前へ | 次へ

C. 環境安全性に関する問題点
38.  殆どのOECD加盟国はGM食品の栽培あるいは生産を評価するための環境リスク/安全性評価のためのシステムを持っている。例えば、殆どのOECD加盟国は食物の栽培に用いられる植物や、食品製造に用いられる微生物の環鏡評価を行うためのシステムを持っている。環境リスク/安全性評価においては、宿主生物の生物学的性質が考慮される。また、導入された遺伝子の採取源、遺伝子操作生物中で遺伝子がどのように発現するか、そして、遺伝子産物の性質に関する情報を含んでいる。また、生物が放出された環境中でどのような挙動やインパクトを示しそうかに加えて、生物の特性についても考慮される。例えば、その環境中に存在する野生生物や生物多様性に対する潜在的生態学的影響を調べるために、曝露と毒性データが用いられる(例えば、殺虫遺伝子を持つ植物は、非標的昆虫種にインパクトを与えるかも知れない)。さらに、完全な評価を確実にするためには、製品の最終的な使用に関する情報も必要である。リスク/安全性評価者が用いるような情報の一部は、伝統的な生物での経験にもとづいて作成されている。トランスジェニック植物に関して評価される一般的な問題点はOECDにより作成されており、下記を含んでいる。遺伝子伝達、雑草性、形質あるいは非標的影響、遺伝型あるいは表現型の変異、病原体からのベクターおよび遺伝子の使用。以下にリスク/安全性評値者が検討するいくつかの問題点について記す。セクションC.1.ではトランスジェニック植物に、セクションC.2.ではトランスジェニック微生物に焦点を当てる。

C.1. 植物
C.1.1. 近縁植物への遺伝子伝達
39. リスク/安全性評価者にとっての問題の一つは、遺伝子が花粉を介して周辺地域に生育する同じ作物種あるいは性的適合性のある野生の近縁種集団に伝達されることである。これが起こるためには、いくつかの要素が存在している必要がある。最も重要な点は、導入遺伝子を含む花粉が移動できる範囲内に性的適含性のある植物集団が存在することである。しかし、受精が成功するためには、受粉が起こる時期にこれを受けるとめる花の形成が起こらなければならない。伝達された遺伝子を持つ生物集団が残留するためには、生きた種子の形成、種子の発芽と成長を含めて、様々な状況が起こらなければならない。最終的には、伝達された遺伝子を持つ生物集団の残留は、交雑により生じた植物およびその子孫の稔性に依存する。従って、欧州に近縁植物が知られていないトウモロコシでは、いくつかの近縁種が存在するナタネに比べて、交雑の可能性は低いかあるいは全くない。交雑がうまくいくための別の重要な側面は、遺伝的適合性である。適性は往々にしてどちらの植物種が花粉提供者になるかに依存する。適合性に関するデータは通常、栽培作物を雌しべ提供者として行った交雑に基づいているが(Diez,1993)、アブラナ科植物では両方の組み合わせに関する研究がある(Downey and Kirkland,1997)。新たに導入された形質は突然変異と同じであるかも知れないし(例えば除草剤耐性)、その種にとって全く新しいかもしれない(例えば植物中のB.T.毒素)。繰り返しの受粉は、その形質が野生生物集団に組み込まれる可能性を高めるであろう。

40. 野生生物集団中への形質の定着は、伝達の頻度のみでなく、偶発的影響や選択圧にも依存する。遺伝子が既存の環境あるいは農業条件下で選択的有利性を持つ場合には(即ち、除草剤体耐性、昆虫耐性、あるいは環境ストレスに対するより大きな耐性)、植物あるいは導入遺伝子は拡散し、種の構成を変えうると言われてきた(Lupi,1995)。一方、適合性を減じないような遺伝子は、野生植物集団中に維持される可能性が高い。自然条件下では、作物の特性は通常、交雑種における適合性を減少させる。一般に、長期ベースでは、遺伝子の近縁野生植物への伝達は、ある場合には排除する事はできず、従って、生物多様性へのインパクトに関する考慮以外に、他の植物種ゲノムのバックグラウンドにおける導入遺伝子の影響を見いだすことが重要であろう(Diez,1993)。また、伝統的育種に由来する同様な形質が野生近縁種に影響を持ったことがあるかどうかについて検討する事も重要である。

C.1.2. 非近縁生物への遺伝子伝達
41. 遺伝子の水平伝達とは、例えば、植物と微生物の間のような、非近縁生物間での遺伝物質の交換のことである。微生物と微生物の間での伝達については、例えば、接合、トランスダクション、トランスフォーメーションのように、遺伝物質の伝達を可能にする様々なメカニズムが十分証明されている。

42. 植物が微生物からの自然の遺伝子伝達の受容体となる特別なケースがある。例えば、Agrobacterium tumefaciensは特定の植物(双子葉植物)に膨らみやこぶを形成する病原細菌である。この細菌のDNAの一部(プラスミドに存在する)が植物細胞に伝達され、植物の染色体に取り込まれる。科学者らは植物からAgrobacterium tumefaciensへの遺伝物質の伝達を長年にわたり探してきたが、まだその様な例は検出されていない。

43. 植物から微生物への遺伝子伝達の仮説的なメカニズムは、死んだ植物から放出されるDNAの微生物による取り込みである。タスクフォースの報告書はこれが起こる可能性について有る程度詳細に論じている[C(2000)86/ADD1]。

C.1.3. トランスジェニック生物の定着と残留:農業環境における雑草性
44. トランスジェニック作物について検討する場合、リスク/安全性評価者が取り組む一つの問題は、新たな植物品種で、環境中に残留し、侵入し、競合し、あるいは拡散する傾向が高まっているかどうかである。例えば、除草剤耐性遺伝子の導入は、農業環境において輪作を行った場合、発芽する除草剤耐性植物の防除に問題を生じうる。

C.1.4. 遺伝的改変の不安定性
45. 一般に遺伝子は安定に遺伝する。導入遺伝子の遺伝および発現における不安定性はいくつかの理由により起こりうる。挿入遺伝子が受容生物で発現しない場合、あるいは他の遺伝子の阻害を受ける場合には、新たな特性は失われうる。後代の育種の際に遺伝物質が分離しても失われうる。このことは、遺伝子改変生物のヒトの健康あるいは環境に対する潜在的影響に関するリスクアセスメントを変えることはないであろう。しかし、別の場合においては、遺伝子の不安定性はリスク/安全性評評価にとって重要な問題になる。例えば、遺伝子改変の目的が受容生物の特定の有害な特性(例えば、毒性あるいはアレルゲン性化合物)を除去する場合などがこれに当たる。

C.1.5. 二次的なおよび非標的への有害影響
46. トランスジェニック作物が周辺群落中の生物に与える潜在的インパクトは、リスク/安全性評価者にとって重要な考慮事項である。考慮すべき重要な点は、a)どの種がトランスジェニック植物を摂食するか、あるいはこれと接触するか;b)トランスジェニック植物の花粉が新たな遺伝子産物を含んでいるか;もしそうならば、植物の花粉は風によって拡散して隣接環境中に入る可能性があるため、ミツバチ、チョウ、水生生物等の非標的生物に対する潜在的影響は何か;c)新たな遺伝子産物は種子や果実中に発現するか;もしそうならば、動物がそれらの果実や種子を食べるか;d)新たな遺伝子産物は根や植物の老朽組織に存在し、後に土壌中に耕耘されたり収穫後に野外で分解されるか;新たな遺伝子産物は土壌中で安定で生物に利用されるか;また、土壌中に生息する生物に対する潜在的影響は何か;e)新たな遺伝子産物が消化を受けず、トランスジェニック植物を食する種がそれを蓄積し、それらを食する捕食性種に影響を与えることがあるか。

47. リスク/安全性評価に関係するのは、例えば食物連鎖に起こるような、二次的あるいは間接的な影響に加えて、環境に対する特に、毒性の強い、あるいは有害な影響である。潜在的な有害影響には、分解プロセスに重要な役割を持つ微生物相および/あるいは微小動物相に遺伝子操作生物が影響を与えることにより生じうる、土壌中の窒素および/あるいは炭素の代謝の変化といった、生物地球化学への影響が含まれる。改変植物や微生物が環境と相互作用を持つ形質を発現すると、生態毒性問題を生じうる。殺虫毒性の発現、およびある種の植物ウイルス遺伝子の発現も、環境への意図しない有害影響の可能性を考える場合に重要な形質の例として確認されている。

C.2. 微生物
C.2.1. 食品生産に用いられる微生物−環境リスク/安全性に関する考慮事項
48. 「封じ込め」条件で使用される微生物は、毒素産産生の可能性が最小であるように選択されており、通常、生存能力が低下している。生存能力の低下は、意図的に行われているか、あるいは、特定の条件下で繰り返し増殖させた微生物がこれらの条件に適応し、外での生存能力を失う事によっている。この場合には、このような微生物は環境リスクが限られているか、あるいはこれを全く持たない。しかし、封じ込め条件の外での生残に対する微生物の適応度はケース・バイ・ケースで評価しなければならない。

49. 封じ込め内での何年にもわたる微生物の利用により得られた経験は、科学者にかなりのファミリアリティ(経験的知識や理解)を与えている。しかし、上記のように、封じ込め内での微生物の利用は、微生物が環境中で競争にうち勝たなければならない場合に満たすべき要件とはかなり異なっている。しかし、経験は、例えば微生物群集やエコシステムにおける詳細な役割が知られていなくても多くの微生物を安全に利用できることを示している。微生物の役割に属する完全な知識を欠いているために、評価は、これまでの科学的知見からの類推や安全性に関する記録の利用可能性に依存しなければならない。良く知られていない微生物の場合や、微生物とそれを導入する環境との相互作用に関する重大な不確実性が有る場合は、放出前に注意深い評価が必要である。生態学的に重要な意味があると思われる問題に下記が含まれる。微生物群集およびエコシステム中における微生物の機能的役割あるいはニッチェ、微生物間における遺伝子伝達の可能性、微生物の残留および拡散を監視する能力、そして、最も重要なこととして、残留および拡散の潜在的な生態学的成り行き、および必要な場合に導入微生物による影響を制御する潜在的な手段。

50. 食品製造への微生物の利用において、ヒトの健康に関する観点は極めて重要であるが、微生物(遺伝子操作微生物を含む)は環境中に偶発的に、あるいは日常的に放出されうるため、環境的要因についても考慮に入れなければならない。生態系における新たな菌株は遺伝子プールヘの新たな遺伝子の導入を引き起こすため、微生物の環境との潜在的な相互作用はかなりのものでありうる(必ずしもそうとは限らないが)(Tiedje et al.,1989)。さらに、新たに導入された微生物は他のものを置き換え、生態系における機能を引き継ぐかもしれない。このことは、その機能の変更を引き起こし、生態系全体に対して影響を持ちうる(Cairns and Orvos,1992)。自然の微生物群集は、導入された新たな微生物を競合により妨害することができる(Tiedje et al.,1989)。微生物世界にはかなりの機能の重複があり、一つの微生物を遺伝子操作して機能又は形質を導入しても、微生物群集の生態学的バランスに不調を起こしそうにないと考えられている(Tiedje et al.,1999)。微生物が関与している多数の複雑な柏互作用は、簡単なレビューで総合的な記述を行うことを困難にしている。従って本項は食品および食品製造に関係する環境安全性の問題の3つの例に焦点を当てる。

51. 第一に、リスク/安全性評価者は抗生物質耐性マーカーの利用に焦点を当てる事が多い。その懸念は、食品中あるいはその他の目的で環境中に導入されたGM微生物が、ヒトの身体やその他の動物の片利共生体(体内に住み着いている正常の微生物相)、あるいはヒトやその他の動物の病原体の抗生物質耐性のもとになるのではないかということである。同様に、ヒトの片利共生体は、環境中の他の可視的生物と微生物の間の関係に影響を与える可能性のある抗生物質耐性のもととなりうる。

52. リスク/安全性評価における第二のリスクに関する考慮事項は、微生物がヒトやその他の動物に有害な影響を与えうる毒素を産生する能力があるかどうかである。毒素が分泌される場合は、細菌を摂取しなくても影響を受けうる。食品製造に用いられるある種の微生物は、このような毒素を産生する微生物に近縁である(例えば、醤油、味噌、酒の製造に何百年もの間使用されてきた麹菌Aspergillus oryzae)。生じてくる一つのリスクアセスメント上の疑問は、ヒトや動物と共生して増殖する微生物(例えば大腸菌Escherichia coli)がこのような毒素をトランスジェニック細菌(遺伝子改変されているか否かによらず)から獲得しうるか、あるいは、トランスジェニック微生物に由来する毒素の汚染が、食品や飼料に存在するか、あるいはそれ以外にも動物に消費されるかである。

53. 第三の考慮事項は、大気から窒素を取り込み土壌中に固定し、マメ科植物と共生するトランスジェニック微生物(即ちSinorhizobium meliloti)に関係するものである。このような利用についてもケース・バイ・ケースで評価しなければならない。このような微生物が関係するいくつかのシリーズの野外試験および商業利用が、過去数年間に行われている。

前へ | 次へ