現在の行政方針
他の多くのハイテク産業と同様に、バイオテクノロジー(生物工学)においても、連邦法規が製品の市販時期及び経費の決定的要因となっている。監督官庁は新製品の開発や使用を規制する番人となるために、製品開発に難関を設けることがある。すなわち、法定基準を満たすための試験経費、監督官庁の認可遅延の可能性、包括的な規制にありがちな法規の不明確性、生物工学の新規研究や製品の全面的却下等に由来する難関である。さらに、連邦法規の適用範囲や有効性が不明確であると、各州毎に相互に矛盾したり新たな負担を課する条例を制定させることにもなる。認可の遅延、経費の増大及び法規の不明確性は、規制対象分野における新たな研究を阻害し、新製品の開発を断念させるばかりではなく、国民の不安感さえ募らせる。
全般的に行政当局は、バイオテクノロジーに不要な負担を与えないように、実験室試験や臨床試験、製品開発、開発製品の販売や使用等、バイオ製品の新規開発に関わる全ての段階で、不必要な法的負担の除去に努めてきた。健康や環境を損ねる危険性を回避するために、民間の市場が適正な手段を講じられない場合でも、バイオテクノロジーを規制する枠組みとしては、植物、動物、薬物、薬品及び毒物に関する既存の法令体系で十分である。また、このような場合に連邦法規は、イメージを損ねたり開発を阻害するような事態から産業界を保護することもできる。
バイオテクノロジーに関する連邦規制の方針を確立した1986年の調和的枠組みには、規制は対象を生体の特性や危険性に限定し、その生物が如何にして作製されたかのプロセスは対象としないという原則が含まれている。食品医薬品局では当該調整枠組みに示す諸原則に基づいて・バイオテクノロジーで生成した新製品の審査に新たな手続や条件の導入は不要であると告示している。食品医薬品庁の製品審査は、製品毎に危険性や使用方法を審査するものであり、新しいバイオ製品の危険性のみを問題としている。しかし、他の主要監督官庁である環境保護庁と農業省は、新たな規則と指針を導入するとの方針を明らかにした1。この方針を実施するにあたり、監視対象や基礎となる重要な規制原則で、両官庁は未解決の問題に直面した。
競争力諮問会議の政策措置
言明した規則や指針の導入が遅延しているために、監視の厳格性や、省庁間の境界領域においてどの程度まで規制を、生成工程対象でなく危険性を対象として行うかをめぐって、各省庁間で一貫性が欠如する結果となり、法的根拠が不明確になっている分野もある。当諮問会議は下記が規制対策の指標となることを勧告する。
規制的監視の4原則
1.邦政府の規制的監視は、バイオ製品の特性と危険性に注目すべきであり、製品が作られた過程に注目すべきではない。
生物工学的処理で開発された製品はその故に、健康や環境に危険をもたらすことはない危険性は、むしろ個々の製品の特性と使用方法に依存する。ほとんど又は全く危険性がないバイオ製品は、試験及び商品化の段階で、不必要な規制的審査の対象から除外されるべきである。これにより監督官庁は、実質的な危険性をはらむ分野の方策に専心することができると共に、ほとんど又は全く危険性がないバイオ製品の開発を、相対的に自由化できる。
2.審査を必要とするバイオ製品については、規則的監視は公衆の健康と福祉を確保しつつも、規制による負担は最小限にとどめる内容にすべきである。
危険性の少ないバイオ製品には、迅速な審査手続きを設けるべきである。不要な混乱や遅延を回避するために、各監督官庁は管轄分野を明確にすると共に、異なる省庁間でも同一の審査基準を一貫して適用すべきである。ある製品が複数の監督官庁の規制対象となる場合があるので審査基準の一貫性は特に重要である。例えば、害虫耐性植物は、環境保護庁(殺虫性について)と食品医薬品局(食品安全性について)の規制対象に該当するであろう。
3.規制の計画は、生物工学の急速な進歩と調和する内容にすべきである。したがって、設計基準を示すよりは、性能の基準を指定する方が一般的に望ましい。
性能基準は達成すべき成果又は目標を設定するもので、(例えば設計基準を示すことにより)如何にしてこれを達成するかを規定するものではない。性能基準を適用すれば、企業及び研究者は最善の適法手段を自由に選択できる。例えば、封じ込めの性能基準とは、特定の物理的障壁を要求する設計基準の代わりに、生物学的方法による封じ込め方法を適用することができる。
性能基準を採用すれば、法規を改訂する場合に、長時問の議論を要した規制審議過程を短縮することができる。規制の体系は科学的知識の進歩に歩調を合わせなければならないが、長時間を要する規制審議手続を必要としては、規制構造の変更が必然的にできなくなる。監督官庁の政策決定者には、科学諮問委員会の設置等によって、最新の科学的見解や知識を習得する機会を設けるべきである。
4.革新的なバイオ製品の応用の機会を創出するために、環境及び保健に関わる全ての規制は、バシオテクノロジーを対象とするか否かに関わらず、性能基準を採用すべきであり、遵守すべき厳格な制御法を定めたり、特定の設計基準を指定すべきではない。
設計基準に基づく審査条件ではバイオ製品の使用を、それが廉価かつ効果的であっても、不可能にする恐れがある。例えば、特定の汚染防止装置を使用しなければならないという条件を課すと、斬新なバイオテクノロジー的汚染除去技術や制御技術の利用を阻害することになる。
クェール副大統領は1990年8月14日に、ブッシュ大統領が下記の勧告に従って規制的監視の4原則を承認したことを発表した。
勧告
2-1 政府は規制的監督の4原則に基づき、必要な監督又は規制的監視の程度と種類を決定するよう各省庁を指導すべきである。これらの原則の目標は、バイオテクノロジーに影響を与える規制及び指針が可能性ある危険のみを理由とし、バイオテクノロジーが社会に与える利益を減殺するような過剰な制約を回避するために、慎重に構成され見直されることを確認することである。
監督範囲指示書『バイオテクノロジーに対する連邦の監督の原則:遺伝的形質を改変された生物の環境への計画的導入」−の発表
競争力諮問会議バイオテクノロジー作業部会は、公衆及びバイオテクノロジー関連産業に特に影響する監督の問題と取り組んだ。調和的枠組みは施行されたが、生物の環境導入計画のうち何を規制監視の対象とすべきかの問題は、完全には解決されていない。例えば、臨床試験は新しい発見を製品として開発するに必要な段階であるが、監督官庁の事前審査を必要としない臨床試験は何かという問題である。
バイオテクノロジーの監督対象範囲の問題が解決されていないために、企業及び研究者は、安全あるいは危険の可能性に拘わらず、全ての環境導入実験を型どおりに監督官庁に提出して審査を求めている。このような手続は危険性の観点より考慮すれば、産業及び研究機関に適切と云える程度を越えて多大の負担を与えている。バイオテクノロジーの各方面からは、行政当局が当問題を解決するために緊急に措置を講じ、新しい政策に基づいた環境保護庁の規則及び農業省の政策を発表するように要望が出ている。
昨年、各監督官庁を横につなぐバイオテクノロジーと科学調整委員会(BSCC)が、連邦の適切な監督範囲について見直しを行ったが、意見の一致には至らなかった。大統領府科学技術政策局は、基本的政策問題を解決するために、連邦の適切な監督範囲の見直しを競争力諮問会議バイオテクノロジー作業部会に委託した。当該作業部会による見直しの結論は、監督範囲指示書「バイオテクノロジーに対する連邦の監督の原則:遺伝的形質を改変された生物の環境への計画的導入」にまとめられている。同書に提案する監督範囲は、前述した規制的監視の4原則を反映したものである。
具体的には、新製品に関する情報が、健康、安全又は環境に対し法規で定められた以上に危険性が増大したことを示している場合にのみ、監視対象とすべきであることを要求している。監督範囲指示書は、「意図的に遺伝的形質を改変された生物」を対象としている。この用語で、従来の品種改良技術によりあるいは組み換えDNA技術のような新技術によるか否かに関わらず、遺伝的形質を改変された生物に監視対象を限定している。この新しい用語を採用した理由は、ある特定の遺伝子改変工程を採用するだけで、改造生物の危険性が、改造前の親生物よりも増大する、という誤った理解を避けるためである。監督範囲指示書は、監督官庁が監視対象より除外する項目を決めるときに、既存の慣行又は法規が、仮想的危険性を的確に取り扱っているか否かを含めて、役立つ一般基準を提示している。
監督範囲指示書に示す諸原則に基づき、農業省及び環境保護庁は野外実験を対象とする方針を立案中である。この方針は、バイオテクノロジー関連企業が新製品の野外試験を実施する場合に、規制的監督による負担を相当に削減はするが、仮想的危険性に対する適切な安全性を確保するものとなろう。
科学技術政策局は下記の勧告に従い社会の評価と意見聴取を目的として、監督範囲指示書を1990年7月31日に連邦政府官報に掲載した2。
勧告
2-2 行政当局は、「バイオテクノロジーに対する連邦の監督の原則:遺伝的形質を改変された生物の環境への計画的導入」を最終的な形で発表すべきである。
監督の方針
バイオテクノロジー規制の調和的枠組みの発表以降、科学技術は急速な発展を遂げ、新しいバイオ製品の野外環境試験だけでも200件以上に達している。新種の植物、食品、微生物等の製品のなかに、間もなく市販されるものもある。バイオテクノロジーの製品及び研究を対象とする新しい管理体系の法制化が定期的に試みられているが、調和的枠組みの結論にあるとおり、このような法制化は不要であることを競争力諮問会議は確認する。ただし、当諮問会議は、1986年の調和的枠組みには含まれていない研究及び製品に関して、望ましい政策、方法及び必要条件を定めて、当該調和的枠組みを補完する監視方針を、行政当局が緊急に成文化することを求める。
勧告
2-3 政府は、法律によってバイオテクノロジーに新しい法体系を導入、または既存の法体系を改正しようとする如何なる動きも反対すべきである。必要な調整は、規制的監督の4原則に基づく政策と規制によって達成できる。
2-4 バイオテクノロジーの製品及び研究を監督する省庁は、規制的監督の4原則及び「バイオテクノロジーに対する連邦の監督の原則」と矛盾しない指針及び規制を採用すべきである。
2-5 バイオテクノロジー作業部会は監督方針を立案すべきである。1986年の調和的枠組みには含まれていない新しいバイオテクノロジーの研究及び製品に対する行政当局の監督方針を、競争力諮問会議の援助のもとに作成し、遅くとも1991年の春までに、公衆の意見を聴取するために公表すべきである。
バイオテクノロジー作業部会による追加的改善構想
分野によっては現行規制を見直して、バイオ製品の開発から無用な負担を排除するために可能な手段を特定する必要がある。バイオテクノロジー作業部会は、該当する分野の調査を提案すると共に、必要に応じて、行政当局に改善構想を追加提案する。
勧 告
2-6 バイオテクノロジー作業部会は、省庁間の調整、協調体制の向上、規制当局の評価手順の合理化、規制の定期的見直し、州法及び地域法の問題解消、非関税貿易政策の適用と技術上の貿易障壁発生との関係の調査により、規制による負担の除去を検討して提案すべきである。
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