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13. キャベツ類

M. Nieuwhof著


A. キャベツ類の特性

a) 原産地

キャベツ類は、Brassica oleracea L.種に属しており、この種の中ではキャベツが最も重要である。B. oleraceaは南ヨーロッパが原産で、地中海沿岸に生育している。

b) 主要生産地

白キャベツは世界中で大規模に生育されており、推定総作付面積は100万ヘクタールを超えている。西ヨーロッパでその次に一般的なキャベツ類はカリフラワーで、作付面積は約100,000ヘクタールであるが、西ヨーロッパ以外のほとんどの地区では小規模栽培である。芽キャベツが重要とされているのはヨーロッパ北西部のみで、約40,000ヘクタールの区域がこの作物に使用されている。オランダおよび英国では、芽キャベツの生産価値はキャベツよりも高い。コールラビ、ブロッコリー、ケール、赤キャベツ、チリメンキャベツの栽培は、ほとんどの場合限られた規模である。

c) 分類学的地位;遺伝学および細胞遺伝学的特性

Brassica種には数多くの異なるタイプが存在する。しかし広範な変異型もその染色体の数を基にして、染色体の一組がn=8、9、10である1ゲノムの3基本品種、および染色体の一組がn=17、18、19である2ゲノムの3品種にまとめられる。2ゲノム種は、自然状態で1ゲノム種間の交雑から生じた(表13.1)。キャベツ類はBraccica oleracaに属しており、これは2倍体段階では染色体が18本(2n=18)ある1ゲノム品種である。
さまざまな植物学上のB. oleracea種を表13.2に示した。B. alboglabraは、白い花を持つ2n=18染色体の型で、B. oleraceaに属している。

表13.1 1ゲノムおよび2ゲノムのBrassica属種

栽培型 染色体数(n) ゲノム構成
1ゲノム種
B. nigra
B. oleracea
B. campestris


2ゲノム種
B. carinata
B. juncea

B. napus

ブラウンマスタード
キャベツ類
カブ類
ハクサイ


エチオピアカラシ
ブラウンマスタード
葉カラシ
スウェーデンカブ
アブラナ

8
9
10



17
18

19

b
c
a



bc
ab

ac


d) 現在の最終使用用途

キャベツ類は主に生による消費で使用されている。秋に収穫したキャベツの一部を数ヵ月にわたって低温で保存する国もいくつかある。白キャベツは、発酵させザウアークラウトを作る場合もある。ブロッコリー、芽キャベツまた程度は少ないが他のキャベツ類も急速冷凍される。また缶詰、乾燥、酢漬けにも使用されるがその量は少ない。
多くの国では、野菜栽培面積のうち20〜30パーセントが本作物のために使用されている。キャベツの収量は高く、1ヘクタール当たり50トンを超えることもあり、消費者価格はほとんどの場合低い。キャベツ類は他の多くの野菜と比べビタミンCの含有量が多く、タンパク質の含有量は中等度から高度である。ケールなどの葉が生い茂るタイプでは、カロテンおよびカルシウムも多く含んでいる。その結果、キャベツ類は人間の栄養摂取にとって大きな役割を果たしており、植物育種家たちによるこの他家受粉作物の向上は重要な意味を持つ。1960年代から雑種品種が広範にいきわたるようになり、一部の国では従来の放任受粉品種に完全に取って代わってしまった。

表13.2 Braccia oleraceaの栽培品種の型

学名 一般名
B. o. var. capitata f. alba
B. o. var. capitata f. rubra
B. o. var. sabauda
B. o. var. botrytis subvar. Cauliflora
B. o. var. botrytis subvar. Cymosa
B. o. var. gemmifera
B. o. var. gongylodes
B. o. var. acephala
白キャベツ
赤キャベツ
チリメンキャベツ
カリフラワー
ブロッコリー
芽キャベツ
コールラビ
ケール


生殖のメカニズム

a) 生殖と受粉の様式

花の分化の過程において、花は4片のガク、6本の雄ずい、2枚の心皮、および通常は黄色の4枚の花弁を発達させる。花は虫、特に花粉と花蜜を集めるハチによって受粉される。種子は直径2〜3ミリの球形で、色は灰がかった黒から赤茶色である。果実は10〜30の種子が入った長角果で(莢の形をし、成熟時に背側および腹側のいずれの側もはじけて開き、種子を自由にばら撒く)、時には10センチを超える。
Brassica作物は他家受粉で、自家受粉による受精は不和合性システムによって防がれている。花の柱頭に付着した同じ株からの花粉は、花粉と直接接触した柱頭の乳頭細胞が受粉後数時間で産生するカロースの被覆のため、発芽しないか、または柱頭に侵入しない短い花粉管を作るだけである。不和合性反応は開花直後の花において最大となる。自殖での種子形成は、授粉を開花2〜4日前に実行した場合に成功率がかなり高くなり、この方法は育種目的で植物を自殖させる場合に不和合性の機構を乗り越える方法として使用されている(蕾受粉)。自家不和合性は、開花後数日で再び低下する場合もあり、このため雑種の親系統の大量生殖が虫媒によって可能となる。
いずれのキャベツ類にも活発な自家不和合性機構があるが、温帯で生育されている早期および夏季カリフラワー品種はその例外である。
キャベツ類の自家不和合性システムは単一の遺伝子座に存在する一連の対立遺伝子(S対立遺伝子)で制御されている。各S対立遺伝子はそれぞれ特定のタンパク質を産生し、これが花粉外膜および雌ずいに蓄積する。同一のSタンパクが花粉と雌ずいに存在した場合、自家不和合性反応が開始される。キャベツ類では50を超えるS対立遺伝子が同定されており、株は通常これらのヘテロ接合体である。
S対立遺伝子間の反応は、胞子体型不和合性システムによって決定されている。これは、花粉の特性が花粉生産株の双方のS対立遺伝子によって決定されることを意味している。花粉、花柱あるいはその両方において、S対立遺伝子は互いに独立して作用する場合もあり、片方のS対立遺伝子が優性な場合もある。劣性S対立遺伝子は高い自家不和合性を誘導することができないため多くの栽培品種で一般的あるが、これに対し活発な優性S対立遺伝子はまれである。不和合性反応にS因子間の関係が及ぼす影響を簡略化し、表13.3に示した。S対立遺伝子の作用は環境因子および遺伝的背景による影響を受け、優性は多くの場合に部分的で、またS因子の相互減衰が起こることもある。

b) 成長と発生

種子生産のためのキャベツ類は温帯では夏に播種され、秋および冬に花芽始原細胞が発生し、翌春に抽だいおよび開花を開始する。温帯のキャベツ類は2年生で、一年生タイプのカリフラワーとブロッコリーは例外である。播種後の第一年目は、植物は栄養成長を行い、有柄葉を多く産生し(幼若期)、その後、無柄葉を産生する(成体期)。植物は生殖期へと移行する前に成体期に達していなければならない。これには通常おおよそ3ヵ月間を要する。花芽始原細胞は、10℃以下の気温に少なくとも2ヵ月間曝露された後に準備される。この期間の後、植物はこれより高い温度で抽だいおよび開花を開始する。日長は花の形成および抽だいには影響しない。

表13.3 自殖したSxSy植物のF1において花柱と花粉のS因子間の関係が不和合性反応に及ぼす影響

S因子間の関係1

不和合性反応2

花柱 花粉
Sx = Sy Sx = Sy
Sx = Sy Sx > Sy
Sx > Sy Sx = Sy
Sx > Sy Sx > Sy
1. Sx = Sy:それぞれ独立の関係;Sx > Sy:SxがSyに対して優性
2. ━:不和合性反応;®:示された方向に和合性反応

毒物学

B. oleraceaの亜種において、グルコシノレートおよびアミノ酸S-メチルシステインスルホキシドが見つかっている。大量のキャベツ類を消費した場合には、家畜においてはこれら化合物の分解物が有害となる可能性がある。人間の食事での限られた一日摂取量においては、毒物学的問題は発生しない。これらの化合物の濃度については、多数の遺伝的な変異が見つかっている。

環境上の必要事項

開花のための至適温度は15〜20℃であり、これより高温では花の落下が起こる可能性がある。熱帯では開花のための温度に関する必要事項が通常は満たされないが、標高の高い場所では種子産生が可能となる場合もある。開花開始のための最高温度がより高い品種は、これらの地域で有用となることが示されるかもしれない。一年生型のカリフラワーおよびブロッコリーは成長の第一年目に花を産生するが、温度は25℃以下に保たれていなければならない。

B. 現行の育種の実践および品種開発の研究

a) 育種の主要技術

i) 生殖質の維持管理

従来の放任受粉品種およびB. oleraceaの野生近縁種の大規模なコレクションが数ヵ所の遺伝子バンクで管理されており、貴重な遺伝子素材が損失されるリスクは限られていると思われる。

ii) 自家不和合性の親系統を使用した雑種育種

1960年代の初めより、キャベツ類の雑種育種は自家不和合性系統を使用し大規模に達成されてきている。雑種はお互いの和合性はあるが自家不和合性である2つの親系統の交雑によって生産される。

iii) 親系統の産生

雑種育種計画のために選抜された親植物は、まず開花したばかりの花を自家受粉させることで自家不和合性を検査する。受粉した花1つにつき2個以上の種子が形成された場合、当該植物は廃棄される。また不和合性は自家受粉してから1〜2日後の花柱を切り離し、アニリンブルーで処理することで簡便かつ迅速に評価できる。紫外線ライトのもと、顕微鏡により蛍光する花粉管を観察することができる。花柱1本につき存在する花粉管が3本未満の場合、自家不和合性の程度は十分に高いものと見なされる。
親株およびその後代の株を蕾受粉によって自殖する。5〜7世代後にはほとんど完全にホモ接合体となり、非常に均一な近交系が得られるが、もとの親株よりもかなり低い成長量(遅い成長、矮小な植物)をもつものとなる(近交弱勢)。
キャベツ類では、生体外での葯培養によりホモ接合体系統を迅速かつ大規模に産生することが可能である。この方法で得られる胚収量は大きなばらつきを示しており、葯100個につき0から例外的なケースでは200にまでのぼる。ある遺伝子型はこの技術に非常に良好に反応するが、他のものは完全に無反応である。単離した小胞子の培養も可能性を提供している。葯培養中に起こる自然発生的な染色体倍加は、しばしば高パーセンテージの2倍体苗木をもたらす。
葯培養を用いた近交系の産生は、多数の系統をもたらす。この数を低減するため、選抜された親植物をまず蕾受粉により1世代から2世代にわたって繁殖させ、もっとも期待の持てる自家不和合性系統から葯培養に使う植物を選ばなければならない。
成長量が極度に低く、逸脱した特徴(結球しないもの、虚弱な茎、逸脱した花の色、極度に早いあるいは遅い開花)を示す系統は不合格となる。残った系統については検査交雑の結果に基づいて選抜される。一般的な組み合わせ能力を測定するため、系統は1種あるいは2種の検査系統と交雑される。近交系を交雑することで、成長量は事実上回復する。しばしば雑種は親集団よりも優れた性能を示す場合がある(雑種強勢)。もっとも見込みがあり限定された数の系統間で、これらの系統における特定の組み合わせ能力の測定と、最良の雑種を提供したものをさかのぼって突き止めるため、考えられるすべての交雑を行う(総当り交雑)。

iv) 雄性不稔の親系統を使用した雑種育種

一部のキャベツ類では雄性不稔株が見つかっている。雄性不稔の花は、花糸が短く葯にしわがより花粉を産生しない。雄性不稔は通常単一の劣性遺伝子で決定され、msms型の株は雄性不稔、MsMs型およびMsms型の株は雄で稔性がある。雄性不稔は一連の劣性遺伝子でコントロールされている可能性もある。1ゲノムで優性な雄性不稔の突然変異体が変異誘発によって得られている。雄性不稔は時として温度による影響を受けることが明らかである。低温(10℃)では雄性稔性であるのに、それより高い温度では部分的または完全に雄性不稔となることがある。
細胞質遺伝による雄性不稔(CMS)はキャベツ類では未だ発見されておらず、このため完全な雄性不稔の親系統を作ることは不可能である。50パーセントで雄性不稔となる系統の作出のみが可能である(msms型とMsms型を交雑することで50パーセントのmsms型、50パーセントのMsms型の株が産生される)。CMSは、B. oleraceaのゲノムをB. napusあるいはRapahnus sativus(ラディッシュ)の細胞質に移入することで誘発できる。種間雑種は既に作られており、F1雑種をB. oleraceaと数世代にわたり戻し交配している。この方法により雄性不稔系統と維持系統を得ることができる。しかし、これまでのところ結果は期待はずれであり、その理由は実生および幼葉の白化(ラディッシュとの交雑の場合)、部分的で不安定な雄性不稔、花の異常、種子形成不良と花蜜の不足である。CMSのB. napusとB. oleraceaのプロトプラスト融合により、B. napusの細胞質とB. oleraceaのゲノムを持つ雄性不稔の細胞質雑種が作出された。CMSのRaphanus sativusとB. oleraceaの雄性不稔の細胞質雑種が同じ方法によって開発されている。これらの細胞質雑種は、授粉者に関わりなく雄性不稔であると考られ、雄性不稔系統を使用したキャベツ類の雑種品種の産生に明るい見通しを提供している。

b) 育種の主要目標

過去20年間、キャベツ類の育種家たちのほとんどすべての努力は雑種品種の作出へと集中していた。これらの品種はいくつかの理由によって従来の放任受粉品種に取って代わっている。他家受粉作物の放任授粉品種は、例えばキャベツ類もそうであるが、種々の遺伝子型の混合から成り立っており、多かれ少なかれ多数の遺伝子に関するヘテロ接合体である。その結果、放任受粉品種の植物は多くの特徴で大きなばらつきを示す。これに対し雑種育種では、全ての株が収量および他の特徴に関して好ましい同一遺伝子型を持つような品種が作出される。この理由により、ほとんどの雑種品種は放任受粉品種より顕著に高い収量を提供し、また非常に均一性が高く、特に単交雑雑種が導入された場合にはこの傾向が示される。このことは機械収穫においても重要である。育種家ばかりでなく栽培家にとっても、雑種品種が遺伝的に固定されていることが大切であるが、これに対し放任受粉品種では遺伝子頻度の変化あるいは対立遺伝子の欠失による遺伝的浮動のためばらつきが生じる。生理学的な病害、たとえばキャベツの内部からの葉先焼けの管理では、そのような逸脱に対して大きな遺伝的ばらつきを示す放任受粉品種での選抜に比べ、雑種育種を通して容易にコントロールできるようになった。
病害抵抗性をもつ品種の作出は、多くの作物で育種の主要な目標である。キャベツ類の場合、これまでのところ明白な成果は、Fusarium oxysporum f. conglutinansによって引き起こされる萎黄病への抵抗性でのみ成功している。本病害に対する抵抗性の研究は今世紀初めに米国で始まり、抵抗性を持つ多くの放任受粉品種が導入されてきた。
過去40年間にはPlasumodiophora brassicaeによって引き起こされる根こぶ病に対する抵抗性についても多くの研究がなされてきた。B. oleraceaでは本病害に対する抵抗性の源がいくつか利用可能ではあるものの、これまであまり進歩は見られず、その原因の一つは病原体がもつ易変性および病害抵抗性が示す複雑な遺伝にある。
さまざまなB. oleracea品目において、他の病害に対する抵抗性の差が評価されている。これには、黒点病(Alternaria sppによって起こる)、べと病(Peronosprora parasitica)、菌核病(Sclerotinia sclrerotiorum)、白さび病(Albugo candida)、黒脚病(Leptosphaeria maculans)、カブモザイクウイルスおよびカリフラワーモザイクウイルスによって引き起こされる病害などがある。実践的な育種家たちはこれまでのところこれらの病害に抵抗性のある品種育種には注意を払ってこなかったが、その理由は主にほとんどの抵抗性は完全ではなく、またポリジーンによって受け継がれるためである。種子農家の一部はバクテリアXanthomonas campestrisによって起こる黒脚病に対して抵抗性のある品種を産生しようと試みている。
特殊用途、例えば加工などを目的に、また高温や湿潤あるいは乾燥など特別な条件を目的とした雑種が作出され続けている。しかし、病害抵抗性および害虫抵抗性の雑種品種の育種がキャベツ類の雑種育種家の主要な目的であるべきであろう。そのような品種を作出する見通しは、萎黄病抵抗性のある品種を除けば、あまりかんばしいものではない。抵抗性雑種が抵抗性のない品種に取って代わるには更なる研究が必要であるが、21世紀までにこれが起こることはまずないと思われる。

C. 商業的利用のための種子増産

a) 雑種種子の生産

最高性能を示す雑種は単交雑雑種(F1雑種)で、お互いに和合性があり組み合わせ能力に優れた近交系を同時に開花させることで産生される。自家不和合性の親系統の種子が、まず大規模に生産されなければならない(1ヘクタールの雑種種子を生産するには、それぞれの親系統の種子約250gが必要とされる)。これは、蕾授粉によって達成することができるが、この方法は非常に手のかかるものである。系統は圃場あるいは隔離室内において大量生殖することも可能で、これは日数の経った花における自家不和合性の低下を利用する。それから受粉を虫媒により行うが、系統の自家不和合性が高い場合には種子収量は低い。不和合性反応を物理的あるいは化学的に防ぐ処理も提案されている。最も効果的な方法は、隔離された部屋に近交系の開花植物をいれ、約5パーセントのCO2ガスで満たすものである。現在この方法は、実際的な育種において大規模に適用されており、一般に良好な結果が得られている。雑種種子生産の問題を克服するため、他の種類の雑種導入に関する研究も進められており、これにはF2雑種(F1雑種の大量生殖)、三系交雑による雑種[F1雑種と近交系の交雑によって得られる雑種:(AxB)xC]、複交雑による雑種[F1雑種間の交雑:(AxB)x(CxD)]などがある。これらの雑種は常にF1雑種より均一性が低く、通常の場合成長が遅く収量も低い。
親系統の種子生産の問題は、S対立遺伝子のみで異なっている同質遺伝子系の二つの亜系からなる親系統を選抜することでも解決することができる。系統を数世代にわたって自殖した場合、それぞれの世代でS対立遺伝子に関してヘテロ接合である株のみが生殖する。しかし、自殖の最後の世代では、1つのS対立遺伝子に関しホモ接合型の亜系と他の対立遺伝子に対しホモ接合型の亜系を選抜する。亜系は蕾受粉によって維持する。親系統種子の大規模生産では、二つの亜系を同時に開花させ虫媒により受粉させる。各世代においてS対立遺伝子に関するヘテロ接合体の株を同定することは非常に手間がかかり、紫外線方法を用いてもこのことは変わらない。
雑種種子の生産では、花粉は虫、主にミツバチによって運ばれる。他家受粉が良好に行われるためには親系統の花が同時に開花し、両系統の株の大きさが等しく、同数の花を発生させ、花の色についてもミツバチは異なる色の花には訪れないためまったく同じであることが求められる。
キャベツ類の種子収量には大きなばらつきがあり、1ヘクタールあたり100kgから1,000kgを超えることまである。単交雑雑種の種子収量は通常は放任受粉品種よりも顕著に低いものである。

b) 品種特性の監視

雑種種子の産生において、得られた種子の一部は常に自殖あるいは兄弟受粉(同胞種子)であり、これは親系統の自家不和合性が完全ではなく、多くのS対立遺伝子の作用にばらつきがあるためである。同胞種子は異型を産生し、収量および均一性を低下させるため、雑種種子ロット内でこれらの種子の割合を測定する必要がある。これは、雑種種子サンプルから幼植物を育て、同時に播種した親系統の株と比較することで実行できる。ときには差異は10〜12週間後の成体植物期においてのみ差異を観察できる場合もある。
市販の雑種種子ロット内における非雑種種子の割合は、単一種子の抽出物における酸性ホスファターゼのイソ酵素を電気泳動で分離することにより迅速に測定することができる。この酵素は1座位および5つの独立に活性のある対立遺伝子によって遺伝的にコントロールされており、これに電気泳動図上の5本のバンドが対応している。ホモ接合型近交系の植物は、単一のバンドで特徴付けられ、異なる単一バンドのある親系統の交雑から生まれた雑種植物は2本のバンドで特徴付けられる。これにより種子が交雑により産生されたものか否かを容易にかつ迅速に知ることができる。親がその特定の酵素を生産する同一対立遺伝子ペアの担体である場合には同胞および雑種種子の分離はできないが、その場合には他の酵素におけるイソ酵素のパターンを使用することができる。
自家不和合性の親系統による雑種種子の生産には、遺伝的および環境的な因子により非雑種株の年毎の発生率に大きな変動がもたらされるためリスクが伴う。多くの場合、雑種種子ロットは販売に適していない。これらの複雑な問題は、片親が雄性不稔である雑種が入手可能となれば完全に解決される。細胞質雑種を使って完全な雄性不稔の系統を開発する見通しは明るい。今世紀終わりまでに雄性不稔の親系統から作出された雑種が今日の雑種に取って代わり始めることが予想される。ただし雄性不稔の花における不十分な虫媒および雄性不稔の不安定性による種子形成の不良などの問題により、この展開が遅れる可能性がある。

c) 新しい品種の採用スケジュール

近い将来、一部の西側諸国での変遷が示すように、キャベツ類の雑種品種が放任受粉品種と完全に取って代わるだろう。この急激な変化は、使用された雑種が単交雑雑種であり、高収量の可能性および高均一性があるという事実が原因となっている。雑種品種の種子の費用は、総生産費用のごくわずかな割合を占めるものでしかなく、苗床に最初に播種する際には通常1ヘクタール当たり0.5kg未満の種子のみが必要となる。雑種による放任受粉品種の代替はカリフラワーで最も遅く、これは多くのカリフラワー種の自家和合性が高く、活性のあるS対立遺伝子を戻し交配によって導入する必要があるためである。多くの自家不和合性のキャベツ類では、活性のあるS対立遺伝子の発生頻度は低いのに対し、弱いS対立遺伝子の発生頻度は高く、このため十分な自家不和合性のある親系統を選抜することは難しい場合がある。

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