前へ | 次へ

5.4 次世代バイオ・ファティライザーとしての植物共存型および自由生活型微生物

5.4.1 背景

 植物と密接な関係を持つ多数の微生物に関する情報が、研究によって増加するにつれて、微生物をバイオ・ファティライザーとして使用する機会が、新たに生まれるであろう。この研究の多くは、生態生物学および分子生物学の発達により推進されてきた。分子生物学者は新しい技術を用いて、微生物群のダイナミクスやバイオ・ファティライザー用微生物のような有益種を導入する試みがなされた場合に、これら微生物群はどうなるかについての理解を深めてきた。さらに、植物学者や微生物学者は、植物と微生物間の分子レベルでの相互作用について慎重に研究を進めている。これらの研究によって、多数の新しい微生物性バイオ・ファティライザー候補が見出されるであろう。本項では、将来のバイオ・ファティライザーとして研究されている幾つかの微生物群について論ずる。
 植物は植物共存型微生物の広い多様性を支えている。植物共存型微生物には植物着生生物が含まれ、この生物は植物体内で共存する内部寄生菌と同様に、葉や苗条(葉圏)や根(根圏)との密接な共存関係を持っている。これらの生物を直接バイオ・ファティライザーとして使用することや、植物の生育を促進する特異的な遺伝子の運搬システムとして活用することに関して、現在多くの努力がなされている。

5.4.1.1 内部寄生菌

 真菌性および細菌性内部寄生菌も、バイオ・ファティライザーとして活用できるある種の特性を有する。内部寄生菌の商業利用の一例は、真菌のAcremonium種である(SiegelとSchardi、1991年)。この内部寄生菌が生息するウシノケグサは、干ばつに対してより強い耐性をもつ。その作用形態は明らかではないが、植物寄生性線虫などの土壌害虫の駆除に関連する可能性がある。残念ながら、この真菌は、多くの家畜に対して中毒を誘発する多数の毒性化合物も産生する。中毒の原因となる化合物を減量したり除去するための改変株が開発されている。
 内部寄生菌は、植物との間に緊密な共存関係を作っているので、植物の生育を促進する遺伝子産物の運び手として理想的な候補である。トウモロコシの鱗翅類害虫の駆除に有効なBacillus thuringiensisのδエンドトキシンを発現する細菌性内部寄生菌の改変体の開発が、現在進行中である。この内部寄生菌は害虫駆除に利用されているが、植物の生育促進に利用できる生物学的運搬システムとしての形態を明示している。

5.4.1.2 L型細菌

 ある条件の下では、細菌の細胞壁合成が妨害されることがあり、その場合には、細胞は自身の細胞壁がないままに増殖し分裂し続ける。これらの細菌増殖型、すなわちL型は1930年代に初めて報告されている。最近になって研究者は、これらが遺伝子改変により作物を改良できる可能性に気づいた(Madoff、1986年;Maxsted、1972年)。L型は植物と緊密な共生関係を築くことができる(PatonとInnes、1991年;Amijeeら、1992年)ために、特定の遺伝子産物を運ぶための理想的な生物学的運搬システムである。細胞壁を欠いていることは、成長促進因子などの特異的遺伝子産物の分泌効率を大いに向上させるはずである。

5.4.1.3 自由生活型細菌

 多種多様な植物共存型、および自由生活型細菌類が、植物の成長を促進する物質を産生することにより農業に有益性を与える可能性が示されてきた。植物成長促進根粒細菌(PGPR)という用語は、根圏に活発にコロニー形成を行うような潜在的に有益な生物を表す。これら細菌のうちの幾つかは、植物の生育を促進するような生体制御性を発揮する(Kloepperら、1991年)が、多くのものは、バイオ・ファティライザーとして作用し植物ホルモン(例:オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、エチレン、アブシシン酸)を産生する。これらの自由生活型細菌には、Arthobacter属、Pseudomonas属、Bacillus属、Mycobacterium属の種が含まれる。BurrとCaeser(1985年)は、バイオ・ファティライザーや他のPGPRについての重要なレビューを発表している。自由生活型であり有機栄養性窒素固定細菌であるAzotobacter属と、植物共存型のAzospirillum属も植物ホルモンを産生するので、これらの最低レベルの窒素供給能よりも、むしろこの点においてバイオ・ファティライザーとしての可能性を有しているであろう。
 その正確なメカニズムは明らかでない。考えられるメカニズムとしては、根の病原体の生物学的制御や成長促進因子の分泌がある。また最近の研究から、これらの生物が宿主植物の全身的耐性を効果的に誘発している可能性が示された。少なくとも一カ国(中国)で、商業的なPGPRの開発が成功している。それは収穫量増産性細菌(またはYIB)と呼ばれるBacillus属の1種である。
 Azospirillum属の細菌は、数種の牧草と、コムギ、サトウモロコシ、トウモロコシなどの穀類の根にコロニーを形成する。特別な環境条件下で、Azospirillumを接種した植物の作物収穫量が増加している(Sumner、1990年)。生化学と遺伝学を組み合わせたアプローチによって、A. brasilenseの遺伝子発現が、植物根の滲出物に影響を受けることが判明し(Van Bastelaereら、1993年)、ならびに状況証拠によって共存の定着性を調節する特異性メカニズムの存在も示唆されている(Del GalloとFendrik、1992年)。
 Azospirillumをベースとした接種材は小さな産業規模で生産されている。剤型化の技術には、液状接種材と、滅菌処理済みの個体担体(例:泥炭、バーミキュライト、ポリマーベースなど)上に吸収させた製品がある。植物の生育促進効果には、通常、1種子あたり相当数の細胞(トウモロコシの場合は105〜106個)が必要である。Azospirillumについて実施された広範な生態学的調査はこれまで殆どないが、毎年ごとの接種が有用と思われる。なぜならば、Azospirillum属は殆どの土壌で非常に低レベルで生残しているからである(BashamとLevanony、1990年)。

5.4.2 スケール・アップへの安全性事項

 これら植物共存型、および自由生活型微生物のスケール・アップにおける一般安全事項ならびに潜在的な影響は、他のタイプの微生物バイオ・ファティライザーと同様である。これら多くの微生物を用いた商業使用や実験からは、この生物群に独特な安全性事項は示されていない。宿主範囲の狭い偏性共生生物は、この特異性のために環境問題を引き起こすことは殆どない。多くの土壌環境では、炭素が不足しているため、自由生活型微生物も環境問題を引き起こすことはまずない。

前へ | 次へ