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経済面

3.可能性の実現

 ライフサイエンスとバイオテクノロジーの可能性は加速度的に実現されており、富と熟練労働者の雇用を創出するとともに、新たな経済を生みだしそうである。だがそれにどのくらいの時間がかかるのか、どのような方向に向かうのか、欧州が全面的にそれに参入していくのかどうかは、よく分からない。

 ある推計では、2005年までに欧州のバイオテクノロジー市場が1億ユーロの規模になるという。応用される新技術の大半をライフサイエンスとバイオテクノロジーが占める産業に関連する世界市場は、2010の末までに2兆ユーロを超える可能性がある。

ライフサイエンスとバイオテクノロジーの直接的、間接的な市場取引額見通し(注1)
製造業 持続可能な生産技術と環境技術(一部だけがバイオテクノロジー)の世界市場は、2010年に1兆500億ユーロになる見通しである。そのうち環境技術は、900億〜1200億ユーロと推定される(注2)。
医薬品産業 世界市場は2004年に5060億ユーロになる見通しである(そのまま堅調に推移すれば、2010年には8180億ユーロになる)(注3)。
農業 遺伝子組換え種子の播種面積は増え続けているが、将来的な市場価格を予測することはむずかしい。その価格は遺伝子組換えでない飼料市場がどのように発展していくかに左右されるからである。世界のGM作付面積は次のとおりである(単位:100万ヘクタール)(注4)。
 
1998年 1999年 2000年 2001年
28 40 44 53
以上の数字を見ると、情報源がばらばらで推定値が不確実だということを考慮しても、バイオテクノロジー企業が新技術の大部分と全体的な技術のかなりの部分を提供する産業では、農業を除く世界全体の市場規模が2010年に2兆ユーロを超えるということができよう。
注1) ここに示した数値以外に、バイオテクノロジーの国際競争力に関する比較データを作成することはむずかしい。主な経済価値の要素は知識であり、取引量/売上/輸出額を扱う通常の統計データでは.知的所有権に係わる経済価値がどこで付加されたのかが分からないからである。
注2) 英国政府データ:1999年に開始された貿易産業省のバイオ・ワイズ計画:OECD:POST報告書136号2000年4月付
注3) IMSへルス社(www.imshealth.com
注4) ISAAA:国際アグリバイオ技術事業団

 欧州の入々は、ライフサイエンスとバイオテクノロジーの提供する解決策の主な受益者になる可能性も大きい。この解決策とは、市民の利益のために、消費者製品や消費者サービスのかたちで生産システムを通じて提供されるものである。だがこの展開を管理し、我々に選択肢を与え、我々の価値観と政策オプションを国際的に打ちだし、新しく生まれる経済の利益を手にするには、欧州が知識基盤とともに、それを新しい製品やプロセスやサービスヘと転換していくことも指揮しなければならない。




知識基盤を支配する手段は・・・


3.1.知識基盤

 ライフサイエンス革命は研究から生まれ、研究を糧として育ってきた。高等教育のための効率の研究所や研究機関は、企業などの民間機関の研究とも互いに働きかけあいながら、科学基盤の中心的存在となっている。

 あらゆる知識経済の成功は、新たな知識の創出と普及と応用にかかっている。したがって、ライフサイエンスとバイオテクノロジーの提起する難題に対処するには、研究開発、教育と研修、新たな管理方法への投資がきわめて重要である。


効果的で革新的な研究


 欧州の大きな強みの一つは、その科学基盤の強さにある。欧州にはいくつかの技術の中核的な科学研究機関があり、それがバイオテクノロジー開発の地域クラスター<地域的に結集した研究拠点>の中心的存在となっている。だが欧州の研究開発投資は、総額で見れば米国に大きく遅れをとっている。さらに欧州では、公的研究への支援が各地でばらばらに行われており、研究開発面での地域間協力、つまり数か国からなる地域的にある企業や研究所間での協力も、わずかしか行われていない。

 当委員会は、ライフサイエンスとバイオテクノロジーの研究における欧州の主導権回復を目指している。研究・技術開発・実証活動のための第6次共同体枠組み計画<通称第6次枠組み計画>(22002〜2006年)ではこれを第一の優先分野とするよう提案しており、加盟国の協力のもとに、同計画によって欧州研究域域構築の足がかりが提供される予定である。それにより研究開発能力は強化され、研究政策と研究活動が各地でばらばらに行われているという現状は打破される。欧州各国が力を合わせ、最大限に協力して研究の重複を最小限に抑えれば、膨らむ一方の膨大なデータと情報の取り扱いや、世界的な科学研究への全面的参加といった難問にも適切に対処できるようになる。

 さらに欧州の研究活動は、学際的研究によって開かれる新たな可能性に重点を置くべきである。新たな発見は、情報技術、化学、プロセス工学といった他の科学分野と共同で生物学的研究を行ったときに、多くなされるものである。たとえば、いわゆる「グルテンアレルギー」についてのヒトゲノム解析を行うことで、結果的にはアレルゲンを少なくした穀物が開発されるようになる。ゲノムと医療とが重なる接点では、人畜の病気に対する画期的な治療方法がバイオテクノロジーから生みだされる。こうした接点で確実に主導権を握るために、先頃、初の完全に統合型の共同体プロジェクトが立ち上げられた。


社会のニーズに応える研究


 ライフサイエンスに関する欧州の研究テーマは、市民のニーズに基づいて、我々が具体的に必要とするものに合わせるべきである。それには、欧州社会に存在するニーズとチャンスを積極的に見きわめ、斬新な研究を通じてそれに応えていくような取り組みが必要となる。健康と安全性に関する規制の科学的根拠など、研究とその他の共同体政策とのつながりをいっそう固めることも必要である。また上記の理由で、科学者と研究者を社会のコンセンサス作りにできるだけ密に関わらせることも、きわめて重要になる。将釆の進歩の礎となる前途有望な技術と生物多様性の持つ可能性を十分に活用するため、先進国、発展途上国間の新たな研究協力を推進すべきである。




科学から応用への転換


3.2.科学技術による解決策を提供する欧州の能力

 ライフサイエンスとバイオテクノロジーの応用に秘められた力は、今後間違いなく富を生みだし続けるようになる。それは雇用(多くは高度の熟練を要するもの)を創出し、さらなる研究への新たな投資機会をもたらす。

 もし欧州がこの恩恵にあずかろうとするなら、優れた科学基盤だけでは不十分である。知識を新しい製品やプロセスやサービスヘと変換する能力を持つことが不可欠である。それがやがて社会への利益を生みだし、熟練労働者の雇用生みだし、繁栄を生みだすのである。新たな能力を育成するには、研究と斬新的なプロセスの全体を通して研究者の関心を引きつけて訓練し、投資と資金を引き寄せ、法規、規制、政策に対してバランスのとれた責任ある枠組みを提供するよう促すことが必要である。


崩れやすい欧州バイオテクノロジー部門


 欧州では、1980年代に主に大企業でバイオテクノロジーが発達した。米国と違って欧州の中小企業では、バイオテクノロジーが活発に行われることはほとんどなかった。医薬品業界と化学業界の大企業は、バイオテクノロジーを利用して画期的な製品を提供し続けてきたが、最近になって欧州でも、中小企業が急速に伸びてきた。今や欧州には、米国(1273社)よりも多くのバイオテクノロジー専門企業がある(1570社)。これは欧州の起業家の潜在力を示す明るい数字である。
グラフ:欧州と米国のバイオテクノロジー企業の比較

注:欧州の2000年と2001年の数値は、スイスのバイオテクノロジー企業セロノ社を加えて調整してある。

 だが欧州の中小企業はどちらかと言えば小企業である。それに対して米国のバイオテクノロジー産業は欧州よりも前に起こり、欧州の業界の3倍を超える収益を生みだし、雇用数もはるかに多く(16万2000人対6万1000人)、資本金もはるかに多い。そしてなんといっても、開発が進行している製品数がはるかに多いのである。

 当委員会の『欧州競争力報告20001』第5章では、EUのバイオテクノロジー産業における商業開発がなぜ現時点で米国に遅れをとっているかを詳しく分析している。そしてこの点で考慮すべき要因として、知的所有権を挙げている。

 バイオテクノロジー系中小企業は構造的にきわめて資本集約的であり、投資の回収にも長い期間を要する。ベンチャー投資資金はしだいに利用できるようになってきたが、企業の開発過程は長く、そのどの段階でも十分に得られるというわけではないようである。熟練した人材が十分に得られないことも、業界の発展にとって大きな妨げになるおそれがある。

欧州のバイオテクノロジー部門のための行動

 こうした問題をなくすことは、必要な活力を生みだす技術革新と経済的なリスク負担のための十分なインセンティブを与えることで、起業家精神溢れる欧州を育てるのと同じくらい重要である。以下に示す行動のための三本柱、すなわち資源基盤、ネットワーク、公的当局の積極的な役割を通じて、欧州の競争力を高めていかなければならない。

  • 資源基盤の強化は、この知識集約的産業にとって何よりも重要である。そのためにはまず、ライフサイエンス教育を向上させる必要がある(科学者の生涯教育、市民への一般的な啓発)。また、情報通信技術をバイオテクノロジーに取り込む可能性なども踏まえて、さまざまな専門分野を超えた研修を行うことも必要である。新しい発想というものは、専門分野同士の接点で生まれる傾向があるからである。科学と工学の知識と、事業を成功させるための起業家管理技能とを融合させなければならない。資源基盤という行動の柱は、欧州の教育 (i)と雇用 (ii)の目標に直接に役立つ。総合的で最新の生命情報科学データか公開されて自由に利用できることは、バイオテクノロジー発展の前提条杵である。 また企業が発展するためには、公共および民間の質の高いデータベースやツールを活用でききることか必要である。しっかりした公的研究を維持しながら、公的な支援と知的所有権に関する規則により、協力を推進すべきである。協力は、資源を動員して技術革新を支えるものであり、特に官民の協力を推進すべきである。研究と応用の境目にあっては、知識を開発する条件、特に、しっかりと管理されたベンチャー投資資金と知的所有権に関する欧州全体にわたる規則が成功の鍵である。バイオテクノロジー発明の法的保護に関する指令第98/44号を全面的に実施することで、産業の法的確実性はかなり向上する。またEC内の法的環境を明確にすれば、バイオテクノロジーを使うさまざまな産業内の斬新な企業に対して、研究向け投資の続行あるいは増額へのインセンティブか提供される。さらに共同体特許の採択は、EC企業の競争力を増進することになる。
  • 知識、技能、優良事例への開放的なアクセスを推進し、バイオテクノロジーに関わる主体と機関から成る一つの蜜な集団を創出するために、欧州バイオテクノロジー界のネットワーク作りをする必要がある。技術移転と協力のための手頃な費用での基盤を提供する目的で、欧州全体としての知的所有権保護制度を完成しなければならない。また大学と産業界との関係を強化する必要もある。地域および加盟国間での研究協力と技術移転も促進しなければならない。ばらばらに細分化された現状を直すために、さまざまなかたちのネットワーキングと連結を促進し推進する必要がある。ペンチマーキングを行えば、優良事例(事業クラスターとインキュベータに関する事例など)についての知識を共有できるようになる。多様性を賢明に管理すれば、個々の技術に特化されている地域クラスターから、ネットワークのメリットを引きだせるかもしれない。
  • バイオテクノロジーは急速に発展しており、またその潜在的な応用範囲も広い。そのため、現在の政策枠組みが競争力に及ぼす影響を監視し、新たに生じる問題を予測し、早めに政策を変更するには、公的当局が積極的な役割を果たすことが必要になる。これには、公の意思決定者が情報交換とネットワーキングを通じて利用できるような知識の集合が必要になるだろう。

(i) 教育と生涯教育の10カ年目標
(ii) 2002年雇用政策ガイドライン:雇用可能性の改善、起業家精神の育成と雇用創出、企業と被雇用者の順応性の育成

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