により、c)情報の共有化、研究のための参考文献および市民への情報提供のために、政府により用いられている。
65. 作業グループの活動の他の重要な側面は、アウトリーチ活動である。特に、World WideWeb, http://www.oecd.org/ehs/service.htm(OECDのウェブサイト、a)のBiotrack Online(バイオトラック)には、政府や産業界が届出や評価書を作成するのに用いる、バイオテクノロジー製品の規制上の監督に関する情報が含められている。バイオトラックは加盟国における規制の進展に関する情報(OECDのウェブサイト、d)を共有化し、野外試験(OECDのウェブサイト、c)や承認された製品に関するデータベース(OECDのウェブサイト、b)を提供することにより、国際的協調を促進している。データベースを改善するのに加え、規制者が製品の同定を行うのを助けるために、製品の独自の識別情報の概念を2000年10月のワークショップで作成する予定である。独自の識別情報の使用は、規制者が異なる国における同じせ製品の識別を行うことを可能にする。バイオトラックはOECDのこれまでの活動に関する情報を提供し、他の関連サイトとのリンクに加え、共同のウェブサイトを持っている。特に、UNIDO、即ち、BINASとは共用のウェブサイトを持っている。他のアウトリーチ活動により、特に「原産地と多様性の中心地」に関して、非加盟国からの情報の取り込みが行われた。
A.3.その他の政府間活動
66. その他のいくつかの政府開活動が遺伝子操作生物のリスク/安全性評価に関係している。
67. 国際機関から、相互に支えることを意図した、調和に関連する様々な文書が出されている。UNIDO、UNEP、FAOやその他の国際団体は遺伝子操作生物の環境放出の安全性に関するする報告書や勧告、および/またはガイドラインを発表している。UNEPのガイドライン(UNEP,1995)は任意の規約の例である。最近採択された(2000年1月29日、モントリオールで採択)バイセイフティに関するカルタヘナ議定書は、LMO(生きている改変生物)の越境移動、遺伝子操作生物の国際交換に関する義務を規定し、リスク評価分野における客観的、一般的原則および方法について記したリスク評価に関する付属文書を含んでいる。1997年の改定国際植物保護条約(International Plant Protection Convention;IPPC)はリスク分析における環境インパクトの測定について言及しており、そのことは、植物衛生措置に関する国際基準(International Standard for Phytosanitary Measures;ISPM)の草稿中に明確に説明されている。IPPCのISPMはSPS規約(衛生および植物検疫規約;Saniary and Phytosanitary Agreement )において加盟国がリスク評価を行う際に使用すべき基準として言及されている。IPPCの下の植物衛生措置に関する国際委員会(International Commission for Phytosanitary Measures;ICPM)は遺伝子操作生物のリスク分析に関する特別なISPMの必要性を検討する作業グループを設置した。その他の関連文書として、衛生および植物衛生措置に関するWTO合意(WTO Agreement on Sanitary and Phytosanitary)(WTO,1995)がある。この合意は、病原因子あるいはその他の病害虫の拡散に関する懸念がある場合に貿易制限措置の導入が許される条件を規定している。
68. 規制による監督をさらに国際調和させるための、強制力のある、あるいは任意の合意に基づく、いくつかの地域的調和のための活動がある。例えば、EC指令(Council of the EU,1990)は遺伝子操作生物をどのように扱うかについての共通の枠組みを定めている。指令90/220は現在見直し中であり、修正は加盟国間のさらなる調和を進めることを意図している。
69. さらに、データ要求およびリスク評価手順の調和を進めるための二国間協議がある。これには、EUと米国農務省に加え、米国農務省とカナダの間、EUとカナダの間のプロジェクトに基づく、環境リスク/安全性評価の重要な一部としての分子生物学的特性化の基準作成のための議論が含まれる。