第8章 遺伝子操作に関する規制の法的枠組みついての提言
はじめに
8.1 遺伝子操作技術の進歩と環境への懸念から、われわれは遺伝子組み替えによる生物の環境中への放出に対する法的規制が実施される必要があるとの結論に至った。そのような放出の環境面の影響については環境大臣 (i)が第一義的責任を負うべきである。
8.2 本章では、われわれが(規制のための)法律の基礎となるべきだと考える諸原則を述べる。環境大臣と雇用大臣の共同責任体制にも言及するが、雇用大臣の責任は、遺伝子操作の従事者および遺伝子操作の直接的影響を受ける人々の健康と安全に及ぶ。また、遺伝子操作に関する諮問委員会(ACGM)およびその国際導入小委員会のこれまでの成功を、どうすれば最大限活かせるかについても述べる。ニーズの変化に対応して現在の体制を発展させる事を追及する。
新たな法的権限
8.3 新たな法規制は、第7章で説明した、職場における健康および安全に関する法律(The Health and Safety at Work Act)の規定を補完するものでなくてはならない。同法は健康安全委員会(HSC)の権限を定めたものであり、ACGMの機能に直接関係するものである。また、(新たな法規制は)同じく第7章で説明した農業省他の各省による製造物規制との整合性もとらなくてはならない。
8.4 閉鎖系施設内での作業(の問題)と、(遺伝子組換生物の)環境中への放出(の問題)とを明確に区別する事はできない。むしろ、実験施設内に(遺伝子組換生物を)安全に閉鎖系の段階から、温室、小規模テスト等の段階を経て製造物を一般に放出する段階までがつながっているのである。全ての段階で、環境と人の健康問題の両方を考慮しなくてはならない。加工物が閉鎖系の施設内にある場合であれば、そのような施設には環境中への放出を避ける設計が施されているので(但し、8.29を見よ)、規制上の主たる問題は従業者の健康と安全である。人体に健康・安全面で低リスクないし無害であると考えられている加工物の場合であれば、環境面の問題が(規制の上で)より前面に出てくることになるが、健康・安全面の影響についての継続的検査はなお不可欠であるので、放出に関する決定には環境大臣と(雇用大臣下の一機関である)HSCの両者が関与する必要がある。そうする事によって、(英)国内の遺伝子操作生物の初期段階における規制を担当するHSCが、得られた情報をその(遺伝子組換)生物の放出に関する問題に活用する事ができる。
8.5 遺伝子組換生物の放出の管理は、環境保護の観点からの規制を定め、環境大臣に放出の免許を含む行政権限を与える法律によってなされるべきである。技術開発や知識・経験の進歩に対応するため、法規制は頻繁に改正を重ねる必要があるとわれわれは考えている。更に、法規制は、放出に責任を有する全ての者に注意義務を負わせ、実験であると商業目的であるとを問わず、人体の健康・安全面だけでなく環境面からもあらゆる合理的な対策をとる義務を負わせるべきものである。
放出免許
8.6 われわれは第6章で、より緩やかな規制方法を正当化するだけの経験が蓄積されるまでは当分の間、遺伝子操作生物(GEO)を放出しようとする際には必ず国の専門機関による評価を要求すべきだと主張した。放出を実行するには、事前に放出免許を要することとすべきである。事前に放出免許を得ずにGEOを放出したり、放出免許の条件に従わない事は違法行為として重罰を課するべきである。われわれは、8.4で述べた理由で、すべての放出免許は環境大臣とHSCの共同によって与えられるべきだと考える。以下、両者を併せて免許権者と呼ぶ。従って、GEOを環境中に放出しようとする者は、免許権者に通知し、生物や放出の方法に関する詳細や、地元の安全評価委員会が実施した安全評価の報告を提供しなくてはならない。免許権者は、既に与えられた免許をそのまま存続する事は望ましくないと判断する理由がある場合には、そのような免許を撤回し、または免許の条件を変更する権限を持つべきである。
8.7 7.7で触れた新しい遺伝子操作規制は、われわれが提言しているものよりも緩やかなものであり、放出にあたってはHSEに対して、評価と介入の要否の判断ができる程度の詳細を知らせる事が要求されているに留まる。われわれは、この新規制を改正して、放出にはHSCによる承認が法的免許の形で与えられるようにすべきだと提言する。
8.8 免許権者が経験に照らして遺伝子操作生物の分類(クラス又はカテゴリー)毎に放出免許を与えても安全だと判断する事はあり得るが、それには立法的手当てが必要であろう。その場合でも、放出を行おうとする個人や組織に対して、当該放出が認められている場合に該当するか否かを判断できるよう、免許権者に対して放出案を提出するよう義務付ける必要がある。また、たとえ放出が認められている分類の生物であっても、何らかの懸念のある放出案に対しては、免許権者の権限で個別の免許取得を義務付ける事ができるようにすべきである。
8.9 遺伝子操作生物は、おそらく、数段階の実験開発段階や試験放出を経るであろう。そのような放出のそれぞれを、ここで述べた免許の対象とすべきである。その後、そのような生物を製造物として、あるいは製造物の材料として使用することが提案されるだろう。そのようにして、遺伝子操作生物は、目的に添った使用の一環として、あるいは不要になって廃棄された結果として、しばしば環境中に放出されることになる。その段階で、製造物としての販売や供給、材料としての使用について再度評価し、放出免許権者―環境大臣とHSCが協力して当たる―から改めて免許を受けるべきである。製造物に適用されるべき規制が、特に何も無い場合には、免許権者から直接に放出免許をとることとすべきだが、7.10〜7.12で説明したものを含め多くの製造物は既に別の規制の適用下にあるので、そのような規制の担当当局に、遺伝子操作生物である製造物や遺伝子操作生物を含む製品について、放出免許権者に通知する事を義務付けるべきである。通知を受けた放出免許権者は、製造物の規制担当当局に対して、それら製造物について放出免許を与える事に賛成するか否かを回答する。この規制は国産の製造物だけでなく輸入品にも適用される。遺伝子操作生物を製造物または原料として販売ないし供給しようとする者は、誰であれ、遺伝子操作によっている旨を明らかにして申請する事を義務付ける必要がある。
その他の法的権限
8.10 環境大臣に以下のような権限を新たに付与すべきである。
− | 諮問委員会の設置権限(8.11) |
− | 行動規範の策定と公布を行う権限 |
− | 放出の実行を認められた個人や組織の登録を維持管理する権限(8.17〜8.18) |
− | 情報を公衆や他の官庁に開示する権限(8.23〜8.26) |
− | 危機管理および他の者に危機管理体制整備を義務付ける権限 |
− | モニタリングを自ら行い、または他の者に行わせる権限(8.20) |
− | 放出について情報の提出を求める権限 |
− | 不要となった製造物の適切に廃棄する事や、必要な場合には放出場所を清浄化する事を要求する権限(8.29) |
− | 立ち入り検査権(8.21) |
− | 規制遂行の費用を徴収する権限 |
HSCは、職場における健康と安全に関する法律の下で、既にこれらの権限のうちの多くを行使している。政府は、リストの残る項目の一部または全部をカバーするためにHSCの権限を遺伝子操作生物の放出に拡大する必要の有無を検討すべきである。
放出委員会
8.11 環境大臣とHSCは、遺伝子操作生物の放出免許や製品認可に関する申請の全てにつき、専門家から成る諮問委員会の意見を求め、その勧告を考慮すべきである。審議会の主な機能は、そのような申請を環境保護および人体の健康と安全から評価する事である。現在、ACGMの国際導入小委員会がそのような評価を行っている。われわれの意見では、同小委員会は効率的に機能しており、将来に向けた発展の良い基礎である。小委員会の業務は既にACGMから区別されたものであり、今後申請件数の増加に伴って一層重要性が増す。そこで、われわれは、小委員会をACGMから独立させ、独自の設立根拠法を制定することを勧める。改組された小委員会は、HSCと環境大臣の両方に助言を行う権限を有するべきであり、以下、放出委員会と呼ぶ。
8.12 放出委員会はACGMと密接な連携を保つべきである。これは、委員の兼任と事務局の共同化で実現できるであろう。(英)国内における開発プロジェクトの成果として行われる放出申請については、閉鎖された施設内での作業の初期の段階でACGMの評価を受けているであろうと考えられる。ACGMおよびその事務局がそのような過程で得た知識は、放出委員会にとって貴重である。申請処理の上で、申請者に対する窓口を一本化できるため、一つの機関が両方の免許権者のために業務に当たる方式が良いと考えられ、最もそれに適しているのがHSEである。
8.13 放出委員会の委員は、遺伝子工学技術、微生物学、理論環境学またはフィールド環境学、その他の関連分野の専門的知識を有している必要がある。委員会メンバーは大学、その他の研究機関、業界、労働者代表などから選出されるべきである。放出委員会メンバーから、遺伝子操作生物の開発や放出に関与した者を除外すべきではないと思われるが、利害関係についての適切な開示が必要である。特定の放出提案の評価に必要であれば、案件毎に英国内外から専門家を招聘すべきである。また、関係する官庁や政府機関および地方の環境衛生局も参加すべきである。例えば、現在の小委員会に対する自然保護協会のインプットは重要なものであるが、同様の貢献が放出委員会に対しても可能であると考えられる。
8.14 現在の小委員会は、放出案に同意する上で全員一致を求めている。しかし、われわれが提案する仕組みでは、放出に関する決定権は環境大臣とHSCの共管であり、製造物を管轄する他の大臣もこれに加わる。放出委員会のメンバーが一人でも反対すれば、これら大臣が免許を与えないと予め決まっているというのは不適切であろう。決定権者は、放出委員会の助言を含む、利用可能な最善の情報に基づいて放出提案の意義を検討する事とすべきであろう。放出委員会は、メンバーが合意に至らない場合は、担当大臣やHSCが放出申請につき決定を下すために最も有益な助言方法を考えるべきである。多くの場合、最良の方法は多数意見に全ての反対意見を併記する方法であろう。
8.15 放出委員会は、放出申請について付帯条件を含めて助言する事の他に、以下の機能を有するべきである。
− | 実施規定の開発および申請者へのガイダンス |
− | 放出を分類するための助言 |
− | 放出に関する事項他の調査の必要性にいての助言 |
− | 放出の結果についてのレビュー |
− | 関連分野の海外機関との連絡 |
− | 法令諸規則の修正の必要性についての助言 |
また、放出委員会はその活動内容、遺伝子操作規制に関する進展、新たな知見などにつき年次報告を作成すべきである。委員会の効果的な活動に要する資源も与えられるべきである。
8.16 7.19で触れた環境省の導入暫定委員会(IACI)は、その名が示す通り、本報告が出るまでの暫定機関として設置された。われわれの結論は、暫定委員会の機能を放出委員会が承継し、暫定委員会は存続する必要はない。現在のACGM国際導入小委員会に欠けている環境学的専門家で必要な者がいれば、放出委員会はその参加を得るか他の方法で補うこととし、放出委員会を放出関係の問題につき政府が寄るべき権威ある助言機関となるようにする。
放出の届出
8.17 8.6で論じた放出免許に加えて、能力ある監督者の下でテスト放出が行われる事も重要である。われわれは、環境大臣とHSCが放出委員会の助言に基づいて遺伝子操作生物の放出を認められた者を登録し、登録を常時更新するよう勧告する。登録されていない者がテスト放出の責任者となるのは法令違反となる。登録を受けた者は、放出にあたり適切な資格を保持し、適切な訓練を受けた要因を使用し、かつ適切な指示を与える事につき登録権限者に対して義務を負う。登録された責任者は、放出に関与した要員全ての名簿を作成し、要求があれば登録権限者に提出しなければならない。会社その他のテスト放出の実施機関の登録についても適切な体制が必要である。機関として登録を受ける際の条件としては、適切な資格を有する要員の雇用、適切な訓練の実施、安全管理者と現場安全委員会の設置などが必要である。登録機関には、放出責任者として、登録を受けた専門化が一名以上必要である。
8.18 個人および法人は、個別の放出、特定された一連の放出、一つ又は複数の分類の生物について登録を受ける事ができる。放出を行う者として登録し、放出を実施する個人又は組織は、放出免許を申請し取得した個人又は法人と別であっても良い。テスト放出に加えて、時として、免許を受けた製造物の放出を行う者の登録を要求することも必要だろう、例えばある製造物の安全性を確認するため特定の予防措置を要する場合、製造物として(安全性の)根拠を示すことが充分な利益があるような場合である。それに対する規定は法律に含まれるべきである。
損害賠償責任
8.19 遺伝子操作生物の放出の結果として生じた損害に関する賠償責任についての現在の制度は、消費者保護法に関する賠償責任も含めて、7.21および7.22で説明した通りである。加えて、新たな立法措置で、所要の免許や登録なしで遺伝子操作生物の放出を行った個人または法人の役員は、生じた損害に対して厳しい責任を負う事とすべきである。また、免許や登録を行う行政官庁や、それら行政官庁に放出の免許や登録を認めるよう意見を出した委員会の委員が、放出の結果について責任を負わない旨も立法的に措置すべきである。
監視(モニタリング)と執行
8.20 放出の影響についてのモニタリングが満たすべき主な要件については6.33で論じた。環境大臣は、免許の条件として、免許を受けた者が、放出された生物および導入された遺伝子の拡散および死滅、放出の環境への影響、予期せぬ環境学的な現象をモニタリングするよう義務付ける権限を持つべきである。免許を受けた者は、免許を発給した行政庁に対し、モニタリングの結果を報告する義務を負うべきであり、重要な事態は直ちに報告すべきである。通常は、そのようなモニタリングを義務付ける必要があるのはテスト放出についてのみであろうが、必要に応じて免許を受けた製造物の放出についても一時的な措置としてモニタリングを義務付けられる旨の規定が必要である。
8.21 環境大臣、HSEおよびその他の関係官庁は、放出免許の条件や良好な業務方法が履行されているかを検証する能力を有する必要がある。環境大臣は、検証を実施するために如何なる能力を備える必要があるか検討すべきであるが、大部分において他の組織の機能に依存する方が都合がよいと判断するであろう。その一例がHSEの一部である農産物検査庁である。そのためにHSEには必要な資源を与えるべきである。長期的に環境一般調査を行う事の必要性は6.39〜6.43で論じた通りである。
情報の公開
8.22 これまでの報告書、特に我々の10番目の報告書である「汚染への取組み――回顧と展望」(108)の中で、重要な企業秘密を侵さない範囲で環境情報が公開される事の重要性を強調した。遺伝子操作の分野でも、同じ事柄が特に強く求められる。遺伝子工学の活用から得られると期待される利益は、よく知らないものに対する恐怖心に駆られた市民の反対運動が高まれば実現できなくなってしまうだろう。だからこそ、遺伝子改変生物の環境中への放出申請に関する重要な情報が、事前に公開される事が重要なのである。更に、それらの情報につき、適切な資格を有する科学者や公益団体が指定した者による検討や評価が行えるようにすべきである。遺伝子改変生物の販売や供給だけでなく、放出試験も公衆の不安の対象となり得るものであるから、遺伝子改変生物の開発段階で数回、情報を公開すべきである。
8.23 我々は、放出免許の申請(8.6)や免許の付与を公示すべきであると勧告した。公示内容は、申請を行った個人や団体の名称および住所、生物の概要、放出の目的および放出場所の説明を含むべきである。免許は国レベルの機関から付与されるのであるから、公示は国によって行われるべきである。情報のうち、関連の部分については、放出場所の自治体が管理すべきである。放出の予想される影響や、モニタリング体制、緊急事態への対応など、放出に関するその他の情報は、免許権者である環境省とHSEに対して開示請求できるものとすべきである。更に、遺伝子改変生物の製造物ないし原料としての販売ないし供給の申請と免許(8.9)の詳細も、国によって公示されるべきである。免許を受けた放出の登録(8.17)も公開されるべきである。
8.24 遺伝子改変生物の放出試験の免許を申請する個人や団体には、放出予定地の新聞紙上に放出案件を公告する事を義務付けるべきである。現在、ACGM国際導入小委員会は、通常の運用として申請者にこのような公告を義務付けている。遺伝子改変生物を製造物または原料として販売ないし供給する事につき免許を申請する者に、官報か適切な全国紙上での公告を義務付けるべきである。
図1 | (a)Brassica oleracea;
この植物は、近縁だが異なる野菜を作り出すために、何通りかの品種改良が行なわれた。キャベツ(b)と芽キャベツ(c)は、型の異なる葉芽である。ブロッコリー(d)とカリフラワー(e)は頭状花である。(段落2.6) 写真は、AFRC園芸学研究所(Wellesbourne )のDr. D.J. Ockendon, A.R. Gray のご好意による |
図2 | アフリカの農村における、リゾビウム属の根粒バクテリアを利用した植物の成長促進
(a.i)窒素固定を行なう根粒を生じた大豆の根 (a.ii)根粒中で生育するリゾビウム属の根粒バクテリアの梱包パッケージ
(b)黒い粉状のリゾビウム属の根粒バクテリア (c)少量の水を加え、リゾビウム粉末を植え付けた種子
(d)リゾビウムを植え付けていない黄色がかった大豆(右)に比べて、植え付けたもの(左)は緑が濃く生き生きしている。(段落2.20) 写真は国連食糧農業機関とRothamsted実験地(Hertfordshire)のご好意による |
図3 | プロトプラスト融合により生成した細胞の顕微鏡写真。融合したプロトプラストものは赤と黄の蛍光発光がある。融合のない細胞は赤のみか黄のみ。(段落3.17) 写真はNottingham大学植物学科E.C. Cocking教授のご好意による |
図4 | 豚の卵子の核に極細の注射器を直接刺して行なう、DNAのマイクロインジェクション (段落3.18) |
図5 | スノードン国立公園に拡がるロードデンドロン(石楠花属の花木)(段落4.17) 写真はスノードン国立公園当局のご好意による |
図6 | オランダ楡病(Dutch elm disease)で壊滅した 楡(の垣)。Dutch elm
diseaseは、アメリカから我国に輸入された丸太に、たまたま付着していた病原性カビの毒性の強い菌株である。 写真はA.J. Errington氏のご好意による |
図7 | 「農地以外に繁殖しているアブラナは、見た目には美しいが、雑種の花粉の最大の発生源であり、品種改良されたアブラナの株を導入しようとする農家の努力を妨げかねない。」(段落4.26) 写真はthe Cambridge Photographers誌のB. Seymore氏とP. Seymore氏のご好意による |
図8 | (a)アメリカ原産の毛虫Manduca Sextaの食害を防ぐよう遺伝子操作されたタバコの木
(b)遺伝子操作されていない木(段落2.24) 写真はDurham大学生物科学部のDr. V. Hilder, Dr. Angharad, Dr. Gatehouseと D. Boulter教授のご好意による |
図9 | 植物科学研究所のトランスジェニックじゃがいもの農場試験 (a) トランスジェニックじゃがいもの植付け
(b)このじゃがいもは遺伝子操作された花粉を拡散させないために花をもぎとられた (c)
トランスジェニックじゃがいもは、トランスジェニックのいもが地中に残るリスクを少なくするため、人間の手で収穫された。(段落6.29および段落23〜34の附表5) 写真はAFRC植物科学研究所(Cambridge)のDr. P. Daleのご好意による |
図10 | ウイルス学研究所による、毛虫を攻撃するよう遺伝子操作されたウイルスの農場試験
(a)ウイルスを感染させた毛虫に曝したキャベツ (b)感染させていない毛虫に曝したキャベツ
(c)虫や小動物、大型の哺乳動物が入りこまないように作られている、囲われた農場試験場 写真はNERCウイルス学研究所(Oxford)のD.H.L. 教授のご好意による |
8.25 立法措置により、免許権者には、放出委員会の勧告に基づいて情報の公開を行う権限を付与するべきである。また、免許権者が必要と考える場合には、情報の公開に先立って免許申請者に情報開示請求につき申述させ、当該情報の企業秘密性に関する免許申請者の意見を勘案できることとすべきである。情報の企業秘密性に関する免許申請者の意見は、当該情報が知的財産権として法律上どの程度保護されているか(10.11〜10.19)に応じて色分けされるであろう。我々は、遺伝子改変生物に関する情報は、既存の医薬品その他の製造物に関する情報以上に、かなり高い度合いで公開するよう提案する。その理由は、遺伝子改変生物の放出に対する公衆の関心や懸念が非常に強いとが見込まれるからである。
8.26 後述する通り、免許権者は、放出申請に関して、EC委員会やEC加盟国や他の諸国の所轄当局と情報交換できることとする必要がある。そのために特に必要な権限があれば、免許権者に付与すべきである。当局間で交換される情報には、企業秘密であって公表には適さないものも含む。国(英国政府)の機関は、必要であればそのような情報をOECD、UNEPプログラムその他の国際機関にも提供する権限を与えられるべきであり、国際的情報共有を可能な限り進めるべきである。
意見申述の機会
8.27 公衆には、全ての放出免許申請について、8.24で述べた地元紙または全国紙上の公告から30日以内に、免許権者に対して意見申述を行う機会が与えられるべきである。免許申請者と意見申述者には、その後出される放出委員会の勧告の写しが交付され、免許権者による最終決定に先立って勧告に対する意見申述の機会が与えられるべきである。
海洋環境
8.28 生物の海洋環境中への放出に対する規制の現行法上の根拠については、7.20で述べた。それは、遺伝子操作生物に関して我々が必要と考える規制の全てを与えるものではなかった。従って、我々は、遺伝子操作生物の放出に関して環境大臣とHSCが有する権限が英国の領海内に及ぶこととするよう勧告する。免許権者は、これらの権限を行使するに当たり、漁業担当相と協議することとすべきである。
廃棄物の投棄・保管・輸送および輸入
8.29 環境に悪影響を及ぼすリスクを最小限に留めるためには、計画された放出について8.3〜8.10に述べた事に加えて、閉鎖系施設内の作業や遺伝子操作生物にも規制をする必要がある。これには、廃棄物の適切な処理を義務付ける権限や、特定物の保管、輸送、輸入を規制する権限が含まれる。これらの権限は、このような分野を既に所掌している国務大臣たちに付与されるべきである。例えば、環境大臣には廃棄物処理に関する規制権限が付与されるべきである。直接に廃棄物処理を担当する機関に対して汚染調査局の助言を出すなどの権限を行使するに当たっては、環境大臣は必要に応じてACGMや放出委員会その他から助言を受けるべきである。遺伝子操作生物の種類が広範囲に亘るため、詳細なガイドラインが必要となる(10.9、10.10参照)。遺伝子操作生物の保管・輸送および輸入に関して同様の処置が適用される。すなわち、殆どリスクが無い生物については通常の方法で処理されるが、そうでないものに関しては特別な処理が要求される等である。環境大臣にとっては(詳細なガイドラインを策定することは)、他の閣僚やHCSが管掌する遺伝子操作生物の取り扱いや使用に関連した環境問題に充分な注意を払う必要について、かれらの注意を喚起する際に有用であろう。
遺伝子操作によらない生物
8.30 自然界に存在する生物の選択ないし使用により生じ得る懸念および、そのような懸念が今後数年間に高まる可能性について5.49で述べた。我々は、環境大臣が農業担当相他の国務大臣と協力してそのような問題を調査し、野生動物および自然に関する法律その他の現行法以上の総合的な規制を導入する事が可能かどうかにつき検討すべき事を勧告する。担当相は、現行法上の権限および今後新たに付与されるであろう権限の運用につき、放出委員会の助言を受ける事ができる。
脚注i 本章において環境大臣および環境相についての記述は、ウェールズ、スコットランド、きたアイルランドにおいて同様の権限を有する機関にも当てはまる。