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1. ダイズ

Wally D. Beversdorf著


A. ダイズの特性

a) 原産地

ダイズ(Glycine max L. Merrill)はマメ科植物の栽培種の1つである。ダイズの起源、およびダイズ生産の初期の歴史についてはよくわかっていない。Hymowitz(1970年)によると、おそらくダイズは紀元前11世紀頃には、現在の中国北東部で栽培されていたと思われる。栽培ダイズは、野生ダイズ(G. soja Seib. et Zucc.)と近縁種であり、野生ダイズと極めて交雑和合性が高い。G. soja(以前はG. ussuriensisとして知られていた)は、中国、台湾、韓国、そしてロシア東部のほぼ全土に自然に分布する一年生草本植物である。G. maxG. sojaは、集合的に栽培ダイズの自然の交雑領域を構成している。

b) 使用の地理的分布;主な生産地域

今世紀まで、ダイズはアジア以外の地域では作物というより珍しい物であった。今日、世界の年間ダイズ栽培量は5,000万ヘクタールを超える。主なダイズ生産国は、アメリカ合衆国、ブラジル、中国、アルゼンチン、そしてインドである。

c) 分類学的地位

栽培ダイズおよびG. sojaの双方が属する亜属Sojaに加えて、もう2つの亜属にもダイズの類縁種が含まれる。亜属Glycineには、オーストラリア、中国南部、台湾、フィリピン、そして南太平洋のいくつかの島に自然に分布する6種が含まれる。もう1つの亜属であるBracteataには、アフリカおよび東南アジアに分布するよじ登り性の多年生植物であるG.wightiiの亜種が多数含まれる。この種の中には「多年生ダイズ」があり、それには熱帯性の飼料としてのある種の農業的有用性がある。

d) 遺伝学および細胞遺伝学的特性

亜属Soja(野生および栽培ダイズ)の仲間は、40本の染色体を持っている。一方、亜属Glycineの仲間の染色体は、40本または80本である。手作業で、亜属Glycine内での種間交雑の受粉を行ったところ、数件が成功している。亜属Bracteataでは、G. wightiiの亜種の染色体は、22本または44本のいずれかである。Glycine wightiiは、亜属GlycineおよびSojaの仲間よりかなり大型の染色体を持っているようである。
Glycineの亜属間雑種は、自然界では観察された例がない。栽培ダイズは、野生ダイズ(G. soja)とのみ自然交雑が可能なようである。G. sojaおよびG. maxは、分類学的には単一種と定義することが可能である(HadleyとHymowitz、1973年)。

e) 生殖質の移動についての現在の植物衛生学的検討

他の多くの主要な農作物と同様に、ダイズもまた、多くの経済的に重要な病気に罹患しやすい。これらの病原体には、一連の真菌性、細菌性、ウィルス性の生物(これらの多くは種子により媒介される)、線虫、そしてその他の土壌媒介性の生物(土壌の種子と共に移動することができる)が含まれる。褐斑病(Septoria glycines)、べと病(Peronospora manshurica)、そして茎潰瘍(Diaporthe phaseolorum)は、感染したダイズ種子を介して広まることが可能な真菌性病原体によって引き起こされる病気である(Athow、1973年)。細菌性胴枯れ病(Pseudomonas glycinea)は、おそらくもっとも一般的な種子伝播型のダイズの病気である(KennedyとTachibana、1973年)。ダイズ・モザイク・ウィルスは、通常、ダイズのへそ(胎座痕)の周りの種皮を変色させるが、おそらくもっとも一般的な種子媒介性ウィルスである(Dunleavy、1973年)。ダイズ・モザイク・ウィルスは、ダイズの生産地域に広く分布している。すでに述べた種子媒介性の病気と同じように、Phytophthoraによる根腐れ病(Phytophthora megasperma)、真菌性の根病原体、そして主要な病原体であるダイズのシスト線虫(Heterodera glycines)(Good、1973年)は、おそらく種子や穀粒の出荷時に、土壌とともに移動する可能性がある。
ダイズの病原体の多くは、北米およびアジアの昔からの生産地域によく定着している。種子、土壌、そして病原体の移動について、植物衛生学的に検討することにより、ダイズの新しい、または未感染生産地域への病気の蔓延を低減すると考えられる。

f) 現在の最終用途

ダイズは主要な食料、飼料、そして産業作物として進化してきた。ダイズの種子は、およそ40パーセントが蛋白質、21パーセントが脂質、34パーセントが炭水化物、そして5パーセントが灰分である(Orthoefer、1978年)。1900年以前には、ダイズは医療価値そして食料価値のために、東洋で使用されていた。ダイズを原料として、飲料、ペースト、発酵調味料(例:醤油)、そして様々なカード状(豆乳を凝固させたもの)の食品が作られている。
ダイズ油やダイズ・ミールは、1700年代にヨーロッパに持ち込まれたが、19世紀になるまで東洋以外ではダイズの生産や加工に対して興味を示す者はほとんどいなかった。日本では、1800年代後半にダイズ・ミールを肥料として利用していたが、その頃アメリカ東部ではダイズ生産が根付いた。アメリカでは1930年〜1945年に飼料ではなくむしろ油や脱脂ダイズ・ミールとして徐々に使用するようになっていった。
ダイズ油は、依然として多くの精製油/油脂製品に利用される一般的な食用植物性油である。ダイズのリン脂質(ダイズ油を加工する際の副産物)は、乳化剤、湿潤剤、酸化防止剤、分散剤、そしてはね防止剤の食品用途向けに、レシチンとして市場に出荷されている(Smith、1989年)。他の多くの油関連の副産物が、産業および個人的な健康管理食品として利用されている。
ブタや家禽用の飼料としての脱脂ダイズ・ミールの栄養的価値は、第2次世界大戦直後に認識された。今日、ほとんどのダイズ・ミールは家畜栄養の蛋白質源として利用されている。また、脱脂していない粉砕ダイズも家畜飼料向けとして利用されており、とりわけ、破砕施設までの輸送費が高くつく地域では、この「農場内」消費が合理的となっている。脱脂していない炒りダイズからは、ブタや家禽用の飼料として蛋白質と、極めて消化性の高いエネルギーが得られる。またダイズ蛋白質(ダイズ・ミールから分離する)も、食品や医療用としての用途を増やしている。さらにダイズは、伝統的な「東洋の」食品(豆腐や味噌など)の原料としても使用され続けており、その人気は世界規模で広がっている。

生殖のメカニズム

a) 生殖および受粉の様式

ダイズおよび野生の近縁種(潜在的な親)であるG. sojaは、自家和合性の一年草である。Fehr(1980年)は、ダイズの異系交雑の頻度が0.5〜1.0パーセントであると推定している。ダイズ間に他花受粉が自然に起こるためには、昆虫の花粉媒介者が必要である。Erickson(1976年)は、ミツバチが何種類かのダイズ品種の花に惹きつけられると報告している。雄性不稔性のダイズ植物(商業ベースでは栽培されない)は、たくさんのミツバチや他の昆虫ベクターが利用可能で、かつ気候条件が適していれば、雄性稔性植物(花粉源)によって正常な結実を行うことが可能である(Davis、個人的コメント)。

b) 種子の拡散および生存のメカニズム

ダイズおよびG. sojaは、そのどちらもが種子のみで生殖する。栽培ダイズおよび野生ダイズはどちらも鞘がはじけて豆をまき散らす。栽培種では、収穫が遅れると、ある天候条件下で種子をはじく。野生ダイズは鞘が成熟するとすぐに種子をはじく。栽培ダイズの種子は、土壌の中では良好に生存できない(通常は1年未満)。種子のより小さい野生ダイズのほうが長く生存する可能性があるが、そのことはまだ実証されてはいない。

c) 近縁種との交雑能

上で述べたとおり、ダイズとG. sojaは十分に交雑和合が可能であり、亜属内の単一種の栽培株と野生株を代表するものと考えることができる。ダイズまたはG. sojaGlycine属の他種との自然の交雑は観察されていない。ダイズとG. soja以外のGlycine種との雑種形成を試みた結果、種間交雑の不和合性が高いことが示唆された。種間交雑が成功しても、その雑種は不稔性である(Kenworthy、1989年)。

毒物学

すべての油料種子蛋白質と同じく、ダイズには自然毒素が含まれており(Smith、1989年)、また、生のダイズは単胃生物(家禽、ブタ、ラットなど)の体内で成長を阻害し、脂質の吸収を抑え、膵臓の肥大を引き起こし、さらに、膵酵素の過分泌を刺激する。トリプシン・インヒビター類(プロティナーゼ阻害剤)はもっとも活性の高いものである。これらは100°Cで15分間加熱するか、あるいは、湿度25パーセントで20分間蒸気加熱することにより不活化する。通常、あぶったダイズ・ミールは、活性化トリプシン・インヒビターに関する栄養上の有害な性質を呈することはない。ある種のダイズのトリプシン・インヒビターには遺伝的変異が存在するが、一般的に育種家はダイズ加工の効果(熱処理)を考えるので、それを活用することはなかった。
他の活性物質としては、フェノール成分、サポニン、フィチン酸、そして血球凝集素がある(Orthoefer、1978年)。ダイズの血球凝集素は、食べても赤血球凝集の形跡は見られないが、in vitroでは赤血球凝集を引き起こすことができる。ダイズのサポニン(トリテルプレノイド・アルコール類のグリコシド)は消化の際に吸収されない。フェノール化合物としては、ゲニスチンとダイズィンがあるが、これらは低レベルのエストロゲン様活性を示す。家畜飼料や人間の食事に含まれるフェノール化合物の意義についてはまだわかっていない。

生活環に関する環境要件

a) ダイズの拡大に対する気候的制限

一年生植物のダイズは、赤道付近から温帯域までの農業地帯に適応している。ダイズは、大気温が25〜30°Cの時にもっとも成長が速い。その光合成は、ダイズの林冠の温度が40℃に達すると著しく低下する。ダイズは栽培期間中に非常に霜害を受けやすく、また過度の干ばつや広範囲の洪水によっても幾分かの影響を受けやすい。

b) ダイズの拡大に対する生物学的制限

ダイズはマメ科植物であるため成長および発達のための窒素源として根粒菌Bradyrhizobium japonicumとの共生関係で大気中の窒素を固定することができる。ダイズが新しい生産地域で栽培される場合は、植え付け前に、通常その種子にB. japonicumを接種する。
ダイズの種子は、入庫中の温度が40℃に近づくにつれて急速に劣化する。土壌の温度が42℃を超えるとダイズの発芽は困難になる(WhighamとMinor、1978年)。また、ダイズは多くの栄養不足の影響を受けやすい。しかし通常は、土壌のpHの調節、および/または肥料の適用によってそうした影響を相殺することが可能である。
ダイズは日長時間の影響を受けやすく、典型的な一年生の「短日」種である。ほとんどの品種は、日長時間が長くなると開花期が遅くなり、日長時間が短くなると開花期が早くなる。現在、ダイズの品種は、MG 000〜MG Xの13の成熟グループ(MG)に分類されるのが一般的である。MG 000のダイズは、もっとも長い日長時間に適応する(最高緯度地帯)が、MG Xのダイズは、より短い日長時間に適応する(赤道地帯)。高いMG値のダイズ品種を高緯度地帯で栽培した場合は、その開花期が遅くなり概して生殖(種子の成熟)も成功しない。逆に、低いMG値の品種を熱帯や亜熱帯で栽培した場合には、その開花期が早くなり、また成熟も早まるために、種子の収穫量が少ない。
より高緯度の地帯では、植物育種家はより成熟期が早く、日長時間に影響を受けにくく、かつ低温度に対する耐性が強いダイズを開発し続けている。次の10年の間には、MG 0000ダイズが高緯度の海岸地帯に現れる可能性がある。

B. 現行の育種の実践および品種開発の研究

a) 育種の主要技術

i) 生殖質の維持管理

ダイズの育種様式は、他の自家受粉性の穀物類(コムギ、オオムギ、ピーナッツなど)に似ている。ダイズ育種家は、現在の品種に利用することができるような生殖質と、多くの国の研究機関で維持管理されているダイズのコレクションに依存している。中国では、15,000種類以上のG. maxおよび1,000種類以上のG. sojaがコレクションされており、アメリカでは11,000種類以上のG. maxおよび700種類ほどのG. sojaを維持管理している。
今世紀以前までは、野生ダイズおよび栽培ダイズのどちらもが、主に中国、台湾、日本、韓国、およびロシアに分布していたため、他の地域にとり、ダイズの生殖質のコレクションやカタログ作成は、ダイズの育種プログラムのための必須条件であった。USDAは、十分に目録作りされている2つのコレクションを維持管理している。その1つはイリノイ州のシャンパーニュ−アーバナに分布する早生ダイズ(MG 000〜MG IV)のコレクションであり、もう1つはミシシッピ州のストーンヴィルに分布する晩生ダイズのコレクションである。

ii) 基本的育種

ダイズ育種活動のほとんどの目的は、改良品種の開発に向けられている。基本的育種プログラムには、重要であるが複雑な特性(例:蛋白質および油の含有量)を徐々に改良するための母集団(通常、循環選抜法によって作成された母集団)の開発がある。基本的育種プログラムにおける他の活動としては、遺伝形質の測定、新しい遺伝的変異性の作出および評価、そして研究または生殖質の維持管理のための特異的遺伝子型の生産がある。

iii) 品種開発

ダイズの品種開発プログラムは、自家受粉種の基本的育種段階に従って行われる。遺伝的変異性の母集団は、人工的に交配し、その後に同系交雑を行うことによって作成される。遺伝的変異性の(分離)母集団は、自家受粉を通して同系交雑を行うので、望ましい農業的形質と品質特性を獲得するように選抜圧を与える。育種集団がホモ接合性に近づくにしたがって、優れた系統を反復性能試験し、続いて、複数の場所における性能試験を実施して、その農業性能について評価する。優れた農業的性能または品質特性を有する系統を、管理された状態で増産して、商業利用のための所蔵種子を増やし、かつ遺伝的純度を保つようにする。
公共用、および商業用のダイズ育種プログラムでは、品種開発で用いられる特異的手順は極めて様々である。病気抵抗性などの単純な遺伝形質は、一般的に戻し交雑を通して既存の栽培変種に組み込むことができる。2以上の親に由来するいくつかの形質を組み合わせた場合は、単交雑、三系交雑、複交雑、または他の複合交雑による交雑を、いくつかの手順のどれかを用いて促進して、ホモ接合性の系統を作り出すことができる。一般的に使用されている方法には、集団育種、系統育種、早期世代試験を伴う系統育種、一個の種子からの育種、そして一個の組み換え種子からの育種がある。どの方法によっても一連のホモ接合(純粋種)系統が作成できるが、選抜圧を適用する時間枠がそれぞれ異なっている。

iv) 利用される技術

ダイズは主に自家受粉を行うため、親同士での雑種形成は、通常、一方の親(雌性または種子親)の花からの除雄(もう一方の除去)と、もう一方の親(雄性)からの花粉の人工的導入によって行われる。ダイズの交雑は、管理された環境ルームや温室施設で行われるのが一般的であるが、野外の苗床でも行うことも可能である(それらの両親が、同一または隣接した成熟グループに属する場合)。一方、両親が相当異なる成熟グループにそれぞれ属する場合には、開花期を同時化するために、それぞれの植え付け日に対して時差を設けなければならない。代替方法としては、晩生種の両親の日長時間を人工的に短くして開花期を促進するというものがある。
雑種植物は、繁殖して分離集団を形成する(遺伝子の分離および組み換え)。通常、新しい品種の開発では、分離したダイズ母集団の同系交雑を3〜7世代にわたり繰り返すが、その間に選抜を行って、母集団内の個体のホモ接合性を高める(純粋種の作成)。狭交雑(類似の親同士での交雑)によって純粋種を作成する場合には、必要となる世代が広交雑(極めて異なる両親同士の交雑)よりも同系交雑のほうが少ないのが普通である。
ダイズの育種集団の同系交雑を迅速に行うために、冬型苗床施設が利用される。ダイズは日長時間により影響を受けやすいため、温帯における育種プログラムでは、冬季の世代促進を速める目的で、熱帯性の冬型苗床を利用することができる。たとえば、あるプログラムでは、カナダで夏にF1雑種を栽培し、その後に中央アメリカで10月から翌年の5月にかけて2世代(F2とF3)を同系交雑する。熱帯性の冬型苗床では、その選抜効果は下がるものの、同系交雑によってホモ接合性への移行を促進し、そのためにカナダ(6月〜9月)におけるF4集団の選抜効果を向上することができる。このプログラムで集団は同系交雑され、個体はF4世代とF5世代において選抜される。(狭交雑から)選抜されたF5の子孫は維持管理されて、F5由来系統(潜在的品種)として評価される。

b) 育種の主要目的

個々のダイズ育種プログラムの目的は多岐にわたっている。ダイズは非常に日長時間の影響を受けやすいので、個々の育種系統は通常、緯度にしてわずか2〜3度の範囲の地帯にしか適応しない。通常の育種の目的として、適用する地帯に必要な性能、品質、そして安定性の特性の獲得がある。これらの特性には、特定の生産地域に関係する病気に対して必要な、または望ましい抵抗性、当該地域に関わる物理的環境ストレスに対する抵抗性、収穫量の増加(倒伏に対する抵抗性や鞘が茎につく高さの上昇)、収穫特性の改良そしていくつかの望ましい市場特性のいずれか(例:豆腐、納豆、または特産油製品などの特別な食品への使用を目的とする特性)が含まれる。
ダイズの除草剤耐性が、近年かなりの注目を集めている。雑草防除問題が収穫量を減らす可能性があり、特に、列間の栽培を制限している狭い列での栽培様式においてはその可能性がある。数種類の除草剤(例:メトリブジン)に対するダイズの耐性における自然の可変性がよく知られている。突然変異や植物の形質転換が起こると、スルホニル尿素(Sebastianら、1989年)およびグリホサート系除草剤に対する抵抗性を含む遺伝性の除草剤耐性の新しい形質源が得られる。新しい遺伝性除草剤抵抗性によって、環境的リスクおよび毒性学的リスクがより小さく、費用対効果が高い雑草防除の可能性を生産者に提供することができる可能性がある。
最近では、組成や品質の特性に対する注目もいっそう高まっている。育種家は、このような数多くの特性の遺伝的変異を同定し、作出し、および/または利用したが、それらの中には、油や蛋白質の含有量、油の脂肪酸組成(RennieとTanner、1989年)、抗栄養学的因子(Orf、1989年)、そして人間食品への利用を意図した風味の特性(Wilson、1989年)などがある。

c) 一般性能の評価

潜在的品種の選抜(同系交雑を行っている間およびその後)および評価を行うことにより、ダイズ育種の主要な側面が顕在化する。いったん系統を選抜したら、潜在的な適応地域内、またはその地域に隣接した地域において、反復試験の数を増やしてその系統の組成および性能の評価を行う。通常、優れた系統は、2〜5年間の評価試験を実施した後に、商業増産のためにリリースされる。評価は一般的に、育種の研究機関や企業同士が協力して、あるいは単独で試験を行なう。ダイズの多くの重要な特性は、環境の影響を受けるために、候補品種の評価では通常、個々の評価試験中で、既に確立されている品種との間でその性能および品質の比較が行われる。
商業用のダイズ品種のリリースを規定している国策は様々である。いくつかの国では登録および商業リリースに先立って、候補品種が満たさなければならない性能や品質要件が十分に定義されている(例:カナダ、イタリア、フランス)が、他の国では明確な要件がほとんどまたは全くない(例:アメリカ)。

C. 商業利用のための種子増産

a) 種子生産の段階

ダイズの新品種は通常、育種研究機関や関連する種子増産機関が、育種家種子(原々種子)種子をリリースした時点で商業利用が可能となる。また、ダイズを商業的に育種する企業の種子生産部門からもリリースされて利用できるようになることもある。潜在的なダイズ品種の育種家種子は、世代を超えてその品種の遺伝特性を保存するために、作成され、維持管理され、そして増産される。普通、育種家種子を商業レベルの量だけ増産にするためには、3〜4種類の種子(育種家>選抜>固定>登録>認証)を通じての増産を行う必要がある。その品種が小さな市場に適応した場合、これらの種類から1または2の種類(例:登録)が削除されるかもしれない。

b) 隔離の実施

ダイズ種子の増産における隔離距離および作付け歴の要件(一般的にそれぞれ2〜3メートルと1〜2年)は、種子の種類や所轄権によって異なるが、通常は異系交雑の頻度が高く、および/または種子の休眠期が長いほどその要件がゆるくなる。

c) 品種特性の監視;寿命

品種を増産している間にも、その性能や品質の特性の評価を実施する。また、商業リリース後も、その評価を継続し、公的機関あるいは民間機関の協力によって、品種の評価試験を行うが、通常は1つの品種の商業寿命(5〜20年)の間にわたり継続して実施する。

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