前へ | 次へ

1.科学とテクノロジー21世紀の基礎

政府の現行政策

 世界のバイオテクノロジー市場における競争上の優位性を堅持する鍵は、基礎研究と研究教育に対する強力な助成を今後も継続することである。1990年会計年度(FY'90)の場合、バイオテクノロジー関連の生物研究への連邦政府の総投資額は、およそ35億ドルであった。このうち90%以上は、国立衛生研究所を通じて与えられている。特に影響力のあるプロジェクトは、保健福祉省とエネルギー省が支援し、人体におけるすべての遺伝子の配置図を作製することを目的としたヒトゲノム計画である。この研究は、医薬、医療装置、診断法及び情報科学について、技術的に大きな波及効果を与えるはずである。

 国立衛生研究所に加えて11の連邦省庁が、農業研究、エネルギー研究、環境研究等・実質的な成長の態勢が整っている分野でのバイオテクノロジー関連計画を支援している政府は、現在までのところ、バイオテクノロジーの研究と教育を多分野センターに対する補助金と研究者主導研究補助金を通して、助成している。

同様に、企業側も、バイオテクノロジー研究開発(R&D)費として約20億ドルを拠出している。この大半は、特定の製品開発に的が絞られている。

競争力諮問会議の政策措置

技術移転
 米国ではバイオテクノロジーを含め産業界は、1980年に開始され、レーガン-ブッシュ政権で加速された技術移転政策によって大きな支援を受けた。これらの政策は、産業界と連邦政府が助成する大学間の共同研究開発計画を促進した。もっと最近では、研究開発によって得られた発見に対する民間部門の商業権を保護することで、この範囲が連邦政府が所有し、運営する研究所にまで広げられている。このような共同開発研究により、産業界は、貴重な最新科学知識を入手できるようになった。

 科学知識の探求は国民の関心に値するものである。また、新しい概念を市場へと具体化することも、同じように賞賛する価値のある国家的目標である。テクノロジーの商業化が、連邦政府助成科学研究の第1の目的ではないが、多くの場合、社会は、これらの商業化活動を通して科学知識の商業応用への恩恵を受けている。例えば、ブッシュ大統領は、バイオテクノロジー最初の製法特許を得た基礎生物研究の業績を認め、スタンフォード大学教授に全米技術メダルを授与している。

 市場への科学知識の具体化を促進するための公共部門、大学及び民間部門間の共同研究活動は、可能な限り奨励すべきである。技術移転法に基づく共同研究開発契約(CRADA)数は、ブッシュ-クエーノレ政権中に4倍も増加している(1988年の約110件に対して、現在は400件を超えている)。現在、日本は、この産業界、大学及び国立研究所間の連携モデルの模倣を試みている。

勧 告
1-1 新バイオテクノロジー研究を含め、発見の市場化による競争力並びに商業化を促進するため、各省庁は、修正された技術移転法の規定を積極的に実現すべきである。各省庁は、連邦政府が大学の研究活動を助成するときの判断材料として、米国企業との共同研究開発及び商業化の有無が重要な要素となることを大学当局に通告すべきである。

連邦研究補助金給付に関する利害の抵触についての指針

官民共同研究計画の頻度が急増したことにより、利害の抵触を防止す必要性が強く指摘されてきた。予想される利害の抵触は、新製品の評価検査(例えが、臨床実験)に関与した者が、その研究成果から利得しそうな会社の株を保有しているときに生じる。これに対して国立衛生研究所は、臨床実験だけでなく、多方面の政府助成研究に利害の抵触基準を適用する指針案を1989年にまとめて提出した。
この指針案については、大学・産業界の両方から懸念が表明された。すなわち、指針は広範囲に過ぎて、産業界と連邦政府助成大学または連邦政府助成研究所間の共同研究契約の効果を薄める結果となる。
保健社会福祉省のサリバン長官は、1989年12月29日、この指針案を否認した。利害の抵触基準を臨床実験に重点を置くことを緊急に求めた意見に応じて、保健社会福祉省では新しい指針案が検討されている。

勧告
1-2 科学者と産業界との相互協力を容易にしながら、政府規制作業に関与する者に適用される最も倫理的な基準を設定するため、科学者が開発製品の臨床実験に関与するときは、連邦政府に支援または雇用される科学者と民間企業間のあらゆる金銭的利害関係の公開を義務付けた指針を立案しなければならない。

米国における知的資源の改善
 大学及び民間において一般的な科学分野、特にバイオテクノロジー産業の現在並びに将来の成長は、広い教育を受けた研究者、バイオプロセス・エンジニア及びテクノロジストの中核メンバーの登用可否に一部依存している。未来の生物学者及び他の分野の訓練に費やされる助成金の増額の必要性は、大統領の1991年度予算で認識されている。それに加えて、初等及び中等教育での十分な教育も必要である。ブッシュ大統領と各州知事とは、共同で教育における国家目標を設定した。その1つが、20世紀末までに数学及び科学の分野で高卒者の世界ランクを第一位にすることである。

 バイオテクノロジーを理解するためには、さまざまに組み合わされた専門的な知識と技術が必要である。例えば、これには薬理学、毒物学、免疫学、分子生物学、産業微生物学、化学、理論数学、生化学工学、コンピュータ及び情報科学が含まれる。今後も継続して商業製品開発を下で支える先進科学技術を生み出し、バイオテクノロジー系企業の増加を促進するには、上記の複数分野にまたがる技能をもつ人間が不可欠であり、さらに、これらの分野で女性と小数民族に対して教育の機会を提供しなければならない。

 従来の多分野教育方法は、大学の伝統的な機構内での多分野学習計画を基本としている。バイオテクノロジーのための多分野学習計画数が増える一方で、このような計画は、時として大学の古風な機構では「のけ者」として扱われている。

 バイオテクノロジー・センターは、多分野教育を促進し、研究の必要性と特定プロジェクトの援助を産業界から求めるための新しいアプローチである。全米科学財団は、現在、マサチューセッツ工科大学とモンタナ州立大学にあるバイオテクノロジー専門のエンジニアリング・センターに助成金を支給している。この2つの他にも全米にはいくつかのセンターがあり、その多くが、州の主導によって設立されたものである。

米国人学生だけでなく、勉学、研究を希望する外国人科学者にとっても、米国は伝統的に魅力的な場所である。米国の大学は、世界各国の学生の関心を集めることにより、今後も主要な「輸出をもたらす者」として機能し続ける。多くの卒業生は米国に留まり、米国の大学及び産業界に貢献する。1990年移民法により政策が変わり、バイオテクノロジ等のテクノロジーに大きく寄与できる移民希望者の受入れ数を増やすことができるようになった。

政府は、1990年移民法によって認められた技能移民査証の大幅な増加を支援している。この移民法では、雇用者が要請するとき、あるいは米国への貢献の可能性に関する一定の客観的基準を満たすとき、技能移民者の移民を認めている。

 1988年会計年度では、雇用者指定の移民者(すなわち、労働市場に束縛された家族同伴の移民者)の数は全部で54,000(9%)であった。しかし、1990年移民法により、技能移民者査証の発行数は雌万人に達すると予想される。第101議会閉会間際に通過したこの1990年移民法は、1990年11月29日、ブッシュ大統領によって承認署名された。

1-3 連邦政府は、バイオテクノロジーに関係する分野を含め、科学工学分野の修士課程、博士課程及び博士課程終了後の段階で、十分な数の科学者及びエンジニアの教育を促進しなければならない。多分野学習計画は、バイオテクノロジーセンター等での多分野教育と女性及び小数民族の教育を促進するべきである。

1-4 連邦移民政策では、予想移民者の技能に特に重点をおくことにより、バイオテクノロジー等の分野における競争上の優位性を維持することの価値を考えるべきである。1990年移民法の規定を完全に実現し、重要な分野において大きな貢献が期待できる移民希望者の移民を可能にし、米国での活動継続を奨励するべきである。

バイオテクノロジー作業部会による追加的改善構想

連邦政府が過去20年にわたって行ってきた基礎研究開発への助成金は、バイオテクノロジーの基礎となる先端科学技術の進歩に大きく貢献してきた。米国では、バイオテクノロジーの公的助成金のほとんどは、すべて大学及び研究所における基礎研究に回される。この基礎研究に対する政府の積極的な援助を続けることが、バイオテクノロジー市場での米国の競争上の優位性を堅持する鍵であると言う意見が多数を占めている。しかし、諸外国政府は、米国政府とある程度異なる目標に予算を向けている。例えば、日本の場合、政府助成金は、製品開発及び生産スケールアップを含め、応用研究に多く向けられている。政府助成金形式の違いは、米国における現在の研究開発助成金配分について根本的な問題を投げかけている。

農業・環境研究への資金援助の妥当性
 国立衛生研究所による先駆的研究への助成により、バイオテクノロジー産業は、医薬並びに医療装置の分野で特に大きな繁栄を遂げた。それに比べて、農業、エネルギー及び環境応用等のバイオテクノロジー分野での研究は、これまであまり援助を受けてこなかった。農業製品の開発にバイオテクノロジー技術を活用することは米国の農業生産性を高める大きな機会である。生物医学分野での過去20年における成果と同じ技術開発を育む、豊富な科学基礎を築くことが、米国の農業を21世紀に適応させるために不可欠な要素である。その他の有望な研究分野として、再生向上エネルギー源の開発、バイオレメディエーション(バイオ修復)、有害廃棄物分解における微生物の利用、化学殺虫剤に代わる生物殺虫剤の開発、獣医応用が挙げられる。

バイオテクノロジー研究の拡大については、全米研究審議会(NRC)が作成した「研究への投資:農業、食料品及び環境体系の強化案(Investing in Research:A Proposal to Strengthen the Agricultural, Food and Environmental System)」と題された最近の報告書で指摘されている。1991会計年度の大統領予算要求は1億ドルでNRCが指定した優先順位の高いバイオテクノロジー分野での研究計画を対象としている。

勧 告
1-5 農業、生化学、エネルギー及び環境分野における連邦政府バイオテクノロジー研究助成金の配分を調査し、助成対象分野を特定するべきである。

基礎的発見から生産への、スケールアップ技術の支援
米国は、重大な転機を迎えている。米国の場合、基礎科学ではリードしているが、基礎科学情報を商業的に実用可能な製品に転換するとき、越えなければならない障害物が多数ある。

試験管またはフラスコから出発して、小型発酵容器、パイロット・プラントを経て大規模な生産施設にたどり着くまでの各ステップは、今までとは異なる新しい科学的問題である。各スケールアップ段階では、実用可能な製品を開発するとき、せん断力、温度、酸素調整、成長条件及び栄養所要量、代謝副産物の阻害効果等の要因の影響を受け易い、生きた細胞を扱わなければならない。さらに、遺伝子発現−典型的な系において遺伝子が如何に働いて生細胞での物質生産に至るか−をより明確に把握することが大切である。同時に、液相および固液界面における細胞増殖及び遺伝子発現等、スケールアップの技術面に影響を与える要因の基礎研究も不可欠である。最後に、蛋白質の構造と機能の関係と遺伝発現に対する代謝の影響を含め、構造生物学の基礎研究は、将来の製品開発段階へとつながる。

多分野研究は、このような製品開発段階に必要である。スケールアップ過程に共通する包括的原理及び手順を重点とした研究により、1つの企業では受け止められないほど豊富な成果がもたらされる。したがって、これは、政府が助成すべき分野である。ただし、この分野は、政府助成金対象の研究計画を評価する上院検討委員会の通常の担当分野から外れることが普通である。

 政府は、この問題の解決を助けるため、商務省のATP(Advanced Technologies Program =先進技術計画)を支援している。ATPは、米国経済に大きな恩恵をもたらす可能性のある幅広い応用分野の基礎となる実用化技術に重点を置いている。このATPは特定の分野を対象としていないが、バイオテクノロジー分野には、この計画に基づき助成金を受ける資格がある。

勧 告
1-6 連邦研究計画を継続し、第1優先順位として基礎科学の支援を増額する一方で、実用化技術及びスケールアップ技術の開発助成金の必要性について追加調査する。バイオテクノロジー作業部会は、既存計画範囲内で手段を特定し、幅広い恩恵をもたらす競争以前の総合的基礎技術の開発を奨励すべきである。

前へ | 次へ