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2. ファミリアリティーの概念

 ファミリアリティーの概念は、静的というよりはむしろ動的である。その適用性は、経験の増加とともに改善され、かつ柔軟性があるので、問題としているシステムのあらゆるレベルや要素に適用できうる。ファミリアリティーの欠如は、潜在的悪影響の予測をより困難にする。ファミリアリティーは以下についての知識および経験に基づく。

他のソースのファミリアリティーの例としては、類似の微生物を用いた経験、もしくは同一または類似の環境内で新しい微生物の使用から得た経験が含まれうる。温室での研究や微小生態系検査、小規模のフィールド試験からも、非常に有用な情報が得られる。
 このあとにつづく項では、微生物、植物−微生物の間の相互作用、形質および環境に関するファミリアリティーの概念についての詳しい説明がなされている。

2.1 微生物についてのファミリアリティー

 特に根粒菌(Nutiら、1993年)など幾つかのバイオ・ファティライザーは、長い間安全に使用されてきた。バイオ・ファティライザー(特に根粒菌)の優れた接種株の開発は長年の目標であり、最近の多分野における進歩は、この目標が近い将来達成されうることを示唆している(Triplett and Sadowsky, 1992)。
 特に、根粒菌などのバイオ・ファティライザーについての歴史的な情報から、新しい分子技術により開発された微生物の菌株を比較するうえで優れたポイントがわかる。しかしながら、バイオ・ファティライザーとして他の幾つかの微生物を使用した経験はより少ない。従って、ファミリアリティーの度合いは、用いた微生物に特異的に依存している。しかしながら、1グループの微生物から得た経験は、関連の微生物や類似の生態学的地位を占領するので、ある程度適用できることが多い。また、最初に開発され知識や経験が殆ど得られない(比較的ファミリアリティーのない)新しい遺伝子の組み合わせを示す微生物は、研究施設から小規模フィールド試験に進むにつれて、その特性がますます明らかにされるであろう。

2.2 植物−微生物間の相互作用についてのファミリアリティー

 幾つかのバイオ・ファティライザーと、その宿主植物の間には、栄養関係が築かれることが比較的よく理解されている。このことは、根粒菌とマメ科植物群や菌根性真菌類が関わっている相互作用では特に正しい。しかしながら、たとえバイオ・ファティライザーを用いて植物を成長を促進するメカニズムがはっきりと解明されていないとしても、植物と微生物間の相互作用の生態学については相当のファミリアリティーがありうる。特に、根圏のコロニー形成の動力学と根感染症は大規模に調査されている。
 理想的には、ファミリアリティーに関しては、特定のバイオ・ファティライザーの導入に対する植物の反応が、既知の条件下である程度予測可能なはずである。しかしながら、築かれた関係は複雑であり、環境や他の条件が変化すれば、著しく揺動する。さらに、混合接種(例:胞状小嚢状菌根性真菌と根粒菌の混合接種)を利用するならば、微生物と植物間の相互作用についてと同様に、微生物間の相互作用についてのファミリアリティーも必要となる。

2.3 遺伝形質についてのファミリアリティー

 特殊な遺伝子の導入および発現。例えば、i)マーカー遺伝子(例:抗生物質耐性、酵素活性)、ii)機能遺伝子、iii)調節遺伝子といった遺伝子類が新しい表現型形質を生む可能性がある。
 遺伝形質についてのファミリアリティーは、起源種の形質についての知識、遺伝子挿入の知識、調節シークエンス、微生物についての基礎的な生態および遺伝子の研究から得た実験データ、および、他の微生物中に同定された同一の形質についての経験を含む多数のソースから生じ増加する。

2.4 環境についてのファミリアリティー

 環境についてのファミリアリティーには、バイオ・ファティライザーによりコロニー形成されうる野生植物を含む潜在的な植物宿主、および動物宿主の範囲や、それら宿主の生息範囲についてのファミリアリティーが含まれる。バイオ・ファティライザーを含め微生物の検査を行う際、それらの生息環境に関する幾つかの点が考慮されるべきである。ある微生物が、ある地域に隔離された後に変化しないで同じ地域に戻った場合には、接種材としての検査のために、その微生物が、有害であるとされるまでリスク・レベルは最低限に抑えられるべきである。微生物を、常在の土地ではない場所で使用する際には、潜在的悪影響を考慮することがより重要となる。同様に、新しい分子技術を利用した結果、微生物に従来知られていなかった形質が見出された場合には、安全性確保の追加処置を当然行いうる。これは新しい分子技術により開発された微生物の行動が、その微生物の遺伝子改変を行っていない先祖と異なると考えられる理由がある場合には特に当てはまる。

2.5 ファミリアリティー概念の適用

 ファミリアリティーの概念は、リスクを評価する際に用いられる。序章で述べたとおり、ファミリアリティーは、安全性を意味するものではなく、情報が入手可能であるという意味である。この情報は、特殊な生物や特殊な形質、および特殊な環境の中の標的への影響や非標的への影響の同定に伴い、潜在的悪影響を分析するために活用される。ファミリアリティーの概念は、ハザードは存在しないということを決定する十分な情報が得られるか、あるいはハザードが存在するとしても暴露はリスクを増加させるにはとるに足りないものであるのかの判断に役立つ。
 判断のもとになる十分な情報が得られない場合(ファミリアリティーが非常に少ない)や、リスクが増大する可能性があると考えられる場合には、リスク・マネジメントは、関係する要素に対処しなければならない。特に、微生物のスケール・アップに伴う多くのリスクはバイオ・ファティライザーに特異的なものではないので、適切なリスク・マネジメントの方法を選択する際に必要に応じてファミリアリティーの概念も適用できる。

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