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9. トウモロコシ

William S. Niebur著


A. トウモロコシの特性

a) 原産地;多様性の中心地

現在、トウモロコシは、複数の起源をもつと考えられている。Randolph(1959年)とMcClintock(1959年)は、形態学的特徴および生理学的特徴ならびに染色体のknob分布を使用して、この理論を裏付けた。このデータによれば、独立した栽培は、中央アメリカ全域でのテオシントに由来する。Galinat(1983年)は、今日知られているトウモロコシの2段階の進化を提唱している。第1の段階がテオシント内の種の淘汰を含むもの(意図的でない段階)であるのに対し、第2の段階は、今日知られているトウモロコシを作り出すことが目的とされていた(意図的な段階)。したがって、専門家はトウモロコシの起源の中心はメキシコおよび中央アメリカ全域であると提唱している。

b) 使用の地理的分布;主な生産地域

コーンすなわちトウモロコシ(Zea mays L.)は、コムギおよびコメに次いで世界で第3番目に主要な穀類である。1992年、ヨーロッパでは約1,700万ヘクタールのトウモロコシ(概算で約10万ヘクタールのトウモロコシ種子を含む)が栽培されていた。ラテンアメリカでは、約2,500万ヘクタールのトウモロコシが作付けされており、ブラジル、メキシコ、およびアルゼンチンが最も重要な国である。1992年、アメリカ合衆国では3,200万ヘクタールのトウモロコシが作付けされていた。トウモロコシは、広範囲の気候条件で栽培される。成熟までに60日が必要な非常に早熟な種と、穀粒をつけるのに丸1年が必要な種が同じ地理的領域で栽培されることもある。

c) 分類学的地位:近接種との関係

トウモロコシは、栽培化された結果、人の手を借りずには生存することができなくなった作物の例である。この栽培化は、ヨーロッパ人が到来する前に、トウモロコシの起源の中心である南北アメリカで原住民によって行われた。
ヨーロッパには野生の類縁が存在しないので、野生または雑草類縁への伝達の可能性はない。テオシントが、トウモロコシの唯一の容易に他家受粉が可能な野生の類縁である。テオシントはメキシコおよびグアテマラで栽培され、そこではテオシントがトウモロコシ畑で栽培されるのが頻繁に見られる。テオシントはトウモロコシと容易に交雑し、稔性の高い雑種を形成するので、トウモロコシからテオシントへの形質の伝達の可能性は現実的である。

d) 遺伝学および細胞遺伝学的特性

近年の技術には単一の遺伝子の変化に基づく改良が特に用いられている。この点では、最近の技術を用いたトウモロコシの遺伝子操作は、技術の発達の中でごく初期の段階にある。将来は、いわゆる組換え技術により、特定の形質をもつ新規の栽培品種を作り出す能力が大幅に高まるであろうと考えられる。しかし、最近の技術により、既に従来の系統の分析が容易になりつつある。育種者は制限酵素断片長多型(RFLP)法として知られる方法を用いて、植物の遺伝子フィンガープリントを作成することができる。遺伝子のマッピングおよび同定が行われれば、科学者はその植物の遺伝的構造を丁寧に読みとることができる。RFLPの使用により、所望される子孫のより迅速な分析が可能になっている。またRFLP分析により、企業が競合他社の雑種を分析し、遺伝的にどれが類似しているかを知ることができるようになり、それによって比較性能試験のために作付けする必要がある雑種の数を減らすことができるようになった。
McClintock(1929年)は有糸分裂試験を行い、初めてトウモロコシの10対の染色体の特徴を明らかにした。染色体の長さおよび動原体の位置に基づいて分類が行われた。現在、細胞学的研究は染色体染色技術、減数分裂性変異体、B染色体の調査および対合期に関与する事象のより適切な理解に基づいて行われている。今日、最も興味深いと思われる細胞学的変異の種類は、減数分裂の後に起こる変異である。減数分裂後の雄性不稔性変異体が多数確認されており、これらは通常雌性稔性である。この変異体のほとんどは、ヘテロの状態では劣性としてふるまう。これらの変異体は、商業用種子の生産に非常に重要であった。1950〜70年にかけて、機械的な除雄の代わりに、テキサス細胞質雄性不稔系統(CMS-T)が使用された。1970年、主としてこの形質の使用によって生じた感染性が原因で、ごま葉枯病が流行した。即座に通常の細胞質への転換が行われ、この問題は是正された。今日、種子の生産には細胞質不稔系統の別の型が使用されている(CMS-CおよびCMS-S)。1987年、北アメリカでは種子生産者の66パーセントが100パーセント通常の細胞質を使用し、22パーセントがCMS-C細胞質を使用し、12%がCMS-Sを使用していた。このように、1970年に起きたような状況を避けるために、技術の融合が行われている。

e) 生殖質移動に関する植物衛生学的検討

トウモロコシの生殖質は、適切な植物検疫証明書があれば西半球(北、中央、南アメリカおよびヨーロッパ)を自由に移動する。イタリア、スペイン、ポルトガルなど、トウモロコシ萎凋病(E.F. Smith)などの細菌性の病気が、輸送される種子中に存在しないことを保証するための書類が必要な国もある。アフリカ、アジア、オーストラリア、ニュージーランドと、上で挙げた国との種子交易は厳しく管理され、多くの場合、病気が存在しないことを保証するために、一世代に対する検疫が必要である。

f) 現在の最終用途

現在ヨーロッパで生産されるトウモロコシの大部分は、動物飼料用に販売されている。飼料用のトウモロコシは通常、栽培品種の品質特性に基づいて販売されるのではなく、販売の為にまとめられる。したがって、動物飼料用のトウモロコシの育種者は、収量、ならびに病気、虫および種々の環境ストレスへの耐性などの農学的形質の向上に注目している。ヨーロッパで生産されるトウモロコシのもうひとつの重要な部分は、高果糖甘味料、デンプンおよび調理油を製造するために使用されている。ある育種計画は、食用油のための多価不飽和脂肪の増加;家禽および豚または工業使用のための油の生産量の増大;タンパク質の含有量または質の向上(リジン含有量の増大など);湿式粉砕で得られるデンプンの向上;ならびに食品用乾式粉砕の品質など、特殊なトウモロコシ栽培品種の品質向上または開発に焦点を当てている。タンパク質の質の向上は、肥料の使用の増加など、より多くの操作が必要でなければ、メキシコ、中央アメリカ、南アメリカ、中国およびアフリカの一部など、世界のトウモロコシが主たる食用穀物である地域では、特別な価値がある可能性がある。

生殖のメカニズム

a) 生殖および受粉の様式

種苗場での生育中、受粉はすべて人の手で行われる。遺伝的分離は、植物の生殖組織に紙袋をかぶせることによって、あるいは共通の雄花が存在する場所の雌(種子)親として働く列を雄穂切除することによって保たれている。自家受粉では、雄穂と雌穂の絹糸の両方に袋をかぶせる。受粉の時には雌穂の絹糸を刈り込み、新しい絹糸を露出させる。雄穂から花粉を採取し、絹糸にのせる。他家受粉では、雌花の絹糸および雄花の雄穂の片方に袋がけをするか、隔離されたブロック(他のトウモロコシから200〜400m)で交雑を行う。
トウモロコシは、雌穂の茎に雌花、雄穂に雄花を有する雌雄同株種である(Kiesselbach、1949年)。この植物の主要な茎または柄の先端には、雄性配偶子源をもたらす雄花または雄穂がある。地面の上の各節は枝を伸ばし、この先端は雌花または雌穂になる可能性が高い。通常、1つを除いてすべて退縮し、上の方の枝は下の方の枝よりも優位である。雄花は、雄しべを保持する多数の小穂からなる。花粉の成熟が完了すると、雄しべ(葯)が植物の保護部分から押し出される。花粉は葯の中で成熟し、受粉能力をもつ小胞子を形成する。押し出された葯が先端で開き、これにより花粉が放出される。雄穂が風によって動かされたり揺らされるまでに失われる花粉はほとんどない。花粉は風によって容易に近くの植物に運ばれる。1本あたり1,500万個を超える花粉小胞子を産生する能力がある。雌花は枝の腋芽で生育する。先述の通り、1〜2個の芽が他を凌いで育ち、他のものはすべて退縮する。各小穂にはそれぞれ穀粒を生じる2つの花がついている。このため、穀粒は2列で生じ、雌穂には常に偶数の穀粒の列が存在する。花の花柱または絹糸は小花から伸び、受粉されることとなる花から現れる。花粉は絹糸で捕獲され、湿気を与えられて発芽し、花粉管を伸長する。花粉管は珠孔に貫入し、その後、受精が起こる場所である胚嚢へと進む。

b) 栄養繁殖体の分散および生存のメカニズム

トウモロコシが荒野に定着するように操作される可能性は、本質的にゼロである。トウモロコシを自生植物が存在する可能性が高くなるように操作することは可能であるが、これは自生植物を避けるか管理するために行われる操作の目的に過ぎない。例えば、自生植物が除草剤を使用することによって管理され、トウモロコシがその除草剤への耐性を与えられている場合、異なる除草剤または操作が必要である。例えば同じ畑へのダイズとトウモロコシの作付けなど、輪作、交互作などの通常の手法により自生のトウモロコシに伴う問題が回避され、さらに、トウモロコシの収量が高くなる。

c) 近縁種との交雑能

伝達リスクが現実的であるので、ある特定の形質がテオシントに伝達された場合に、有意な問題を引き起こすかどうかを分析することが重要になる。こうした伝達の潜在的重大性を推測する場合、テオシントへの伝達の起こりうる割合およびいったん伝達された形質がテオシント群全体へ広がりうる割合が、重要なパラメータである。
例えば、除草剤耐性が伝達された場合、その耐性が一般的なテオシント群で選択されるかどうか知ることが望まれる。除草剤が農業環境で使用されなかった場合、この形質は、重大になるか、その農業環境でのみ広まる。その場合、こうした耐性が農場に対して問題となるかどうかを調査する必要がある。例えば、トウモロコシ畑の中のテオシントを選択的に枯らすために、ある特定の除草剤耐性をトウモロコシに導入した場合、テオシントにその耐性が伝達されることは、それが状況が不変であるとしても望ましくない。次に、耐性を導入する費用がテオシントに耐性が伝達する可能性、頻度および所与のタイムスケールの推定値、ならびに機械耕作など、テオシントを除去する他の手段の費用に見合うかどうかが問われる。
新規の形質が害虫耐性である場合、その形質のテオシントへの伝達の重大性の可能性に焦点が当てられ、同様の分析が行われる。害虫がテオシントの生存または拡散における主な制限要因である場合、その害虫に対する耐性は、この植物の環境的競争力に有意な影響を与える。一方、その害虫がテオシントの制御に主要な役割を果たさない場合、その形質の伝達は、環境的影響力をそれほどもたないと考えられる。

環境的考察

分子的方法によって種々の起源から導入された形質を含めて、病気および害虫耐性についての形質は、農薬に耐性のある害虫の選択およびその結果として起こる進化の可能性などの問題を提起する。こうした問題は、これまでに従来導入された多くの形質について繰り返し論じられてきた。植物におけるこうした形質の、化学農薬の噴霧および非化学的コントロールなど、他の害虫管理の操作と置き換えるための使用による利益/危険問題に留意することが重要である。

生活環に対する環境要件

トウモロコシは、第一に、非常に寒冷な条件下では栽培できないという制約がある。トウモロコシの世界的分布は、基本的に赤道から緯度45°までである。ロシア共和国の新しい地域(56°N)では、動物による摂取(サイレージ)のために使用されるトウモロコシを生育している。トウモロコシは、生存のために適切な量の降水または潅漑を必要とする。栽培期の下限はほぼ40cmである。水がより乏しい気候では、トウモロコシはしばしばモロコシ(sorghum bicolor L.)と置き換えられる。

B. 現行の育種の実践および変種の開発

ヨーロッパには、約100のトウモロコシ育種計画が進行中である。トウモロコシの種子は、商業育種者によってほとんど独占的に生産されている。雑種トウモロコシの新規の近交系の開発では、商業育種者が優位に立っているが、原種企業も雑種生産または育種における使用のために民間企業に貸し出す近交系を開発している。公的機関も近交系を開発し、これらはその後その育種計画の一環として商業育種者に使用されているが、この供給源は20年前と比べてそれほど重要ではない。大規模民間企業は、それぞれに異なる気候、土壌の質、虫および病気発生率に対する独自の長所と短所をもつ20〜50種の異なる雑種栽培品種を販売することが可能である。しかし、特殊品種および食用の栽培品種以外は、異なる栽培品種から収穫された種子がすべてまとめられ、飼料、工業および輸出使用用に、#2イエローデントとして販売される。

a) 主な育種計画/技術

i) 親系統の育種

育種および純化の最初の5または6世代(F5またはF6)は、主として育種者、種苗場に存在する。育種者が働く地域の2〜5ヵ所で実験用雑種の収量試験を実施する。何千もの遺伝的に異なる系統を互いに近くで栽培し、これらの植物の生殖組織に紙袋をかぶせることによって遺伝的分離が保たれ、育種のためには十分であることが分かる。どんな時期でも、種苗場は、近交系開発および雑種生産の全段階に充てる約20,000列、約10ヘクタールを所有している。系統は親の形質、病気への耐性および虫への耐性について本質的に評価されることとなり、また雑種の組み合わせでどれが最も優れた遺伝的可能性をもつかを決定するために評価される。F3からF8までの段階では、これらの系統は雑種の親としての性質についてより広範に試験されることとなる。これらは種苗場で既知の優良系統と交雑させる。育種場または育種場付近の農場のいくつかの試験地に、得られた種子を小さな2列の区域に作付けする。試験区域は性能を評価するためのものであり、純粋な種子を産生するためのものではないので、これらの植物を隔離する必要はない。隔離は後の育種のために必要とされる試験種子の汚染を防止するために計画される。性能を評価するための試験区域は、種子が最終的に破棄されるため、自由に受粉されてもよい。
1種または2種の自殖世代の進化を速めるために、ハワイ、チリ、南フロリダ、プエルトリコ、メキシコまたはニュージーランドなど、熱帯または亜熱帯地域の冬季の種苗場に、しばしば作付けされる。こうした種苗場を使用して、収量試験用および後の育種作業用の種子を作り出すこともできる。

ii) 雑種育種

その後、優れた雑種の組み合わせを発見する試みの中で、有望であると判明した系統を種々の他の系統と交雑させる。種子は、その国の異なる場所で2〜4年にわたって性能試験にかけ、様々な環境条件にさらす。大規模な育種計画では、高度な雑種収量試験の総計30ヘクタール約35,000区域を使用でき、そのうちの4分の3は、商業用トウモロコシ育種場から50〜100キロメートルに位置する商業用の畑に作付けされる。これらの試験で収穫された生産物は通常、農場の動物飼料用として業務用に農家に残される。F9近交系に基づく成功した新規の雑種は、最高数百戸の農場の8列のストリップで試験される。育種計画の標的となる地理的領域全域にわたって、商業用農場に2〜3種の雑種を作付けすることができる。これらの雑種は、ストリップテストで最初の年に農場で評価されるが、それと同時に、同じ組み合わせの雑種種子が販売のためならびに翌年のさらなるストリップテストのために生産される。生産量は管理されている。トウモロコシ試験区域から収穫した種子は、市販用に他のトウモロコシとブレンドされる。

b) 育種の主目的

新規の商業用雑種の開発は、2つの部分に分けることができる。第1に、育種者は、異なるストレス因子に対する耐性、成長ないし成熟期間、収量、親としての妥当性などの、望ましいの栽培特性をもつ表現型的に均一な系統を確立しなければならない。同時に、市販品に適した雑種を見つけるために、これらの系統を様々な組み合わせで試験しなければならない。育種者は毎年約50,000株の遺伝的に異なる系統を評価することができる。約6〜10年後、この評価の最後までには、大体1〜2種の新規の近交系が商業用雑種に親として利用できることとなる。
自殖世代(純化プロセス)の間、植物はストレス試験にかけられる。新規の雑種の親系統は、様々な栽培条件下で優れた種子収量を示さなければならない。植物には、提供される地域での病気および害虫の力に応じて、アワノメイガの卵、葉枯病因子またはよくみられるトウモロコシウイルスを植え付けることができる。乾燥および寒冷などの環境ストレスへの耐性を評価するためにも試験が実施される。
従来の育種技術を用いて、第一および第二世代のアワノメイガならびにすす紋病およびごま葉枯病などの害虫への耐性をもつ系統、除草剤への耐性をもつ系統ならびに種子生産特性が向上された系統が開発されている。
雑種が最適条件下で他の市販の品種よりもかなり収量が高い場合、育種者はある種のストレス条件下での損失が若干大きいことを容認する可能性があるが、全環境を通して性能が安定していることは非常に重要である。しかし、農家(したがって育種者)が注目し、嫌う傾向がある要素は、予測可能なストレス条件下での損失、正しく発芽できないことならびに雌穂の成熟前の落下である。トウモロコシ種子産業の非常に競争の激しい性格を考慮すれば、育種者は総収量のわずかな違いすら受け入れられない。したがって、ストレス下での収量は非常に重要である。ストレス検査のために、約3,000列(約15ヘクタール)を使用することができる。雑種は、農家が予測することができる全環境を通して一貫して収量が高いものを決定するために、幅広い収量レベルにわたって広範に試験される。

c) 育種の最も重要な目標のための試験

乾燥試験および寒冷試験は、乱塊法または枝分かれ乱塊法を使用して実施される。後者では、日陰の問題を避けるためにブロック内の領域に、ほぼ同じ高さの植物が作付けされる。枝分かれ部位内では、植物は無作為化される。

C. 商業使用のための種子増産

a) 種子生産の段階

いったん親系統が確立されれば、今度は一塊の純粋で均一な親種子の原種増殖が行われることとなる。その後一塊の遺伝的に純粋な系統は、常に近交系のための固定された親の起源となる。遺伝的浮動を防止するために、原種増殖は、3世代が選択される。
性能試験のために雑種の十分な種子が産生されれば、人の手での受粉による生産は行われない。初期のストリップテスト用の種子を産生するために、1〜5ヘクタールの小さな隔離畑に隣接する列の近交系親を作付けする(すなわち、1列の雄に対して4列の雌)。これらの雌列は、雄穂切除され、このブロックは、最低距離200〜400m他のコーンから隔離されることとなる。
広範なストリップテストおよび商業への導入のために、商業契約を結んだ農家によって百〜数百エーカーが作付けされ、F1種子を産生することとなる。ある共通の手法は、4列の雌系統と1列の雄系統を交互にすることである。自家受粉を避けるために、雌植物は雄穂切除される。

b) 変種生産における隔離の実施

認められている手法は、原種生産畑のためのもので、200m隔離するものである。この距離は、畑の周囲に雄植物の適切な列が存在する場合、短くすることができる。
商業的に栽培されるトウモロコシの大多数は雑種であるため、ヨーロッパでは他のトウモロコシへの形質の伝達の可能性は、重要性が非常に低い。農家は、次の季節のために種子を蓄えないので、花粉の移動はその先の世代には伝えられない。商業育種者は、自身の原種の遺伝的純度を保つために隔離処置を行う。新規の系統に、新規の隔離処置が必要となることはまれであると考えられる。万一それらが必要となった場合には、必要に応じて育種者が対応することとなる。

c) 実験用交雑品種の試験および評価

初期のストリップテストでは、種子は50〜600またはそれ以上の農家に配布され、農家は、それを好きな雑種の横に、4列または12列の幅のストリップに作付けする。農家は、実験用雑種の作付けに、1〜2ヘクタールを充てることができる。後のストリップテストでは、雑種は雑種種子として販売され始めるのと同時に、何千ものこのようなストリップに作付けされることとなる。商業用種子は、特定のF1雑種として販売されるので、異なる親系統からの種子の汚染を避けることのみならず、それ自身の雌親からの汚染にも大いに注意しなければならない。したがって、雌と指定される系統は、雄穂切除あるいは雄性不稔にしなければならない。雄穂切除は、ヨーロッパのトウモロコシ雑種の60〜80%に使用されている主要な方法である。雄穂切除は、手作業でも機械でも行うことができる。

d) 種子の認可

ヨーロッパでは、大抵の新規の栽培品種は商業育種者によって開発される。彼らは政府の認可を受けなければならず、これには通常、雑種がその性能ならびに親の純度および安定性について、2〜4年にわたる試験の評価を受ける必要がある。したがって、公的機関に提出する前に、企業は新規の雑種の広範な性能試験を行い、それをさまざまな環境で自社の雑種と競合他社の雑種とを2〜3年にわたって比較する。公的機関が自国で販売されている商業用雑種の試験を行うこと、また農家が広い面積を作付けする前に種子のサンプルを試験することは一般的な手法である。性能が予想した通りであることを保証するために、登録後も公的機関と育種者の両者によってこの監視は続けられる。

e) 種子生産の監視

種子の販売では、国ごとに制定された純度基準が存在する。大抵の企業は5〜6パーセントまたはそれ以上の自家受粉植物、あるいは6〜8パーセントまたはそれ以上の他家受粉植物を含む種子を販売しないという基準を定めている。すなわち、この基準は(雑穀、ダイズ、および飼料用牧草の場合と同じように)純粋な種子のパーセンテージではなく遺伝的純度のためのものである。

f) 品種の寿命および農家による採用

トウモロコシ栽培品種の平均の商業的寿命は5〜10年であるが、その要因は主に1930年代以降、収量が漸進的に向上した後継の栽培品種が次々に導入されたことによるものである。年間平均収量は約1パーセントずつ増加しており、1年につき1.5〜2パーセントの増加を続けている。ヨーロッパで販売されているほとんどすべてのトウモロコシ種子は雑種であり、そのうちの70パーセントが単交雑種である。F1種子はその後の世代よりもかなり収量が多いので、農家はそれ自体のF2種子を毎年栽培するよりもF1種子に戻る。

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