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I. 序章

1. 緒言

 1970年代初期に新しい分子技術が導入され、バイオテクノロジーの安全性についての議論がなされるようになった。本来無関係な生物の間で、遺伝子を移動させる新技術の能力が高く評価される一方、アシロマー会議が開かれて、新しいrDNA技術使用と実験が行われる条件に対する妥当性が調査された。その新しい技術により遺伝子改変微生物からのリスクが、不確実性のために増大するかもしれないという懸念が生まれた。
 本議論により、多数の国家的および国際的な勧告、指針や規制、法律が定められた。1986年のOECD(経済協力開発機構)報告「組み換えDNAに関する安全性の検討」(いわゆる「調査報告書」)は、産業、農業、および環境の分野で、rDNA技術を用いて得られた生物の安全な使用に対する最初の国際的な科学的枠組みのひとつであった。この報告書では、rDNA生物の安全な開発についての一般原則を詳説している。その中で、特にrDNA生物に重点が置かれているのは、新しい遺伝子の組み合わせを利用して生物を作り出す時に、その技術が用いられており、併せて、それらの生物に関する経験が限られたものであったか、あるいはまったく欠如していたためであった。
 1980年代中ごろまでには、rDNA技術は、従来の遺伝子技術の拡大であると、一層見做されるようになり、rDNA生物は他の全生物が示すものとまったく同じ種類のリスクを有すると考えられるようになった。さらに、同じ物理的および生物学的な規制により、従来の技術であろうとrDNA技術であろうと、生物の行動を制御するという認識が生まれた。
 しかしながら、従来の技術とこの新しい分子技術は次の2点で異なっている。まず分子技術は、従来の技術よりも生物に導入できる遺伝子の多様性が広い。次に、一般的に、遺伝材料の導入精度がより優れているので、その結果、より完全な特性ならびにより予測可能な生物を得ることができる。生物の特性は、遺伝子の構成によるために、異なるソースからの特定遺伝子の組み合わせを有する生物についての経験が欠如している場合には、特定の懸念が生まれうるとの見方が示されていた。
 バイオテクノロジーの安全性に関するOECD参加国の専門家グループ(GNE)は、1988年4月にその活動を開始し、特定の原則を改正および開発して、それらを調査報告書の中に詳説している。その目的は、報告書内で取り上げた生物の応用に対する科学的に信頼できる原則および実施規範の作成である。
 GNEは、本分野における活動を、遺伝子改変植物および遺伝子改変微生物の小規模なフィールド試験についての優良開発規範(GDP)の作成から開始している。この規範は、1992年に「バイオテクノロジーについての安全性問題」という表題で発行されている。GNEは、さらなる活動にむけたプログラムの中で、大規模なフィールド試験に対しても類似の活動を始めている。
 GNEは、1991年6月の会合において、全般的な状況に種々のイニシアティブを発揮して、バイオテクノロジーが動的かつ急速に発展している分野であるという事実を取り入れた序章を作成すべきであると結論した。
 そのために、「序章」およびそれに沿った報告書は、バイオテクノロジーの安全性についての一般原則を評価、解釈、適用することを目的としており、環境への導入の分野におけるさらなる活動の基盤を提供するために、最新の知識を取り入れている。
 安全性評価についての科学的および技術的な方法論は、生物グループ毎に異なる傾向があるので、その後の報告書では、特殊グループの生物(例:作物用植物、微生物)は別枠で扱われる予定である。
 生物の安全性は、遺伝子改変自体のプロセスとは無関係であると認識されている。GDPの中で述べられているように、導入のリスク(の可能性)を決定づけるものは、新しい遺伝形質(導入形質だが)、環境、および応用などの生物的特性である。GNEの活動は、現代のバイオテクノロジーについての安全な状況の範囲で行われるが、安全性についての原則は、あとに続く全生物に応用する段落および報告書の中で規定されている。

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