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補遺1
植物を用いた小規模フィールド研究の科学的考察

 以下の文は遺伝子改変植物を用いたフィールド研究のための優良開発規範(GDP)の基礎をなす科学的考察を記述したものである。フィールド実験プロットの大きさは実験植物の特性によりほとんど決定されるであろう(例えば果樹については非常に大きい実験プロットが必要である。一方、穀物は小さい実験プロットを用いて評価することが適切である)。選択的な植物の育成法は数千年の間、一定の形態で実践されてきたが、植物育成者によって現在実施されている体系的な育成法が広範囲に用いられるようになったのは1900年にGregor Mendelの研究が再発見されてからである。植物遺伝学、植物形態学、植物生殖生物学、植物生理学の知識に基づいて科学者によって行われる観察は、現在植物育成者がその実験材料の遺伝子的な完全性を確実なものにするために用いられ実践されるようになったものである。この経験そして遺伝子改変植物のフィールド試験から得られたものは、植物の特性および小規模フィールド研究を安全に実施できるようにする実験条件を特定するのに役立つ。
 遺伝子改変植物を用いた小規模フィールド研究は、概念的には潜在的に役に立つ新しい栽培品種を評価するうえで植物育成者によりすでに実施されている小規模フィールド研究に類似している。伝統的な植物育成技術を通じて達成される遺伝子改変は単一あるいは複数の遺伝子突然変異を生みだし、科学的処理、イオン化放射線、穀物種の栽培品種間の交配、そして栽培された種間の交配、栽培された種と近親非栽培種との交配などの種間の交配を通じて突然変異と染色体数の変化をもたらす。伝統的な植物育成研究を実施する場合に、注意は、あらゆる有性和合植物から研究プロットへの可能な遺伝子的な流入を防ぐことに向けられることが多い。今日まで遺伝子物質が植物から植物以外の生物に自然に転移することは証明されていない。
 伝統的な小規模フィールド研究は、新しい植物の栽培品種の特性を評価し、その環境との相互作用を評価するものである。伝統的な植物育成方法により作り出された新しい植物栽培品種のフィールド実験においては、育成実験される大多数の新しい植物は育成者にとって実質的な価値がなく廃棄される。環境にもその後の植物の育成にもまったく影響を与えないで廃棄されるのである。植物育成者により生み出される新しい生殖質株のごく一部のみが将来の研究、または最後の結果として商業的リリースに値するのである。しかしこうした実践は新しい植物が多様な生態学的なニッチにおいて競合的に生残するのに適していないことを示すものではない。
 外国植物種の新しい環境への意図的なまたは偶然的な導入が有害な環境的な影響を与えたいくつかの場合があった。例をあげると、1930年代に糧秣植物として米国、南カロライナ州に導入されたJohnsongrass(Sorghum halepense)、水中の飾りとして米国フロリダ州に導入されたホテイアオイ(Eichhornia crassipes)、土手を安定させたり、生産性のよくない土地の糧秣作物として導入されたアジアの雑草、葛(Pueraria lobata)がある。その他の多くの重要な雑草(カナダアザミ、yellow starthistle、セイヨウヒルガオ)で現在米国に存在しているのは外国の植物種が偶然的に導入された結果である。欧州においてもヒトに皮膚炎をきたすヒマワリ(Helianthus annuus)、ブタクサ(Ambrosia artemisifolia)および大ブタクサ(Heracleum mantagazzianum)など外国種の植物種が意図的にまたは偶然的に導入された結果、同じ問題が起こっている。こうした例は単一遺伝子またはいくつかの遺伝子の植物への制御された転移というよりも、完全なゲノムの制御されていない放出であり、遺伝子改変生物に関する現在の場合と同じである。したがってGDPを用いて実施される遺伝子改変生物のフィールド試験は、外国植物が全体として新しい環境に制御されないで導入されることと類似していると考えるべきではないが、このような導入の経験は適切な情報を提供すると考えられる。

遺伝子改変植物の生殖隔離

 伝統的な植物育成実験はプロットの大きさを制限するほか、研究プロットにおいて生殖的に隔離した植物を利用する。遺伝子改変された植物の生殖隔離を確認するための規範を採用することは、試験植物の遺伝子物質が同じ種または近接種へ播種されるのを防ぐための優れた方法である。
 植物種の進化において生殖隔離または遺伝子隔離の自然の機序を考える場合、Stebbins(1950年)は「 前接合体(交配の前に生じる)」として特定されるこうした特性を強調した。なぜならこうしたことは実験植物、または植物を導入することを予定している環境を操作することによって通常制御できるからである。このようにして操作された植物を、新しい遺伝子が永久的に種の遺伝子プールに統合できるようにするすべての遺伝子物質(花粉、種子などを通じて)を産生しおよび/または播種することができないようにすることができる。
 相当程度に生殖隔離を維持する実践が現在植物育成者および種子生産者によって遺伝子的に純粋な種子を維持するために行われている。これらの実践においては、実験植物または育成植物の母集団の遺伝子的純粋性を維持するために外来遺伝子物質(ほとんどの場合、花粉を通じて)を有する試験植物または育成植物の汚染を防止することが強調される。育成株の遺伝子的純粋性を維持するために用いられる実践はフィールド研究において用いられるものとは異なるが、フィールド研究では試験プロットの実験植物の遺伝子物質の分散の制御を強調する;生殖隔離と同じ原則が適用される。この原則は遺伝子物質を実験プロットから分散する可能性を少なくさせるために適用でき、良い成果が得られている。
 現在、植物育成者および種子生産者が採用している実践は、遺伝子改変植物に関するフィールド研究における生殖隔離のために有益なモデルを提供することである。これらの実践は進化生物学者が生殖隔離された植物の母集団を定義するために用いる空間的、機械的、時間的、おおび遺伝子的な隔離をもたらす。たいていの場合、フィールド研究が実施される場合、実験的に遺伝子改変された植物は実験場所以外の有性和合植物のプールから生殖的に隔離されたものであるならば、GDPの目的は達成されるであろう。GDPを用いて、遺伝子改変植物を用いた小規模フィールド研究は、環境に著しい有害な影響を与えないという合理的な確信をもって実施することができる。
 生殖隔離のための適当な実践の型を決定するうえで、いくつかの指針を提供するために実例リストを次節に示した。遺伝子的隔離を達成するために現在用いられているこれらの実践例を検討する場合、植物またはフィールド研究環境の特性のいずれかに対して、どういう方法で、いかにして補償するかということに関して、それぞれの場合を考慮すべきである。このような実践から得られた最終的結果は、実験的に遺伝子改変された植物は生殖隔離するべきであるということである。
 以下は植物において生殖隔離を維持するために現在用いられている実験的実践の例である。

植物を有性和合植物母集団から隔離するために用いられる最もよく用いられる方法は、空間的な隔離である。成長する純種の種子、あるいは品質保証された種子について最も多い要求は、同じ種の植物を含んでいるすべてのフィールドから離れる必要がある距離に関する仕様である。特別に必要な距離は問題とされる種子の生物学に依存する。脆弱な花粉をもつ自家授粉種は比較的に短距離でよいが、堅固な花粉をもつ開放授粉種は、和合植物から数マイルも離れている場合でもある程度の汚染を経験する。
いくつかの植物については、雄雌の生殖的構造を排除することにより和合植物に近接しても植物は安全に成長できる。この方法の使用例はトウモロコシ種子生産における房の取り除きである。房(花粉生産雄花を含む)を取り除くことにより、花粉を通じて転移できる雄からの遺伝子物質の源を全面的に除去できる。
上記にて考察した他の種類の技術には細胞形質雄不稔特質の問題の植物への取込みがある。この特質が存在する場合、生育能力のある花粉はほとんど作られない。そして植物は事実上、生殖的にも生物学的にも隔離されている。
近隣の和合作物および/または野生植物種の予期される開花よりも問題の植物の開花を早めるか遅くする方法で栽培することも可能である。この時間的な生殖隔離の使用は、遺伝子物質を制限するうえで、空間的な隔離と同じほど効果的である可能性がある。
花粉播種は開花の前に花を覆う(袋掛け)などの物理的な方法によっても防ぐことができる。
フィールド試験の目的が、ムラサキウマゴヤシの飼料品質が評価される場合のように、種子の生産を求めるものでない場合、開花の前に植物を収穫することも可能である。この場合、生殖隔離はなんらかの理由で別の方法では隔離が困難な作物において達成できる。

 生殖隔離は大多数の小規模フィールド試験において安全性の主要な懸念となる可能性があるが、他の要因と同様、生殖隔離を確認するために追加的な方法を考えるべき場合がある。例えば、フィールド試験をする植物は毒素を含むように、あるいは発現するように改変され、あるいは遺伝子物質を転移することができる生物学的ベクターを含むように改良される場合がある。以下の二節は、毒素の場合およびいくつかの生物学的ベクターの場合に遭遇すると考えられる問題の性質を概括し、フィールド試験のこれらの型が予想される場合に評価すべき要因を提供する。

毒素を含むかあるいは発現するように遺伝子改変される植物

 多くの植物は毒性の化合物を含んでいる。その中には病原体および捕食者に対する防御として役立つものもある。遺伝子改変技術は植物の防衛機序を高めたり低めたり、あるいは植物に新しい防衛的要素を加えることもできる。毒性の化合物を含むように、あるいは植物に固有な毒性化合物が自然に生じる濃度よりも高い濃度で発現するように植物の栽培品種を開発することは望ましいと考えられる。多くの場合、こうした毒素を発現する植物に関するフィールド研究は安全である。なぜなら導入された毒素、その作用態様、毒素が標的生物あるいは非標的生物に与える潜在的な影響および毒素遺伝子または毒素遺伝子コーディングを植物に取り込む技術について十分に知られているからである。
 植物遺伝子物質は実験場所に閉じこめられているけれども、毒素を含むように改変された植物にかかわる小規模フィールド試験において環境的なリスクとなる可能性がある。これはこれらの植物はサイトに入ってくる生物に影響を与えると考えられる事実(例えば、生態圏/ニッチにおいて通常、毒素に遭遇しない生物に対して利用できる毒物を作ることによって)、あるいは植物それ自体がフィールド実験場所から排除された後にこれらの植物または生産物に曝露される非標的生物に残留的な意図しないなんらかの影響を与えるという事実によるものである。 毒性の化合物を含む、あるいは自然の毒性化合物を高い濃度で発現する遺伝子改変植物を用いて安全に研究を実施することは可能である。 試験場所の目標生物に対して毒素の影響を制限できるように毒素の作用態様、持続性、劣化などの問題について十分な情報があることが望ましい。追加的な必須条件としてはその場所を柵で囲むといった簡単なものから、隔離した場所の試験プロットに植栽するとか、フィールド試験に関与した植物を閉じこめるとか、フィールド研究において作り出されるすべての植物材料につき厳重な対策を講じるといった複雑なものがある。

生物学的ベクターシステムを用いて遺伝子改変した植物

 新しい遺伝子物質をもった植物を形質転換するためには種々の物理的、化学的、生物学的方法を利用することができる。これらの技術には電気穿孔法、微量注入法、弾道微量注入法、生物または分子ベクターなどの使用がある。最初の三つの技術は機械的な手順で、最初の挿入のとき以外はいかなる時も遺伝子物質が何らかの事情によって転移する可能性が高くなることはないと考えられる。しかしベクターが生物学的に不活性になりおよび/または形質転換された植物から排除されるのでなければベクターが感染作用因としてその後に作用する可能性がある。
 生物学的ベクターを用い、形質転換された植物を用いた小規模フィールド研究の安全性はベクターシステムが最初の形質転換が生じた後に遺伝子物質を転移する可能性がない場合に高められる。ベクターが植物の害虫リスクをもたらすならば(損傷、疾患、障害)、そのリスクは適切に排除されなければならない。ほとんどの場合、一度形質転換が完了すれば、ベクターは植物から排除するべきであり、あるいは不活性化するべきである。遺伝子改変植物を開発するうえで用いられるDNAは i)十分に特徴化され、植物に入ったのちは転移しないこと(不活性化Agrobacterium tumefaciens Tiプラスミドはこの使用に適合する) ii)同種または最近親種からの転移(受容体植物のような)および/または iii)病原性の原核生物からの転移、または非病原性下等真核植物および/または iv)植物に疾患または損傷を生じさせる能力のある配列が欠失した場合のみ植物病原体から転移される。
 現在、DNAを植物細胞の中に転移するために最も広く用いられているベクターシステムは自然のバクテリアAgrobacterium tumefaciensの中に存在しており、通常はTiプラスミドと呼ばれている。現在、ベクターシステムの安全性を確立する試験所および温室の状態で実施された実験に基づく相当多くの一連の証拠がある。今日までに実施された遺伝子改変植物を用いた大多数のフィールド研究においてはA. tumefaciensに由来するベクターシステムは、物理的に欠失した感染への病理的な反応に関連する遺伝子がある。さらに形質転換は、病原性に関与するベクター配列は形質転換された植物には存在しない(境界配列は除く)、そしてベクター作用因--バクテリア--は生残しないようにして実施された。このようにして、ベクターが、改変された植物から遺伝子物質の転移を生じさせる可能性は排除されている(V節参照、32頁)。

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