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5.5 藻類バイオ・ファティライザー

5.5.1 背景

 土壌藻類は、藍藻類(藍色細菌)、緑藻類(緑色植物)、黄緑藻類(黄色植物)、珪藻類(ケイソウ)の主な4群からなる。
 土壌藻類は、光、二酸化炭素、水、無機栄養素しか必要としない自家栄養代謝を行うため、岩肌における主要なコロニー形成者として、また植物のないところでの主要なコロニー形成者としての重要な役割を果たしている。藍藻類の光合成能および大気中の窒素固定能は、生態学に非常に重要なばかりでなく、バイオ・ファティライザー微生物としての使用価値が高い見込みがある。一般的には、バイオ・ファティライゼーションとは定義されないが、ChlamydomonasAsterococcusなどの特にパルメロイド形成緑藻類による細胞外での多糖類産生も、土壌状態を改良する目的で利用できる(Mettingら、1988年)。
 バイオ・ファティライザーが、土壌−植物系に固定窒素を供給する際に最も重要な藍藻類は、ニトロゲナーゼ活性のための特異的な部位(異質細胞)を有する繊維状属である。Anabaena属、Nostoc属、ならびにSesbania属などの繊維状藍藻類のバイオ・ファティライザーとしての特性を使用することは、しばしばアルガリゼーションと呼ばれており、東南アジアやインドで実用化されている(Venkataraman、1981年)。
 アルガリゼーションがもたらす推定窒素固定率の推定値(25〜30kg N ha‐1y‐1)(Venkataraman、1981年)は、優れたデータは殆どないものの、おそらく概して妥当な数字と考えられる。アルガリゼーションによる窒素の投与効果以外の恩恵としては、有機物含有量の増加(特に土壌状態の調整に関係する)や、利用可能なリン量の増加が挙げられる(RogerとWatanabe、1986年;WatanabeとLiu、1992年)。
 藻類のバイオ・ファティライザーとしての利用を制限している主要な要因は、湿度、pH、および光に関するものである。ほぼすべての藻類は、水圧に敏感であり、アルカリ性条件を好む。藻類をバイオ・ファティライザーとして有効に利用することは、通常は熱帯地方の水田方式での浸水土壌に限定される。

5.5.2 スケール・アップへの安全性事項

 アルガリゼーションを広範に商業利用するための当面の適用範囲は、殆ど見出されない。RogerとWatanabe(1986年)は、自由生活型の藍藻類の商業使用が、Anabaena-Azollaやマメ科植物の共生生物よりも可能性が低い、と結論している。特にAnabaenaなどのCyanobacteria類は、ヒトや動物に有毒な肝毒素や神経毒を産生するという証拠があるものの、遺伝子改変を施さない藻類の接種材に対する今までのフィールド試験から、深刻な安全性事項がないことが、さらに示唆されている。除草剤耐性、および/または和合性的細胞溶質の過剰産生などを目的とする遺伝子の導入や、窒素肥料の存在下での藻類のニトロゲナーゼの抑制解除の維持を促進する機構のための遺伝子導入などの遺伝子改変によって、将来的にはスケール・アップも容易になるかもしれない。安全性事項には、外来遺伝子の安定性や運命、そして栄養素循環に与えうる影響がある(3.1.3.3.4項を参照)。さらに、藻類の接種が灌漑と関係しているので、使用地域からの拡散性も懸念材料となりうる。
 これまで得られた経験から、在来株が優位なので藻類の接種材はなかなか定着しないことが示唆される。今後スケール・アップに進むべきか否か、ならびに今後の安全性事項がどのようにあるべきかを決定づけるためには、接種された藻類と在来藻類との間の競争関係を理解する必要がある。

注 釈

  1. 環境の安全性には作業環境、したがってヒト/作業員の安全性問題も含まれる。
  2. バイオ・ファティライザーは、有益な生きた微生物(例:細菌、真菌、または藻類)製剤として定義され、それらは植物成長調節因子やミネラルなどの物質を供給するなどして、植物の成長を直接的に促進または支援するものである。
  3. スケール・アップには、閉じ込めのない(天然のバリアや自然な農業慣行を除き)効力評価、より詳細な検査、ならびに、特別な閉じ込め措置を利用できる基礎的かつ予備的なフィールド調査を超える証明試験が含まれる。

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