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5.3 リン酸溶解性真菌

5.3.1 背景

 リンは植物の必須栄養素である。可溶性の状態では得られないため、多くの土壌では作物の生育を抑えている。細菌(Tahaら、1969年)、真菌(KhanとBhatnagar、1977年)、放線菌(Raoら、1982年)が、土壌中のリン酸を可溶化して、その結果、農業に有益性を与える可能性が生まれている。多種多様な微生物がリン酸可溶性を示す。本項では現在のところ北米のみで市販されているリン酸可溶性バイオ・ファティライザーに重点を置いて論ずる。使用する微生物はPenicillium bilaiiの株のひとつである(従来はP. bilajiであった)。
 食品着色料を混ぜたP. bilaiiの真菌胞子、あるいは多孔性顆粒状担体の小孔に入れた胞子を、接種材として用いている。真菌は標的作物の根にコロニーを形成し、根圏付近に有機酸を分泌して、その結果通常は、不溶性の無機リン酸の可溶化と摂取が可能となる(Kuceyら、1989年)。カナダでP. bilaiiを接種したコムギとソラマメで、リン摂取量の増加が報告されており、生態への悪影響は指摘されていない。(Kucey、1987年)。土壌への無機リンの放出におけるこれら微生物の役割が記載されている(Kuceyら、1989年)。

5.3.2 一般安全性事項

 作物用植物へのP. bilaiiの接種に関する安全性事項は、農業環境へのあらゆる微生物の導入に関する安全性事項と同様である。P. bilaiiは、普通に生息が見られる土壌性真菌である。マーカー遺伝子あるいは抗生物質耐性を有する株の開発や使用はなされておらず、導入真菌から在来性真菌への遺伝子転移(遺伝子移入)への懸念は、現在のところ最小レベルである。

5.3.2.1 在来性微生物群との競争

 真菌株を接種した後の地中での生残性および残留性についての研究が実施されてきている。その結果は、根圏内でP. bilaii類似の微生物の増加を示している。その微生物群は、接種された作物用植物の列から離れるほど減少し、P. bilaiiの数は作物の収穫後に元の基準レベルに戻る。さらに詳しい研究の結果、P. bilaii真菌はVA菌根菌類や根粒菌類と共存できることが示された。また研究によりP. bilaiiは抗生物質を産生しないことが示唆された。

5.3.2.2 植物病原性

 P. bilaii真菌は植物組織には侵入せず、接種場所から周辺土壌へ大きく伸張せず、さらに毒素や毒性代謝産物も産生しない。研究施設やフィールドでの試験から、P. bilaiiの接種は標的作物の発芽や発生を低下させたり遅らせたりしないことが示された。

5.3.2.3 ミネラル循環

 過去にロシアで行われたリン酸溶解性生物についての調査から、有機結合したリンの可溶化が引き起こす土壌有機物への悪影響が示された。また研究からP. bilaiiは無機リンのみを可溶化することが示された。

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