3. リスク/安全性の分析およびリスク・マネジメント
序章において宣言したように、バイオテクノロジーの安全性は、リスク/安全性の分析、およびリスク・マネジメントの適切な適用によって得られる。ファミリアリティーの概念は、潜在的悪影響の同定(例:ハザードの同定)、これらの悪影響に伴うリスク・レベルの判断、およびリスク・マネジメントの方法の採用に活用されるため、評価の全段階において主要な要因である。全般的な安全性評価の手順の概要を以下に示す。
a)リスク/安全性の分析
b)リスク・マネジメント
3.1 リスク/安全性の分析
本節では、新しい分子技術が開発したバイオ・ファティライザーの試験と使用のスケール・アップ過程に属する環境安全性の問題について述べる。また、リスク/安全性の分析の観点から潜在的悪影響についても考察する。微生物(バイオ・ファティライザーとして考慮されているものも含む)は、潜在的悪影響を同定してリスクを評価するために考慮する必要のありうる生物学的特性を本来的に有している。
リスク・レベルは、潜在的あらゆる悪影響やその規模を考慮し、さらに暴露レベルや予想されるその悪影響の発生頻度を評価することで判断される。
3.1.1 暴露についての考慮事項
バイオ・ファティライザーへの暴露は、i)生残性、残留性、拡散性、ii)遺伝子転移の2つの状況から考慮されるべきである。これらの考慮事項は、潜在的悪影響が同定された場合には特に重要である。
3.1.1.1 生残性、残留性、ならびに拡散性
一般的に、土壌に導入された微生物は、相対的に安定した低い個体群密度を長期間持続する傾向にある。高い個体群密度での持続性を促進する方法は、そのバイオ・ファティライザーが安全に使用された前歴がない場合は避けられるのが普通である。持続的高密度状態に由来するリスクの潜在的増加を、通常の農業慣行が引き起こす揺動に関連して考える必要もあろう。さらに、土壌の微生物密度の完全な理解なしには、そのような揺動の評価能力は限定される。
導入された微生物の数とその生残の可能性は、その環境でバイオ・ファティライザーを使用する前に考慮すべき重要な要因である。フィールド試験の規模は空間的かつ時間的であり、悪影響が同定された場合には、そのどちらの性質も、暴露の増大、つまりリスクの増大によるものである。他の安全性要因に関して考慮すべき情報を得るために、研究施設および小規模フィールド試験を実施することも有用であろう。
フィールド試験の最初の影響は、試験場所の数や大きさ、さらに導入された微生物の量に左右される。殆どの微生物が特殊な生態学的地位を占めているため、個体群の大きさは適した微小生息域があるかどうかに左右され、適用場所内で様々な大きさをとる。例えば、他の微生物が、特定の植物の根系付近の土壌に生息するのに対して、ある微生物は葉の表面に生息する。
いったんバイオ・ファティライザーが導入されると、その残留度は多岐にわたりうる。導入後、多量の微生物が適用する可能性があると同時に、その環境に適応できない可能性もあるため、通常は、始めに数が急速に減少する。生残性と残留性の評価は、個体群のレベルをモニタリングすることで予測できる。生残性に影響を与えうる要因には、気候や季節の変化、宿主の有無、土壌要因、および土壌管理の実施慣行がある。
非標的の環境への拡散を確実に最小限に抑えるために、あるバイオ・ファティライザーの拡散度に関係する幾つかの要因を考慮すべきである。第一次拡散の媒体として風を用いた散布による適用など、幾つかの適用方法は、種子の接種よりもより広い範囲で土地の上方と下方に拡散することになる。水は、植物と土壌系の第一次拡散の媒体であるため、土壌水の存続期間は、鍵となるもうひとつの要因である。一般的に、微生物は湿った土壌に応用された場合や、激しい雨や灌漑のなかで接種が行われた場合に、より広く拡散するようである。土壌の排水や、土壌に生息する動物を通して接種材の拡散が生じることが、スケール・アップを考える上で、おそらく重要であろう。特にミミズ、線虫、原生動物などの土壌に生息する動物は、重要な拡散媒体であり、消化管経由で直接的に、またミミズの通路にそって流れる水を経由して、間接的に作用する。他の生物学的な要因には小哺乳類、鳥類、昆虫、軟体動物がある。風や農機具などの物理的な要因もバイオ・ファティライザーの拡散に貢献している。
3.1.1.2 遺伝子転移
遺伝子転移は、環境内の微生物間で起こる。バイオ・ファティライザーのフィールドへの導入は、形質の接合、導入、転換を通して起こりうる遺伝子転移を引き起こす可能性がある。形質の接合とはある微生物から他の微生物への遺伝材料の直接転移であり、形質の導入とは、ウィルスを介した遺伝材料の転移であり、形質の転換とは、微生物によるDNAの直接取り込みである。
生態学的に著しい遺伝子転移を起こすには、幾つかの条件を満たさなければならない。はじめに、所定の空間的、時間的な制約内で遺伝子転移が統計学的に可能であることを裏付けるために、受容生物の個体群密度や遺伝子転移の頻度が著しく高い必要がある。次に、いったん遺伝子転移がなされたら、それが受容生物内で機能しなければならない。最後に、その遺伝子は、受容生物の遺伝子プールの中で生存しなければならない。これら3条件を全て満たす状況は殆ど存在しないと思われる。
遺伝子転移について、研究施設や小規模フィールド試験から得た情報は、バイオ・ファティライザーのスケール・アップに伴うリスクの評価に活用される。しかしながら、複雑な土壌の環境における遺伝子転移の発生を予測することやその頻度を判断することは、非常に困難である。そのため、殆どの場合に、遺伝子のコンストラクトは、最小限のハザードと最小限のリスクを予測可能とするために、遺伝子転移の可能性を最小限に抑える方法で設計するべきである。遺伝子のコンストラクトを設計する際に、研究施設や小規模フィールド試験で遺伝子転移を検出できる方法をとることが可能かもれない。在来性微生物への遺伝子転移により、自然状態で、あるいは管理下で、競争上の優位性が著しく高まった場合には、追加措置をとるべきである。
3.1.2 規模依存性についての考慮事項
科学的な観点から、スケール・アップ(備考5を参照)は、推測の有効性やあるいは研究施設や温室での実験や小規模フィールド試験の間に達した結論を検査するのに必要であろう。さらに、スケール・アップは、商品開発に不可欠なプロセスであろう。
小さな違いや可能性の低い事象を検出しそこなうことは、過去に行った「小」規模の実験のためであり、スケール・アップのためのバイオ・ファティライザーの開発は、あらゆる種類の潜在的悪影響を同定するために用いられる方法の感度、および制限度を勘案するべきである。つまり、暴露の増大により、スケール・アップがまれな事象や効果の検出力を改善するかもしれない。モニタリングに関しては、適切であれば実施し、リスク/安全性の分析で生じた特定の疑問に答えるために必要なデータを提供できる。
3.1.3 潜在的悪影響
微生物と環境へのファミリアリティーに基づき、可能性のある効果の同定は、リスクを増大させることにつながる潜在的悪影響が存在するかどうかを判断するうえで鍵となるであろう。効果がすべて有害であるというわけではないが、暴露の増加と結び付いた効果は、その結果、リスクを増大させ、スケール・アップに先立つ管理の展望から注意深い考慮が必要であろう。以下の項では、遺伝形質の影響、標的への影響、非標的への影響の3分野における影響を概要する。
3.1.3.1 遺伝形質の影響
バイオ・ファティライザーとして利用されることになった微生物の特異的形質、および出現しうる独特な形質についての考慮は、スケール・アップの適用の際に、リスクを増大させる可能性のある、潜在的悪影響の存在を判断するのに役立つであろう。そのような場合、適切なリスク・マネジメントの実施規範が適用される必要がある(第3.2項を参照)。
3.1.3.1.1 機能性遺伝子
機能性遺伝子由来の起こりうる形質効果の例としては、環境内での競争の高まり、標的植物との相互作用の増加、有害な条件に対する耐性の増加、植物の成長を促す物質の産生力の向上、などが挙げられる。
新しい形質による効果は、発現される遺伝子や環境の複雑な状況によって異なるため、あるバイオ・ファティライザーの特異的な形質に影響を与える遺伝子の導入や、改変に伴い起こりうる悪影響とリスクは、ケース・バイ・ケースで評価されるべきである。新しい形質による悪影響やリスクの可能性は、一般的に以下のような場合に最小限に抑えられる可能性がある。
3.1.3.1.2 選択マーカー遺伝子
研究施設内での選択を目的として、あるいはフィールド内での検出のために、放出する微生物には多種多様な選択マーカー遺伝子が用いられている。抗生物質耐性遺伝子(例:カナマイシン)は最も広く利用される選択マーカー遺伝子であるが、重金属(例:水銀やカドミウム)や毒素への耐性には、それぞれ多少の違いが見られる。
リスク/安全性の分析を実施するなかで、異なるマーカー遺伝子が、潜在的悪影響を引き起こすことがある。従って、同定した悪影響に伴うリスクをケース・バイ・ケースで評価することが重要である。可能性のある悪影響には、特定の環境内の微生物に選択の利点を与えたり、ヒトや動物に病原性を持つ微生物に抗生物質耐性遺伝子を転移したりする(直接、または他の在来微生物を介して)ことがある。さらに具体的に言うと、臨床や動物治療に有用な抗生物質に対する耐性を、他の生物に転移することは、重大な結果を招きかねない悪影響として同定されている。特殊環境に在来の他の微生物内にすでに存在するマーカー遺伝子を、研究施設で使用することは、どのような同定済み悪影響が引き起こすリスクも、最小限に抑えるようである。
3.1.3.1.3 非選択マーカー遺伝子
バイオ・ファティライザーをフィールドで検出する際には、非選択マーカー遺伝子も有用である。より広く使用されている遺伝子には、比色定量アッセイで検出可能な酵素をコードする遺伝子(xyIE、lacZY、gus)や、発光により検出可能な酵素をコードする遺伝子(lux)がある。しかしながら、挿入したシークエンスに加えて、特異的なコード化や、すでにゲノムに存在する「無意味な」シークエンスも、マーカーとして使用できる。現在までに得られている限られた経験から言えば、これら選択不能なマーカー遺伝子の使用に伴う特殊な悪影響は発現していない。
3.1.3.1.4 調節遺伝子の影響
他の遺伝子の調節に影響を与える調節シークエンスの改変についても、検討がなされるべきである。例えば、特に関係する遺伝子以外の遺伝子に作用する可能性のあるシークエンスについては、潜在的悪影響を評価すべきである。
3.1.3.2 標的への影響
3.1.3.2.1 競争力はあるが効力の劣る菌株の作出
形質のあらゆる悪影響を明らかにし、新しい菌株の目的とする機能を確認するためには、菌株を導入した作物用植物の収穫量を評価するために設計されたフィールド試験が必要である。これは主要な考慮事項であり、上位の菌株を開発する場合には考慮に入れるべきである。
フィールド試験時に行われる伝統的なバイオ・ファティライザーの改変は、競争力はあるが効力の劣る菌株の開発につながる。これら菌株との間の競争は、その後の接種材や、在来性微生物の個体群の置換の要素の効果的利用を妨げる可能性がある。
3.1.3.3 非標的への影響
3.1.3.3.1 在来性微生物群への影響
土壌に導入されるバイオ・ファティライザーの効果的な接種がなされた場合、一般的に在来群の部分的な置換が起こる。この置換は、通常短期間であり、導入個体群のごく一部分だけが長期間生存し、在来群は事実上接種前の水準にもどる。置換の範囲と期間は、接種材のタイプや導入された部分によって異なる。
機能微生物の多様性、すなわちプロセスレベルの変化に関しては、置換による影響を考慮するべきである。例えば、置換は栄養素の循環、農薬の分解、あるいは他の有効な植物と微生物間の相互作用にかかわる鍵となる在来種に影響を与える可能性がある。プロセスレベルの影響は、最も発生しやすいようであり、もともとの微生物群においては、殆ど多様性が見られない場合のみに顕著である。
バイオ・ファティライザーの導入が在来性微生物が媒介する必要不可欠なプロセスを妨害すると考えられる根拠があることを、バイオ・ファティライザー、その宿主植物、あるいは標的の土壌についてのファミリアリティーが示す場合には、接種の影響を評価するために、土壌のコアや微生物を検査するべきである。
これら最初の検査で必要不可欠なプロセスが、在来種の置換により影響を受けることが示された場合、その影響を最小限に抑えるために接種材の接種量の変更、導入の方法、あるいは混合接種や類似の菌株操作を模索しうる。
3.1.3.3.2 非標的植物への影響による成長促進
非標的植物に対するバイオ・ファティライザーの影響を検討する際には、導入微生物が標的植物のほかに、潜在的に弱い種も刺激するかどうかの問題がある。この影響は、従来の肥料を使用する場合は、正常なものであると考えられている。バイオ・ファティライザーの使用が元となり脆弱さが増加する現象は、文献には報告されていない。
バイオ・ファティライザーは、宿主植物に直接関係するものと、自由生活型微生物の2グループに分類される。最初のグループについては、非標的植物は共生による相互作用を築くことができるものに限定される。自由生活型バイオ・ファティライザーはより広範囲の非標的植物に影響を与えうる。実際、自由生活型バイオ・ファティライザーは、その成長や定着に適した環境を与えるあらゆる植物に影響を与えうる。
3.1.3.3.3 潜在的病原性および他の悪影響
本項では植物、動物、ヒトに対する潜在的病原性や他の悪影響について検討する。
a)植物
バイオ・ファティライザーは、通常は植物の成長を促進するために環境に添加され、有益な微生物でできていると考えられている。しかし、バイオ・ファティライザーの改変によって病気を引き起こしたり、毒素の産生を促進したりする性質が高まり、その結果、植物の成長を抑制する場合には、悪影響が起こりうる。特定の環境条件の下に、数種類の菌根性真菌について、宿主との弱い病原性の相互作用が報告されている(Amijeeら、1989年)。これらバイオ・ファティライザーへの全レベルのファミリアリティーについての状況を考えると、これらの独立した報告からは懸念への根拠が殆ど得られない。
さらに重要なのは、新しいバイオ・ファティライザーの導入により、特殊な遺伝子型の宿主と特定の遺伝子型のバイオ・ファティライザー微生物との間の共生関係に不都合が生じ、標的宿主に対して悪影響が生じる可能性である。根粒の形成、および機能における栽培変種に見られる特異的な違いは、「根粒菌」(TriplettとSadowsky、1992年)でよく知られている。従って、スケール・アップの期間中、宿主の遺伝型(栽培変種植物)の代表的範囲で、当該バイオ・ファティライザーを試験することが重要である。
b)動物
新しいバイオ・ファティライザーのスケール・アップについて研究を実施する前に、使用を計画されている微生物、または類縁の病原性株が、動物群に対して健康上の悪影響を及ぼしていないかを確認する目的で、専門家や関連科学文献にあたるべきである。
c)ヒト
伝統的なバイオ・ファティライザーの使用により、ヒトに対する健康上の悪影響が起こった症例は、これまで報告されていない。しかし、バイオ・ファティライザーの使用のスケール・アップにより、暴露の頻度、持続時間、およびレベルが増大し、微生物の暴露経路に影響するかもしれないことから、ヒトに対して病原性あるいは有害である既知の生物から区別するために、微生物の同定および特性と接種材料の純度を知らなければならない。
新しいバイオ・ファティライザーの感染性、毒性、アレルゲン性および免疫毒性が原因で起こりうる健康上の悪影響を同定し、調査すべきである。作付け性能を向上させるためのバイオ・ファティライザーの(遺伝子)改変は、これら微生物とヒトやその後起こりうる健康上の悪影響との相互作用を変化させる可能性がある。ヒトへの感染性、毒性、アレルゲン性および免疫毒性を高める可能性が十分に考えられるようなバイオ・ファティライザーの改変についても、同定し調査すべきである。
職業性暴露は、一般住民への暴露よりも多いようである。微生物製剤をフィールド散布する作業中に起こりうる悪影響について検討する際には、製剤に含まれる微生物の菌株、および汚染生物の存在に対して特に考慮すべきである。
新しいバイオ・ファティライザーへの職業性暴露についてのリスク/安全性の分析実施の際に、吸入、経口摂取、接種を含め可能性のある暴露経路に注意を払うべきである。栽培と使用の方法は、微生物製剤の使用から生じる安全性の問題を評価する際や適切なリスク・マネジメント方法を決定する際に、検討すべきである。
微生物への暴露の制御という点では、ヒトの健康や安全性に関する殆どの問題管理は、道理にかなうようによく理解されるべきである。その作業に携わる人員は、十分な情報と訓練を受けるべきである。ガイドとしての管理手順は、殆どの場合、類似の微生物製剤の製造/使用に携わる作業員を保護するために現在使用されている手順に類似している。
3.1.3.3.4 無機質循環に及ぼす影響
微生物は、炭素、窒素、リン、硫黄、ならびに植物が微量栄養素として利用している微量元素などの生物地球化学的循環において不可欠な役割を担っている。特に、その作用形態が、植物の成長に必要な限定物質を供給する場合には、幾つかのバイオ・ファティライザーは、使用域内のこういった物質の供給を増大させるかもしれない。しかしながら、微生物は、細胞内において酸化/還元や固定化により微量元素をより得にくくすることもできる。
バイオ・ファティライザーの使用による無機質循環への悪影響は、現在までのところ報告されていない。しかし、新しいバイオ・ファティライザーが、土壌の無機質循環に直接影響することを目的とする場合は、その使用は注意深く検討されねばならない。
3.1.4 バイオ・ファティライザーの接種材汚染物質
バイオ・ファティライザーには、汚染微生物が含まれていることがあり、そのうちの幾つかは、悪影響を起こしうる。バイオ・ファティライザー製剤の製造、および取り扱いについての最新基準が採用され、かつ優良製造規範(GMP)が用いられた場合には、汚染物質の導入によるリスクは最小限に抑えられるであろう。
3.1.5 混合接種材バイオ・ファティライザー
バイオ・ファティライザーには、大きな効果を得るためや、より広域のスペクトラムをカバーするために1種類以上の微生物が含まれることが多い。混合接種材バイオ・ファティライザーの使用による効果は、相乗効果(有益な効果と有害な効果の両方)の可能性も考慮すると同時に、微生物間や植物と根圏に住む微生物との間にある複雑な相互作用を考慮に入れて検討されねばならない。そのような効果は、成長調節物質の産生の変化と同様に、混合接種された微生物の残留性、および拡散性の変化を含む、多種多様な相互作用のメカニズムで起こる。混合接種に関してはJarstferとSylvia(1993)によって、種々の角度から評価されている。
3.2 リスク・マネジメント リスク・マネジメントは、スケール・アップ時に同定されたハザードからのリスクを最小限に抑えるための、適切な管理方策の適用方法を指示するものである。スケール・アップに先立って行われるリスク・マネジメントには、特にリスクを軽減するようなバイオ・ファティライザーの設計が含まれる場合もある。バイオ・ファティライザーの導入期間およびその後に、リスクを軽減するために環境管理が重要である。
微生物の小規模フィールド試験に伴うリスクを管理するために通常使用される多くの閉じ込め処置は、スケール・アップ時に起こるリスクの管理には適さない。フィールドの小区間ごとの隔離、灌漑用水の流量調節、農業機械の洗浄等の閉じ込め処置は、フィールド試験の規模が拡大するにつれて、その効果が次第に薄れてくる。試験の規模が拡大するにつれて、閉じ込め処置は、その実施がますます困難になってくる。従って、小規模試験が完了し、そのデータからその微生物を使用したスケール・アップが適切であるとされる場合には、通常は小規模試験でとられている閉じ込め処置に依存するよりも、確定あるいは修正されたリスク・マネジメント規範を使用するほうがよい。
幸い長年の間に、土壌の微生物の有効な種類と、病原性の種類の両方の管理に関して相当量の調査が実施されており、経験も得られている(Agrios、1988年)。特に宿主の範囲が狭い偏性共生動物であるバイオ・ファティライザーは、土壌内でより広い生態学的地位を占めるバイオ・ファティライザーと比べると、懸念材料は一段と少ないと一般的に考えられている。
転作、耕作、化学薬品処理等の栽培慣行は、土壌微生物群の制御や管理の方法として、それゆえにリスクを管理する方法として、うまく利用されてきた。リスクは、特殊な効力の基準にあうように、他の宿主植物との同居や越冬が可能なように、バイオ・ファティライザーの効力を減じて使用することや遺伝物質を転移するなど、微生物を選択、改変することによっても管理できる。例えば、L型は宿主なしではその環境で生存することが全くできないため、安全性の点から今後特に利点があるであろう。
リスクは様々なメカニズムが原因で増加する暴露に伴って発生しうる。リスクの管理を可能とするあらゆる種類のメカニズムにつき、バイオ・ファティライザーの特異的性質に応じて、複数の管理方法が適用できうる。例を以下に示す。これらの例は、完全なものでも独占的なものでもなく、単に適切な管理方法が利用できることを示すものである。
―生残性および残留性
―拡散性
―遺伝子転移
―汚染物質