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16. ジャガイモ

E. Jacobsen、P. Rousselle著


A. ジャガイモの特性

a) 原産地;多様性の中心

ジャガイモは南アメリカが原産で、ヨーロッパにはおよそ450年ほど前に導入された。ジャガイモ栽培はヨーロッパでは18世紀半ばに大規模に拡大し、他の大陸にも主要食品作物として広まった。消費用に生育されている作物植物の中で、作付面積では5位、総収量では4位にランクされている(FAO、1984年)。作付面積はヨーロッパ、米国、カナダでは1ヘクタールあたりの収量が上がったため、また人間による消費のパターンが変化したために減少した。しかし人間による消費の低下は、フライドポテト、ポテトチップスおよびその他の商品を生産する加工産業の発展によっておさまった。

b) 地理的分布

多くの発展途上国において、ジャガイモには炭水化物の主要供給源としての潜在的な価値がある。ジャガイモは、高地あるいは低地熱帯など、さまざまな気候への順応性に優れている。リマ(ペルー)にある国際ジャガイモセンター(CIP)では、多くの熱帯国へのジャガイモ導入に成功している。ジャガイモはすべての温帯地区、そして多くの熱帯および亜熱帯で栽培されている(Ross、1986年)。

c) 分類学的地位

栽培品種のジャガイモは、S. tuberosum L. 種に属しており、これは同質4倍体であると考えられている。栽培ジャガイモは栽培2倍体種のS. stenotonum、S. phurejaと雑草2倍体種のS. sparsipilumの交雑から派生したものであると思われる(Hawkes、1978年)。2倍体レベルから4倍体栽培品種への変化は、関連品種の両性における非還元配偶子の機能によるものであり、これにより2x X 2xおよび4x X 2xの交雑での4x後代植物の作出が可能となる。
現在では、塊茎を産生する約180種の野生型品種が判明しており、これらはPetota節のPotatoe亜節を構成し、これがさらに18の系に分類される。ほとんどの系には2倍体品種のみが含まれているが、重要な3x、4x、6x品種も利用可能である(Ross、1986年)。Tuberosa系では、S. tuberosumと近縁な68種の野生種および8種の栽培品種が見つかっている。これらの品種は南チリから米国南部まで分布しており、海面から標高4,500mの間で生育されている。これらの野生品種は、あらゆる種類の病害や害虫への抵抗性に関する主な遺伝子多様性の供給源として育種で広く使用されている。

d) 生殖質の移動と維持管理

これまでに、ジャガイモの植物学的および分類学的関心からだけでなく、育種目的および遺伝子資源の侵食を防ぐことを目的として、数度の調査隊が素材を集めるために南米へ送られている。重要なコレクションとしては、コモンウェルスジャガイモコレクション、地域間ジャガイモプロジェクトによるスタージョン湾でのコレクション(米国)、国際ジャガイモセンターの世界ジャガイモ生殖質コレクション(リマ)、ブラウンシュヴァイクのオランダ-ドイツジャガイモコレクション(ドイツ)がある(Ross、1986年)。

e) 植物検疫上の問題

ジャガイモ育種で野生種を使用する場合、これによって発生する新しい病害あるいは検疫伝染病の移入リスクを認識することが重要である。多くの国では、検疫システムが十分に発達しており、リスクを回避するために利用できる。一般的に遺伝子バンクは検疫伝染病に対してその素材の維持管理および保証をしており、これにより研究者や育種家による生殖質の輸入が簡便化されている。概して、輸入された素材は育種あるいは育種研究目的で開放される前に検疫当局によって管理されることになっている。ジャガイモの場合、種芋により伝播するウイロイドPSTV(ジャガイモ痩せいもウイロイド)の移入が主なリスクである。感染植物を容易に検出するための分子学的検査が開発されている。

f) 現行および開発中の最終使用用途

ジャガイモは、人間による摂食、動物飼料、デンプンおよびアルコールの生産など、多様な目的で使用されている。摂食用のジャガイモはそのまま調理して食べるジャガイモと工業的に加工されるものとに分類することができる。加工用ジャガイモの割合は現在でも増加し続けており、同様に消費者製品の数も増えている。最も大きな部分を占めているのは、フライドポテト、ポテトチップス、マッシュポテト、ジャガイモの缶詰である。加工で重要となる特性は、塊茎の形状と大きさ、デンプンの含有率、機械による損傷の受けにくさ、還元糖の低含有率、打傷に対する抵抗性である。調理用ジャガイモは、EAPR(ジャガイモ研究ヨーロッパ連合)の作業部会の推奨に従って、煮崩れ、粘度(口当たり)、粉ふきの度合いに基づき4クラス(A、B、C、D)に分類されている(KellerとBaumgartner、1982年)。
ジャガイモデンプンは、食品産業での増粘剤として、また技術産業では接着剤として使用される重要な原材料である。ジャガイモデンプン顆粒は、20パーセントのアミロースと80パーセントのアミロペクチンで構成されている。両化合物は化学的および物理的な特性と適用が異なっている。アミロペクチンは、最近のアミロペクチンを含有しないジャガイモ変異種の単離が示しているように植物内で分離して産生することが可能であり、これによりデンプンのより優れた専門的な使用が可能となっている(Jacobsenら、1989年)。

生殖のメカニズム

a) 生殖および受粉の様式

栽培ジャガイモの各品種は、塊茎の栄養生殖によって増殖する1遺伝子型に相当する。塊茎から生育したジャガイモは、ウイルスが皆無かほとんど皆無でなければならない。「病害のない」種芋の増殖に必要な技術はオランダでは広く使用されているが、発展途上国ではあまり知られていない。生体外での増殖およびウイルス検査の進歩により、種芋ジャガイモの生産は向上した。現在では、4種の増殖方法が適用されている。

- 選抜された株からの塊茎の圃場での生育
- 温室での挿木によるミニチューバーの産生
- 生体外での茎端の増殖
- 生体外でのマイクロチューバーの増殖

多くの品種は花、また種子を含んだ漿果を産生する。しかし、この同質4倍体作物が持つヘテロ接合体的な性質のため、得られる後代は近交弱勢で栽培目的には使用できない。
野生近縁種および野生ジャガイモ種は、塊茎および種子の両方により増殖する。ジャガイモは他家受粉で、主に虫媒で受粉する。2倍体レベルでは、配偶体の不和合性システムが活性化している。ジャガイモは種子および塊茎で存続する一年生作物である。

b) 近縁種との交雑能

オランダおよびおそらくほとんどのヨーロッパ全体において、栽培ジャガイモと交雑できる雑草は生態系には存在しない(StiekemaとEijlander、1991年)。

毒物学

ジャガイモ育種において野生種を資源素材として導入することがもたらす重大な影響に、緑部および塊茎でのグリコアルカロイドの増加がある。従来のジャガイモ品種では、野生種が関与しておらず、総グリコアルカロイド含有量(TGA)は比較的低値であった。塊茎のTGAは風味にとって重要である。現在では、摂食用およびデンプン用ジャガイモ品種では、生の塊茎重量1kgあたり最大60〜70mgのソラニン配糖体の含有が認められている。種々の環境条件がこれらの化合物の合成に影響をもたらしており、このため新しい品種でTGA濃度を測定することは複雑になっている。野生種の生殖質を含有する新しい品種については、登録前にTGA濃度を検討することが強く推奨されている。消費者の安全性の観点から、生の塊茎の1kgあたりに含まれるTGAは低値であることが推奨される(van Gelder、1988年および1989年)。育種親でのTGA濃度を定期的にスクリーニングするため、測定方法が開発される必要があるという意見も出ている。

生活環のための環境上の必要事項

緑部は、夜の霜の被害を受けやすい(-3℃まで)。土壌中の塊茎は-℃で死滅するため、冬に比較的寒くなる地区の多くでは本作物は生存できない(van Swaayら、1987年)。

B. 現行の育種の実践および品種開発の研究

a) 主要な育種技術

既に述べたように、重要な性質を保持している多くの生殖質を育種家は利用することができる。品種改良で使用される新しい育種親を作るための基本育種素材の開発では、ありとあらゆる野生品種の基本育種が必要とされる。

i) 基本育種

Ross(1986年)は、現存のジャガイモ品種に抵抗性および良品質の遺伝子を導入することを目的に、野生種を使用した基本育種素材の開発について簡単に述べている。種としてはS. demissum(6x)、S. acaule(4x;6x)、S. chacoense(2x)、S. spegazzinii(2x)、S. stoloniferum(4x)およびS. vernei(2x)が、資源素材としていくつかの品種において利用されてきたが、その目的は、Phytophthora infestans、Fusarium、コロラドハムシ、根瘤病原体、ジャガイモウイルスX、Y、A、ジャガイモ葉巻き病ウイルス、シストセンチュウ、Globodera rostochiensisおよびG. pallidaに対する過敏性および圃場抵抗性、霜耐性、還元糖の低含有率、デンプンの高含有率を得るためである。現在S. berthaultii(2x)、S. gourlayi(2x;4x)、S. bulbocastanum(2x)、S. hertingii(4x)、S. pinnatisectum(2x)、S. sparsipilum(2x)、S. etuberosum(2x)、S. brevidens(2x)などの品種が、アリマキ、G. pallida、Pseudomonas solanacearum、Synchytrium endobioticum、Erwinia carotovoraに対する抵抗性および打傷の受けにくさを栽培ジャガイモに導入するための育種研究で使用されている。
望まれている特性とは別に、野生種には大量の付加的な遺伝的多様性が含まれており、このため雑種強勢のより強い育種親あるいは品種を開発することが可能となっている。実践の場では、育種家は育種親の遺伝子ベースを常に拡大する必要がある。
上に述べたほとんどの4x野生種は育種に関して問題を起こすことはない。雑種は簡単に得られ稔性があり、望まれている特性を持つ育種親を作るためにはS. tuberosumとの数回の戻し交配が必要とされるだけである。
2x野生種は、4x S. tuberosumの資源素材としては多少問題があり、それは3倍体雑種形成を阻害する3倍体ブロックである。この問題は、特にボックス16.1で示した重要な2因子によって克服された。すなわち4x X 2xの交雑において2n配偶子を使用することによって2x野生種の染色体数を2倍化すること、およびS. phurejaとの交雑における単為生殖による種子形成(HermsenとVerdenius、1973年)あるいは葯または小胞子培養(JacobsenとSopory、1978年)によって同質4倍体を半数化することである。実際の場ではいずれの方法も重要である。有用な遺伝子型の非還元配偶子が利用可能で、2倍体レベルにおけるジャガイモ育種の前段階での原素材が単為生殖の倍加半数体である場合には、4x X 2x交雑における3倍体ブロックは回避することができる。
2倍体レベルのS. tuberosumの育種には次のような大きな利点がある。

- 4染色体ではなく単純な2染色体による遺伝で、望ましい特性の組み合わせが亢進される
- 望ましい特性を導入するための多くの2倍体野生種との交雑性
- 4倍体レベルでの品種育種を目的として非還元卵細胞および受粉顆粒を使用する、4x×2xおよび2x×2xを通じた単純な有性(減数分裂)倍数化

S. bulbocastanumのような2倍体品種の一部および塊茎を形成しないS. brevidensおよびS. etuberosumは、栽培ジャガイモと直接交雑することはできない。この問題に対しては2種類の解決方法が見つかっている。1つは問題となっている野生品種とS. tuberosumのいずれとも交雑可能な品種を橋渡しとして利用するものである(HermsenとTaylor、1979年;ボックス16.2を参照)。もう1つはプロトプラスト融合である。この技術が使用される目的はいくつかあるが、そのひとつは染色体外DNA(ミトコンドリアあるいは葉緑体)の交換であり、これはいわゆる細胞質雑種で細胞質性雄性不稔あるいは正常の核雑種を作るものである。これらの雑種は時としては新しい品種への第一段階であるが、ほとんどの場合は栽培品種との戻し交配によって抵抗性を導入するための基本素材として使用される。
塊茎を形成しない種S. brevidensはジャガイモ葉巻き病への抵抗性(Austinら、1985年)およびエルウィニア−カロトボーラへの抵抗性を持っているが、最近このプロトプラストとS. tuberosumのプロトプラストが育種目的で融合された。
残念ながらこの種間融合の産生物は、オランダ(無記名、1992年)およびEECでは、直接的な有性生殖による雑種の文献報告が見当たらないため、定義に基づいて遺伝子組み換え作物(GMO)と見なされる。しかし、橋渡し品種との交雑により得られた同一の資源素材に関してはこのことはあてはまらない。S. tuberosumとS. brevidensは、胚救済法の使用によって有性による組み合わせが可能であると考えられている。実験が成功し次第、GMOリストからこの体細胞雑種を除外するための申請ができる。

ボックス16.1 ジャガイモの半数化および倍数化

同質4倍体ジャガイモと2倍体品種のS. phurejaの交雑は、3倍体ブロックのため後代を形成するとは期待されていない。このブロックは内乳の最適以下の倍数体レベル(5x)によるもので、これによりこの貯蔵組織の正常な機能および胚のさらなる発達が阻害される。しかし、この2倍体品種の特定の親遺伝子型からは種子形成が得られる。実生の倍数体レベルは2xおよび4xであると思われる。3x、6x、9xなどの内乳の発生が成功していること、また還元(1x)した正常な染色体数および非還元(2x)の染色体数(2n-配偶子)を含む2種類の花粉粒が作成されることが判明している。

3倍体ブロック

正常な花粉粒との受粉により、3xの胚および5xの内乳が得られる。5xでは内乳が形成されず、それに続いて胚は発育停止する(図16.2A)。

単為生殖による倍加半数体

花粉管の2回目の分裂は不規則となることがあり、その場合には2つの雄原核は分離しない。これにより卵細胞あるいは極核のみが受精することができ、機能をもつ6x内乳が形成される。この状況下においては、未受精の卵細胞は2x胚に分化するよう誘導される(図16.2B)。このいわゆる偽受粉(prickle pollination)は、2倍体レベルでの育種の基本素材である単為生殖による倍加半数体(2x)を4倍体品種から作出する上で非常に効果的な方法である。

非還元配偶子による減数分裂染色体の倍化

4x後代は、非還元花粉粒との正常な重複受精によって4x胚および機能のある6x内乳が生まれたことによってもたらされる(図16.2C)。この現象は減数分裂の倍加と呼ばれ、4x×2xの繰り返し交雑、あるいは2n卵細胞および花粉粒が使用可能な場合には2x×2x交雑によって発生する。単為生殖の倍加半数体は、正常な内乳の存在下における未受精卵細胞から発達する。
単為生殖の倍加半数体の産生は世界各地で日常的に行われており、成熟した種子での胚スポットとして視認できるアントシアニンマーカーがS. phurejaで利用可能なことがその理由である(HermsenとVerdenius、1973年)。スポットのある種子は雑種、スポットのない種子は単為生殖から生まれた可能性があり、2倍体を生育する。2n花粉の産生も、2x S. tuberosumで観察されており(Ramanna、1979年)、減数分裂の倍加が可能となっている。この特性に関する選抜は単純で、発芽孔が3つではなく4つの大型花粉の存在で見分けられる。


ボックス16.2 橋渡し品種を使用することによって塊茎を形成しない品種をジャガイモ育種に利用可能とする手順


第1段階

2x-S. etuberosum
(E)

2x-S.

橋渡し1
- pinnatisectum
(P)
第2段階 2x -EP

4x-EP
(完全不稔性)
染色体倍加
(稔性)
第3段階 橋渡し2
2x-S. verrucosum
(V)

×4x-EP

第4段階 3x-VEP

6x-VEP
(完全不稔性)
染色体倍加
(稔性)
第5段階 6x-VEP
(T)

5x-VEPT
×4x-S.


×栽培種
- tubersorumボトルネック(非常に低い種子形成量)
望まれた特性の遺伝子移入のため栽培種とのさらなる交雑


ii) 育種親の開発

基本育種素材および複雑なスクリーニング法が大学および研究所で開発されている。その結果生まれる植物素材はほとんど2倍体であるが、農業的に価値のある他の特性との組み合わせや好ましくない特性を除去するため、育種プログラムに組み込む必要がある。これに際して、望まれている特性と好ましくない特性が遺伝的に関連している場合には複雑となることがある。この育種の前段階の手続きを経て、品種開発に直接使用することのできる新しい親素材が生まれる。これらの育種親は4倍体か、あるいは2n配偶子を産生する2倍体のいずれかである。1段階で、2倍体は4x X 2x交雑により4倍体の後代を提供する。

iii) 品種開発

上に述べたように、組み合わせるべき遺伝的変異が限られた数の育種親において利用可能となって初めて品種開発を開始することができる。これらの育種親は組み合わせ能力について交雑検査でスクリーニングされてきたものである。品種開発とは最終的には、好ましい雑種強勢の後代を与える親間の交雑から、収量、生物的および非生物的ストレスに対する耐性、実生集団の品質に関して個々のクローンを選抜することである。基本的目標は、複数の適用に対して良好な品質をもつ高収量品種で、生物的因子から作物を防御するための化学的投入が最小限で生育するものである。そのためそれぞれの新しい品種は、多くのプラス因子と少ないマイナス因子の妥協の結果である(Parlevlietら、1991年)。
表16.1に示したのは、4,000を越える交雑を使用したオランダにおけるクローンジャガイモ選抜の時間計画で、これには組み合わせ能力に関する2,000検査交雑も含まれている(Parlevliet、1990年)。それぞれの塊茎形成の実生ごとにひとつの塊茎を圃場で生育する。選抜は、株の外観、塊茎の形状、芽の深さと均一性について行い、成熟が非常に遅い遺伝子型は除去される。2年目のクローンは畝で成育し、いくつかの単純な品質特性、すなわち収量、デンプン含有率、病害およびジャガイモシストセンチュウに対する抵抗性の可能性で選抜される。3年目には、クローンは抵抗性の他に、調理タイプ、生の状態での変色、ポテトチップスやフライドポテトへの適性などの品質特性を育種場で検査される。5年目および6年目には、ウイルスおよびPhytophthora infestansへの抵抗性に関する1回目の試験が実施される。育種手順のこの段階で、最も見込みがある遺伝子型のクローン増殖が開始される。最良のクローンはスクリーニング検査を受けるが、これは3年間続くこともある。これらの試験は、全てのジャガイモ育種企業(会員数10)の連帯責任において実施される。この中でも最良であったクローンが国による公式検査を受け、これにさらに3年間が費やされ、また産業界によって加工に関してさらに徹底した検査を受ける。最も見込みがあり可能性のある品種は、市販のための種ジャガイモの増殖が別個に準備される。最終段階では、最良成績のクローンが多数の国で検査される。国による公式検査は、それぞれの国でさまざまな方法で行われ、完了まで2〜3年かかる。
選抜計画からして品種改良とは、多くの現存する品種を比較対照に、最高成績を収める遺伝子型の選抜であるということは明らかである。新しい品種ための育種は、適用の可能性が多くあることおよび必要とされる抵抗性のために複雑であり、後者には少なくともジャガイモシストセンチュウ、ウイルス、根瘤病、Phytophthora infestansが含まれる。1品種の育種に必要とされる実生の平均数を見てみればこのことは明らかで、1920年頃には2,000種が必要とされていたが、現代では約200,000種が必要とされており、これに育種場での徹底した育種の前段階の手順が組み合わされる(Parlevliet、1990年)。

表16.1 オランダにおけるジャガイモのクローン選抜の時間計画

段階 選抜された
クローン数
0 交雑、種子の収穫。しばしば多数の交雑 106
1 播種、1交雑あたり250〜1,000。選抜された実生ごとに塊茎を1個保存 600,000
2 1年目クローン。1株/クローン。早期収穫。選抜された株ごとに6〜8個の塊茎を保存 60,000
3 2年目クローン。6〜8株/クローン。早期収穫。選抜された株の塊茎全てを保存

15,000

4 3年目クローン。1区域/クローン、早期収穫(約20株)。1観察区域、成熟時に収穫(16〜20株) 5,000
5 4年目クローン。1種芋ジャガイモ区域/クローン、早期収穫。観察区域(16〜20株)を繰り返しなしで複数の場所、適性時に収穫 1,500
6 5年目クローン。1種芋ジャガイモ区域/クローン、早期収穫。観察区域(16〜20株)を多数の場所で、うち一部は他国で、適正な時期に収穫。繰り返しなし。最良のクローンをスクリーニング検査(ST)へ 500
7 スクリーニング検査(ST)。前年と同様に、全育種家からの最良のクローンを多数の観察区域(16〜20株)で繰り返しなしに相互に比較。種芋ジャガイモの生産は前と同様に早期収穫により別個に実施。ST第1年目からの最良クローンを第2年目に持ち越し。この第2年目で最良だったものが国の検査(NT)に移ることができる。 200
9 国の検査(NT)。当該クローンと数種の推奨クローンを多くの場所において繰り返しを伴った収量検査で比較する。すべての関連特性を評価する。推奨栽培品種の公式リストは重要な特性30以上についての情報を提供している。それぞれの年ごとで推奨品種より向上していると思われなかったクローンは検査から脱落する。 15-20
12 推奨。推奨栽培品種の国のリストに既に掲載されている品種より向上しているクローンだけが本リストで認証される。

注記: 3年目まではクローン評価はアリマキを媒体としたウイルス感染を防ぐため早期収穫で行われる。それ以降は、クローンが評価されるべき適切な収穫日に評価される。翌年のための種芋ジャガイモは分離した圃場で生産し、早期に収穫する。
3-6

出典:Parlevliet(1990年)著者の承諾済み

b) 主要な育種目標

育種プログラムを開始する前に、育種目標を規定し、必要とされる遺伝子変異(生殖質)を知ることは重要である。現代の品種では50を超える特性が目的を持って組み合わされている。これらは次のグループに分類できる。

- 収量。複雑な特性であり、現代の農業技術、収穫、保存への適応といった因子が含まれる。
- 非生物的および生物的なストレス因子への抵抗性。旱魃、高温、病害、害虫が含まれる。
- 現行および開発中の最終使用用途で必要とされる品質。

これらの特性のほとんどは定量的でポリジーンによって遺伝している。そのため、このタイプの特性を親と同等あるいはそれを上回って発現する実生の割合は低い傾向にある。一部の特性は単一遺伝子によって遺伝しており、ほとんどのものが優性であるため選抜は簡単である。しかし、4倍体レベルの劣性遺伝特性はこれに該当せず、特に識別が困難な場合にはあてはまらない(Jacobsenら、1991年)。現代農業では、これら3カテゴリーの重要な特性を含んだ生殖質を使用しなければならない。この理由により、ジャガイモ作物育種において種の交雑は必須となっている。

C. 商業用使用のための増殖

a) 維持および増殖中におけるクローン素材の特性の監視

新しい品種の可能性があるものおよび現存の品種の増殖は、商業化の側面から非常に重要である。栽培品種のオランダ推奨リストに掲載されている新しい栽培品種(Parlevlietら、1991年)は、純粋でかつ健康に維持され増殖されなければならない。新しい生体外増殖技術のおかげで、次のことが可能となった。

- 新しい品種の比較的大規模な導入のスピードアップ
- ウイルス感染、またErwinia carotovoraおよびCorynebacterium scepedoniumの感染を伴わない現存品種の基本素材の維持
- 感染植物からウイルスを取り除くための分裂組織培養の使用

品種を維持し増殖するうえで、維持中に起こる小突然変異蓄積の危険および栽培品種の混合により保存品を汚染してしまう危険を回避することが重要である。どちらも現実的なリスクを提示している。突然変異に関しては、小突然変異がもたらす影響は微細であるが、識別における問題が生じるため最も重大であることを言っておく必要がある。これに対し、大突然変異は容易に識別できる。また健康な基礎植物素材を維持することも同様に重要である。病原体の感染、特にウイルスやバクテリアは、維持および増殖中のリスクである。そのような病原体の存在の検出は、塊茎内ではしばしば困難である。
オランダでは、3つの生産グループとオランダ耕作作物検査サービス(NAK)が関与した効果的な増殖システムが開発されている。グループは次のように構成されている。

- 新しい品種の育種家は、維持者に初期の素材を提供する。
- 維持管理農場は、純粋で健康な栽培品種の維持を保証し、高グレードの原種芋ジャガイモでS分類を生産する(図16.1、S)。
- 増産農場は、S種芋ジャガイモを品質に級数を付けて素材へと増殖し(図16.1、SE、E、A、B、C)、これを最終的にジャガイモ栽培農家へと販売する。


図16.1 オランダにおけるジャガイモ栽培品種の維持管理と増殖計画

維持管理農場
1980年
栽培開始
1981年
第1年目系統
(全ての系統は同一クローンに
属していなければならない)
1982年
第2年目系統
1983年
第3年目系統

増産農場

S種芋ジャガイモ
収穫されたジャガイモはSE種芋ジャガイモ
1984年
S種芋ジャガイモの栽培
1985年:SE種芋ジャガイモよりE種芋ジャガイモ生産
1986年:E種芋ジャガイモよりA種芋ジャガイモ生産
1987年:A種芋ジャガイモよりB種芋ジャガイモ生産
1988年:B種芋ジャガイモよりC種芋ジャガイモ生産
1. 次の検査のいずれかでも陰性の場合は放棄
- 圃場査察
- 血清学的検査(Elisa)
- タイプ
- 害虫管理

出典:Parlevliet(1990年)著者の承諾済み


b) ジャガイモの保証種芋

種芋ジャガイモの増殖と保証の全段階を通じて、種芋ジャガイモに病害のないよう、また当該品種の真の標本であるよう、国家機関によって管理される。原種芋ジャガイモはS、SE、Eと指定され(無記名、1982年)、保証種芋ジャガイモはA、B、Cと指定される。Cグレードは圃場での生育のため一般のジャガイモ栽培農家に販売される。

c) 商業的な寿命における品種特性の監視

図16.1に、品種の商業的な維持および増殖の計画を示した。品種は育種家から維持管理農場へと提供される。維持管理農場が個々の株(品種ごとに15〜20株)から健康なS種芋ジャガイモを産生するため、増殖に関する初めの4年間を受け持つ。これらの株が健康で純粋な栽培品種であると見なされた場合には、病害感染がないことを確かめるため徹底的に検査される(より最新の開始点は生体外での芽の増殖からである)。これに続く3年間で増殖が行われ、一部の茎は小さな変異あるいはウイルス感染のため除去される。それぞれの茎は2メートルの間隔を維持して作条し、混合、収穫時の取り違え、アリマキによる感染あるいは機械的手段により感染した茎からの生育時のウイルスの伝播を防ぐ。条の間では1列の小麦を生育する。収穫は常に早期で、アリマキの侵入前とする。第1年目では全株についてウイルス感染を血清学的に検査し、2年目には10パーセント、3年目には2パーセントを検査する。第2年目には、全系統のサンプルをNAKのいわゆる「中央系統圃場試験」で栽培し、健康の管理および小突然変異によるわずかな逸脱を検出する。この段階で、個々の株を新しい増殖サイクルのために選抜する。選抜された2年目の系統は、3年目も別個に生育される。早期収穫の後、最も信頼できる系統を組み合わせる。この種芋ジャガイモのロットが増殖農場にS種芋ジャガイモとして販売され、これが育種家からのライセンスを持っている。一般的には、栽培品種ごとで8〜12系統が全ての選抜段階に合格する、と言われている。
大規模増殖の期間中、ウイルス感染した株は除去され、また素材は均質性(小突然変異がないこと)についても管理される。NAKは、保証種芋ジャガイモの生産および分類の過程で監察官として関与している。E、A、Bなどの分類では、素材は1回から2回の増殖について同じ分類レベルに留まることが許されており、これは主にウイルス感染した株の頻度による。保証種芋ジャガイモは通常の栽培農家に販売される。
図16.1から、栄養生殖する作物の維持と増殖は、多くの潜在的なリスクのため複雑であることが明らかである。オランダの場合、最も進んだ増殖システムには育種家、維持管理農場、増殖農場、NAKが関与しており、ひとつのチームとして共同で作業している。その目標は品種に対して忠実で健康な植物素材を生産することにある。手順は約10年を必要とする。

図16.2 3x胚(A)の発育停止および2X(B)と4x(C)胚の増殖を説明する4x×2x交雑における受精の生物学(重複受精)

花粉管
倍数レベル


(卵細胞+精細胞)

内乳
(極核+精細胞)

A

3x


5x

発育停止

B

2x


6x

倍加半数体

C

4x


6x

4倍体

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