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第7章 現在の法律制定の枠組み

はじめに

7.1 イギリスでは、遺伝子操作生物の環境への計画的な放出は、生物が作られた手段及び使用される目的に応じて、多数の制定法及び非制定法の適用を受ける。別の目的で案出され、いろいろな程度でGEOに適用される法律については、本章の後半で言及する。ここでは、GEOに限定して案出された法規制の進展について、概要を述べる。

自主的な取り組み

7.2 遺伝子工学から連想される潜在的な危害(ハザード)に、最初に一般的な関心が集まったのは、カリフォルニア州にあるスタンフォード大学のポール・バーグ教授(Professor Paul Berg)及び10人の高名な科学者によって、1974年7月に公表された報告書(64)によるものだった。その内容は、ある微生物の遺伝子操作について、人間の健康状態に危険を及ぼす可能性があるという理由から、世界規模での自主的なモラトリアムを求めるものだった。これによって喚起されたイギリスの一般的な関心に応えて、調査協議諮問委員会(Advisory Board to the Research Councils)によって、「微生物の遺伝子構成に関する実験的操作における潜在的利益及び潜在的ハザードについて、アセスメントを行うため」の特別調査委員会が設置された。その特別調査委員会の議長を務めたのは、王立環境汚染委員会(Royal Commission on Environmental Pollution)の最初の議長であるアシュビー卿(Lord Ashby)であった。その1975年の報告書(65)では、「遺伝子操作は多大なる利益を生むがゆえに」、そういった手法の使用は継続すべきであるが、厳正な安全対策をし、適正な封じ込めの制約下に置くことを条件とすることが推奨された。同年、ジョージ・ゴドバー卿(Sir George Godber)が議長を務めた特別調査委員会からは、「研究室内における危険な病原体の利用法」(Laboratory Use of Dangerous Pathogens)(110)という報告書が発表された。

7.3 次に教育科学大臣により、特別調査委員会が設置され、議長の席にはロバート・ウイリアムズ卿(Sir Robert Williams)が就いた。その主な目的は、「研究機関における遺伝子操作手法の利用を可能にするための中心的な諮問機関の設立を推奨し、それに関する中心的な実施準則を起草する」ことであった。これは実践され、1976年に報告された(66)。ここで推奨された諮問機関は1976年に、遺伝子操作諮問グループ(Genetic manipulation Advisory Group:GMAG)として設立された。その委任事項は、「遺伝子操作の作業に着手する者に助言を与え……リスク及び予防措置に関する継続したアセスメントを引き受け……適切な活動に関する助言を与えること」などである。GMAGでは、報告書(Reports)に加え、実験の分類のためのガイドライン(67)や閉鎖系施設のための実施準則(111)などの、一連の注釈書(Notes)が作られた。

「労働衛生安全法」

7.4 最初に規則の必要性が認められたのは、研究室における閉鎖系作業及び小規模な

閉鎖系の工業的応用に関してであった。1974年に制定された労働衛生安全法の権限によって、その作業における保護が保障され、作業活動によるリスクから、更に広範な一般の人々が保護された。この法律(次の囲み参照)により、所轄大臣は、衛生安全委員会(Health and Safety Commission:HSC)の助言に関する規則を定めることができる。これは通常、雇用大臣が定めるものである。教育科学大臣が定める場合に備え、1978年には、「衛生安全(遺伝子操作)規則」(Health and Safety (Genetic Manipulation) Regulations)が作られた。遺伝子操作を実施する際には、安全衛生庁(Health and Safety Executive:HSE)への通知が義務付けられている。この規則は、当時は考慮されていなかった環境への遺伝子操作生物の放出の可能性には関連していなかった。

「1974年労働衛生安全法」(HEALTH AND SAFETY AT WORK, ETC. ACT 1974)
当該法律により、全ての事業者は、「合理的に実行可能な範囲において、その全ての従業員の就労中の安全衛生、及び福利厚生を実現する」一般的な義務を負い、「合理的に実行可能な範囲において、その企業によって影響を受ける雇用外の人物が、これによってその安全衛生に危険が及ばないように、その事業を遂行する」義務を負う。

当該法律により、2つの法定団体、即ち、衛生安全委員会(Health and Safety Commission:HSC)及び安全衛生庁(Health and Safety Executive:HSE)が設立される。HSEの役割は、HSCの代表として権力を行使し、当該法律を実施することである。HSCには、特に次の権限が与えられる。即ち、諮問委員会の設立、研究委員会の設立、調査及び審査の実施に関するHSEへの指示、所轄大臣が安全衛生規則を作成するための助言、実施準則の認可、情報開示における保護を条件とした情報提出の要請である。改善通知書及び禁止通知書を送達する権力など、様々な権限を持つ監督官の任命には、HSEにその権限が与えられる。これに対し、事業者は労働裁判所に訴えることが出来る。

所轄大臣は、特に次についての規則を作成することが出来る。即ち、

―― 規則によって規定された物質、植物、方法についての生産、供給、使用、輸送、輸入に関する規制又は禁止、
―― 人物又は建物の登録、
―― 特定された人物に対する特定された行動の制限、
―― 労働条件のモニタリング、
―― 条件や要件の義務付け、
―― HSC又は他の特定された団体から認可を得るための要請、
―― 特定された人物に特定された事柄を通告するための要請、
―― 全ての規定から免除される規定。

7.5 労働衛生安全法に従い、HSE監督官には改善通知書又は禁止通知書を送達する権限がある。HSEの意見によると、この権限は、相応しい状況であれば、環境への遺伝子操作生物の計画的な放出にまで及ぶことが可能である。しかし、この権限は労働衛生安全法に由来するため、人間の衛生又は安全に対する害悪を防ぐためだけに行使され、自然環境への損害を防ぐためには行使されない。

遺伝子操作諮問委員会

7.6 1984年、HSCによって設立された遺伝子操作諮問委員会(an Advisory Committee on Genetic Manipulation:ACGM)は、GMAGに変わって、衛生安全委員会及び安全衛生庁、保健大臣、農業大臣、環境大臣、産業大臣、北アイルランド各大臣に対し、遺伝子操作の様々な面についての助言を与える。その内容は次の事項などである。即ち、遵守されるべき安全作業の一般基準、個別の実験作業において必要な特定の予防措置、遺伝子操作又は遺伝子操作の産物の使用に関わる研究施設などの作業現場で一般的に用いられるあらゆる管理手段の種類など。ACGMは、議長の他、取得されている専門知識により選任された8名に加えて、事業者側の代表者5名、従業員側の代表者5名などのメンバーで構成される。これによって、労働衛生安全法が労働者の安全衛生に反映される。この方面に関係している政府各省によって、アセスメント実施者が任命される。委員会はGEOに関する封じ込め実験作業及び工業的封じ込め作業に大きく関わっている。その取り組みの概略には次の要素が含まれる。即ち、

― 全ての遺伝子操作センターにおける適切な遺伝子操作安全委員会の設立、
― 諸手続きの指導及びリスクアセスメントの普及、
― 研究施設の監督、安全な実施のための助言及び強制。

ACGMは当初よりGEOの計画放出にも大きな関心を寄せている。その取り組みは、上記のものに加え、次の内容などがある。即ち、

― 専門的な事務局を備え、科学分野及び公共の利益に関わるメンバーで構成された、放出案件に関するアセスメントを目的とする、中心的で専門的な諮問機関の設立、
― 放出について許容できる協定を定めるためのアセスメントの基準と方法の開発。

7.7 ACGMによって、環境への遺伝子操作生物の放出のためのガイドライン作成を目的とした特別調査委員会が設立された。このメンバーは、各省の代表者、専門分野の科学者などを含み、主委員会のメンバーの一部も含んでいた。この特別調査委員会は後にACGM計画放出代行委員会(Planned Release Sub-Committee of the ACGM)となった。このガイドラインは1986年4月に、HSCの認可を得て発行された。そこで推奨されている内容は、次の通りである。即ち、

― GEOを放出するための全ての案件はHSEに通知されるべきである。
― 通知者は、環境への放出の結果について、通知者による最初のアセスメントを行う際、適切な科学的専門技術などを持つ適切に任命された地方団体や、適切な地方の地方環境衛生監視官によって、助言を受けるべきである。
― 試験は、ガイドラインに従って案件提出者により提供された物質に関するリスクアセスメントを基礎として、HSCに代わり、案件ごとにケースバイケースで実施されるべきである。

こういった手配は、主にHSEによって自主的に実行されているが、HSCでは、手配に関して法的な足場を固めることになる新しい遺伝子操作規則に関する案を提出している(7)。これは1989年に発効することになっている。こういった遺伝子操作生物又はある種の生物(9頁の囲み内の定義4参照)の放出を提案する者は、地方で実施されたリスクアセスメントの結果など、その案件の放出の詳細に関して、90日前にHSEに通知するように、直ちに義務付けられることになる。

7.8 ガイドラインの発行後すぐ、ACGMは計画放出代行委員会を設立した。その目的は、ガイドラインを改訂する必要がある場合に、経験に照らして助言を与えることと、個別の放出案件を、人間の衛生のみではなく、動植物の衛生と環境一般についても考慮に入れ、遺伝子操作の様々な面を考慮に入れるための特定の基準によって吟味することであった。代行委員会は、現在はブリストル大学のJEベリンジャー教授(Professor J E Beringer)が議長を務めており、DOE、MAFF、保健省(Department of Health)、自然保護審議会(Nature Conservancy Council)、 自然環境研究委員会(Natural Environment Research Council)の代表者に加えて、遺伝子工学に従事している科学者及び適切な知識を持った他の専門家などから成っている。近年、代行委員会の名称が変わり、計画導入代行委員会(Intentional Introduction Sub-Committee)となった。

7.9 代行委員会は、1989年3月末の時点で、12件の放出案件についてアセスメントを行った。年に約5件が処理され、それぞれ詳細に吟味された。これまで吟味されたケースは、一層の研究開発のために情報を得ることを意図した実験的放出の案件に関わっていた。このおかげでACGMでは、リスクアセスメントや審議の手配、モニタリングに関する推奨された手続きの開発が可能となる。全てのケースで、代行委員会の議決は満場一致でなされた。現在まで、1案件が退けられ、他には代行委員会の見地に合致するように修正されている案件もある。この種の手配は自主的になされているにもかかわらず、代行委員会に事前通知もなく、その認可も受けずに実施される放出は無いことが分かっている。

関連する他の法律制定

製品管理

7.10 「1985年食品環境保護法」(Food and Environment Protection Act 1985)により、各大臣(*)は農薬の輸入、販売、保管、使用、宣伝、を管理する規則を作成する権限を与えられる。大臣は、こういった職務の執行について、この法律に従って作成された規則により設立された農薬諮問委員会(Advisory Committee on Pesticides)から助言を受ける。委員会の事務局はMAFF及びHSEにより手配される。その管理手段は「害虫駆除のために調合又は使用された物質、調合薬、生物、及び定められた物質、調合薬、生物」に適用され、人間、動植物の健康を保護し、環境を保護するために行使される。遺伝子操作生物について、この法律に具体的な言及はないが、適用範囲内であると思われる。この1986年の法律に従って作成された規則により、製品としての農薬の販売又は供給についてだけではなく、野外試験についても、許可を得ることが義務付けられている。ある種の野外試験は免除されるが、その免除は遺伝子操作生物の試験には適用されない。その場合は全て許可が必要である。さらに、遺伝子操作された農薬に関して、農薬の規定に従い許可が下りる前に、ACGMの認可を得ることを申込者に義務付ける結論が、各大臣によって出された。これは遺伝子工学が大いに発展するためには、目下のところ重要な保護手段である。

*農業・漁業・食糧大臣、環境大臣、保健大臣、雇用大臣、スコットランド大臣、ウェールズ大臣、北アイルランド省

7.11 「1968年医薬品法」(Medicines Act 1968)により、ほとんどの薬効がある製品は、販売又は供給の前に免許を受けるよう義務付けられている。この法律は特に次に適用される。即ち、免許の条件、検査及び試験の必要条件、製品の製造及び卸売り、ラベリング及び梱包である。獣医の使う医薬品及び薬品の入った動物用飼料も、医薬品法の免許及び証明書規定の統制を受ける。この法律により、衛生及び農業に関する権力の行使について責任のある大臣に助言するために、医薬品委員会(Medicines Commission)が設立され、個々の問題に応じて大臣が委員会を指定するよう規定される。指定される委員会の1つは、医薬品安全性委員会(Committee on the Safety of Medicines)、もう1つは獣医用製品委員会(Veterinary Products Committee)である。後者によって行われる、獣医の使う医薬品の安全性に関するアセスメントでは、その医薬品を用いた結果とそれを用いた際の環境中での代謝産物とが考慮される。

7.12 食品及び食品添加物は、免許及び証明書による生産管理を受ける必要はない。しかし、実際は食品法があるため、各大臣は、人が消費する食品に含まれるすべての物質について、及びそのような食品を用いた製品又は調理における扱いについて、その使用を禁止又は規制することができる。添加物は、食品に含まれるものも、動物の飼料に含まれるものも、記載された物質のみ使用を許可するEC指令(EC Directives)によって管理される。

7.13 上述したものを含め、生産管理は、遺伝子操作生物が製品となったり、製品に含まれたりすることに対応するように意図されていなかった。ほとんどの場合、その種の製品を網羅する程度には、生産管理の範囲は広いように思われる。とはいえ、遺伝子操作生物に対する生産管理の使用について、裁判所で異議申し立てをされる可能性がないというわけではない。しかし、製品の中には法律で定められた管理が必要ないものもある。

動植物の病原体及びヒト病原体の管理

7.14 「1967年植物衛生法」(Plant Health Act 1967)に従って公布された「1987年植物衛生(大ブリテン島)命令」(Plant Health (Great Britain) Order 1987)の中に、遺伝子操作された素材の保持、販売、植え付け、放出、出荷又は処分に関する禁止令がある。ただし、農業・漁業・食糧大臣によって許可された免許がある場合を除く。この命令の目的に従い、「遺伝子操作された素材」は、病原体などの植物害虫に関して、それに関わる又はそれを産する又はそれを改変する作業に照らし合わせて定義される。「1980年樹木害虫(大ブリテン島)命令」(Tree Pests (Great Britain) Order 1980)及び「1980年材木樹木樹皮(衛生)輸出入(大ブリテン島)命令」(Import and Export of Trees, Wood and Bark (Health) (Great Britain) Order 1980)もまた、植物衛生法に従って公布され、その中に、樹木害虫に関連する遺伝子操作及び遺伝子操作された素材に関する同様な言及がある。

7.15 現在は「1981年動物衛生法」(Animal Health Act 1981)に統合された法律に従って作成された「1980年動物病原体輸入命令」(Importation of Animal Pathogens Order of 1980)により、動物病原体又は病原体を運ぶ可能性がある組織の輸入は規制される。動物に重大疾病が発生した場合、この法律に従い、群ごとの畜殺及び研究室又はその他の感染源の消毒に関する規定に基づいて通知しなければならない。

7.16 「公衆衛生(疾病管理)法」(Public Health (Control of Diseases) Act)により、ある種の人間の疾病に関する研究については、保健省(DH)への通知が義務付けられる。危険なヒト病原体に関わる研究又は診断作業は、すべてDHへ通知される必要がある。列挙されたある病原体を保持又は扱う意図のある者、あるいはその施設間の運搬を意図する者は、労働衛生安全法に従って作成された「1981年衛生安全(危険病原体)規則」(Health and Safety (Dangerous Pathogens) Regulations 1981)に従い、HSEにそれを通知する必要がある。公衆衛生法に従って作成されたその他の規則により、統制されていない又は偶発的な放出、もしくは人間の死亡原因となったり、健康に損害を与える原因となったり、傷害の原因となったりする可能性のある物質又は病原体の逸出(いっしゅつ)に関して、最も迅速な手段によるHSEへの通知が義務付けられる。

トランスジェニック動物

7.17 内務省(Home Office)により執行された「1986年動物(科学的手法)法」(Animals (Scientific Procedures) Act 1986)により、「保護された動物に対して施される、動物に対するあらゆる苦痛、又は永続的な害悪の原因に影響する可能性のある実験的又は科学的手法」が規制される。この法律は、保護された動物の「誕生又は孵化について、それを目的とした行為又はその可能性のある行為」に適用される。故に、広い範囲の動物に対して遺伝子工学的手法を応用する場合に、この法律が適用される。トランスジェニック動物からの育種は、その子孫に悪影響が出る可能性がないと証明されるまで、免許を必要とする規制された手法であるとみなされる。トランスジェニック動物を環境へ放出すれば、その動物は規制された手法から外れたものとみなされる。従って、その動物が健康に生活できるという内務省の納得が得られるまで、放出の合法的な実施は不可能となる。近年HSCで発行している、トランスジェニック動物を用いた研究のためのガイドライン(68)は、動物の健康生活の面ばかりではなく、研究者などの人間、動物、環境の安全を確保するために必要な予防措置をも網羅している。

「野生生物田園法」

7.18 DOEにより提唱されている(137)のは、「1981年野生生物田園法」(Wildlife and Countryside Act 1981)の権限を、原則として、一定種類の遺伝子操作生物の環境への放出の管理のために用いることが出来るということである。この法律により、大ブリテン島に通常は生息しない、又は定期的に訪れることのない動物の原野への放出、及び記載された外国産の植物の植え付け又は原野で成長させる他の方法が規制される。しかし、この法律をGEO放出の管理のために用いるのは、この法律の目的をも、解釈をも曲げることだと思われる。

7.19 近年DOEは導入暫定諮問委員会(an Interim Advisory Committee on Introductions)を設立し、その議長の席にはケネス・ブラクスター卿(Sir Kenneth Blaxter)が就いた。その目的は、(すでに現行の生産管理の対象となっているもの以外の)新しい生物及びウイルスの放出における生態学的な関連について所轄省に助言し、HSEやACGMなどの政府機関の請求に応じ、生態学的な助言を行うことである。

海洋環境

7.20 「1985年食品環境保護法」の第2章に従い、海中に物又は物品を投棄するためには、漁業に関して責任を持つ所轄大臣から免許を受けることが義務付けられている。目的を考えれば、所轄大臣が顧慮しなければならないのは、海洋環境と、それを土台とする生物資源と、人間の衛生とを保護する義務である。MAFFの助言によると、この法律における「物」という用語は、暗に、遺伝子操作されたものを含む、生きている生物に及ぶ(131)。

損害に対する責任

7.21 「1987年消費者保護法」(Consumer Protection Act 1987)の第1章により、欠陥製品が原因となる損害に対する責任のための規定が作成される。この法律には、製品又は製品の一部として使用された遺伝子操作生物については、明確に言及されていないが、GEOが、この法律で意図される製品とみなすことを妨げる記述は明らかに無い。この法律によって、ある製品のために、人的な損傷を受けたり、一定の状況下で財産に損害を受けたりした人物は、その製品の生産者又は輸入者に対して訴訟を起こすことが出来る。しかし、その際、そのような訴訟に対して、科学的知識及び技術的知識についての陳述など、一定の抗弁をすることが出来る。野生の動植物や公共用地への損害について、この法律に従って訴訟を起こすことが出来るかどうかは疑わしい。

7.22 上記の文脈で、コモンローが予防的に機能する可能性はないが、もし損害が生じれば、被害にあった関係者は、ネグリジェンス(過失)、ニューサンス(不法妨害)、ライランズ対フレッチャーRylands v. Fletcher)の判例で示された原則(112)に基づき、コモンロー訴訟を試みることが可能である。ライランズの判例では、「もし逸出(いっしゅつ)したら害をなすであろうような物を自己の土地に持ち込み、集積し、かつ保存する者は、その物を自己の危険において閉じこめておくべきであり、もしそうしなかったならば、その者は、特段の事情のない限り、その逸出(いっしゅつ)の自然的結果たるすべての損害につき責任を負う」という判決が下された。この原則は、ネグリジェンスに対する責任とは性質が異なるが、厳格責任の1形式を作る。その狙いは偶発的な放出に向けられると思われ、裁判所でこの原則が、遺伝子操作生物の計画的放出に適用できるものとみなされるかどうかは定かでない。いかなる場合でも、原告が、原告の損失とGEOの放出との間の因果関係を証明するのは困難であろう。とはいえ、マーカーの使用(パラグラフ6.36)などの発達に助けられる場合もある。

現在の枠組みの長所と短所

7.23 法律により定められた措置で、原則として、遺伝子操作生物の環境への放出を管理するために用いることが出来るものは、充分に多く存在する。そのほとんどは、主に、販売又は供給、及び製品の使用の管理を目的として作られたのだが、(農薬などの)製品開発のための試験的な放出の管理にも用いられる可能性があり、また実際に用いられている場合もある。しかし、こういった措置でGEOについて明確に言及するものは稀で、その多くは遺伝子操作の手法が実用化する前に実施されるので、それをGEOの放出の管理に用いることが可能かどうかは疑わしいという場合もある。それぞれの措置には、その生物への適用範囲に限界がある。措置を全て束にしても、全種類の生物には適用できないことが明白である。あらゆるカテゴリーの遺伝子操作生物の放出について、その管理を明確な目的とした新しい法律を制定することが、明らかに必要である。

7.24 ACGMの発行した放出に関する自発的通知のためのガイドラインは、直ちに制定法により保証されるものと期待されるが、遺伝子操作生物の放出に関するアセスメント及び管理を、矛盾のない協調的な方法で行うための基盤が、それによって提供されるには、しばらく時間がかかる。にもかかわらず、労働衛生安全法の適用対象となるのは、自然環境にリスクをもたらす放出の管理ではなく、人間の衛生又は安全に影響のない放出の管理なのである。このため、別個に新しい権限が是非とも必要となる。次章では、遺伝子操作生物の計画的放出を規制するために必要と思われる管理手段について述べる。


付録6

GENHAZ調査委員会

 本試験の期間中、
遺伝子操作生物の放出に関して、HAZOPというリスク確認手法の適用の可否を検討する調査委員会が設置された(パラグラフ6.17)。ここに同委員会の委員のお名前を列挙し、The Royal Commissionの謝意を表する。

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