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補遺2
微生物を用いた小規模フィールド研究に対する科学的考察

 以下の節は遺伝子改変微生物を用いたフィールド研究に対する優良開発規範(GDP)の基礎をなす科学的考察を記述したものである。小規模フィールド研究は対処すべき問題が比較的に小さい実験プロットに制約されている状況を発表する。このような研究は通常、大規模な試験、使用、または制限のない応用に反して、単一または二、三の地勢的な場所で行われる。農業における害虫を制御する手段としての制御作用因に関する研究の結果は、導入の規模と頻度が微生物が確立されるかどうか、そして導入された微生物の環境に影響がどのようなものであるかを決定するうえで重要な要因であると考えられることを示している。

 制限された小規模のフィールド実験においては潜在的に影響を受ける環境は一般的に局所化されており、したがって安全な実験を考案するために評価すべき重要な生態学的/環境的考察を特定することは容易である。さらに小規模の実験のために、実験生物を閉じこめるための手順および実験的設計は効果的に用いることができる。

環境における適用

 生物を適用する方法および接種の量はフィールド研究の安全性を決定するうえで重要な考察である。「適用する場所の位置および性質、適用の規模は安全性を評価するうえで重要である」(OECD、1986年)

 微生物は一般に土壌の改良として、葉面スプレーとして、種子処理として、植物の脈管組織へ導入される接種として、小規模のフィールド実験において用いられる。生物は他の方法を用いて導入される一方、適切な安全性検討を評価するプロセスはほとんどの場合、同じものが期待される。したがって科学的な原則の議論は最も多く用いられるこれらの稀なケースに焦点をてることができる。

 煙霧質の生成に関与するこれらの適用方法を用いて、フィールドプロットからの微生物のより大きな分散が予期される。その結果、比較的に大きな境界領域が(土地の緩衝地帯)葉面スプレーが関与する実験のフィールド研究設計の一部になると考えられる。もう一つの方法として、煙霧質形成は噴霧器の応用および噴霧潅漑よりも細流応用および細流潅漑を選択することにより最小化できると考えられる。

環境における生残および増殖などの播種

 「適用された環境において生物が生残し、増殖する相対的な能力、および生物が新しい環境に播種される能力は、放出の安全性を評価するうえで考慮すべき事項である」(OECD 1986年)。
 以下の考察およびその後の適切なフィールド研究設計の開発についての議論の基礎となるデータの大部分は二、三の微生物の研究に由来する原則に基づいている。腐生生物(植物の病原体、例えばAgrobacterium radiobacterと相互作用するものは除く)の播種に関して利用できる情報は多くはない。
 これらの研究は播種が三つの要因に依存することを示している。i) 接種(サイズ、適合性、感染性、生存度)ii)母集団の運動[1]/分散[2]性状 および iii)適切な生育地域またはニッチが利用できること 「播種」は「運動/分散」および「確立」の概念からなる。「確立」は「運動/分散」および「生残および増殖」を包含する。
 フィールド研究の評価において「確立」という概念と「分散」という概念を完全に分離することは不可能である。むしろこれらの概念は連携して考えなければならない。たとえば、ある生物が確立されないことが明らかな場合、実験プロットからの分散はほとんど懸念することは不要となり、分散を制御する方法はあまり重要ではなくなる。一方、実験生物の特性のために、あるいは運動/分散を制御する方法が実施されているために実験プロットからの分散が低い場合、確立の可能性は低いと考えられる。

接種

 実験微生物の生残は多くの要因に依存している。この時点で、環境における微生物の成長に影響を与えるすべての要因を説明することは不可能である。しかし可能性が考えられるふるまいのいくつかの予測を、多くの源から得られた現在の知識および実験的な観察--温室試験、微小生態系試験、近縁生物(例えば、実験動物が遺伝子改変動物である場合、親生物および導入された特質の意図した機能)のふるまい--に基づいて行うことができる。
 他の場所へ効果的に分散するために最小限のレベル存在するように、接種は研究場所において十分多くの微生物を含まなければならない。さらに微生物が研究場所から離れるにつれて接種の希釈が若干生じる。 微生物が試験場所から、適切な生育場所に出会あうことなく遠くに移動するにしたがっておそらく希釈されることが多くなろう。これらの過程は播種はソースプールの大きさに正比例することを示した植物病理学研究により裏付けされていると考えられる(この考察では、ソースプールはもとの研究場所における試験株の微生物の数と等価であると考えられる)。
 最小有効接種を構成する数は生物により相当に異なることに注目すべきである。したがってどのような生物の標準生物数も最小有効接種として引用することができない。ベクターによる分散、あるいは機械的な移動による分散は最小有効接種負荷を低くすると考えられる。これは考慮に入れなければならない。ある微生物については少数の生物でも有効接種となり、一方別の生物については多数の生物が必要であると仮定することができる。例えばある場合には競合あるいは他の圧力(例えば捕食圧)は大きな新たに入ってくる母集団によってのみ克服できる。したがって何が最小有効接種を構成するかはケースバイケースで決定しなければならない。
 しかし研究場所を離れる微生物の数を減らす対策を講ずることは、最小有効接種に十分な数の微生物が他の場所に到着する可能性を低くする。このような対策を用いるように設計された実験計画を小規模フィールド研究において実施することができる。

移動、分散、および輸送

 播種の率は移動/分散の効力に極めて感受性が高い。一般に移動/分散が効果的であればあるほど、播種は迅速に生じうる。
 一般に移動/分散の効力はいくつかの要因に依存する。要因としては輸送を達成する移動/分散機序の態様(土壌その他の物質に付着する能力など);ベクターを感染する能力;機械的な輸送の潜在的手段に付着する能力(動物、ヒト、その他の道具);輸送につき生残する能力 これらの要因は実験生物の生物学的な特性に由来している。したがって試験微生物の生物学的特性はフィールド研究の安全性を評価するうえで考察しなければならない。
 ある微生物はいくつかの手段で分散できるが、一つまたは二、三の移動態様に限定されているものもある。一般に、微生物が一つの移動ルートにより高く適応すればするほど、その他のルートによる移動のチャンスはより少なくなる。移動/分散の潜在的ルートの理解およびこれらのルートに沿った運動と分散を制限する方法の知識および実施は安全なフィールド研究を設計し、モニターの必要性を強調するために用いられる。
 微生物は以下に示したように多様なルートによって輸送される。i)風により ii)水により iii)機械的な方法により(例えばヒトおよび動物)iv)生物学的ベクターにより
i)風
 空気分散の有効性はいくつかの要因により影響を受ける。要因としては、大気圏へ入る機序(離陸)、粒子の形態、環境ストレスの生残(例えば乾燥、紫外線)、土壌および他の粒子に付着する能力などがあり、ある微生物は空中に分散することができる適応を有している。
 これらの適応は重力下で振り払われることなど受け身的な過程から長距離に推進力を受けることまで様々である。他の微生物は、例えば土壌の粒子に付着するなど受け身的な方法を通じて空中に分散される。地面が日光によって加熱されると土壌や塵埃の粒子の漂流物は風にのって舞い上がる。土壌が風によって舞い上げられるとこうした土壌粒子に付着した微生物は輸送される。昆虫やダニなどに付着する微生物もあり、それらは風の流れにより分散される。
 空気ルートを通じての潜在的な輸送に対処し、これを制限するようにフィールド研究プロットの位置を決定することができる。例えば樹木、丘、塀などの風景の自然な特性が風の流れに影響を与えるように実験場所の位置を考えることができる。試験微生物が空中ルートによる分散される高い潜在性を有している場合は、沖合いの島に小規模研究プロットを設置することで安全性が得られると考えられる。

ii)水
 水中においては分散は主として懸濁媒体の輸送特質によって影響を受ける。したがって土壌の水、地下水流の水文学、開放水(例えば、湖、河川、小川)に近いこと、潅漑用の水の供給などが、陸地の実験地点から水を媒介とする分散の主要な物理的な決定要因である。
 雨あるいは潅漑水もまた輸送の方法として役立ちうる。バクテリア、ウイルス、および胞子、菌核、真菌の菌糸体断片は植物の表面を洗い流し、あるいは土壌の上や中を移動していく雨水や潅漑水により分散される。
 雨の跳ね返りは植物の表面から微生物がのっている可能性のある水滴を空中に跳ねることができる。跳ね返りによる分散は微生物がいっぱいの植物表面に水滴が衝突するときに生じる。例えば一定の植物病原体バクテリアはたたきつけるような雨により数キロメートルも先に移動することができる。
 研究プロットはこれらの潜在的なルートからの分散に対処し、制限するように設計することができる。例えば研究場所周囲の境界線となる細い一帯は植物を研究プロット内に隔離するために用いることができ、これにより跳ね返りでできた水滴に含まれる微生物が試験プロットの近くで適切な生育場所に出会わないようにすることができる。頭上の潅漑システムを避けたり、試験プロット内に適切な浄化システムを用いた暗渠排水を含めるなど設計上の特徴をもつようにすることができる。
 さらに試験プロットは試験微生物が、平均的な気候条件下、および例外的な気候条件下で地下水あるいは河川、湖沼に接近するのを制限するような位置に作ることができ、排水、収集および物理的な障壁を使用して水流を制御することも可能である。

iii)機械的な方法により(例えばヒトおよび動物)
 ヒトの活動:ヒトは継続的な植物の処理を通じて、汚染した道具や器具を使用することにより、汚染した土壌、植物、種子、および苗床台木の輸送を通じて様々な方法で長距離、短距離にあらゆる種類の微生物を分散させる。
 耕作などの機械的な撹乱は微生物の塊を保持する土壌の「浮遊物」を空中高く舞いあげる。これらの浮遊物は試験プロットの風下に落下して定着すると考えられる。このようにして煙霧質を作り出すあらゆる活動は煙霧質の水滴の中に含まれている微生物が分散する潜在的なルートとなる。
 小規模フィールド研究においては、ヒトの活動により微生物が分散しないように注意が必要である。例えば試験プロットに近づくのは、分散を制限するための手順につき訓練を受けた人々に制限することができる。機械的な撹乱は作物または手順の選択(例えば非耕作栽培品種)など多くの方法で制限することができる。最終的に汚染物質に付着した微生物の輸送は適当な浄化手順を用いて制限することができる。
 動物:自然においては多様な動物が微生物と接触し、ベクターとして役だっていると考えられる。たとえばバクテリアを食べたり、土壌に穴を開ける哺乳動物、土壌節足動物、みみずや、アヒルの脚に付着する土壌塊を通じてバクテリアは輸送されることができる。
 小規模フィールド研究においては、動物が試験領域に接近することを制限するような適切な措置をとることができる。例えば実験場所を遮蔽したり塀を設けたりする。その有効性を確かなものにするには、このような物理的な障害を連続的にモニターし続けることが非常に重要である。
 その他:昆虫は微生物を便乗させて輸送できる。昆虫の体にはバクテリアや粘着性の真菌胞子がまぶれついており、昆虫が植物の間を移動するときに体の表面についた微生物は植物から植物に運ばれる。次に微生物は植物の表面あるいは昆虫が摂食行動中に植物上に作った傷口に集積する。傷口が微生物確立の場所になる可能性は非常に高い。
 受け身的な分散が起こりうるその他の方法がある。例えば花やつぼみをコロニーとする微生物は植物の花粉により分散すると考えられる。真菌とバクテリアは植物表面上で緊密に関連しているのでバクテリアにより真菌珠芽が汚染される可能性があり、これはバクテリアの受け身的な空中分散の方法になると考えられる。
 これらの潜在的なベクターの型はしばしばフィールド試験の実験設計によって対処することができる。例えば植物を扱った節で述べたように、花粉の生産および分散を扱う多くの方法を利用することができる。

iv)生物学的ベクター
 微生物は昆虫が植物から植物に摂食行動などで移動している間に伝達されることができる。定義では昆虫ベクターと微生物は特異的な関係を確立する。ベクターは微生物をある場所から別の場所に運ぶ。そしてそれを確立できるところに効果的に降ろす(通常、植物の傷口を通じて)。二、三の例外はあるが、ベクターと微生物の関係がより高く適応し、特異的であればあるほど、一般に微生物が他のベクターにより移動する可能性は少ない。

 ベクターと微生物の関係は持続的であるか(循環的または繁殖的)または非持続的であるかである。ベクター/微生物関係の持続的すなわち循環的な型は昆虫が長い時間を通じて微生物を伝達でき、微生物が昆虫の中で増殖できる場合に生じる。非持続的とはベクターが植物を短期間摂食した後に微生物を獲得し、摂食後直ちに他の植物にそれを伝達でき、早急に(数分内に)それを失う関係である。
 最も多い昆虫ベクターはアブラムシとヨコバイであるが、コンジラミ、コナカイガラムシ、カブトムシ、双翅類、phyllid、 アザミウマ、ダニおよびその他もベクターとして報告されている。植物ウイルスおよびマイコプラズマ(細胞壁のないバクテリア)のアブラムシとヨコバイははるかに重要なベクターである。
 昆虫は短距離および長距離の微生物ベクターとなりうる。ヨコバイのような昆虫は空をよく飛ぶ。ダニなどのある種の節足動物は飛ぶことはできないが、風に乗って運搬することができる。あまり飛ぶことができない昆虫でも、長距離に微生物を分散することができる。これらの空気伝達昆虫は風に乗って数百キロメートルも運ばれうるのである。
 小規模フィールド研究設計は昆虫による試験微生物の潜在的ベクター化に対処するために用いることができる。例えば試験微生物がアブラムシにより伝達されることが知られている場合は、賢明な場所の選択は、アブラムシ母集団が存在しない高さ、あるいはアブラムシ母集団が少ないときに試験を行うことである。アブラムシ防虫剤を用いること、あるいは網を張ってベクターが植物に接近することを妨げることも実験設計において採用できる方法である。こうした調整はベクターの活動を除去するうえで全体として効果があることは稀であり、関係する特別の季節の気候的な状況に大きく依存している。

適切な生育場所の利用可能性

 微生物が播種されるかどうかを決定するうえで最も重要な考察の一つは、微生物が確立されると思われる生育場所[3]および/またはニッチ[4]が利用できるかどうかということである。
 微生物が移動され、分散される領域内の潜在的な生育場所の分布および数は確立の重要な決定要因である。生育場所の数、分布、大きさ、感受性は微生物が適切な生育場所に出会い、確立することに成功することの可能性に影響を与える。
 潜在的な生育場所の密度が低く、そして生育場所が比較的に距離的に離れている場合は成功する播種の可能性は大きく減少し、実際、ゼロに近づくと考えられる。生育場所の密度に依存する戦略は病原体の播種を予防するために農業において用いられている。例えばフィールドには作物の「多品種株」を植えることができる。多品種株は作物品種のいくつかの異なる栽培品種から成り立っており、それぞれの栽培品種が病原体に対する抵抗性を有する異なる遺伝子を保有している。病原体は適切な生育場所の十分な密度を発見することができないので(感受性植物)、疫病的な形で播種することはない。このような戦略が採用される場合は、微生物は実験プロット内では増殖しないが、適切な宿主を見つけることができない場合はプロット外部で播種しないであろう。
 小規模フィールドトライアルにおける実験設計は潜在的な生育場所の密度および分布の問題に対処するためにある程度は用いることができる。例えば試験場所の位置は実験領域内の可能性の高い潜在的な生育場所の分布およびサイズに基づいて選択できる。これを「地勢的隔離」と名付ける。
 他の戦略は潜在的な適切な生育場所を制限し易くし、播種を管理するために研究場所の近くの領域で用いることができる。例えばRhizobium種に関係する最近のあるフィールド実験において、適切な宿主であり、適切な生育場所と考えられていた野生の豆類の植物を研究場所周辺の半径50メートルの土地から排除した。しかし大部分の土壌が発芽できる雑草種子の貯蔵庫を含んでいるので、このような手順は十分なモニターが必要である。

増殖および生残

 前節で述べたように実験微生物の生残および増殖は播種できるように十分大きなソースプールを作り出すために重要である。導入場所においてその数を増加させるために実験微生物は研究場所において他の生物に対して効果的に競合できるのでなければならない。あるいは競合者のいない新しいニッチか強力な競合者のいない新しいニッチを見つけなければならない。
 導入された微生物が強力な競合者になるかどうか--選択により有利になるか、または新しいニッチを見つけるか--の可能性を評価しようとする場合、多くの要因を調査する必要があることは明らかである。その要因とは試験微生物の源--もしあれば、加える遺伝子の源--および試験が行われる環境である。多くの場合、微生物は、その微生物および親微生物が隔離された農業生態系内において実験される。このような状況においては、適用後の場所における遺伝子-微生物の組合せが生じる頻度は一般的に観察されているものとは異なると考えられるけれども、導入される遺伝子も微生物もその環境において新しく、独特のものとなる。
 加えた遺伝子-微生物の組合せは微生物の内在的な母集団と競合する。これは加えた遺伝子-微生物の組合せが試験環境において強力な競合者とならないことを保証するものではないが、考察すべきリスクシナリオの型を若干制限するものである。この型の研究状況においてはつけ加えた遺伝子の機能、親生物のふるまいの知識を、遺伝子-微生物の組合せの栄養と捕食を求める競合、および環境的ストレス、選択、および抗生作用などの要因に対する可能な反応を予測するために用いることができる。

 しかし現在の知識を前提にすると、ふるまいを評価でき、試験微生物の競合的な能力を実験的に試験する必要性が高いのは単に実際のフィールドトライアルを通じてのみである。試験所、温室、微小生態系において作られたデータがさらに小規模フィールド研究の評価において重要な要因となる。

 限定された小規模フィールド研究において用いられた接種は、固有母集団と比較した場合に重要でないことが多いということは遺伝子-微生物の組合せの可能な運命を決定するうえで一定の役割を果たしている。比較的に少数の遺伝子-微生物の組合せを実験場所に加える場合には、おそらく競合的な有利さは固有母集団しだいであろう。さらに、適用が比較的少数の生物にかかわる場合には、十分な遺伝子変異が、遺伝子型を選択できる接種において存在する確率は少ないであろう。
 ある場合には、微生物または加えられた遺伝子は研究場所の環境以外の環境から隔離されていると考えられる。このような状況においては遺伝子/微生物組合せの競合的能力の慎重な比較は 温室、微小生態系などの制御された環境における研究に基づいてなすことができる。加えられた遺伝子の意図された機能、および受容株である親微生物のふるまいも重要な考察要素である。適切な環境設計はこれらの考察を考慮に入れるべきであろう。
 競合および選択は提案を評価し、安全な小規模フィールド研究を設計するうえで重要な考察である。「新しいニッチを見つける」現象はここでは選択の様相として扱う。

i)競合
 生育環境における微生物共同社会内のマイナスの相互作用は「競合」と名付けられる。競合は利用できる基質の競合および毒性物質の産生から生じるものなどのマイナスの相互作用を含むためにここでは幅広い意味で用いた。競合はいくつかの母集団が同じ資源、--それが空間であろうと、光であろうと、宿主であろうと、限界的な栄養であろうと--を求めて戦っている場合に生じる。入手できる基質が非常に低密度でしか存在しない自然の生育環境においては、過酷な競合が生じる。
 自由生活土壌微生物:自由生活土壌微生物に関する大多数の情報はRhizobium種を用いた経験および生物学的制御作用因として用いられる改良に由来するものである。 この経験は成長シーズンの終わりにおいて、加えられた微生物は通常は優位を占めないことを示している。こうした観察を説明するために、微生物的改良の生物は、地域的な状態によく適応する固有植物相と競合する必要があり、この競合において必ずしも効果的とは限らない。競合のこのパターンは、多くの土壌伝染真菌病原体および半腐生菌などの重大な休眠胞子を有する微生物とは異なっている。
 微生物は土壌環境におかれた場合、多くの要因と戦わなければならない。その要因とは多くのよく適応した競合者(土壌は種々の型の生物が溢れた複雑な基質であるので);環境ストレス(例えば、種々のレベルの捕食、水および温度):資源の競合、および抗生作用などである。
 微生物は栄養を採ることができ、温度および湿度のレベルが最適な場合に増殖する。しかし栄養が豊富にあるときでも、土壌の細菌はそれを求めて競合しなければならない。比較的に豊富な状況においては、競合の利点は高い成長率を有する生物にある。よくある状況は栄養が少なく、生物が長期の飢餓に生き残らなければならないことである。この状況においては、ストレス状況に生残する最も高い能力をもつ母集団が一般に競争上優位である。抵抗構造(例えば胞子および菌核)を作り出す生物は長期間の環境的ストレスおよび飢えから生じる過酷な状況を生き延びるために最もよく適応できる。冬眠して生長する細胞として長期間を生き延びることができる戦略を開発した種もある。
 抗生作用はある微生物母集団が他の母集団に阻害物質を作り出すときに生じる。抗生作用の例としては競合者を抑制する基質の産生および乳酸、硫酸、アルコール、硝酸および低分子量有機酸などの物質の産生などがある。抗菌物質はおそらく微小環境における競合的な相互作用においておそらく重要な機能を有していると考えられる。補充的、競合的な戦略は他の生物によって作られた抗生物質に対する遺伝的な耐性をもつことであろう。バクテリオシンおよび生物学的毒素も土壌における植物病原体の母集団を抑制し、おそらくこうした物質を処理する微生物戦略が存在すると考えられる。
 捕食も微生物の生残と母集団レベルに影響を与える要因である。自由生活線虫, 原生動物、およびバクテリアは土壌の中の微生物の捕食者として活動する。このような捕食者が微生物母集団に与えるインパクトは明らかでないが、微生物は捕食を扱うための戦略を開発した可能性がある。
 土壌は高い競合的な環境を示す複雑な鉱物組織である。上記の要因の相互作用およびそれに対する種の反応が土壌において生命の均衡を作り出す。それは適用された微生物の比較的に競合的な能力に影響を与える。
 宿主偏性微生物:生残につき宿主に依存する微生物は本文書においては宿主偏性微生物と名付ける。宿主偏性微生物における競合的な能力に影響を与える要因を検討するために最も利用できる情報は、生物学的制御作用因としての微生物の研究、植物病理学、植物育種から生まれたものである。
 微生物・植物の相互作用において、宿主偏性微生物は着生植物(植物の表面上)あるいは内生植物(植物組織の内側)あるいはその両方である。
 内部増殖性の場合は着生植物または自由生活土壌微生物と比べてほとんど競合者(他の植物の病原体、そしておそらく疾病組織の二次的侵入者)はいない。ウイルス、ウイロイド、および原核生物(例えばリケッチア様のバクテリア、マイコプラズマ、スピラプラズマ)などの内生植物は外部の環境にさらされた場合に不安定であると考えられる。しかし水、土壌、穀物の破片の中に生残することが知られている植物ウイルスの一定の型がある。それらが競合しなければならない環境は広い範囲にわたり宿主によって決定される。微生物的な競合者はほとんどいないと考えられるが、内生植物は宿主の防御を扱わなければならない。
 植物偏性着生微生物はそれらが宿主と共に維持するある種の栄養的な環境の基礎に基づいてカテゴリー化されると考えられる。その居住または葉や根への着性相において、一定の宿主偏性微生物は、主としてかならずしも植物と明らかな片利共生状態でない場合に存在する。それらは植物から栄養(葉や根の抽出物として)を得るが植物に対して害となるものではない。しかし正しい状態を前提にすると、それらは毒素および酵素の作用により宿主組織を破壊し、殺し、死滅組織の中で増殖する。
 第二の栄養的な関係においては、宿主偏性微生物はコロニー化する前に宿主組織を死滅させて植物から栄養を得る。
 自由生活土壌微生物の間で競合に影響を与える多くの要因を宿主偏性微生物の中に見ることができる。その中には空間に対する競合、栄養に対する競合、捕食、環境的なストレス、および抗生作用がある。着生宿主偏性微生物あるいは内生宿主偏性微生物は、こうした要因を対処するほかに適切な宿主を見つけてコロニー化し/感染しなければならない。宿主偏性微生物が適切な宿主を見つける必要性は、これらの生物を安全に試験する実験プロトコルを設計する際に用いることができる要因である。

ii)選択
 選択圧が環境によって惹起され、適用特性を有する生物に有利に作用する。微生物における選択の最もよく知られた例は抗生物質に対して耐性をもつバクテリア株の出現である。抵抗株の選択はヒトおよび動物の微生物感染の治療のために、あるいは動物への飼料として、また農業的な目的のために抗生物質を使用することから推進されている。選択のもう一つの例は一定の人工的有機化合物(例えば殺虫剤)を劣化することができる微生物の数の増加である。この場合においては選択はこれらの大量の人工的化合物を環境の中に導入することにより推進されている。
 この部分の目的のために「新しいニッチの発見」は選択の一形態として扱う。それは微生物が生態系内の新しい機能を実施する能力を発達させる場合に生じる。それは固有の共同社会が実施しない機能を実施している微生物が生態系に導入された場合にも生じる。
 選択圧は生物が生存し、増殖し、共同社会における相対的な比率を増加させる能力に影響を与える。このように選択は生残および増殖に影響を与えるほか移動、分散、確立に影響を与える。

環境における微生物と他の種および/または生物学的システムとの相互作用

 小規模フィールド研究における実験微生物は多くの方法で他の種と相互作用することができる。組み換えDNA安全性検討においては、概要において二つの特殊な相互作用の型が指摘されている。一つは、i)微生物が標的生物または非標的生物に与える影響、もう一つは、ii)遺伝子物質の水平的転移その影響の可能性である。以下の節ではこれら二つの相互作用の型を扱い、それを検査する初めての試みを行う。これらの考察はフィールド研究の設計にも関係する可能性がある。

標的生物または非標的生物

 フィールドプロットにおいて実験される生物の多くは他の生物、標的生物に影響を与えることを意図している。数十年の間、植物病理学者らは疾患耐性をもつ植物を評価するためにフィールドにおいて植物に病気を生じさせる微生物を用いてきた。他の植物病原体はこれらの微生物の生物学および病原性についての基本的な知識を得るためにフィールドにおいて試験されてきた。バイオ制御の作用因として用いられる微生物は標的の害虫に影響を与えるように特別に選択され、改変された。Bacillus thuringensisなどのいくつかの微生物はある鱗翅類昆虫の生物学的な制御作用因として環境内でルーチン的に用いられている。非改変微生物を用いた研究が行われたが、報告された環境において他の生物に影響を与えることが知られていたとしても、環境にはほとんど有害な影響を与えなかった。これらの試験においてルーチン的に考えられた問題は遺伝子改変微生物を試験する場合に教訓となるものであろう。
 微生物を用いて実験する場合、標的生物に与える予期される影響を評価するだけでなく、標的としない生物に与える影響を評価することが重要である。微生物が生物学的コントロール作用因として作用するように微生物を改変するために遺伝子工学を用いる場合には挿入される遺伝子は毒素をコード化したり、宿主範囲を広げたり、特別の標的生物に対する病毒性を増加させる可能性がある。あらゆる新しい特質が微生物の宿主範囲に与える影響はフィールド試験を行う前に評価するべきである。潜在的な非標的生物は閉じこめ状況下で代表的な種を用いた実験により特定するべきである。微生物をプロットおよびその隣接周辺に効果的に制限することができる場合に、小規模フィールド研究の結果として、共同社会あるいは生態系における種の相対的な豊富さが有意に変更される可能性は少ない。しかし感受性のある非標的種に対する曝露を制限するようにフィールド研究を行うことが重要である。
 これらの概念は特別な例にも適用できる。B. thuringensisの新しい株は、絶滅の危機にある鱗翅類昆虫のある種が、バクテリア産生のデルタ内毒素に曝露されないプロットで実験に用いるべきである。益昆虫の試験微生物に対する感受性を試験する場合、あるいは感受性のある益昆虫の有意な母集団の曝露を制限する場合は極めて厳重な注意が本質的に重要である。

遺伝子転移

 遺伝子改変された微生物の遺伝子転移能力および遺伝子構築の安定性は微生物の他の微生物との相互作用に影響を与えると考えられる。遺伝子転移とは自然の遺伝子機序を通じての遺伝子物質の播種のことである。
 遺伝子転移が遺伝子改変された微生物の安全性に与える影響を分析するうえにおいて考慮すべき要因としては以下のものがある。

  1. 遺伝子物質の水平的転移の可能性があるか。
  2. 遺伝子が転移される場合、新しい遺伝子情報は維持され発現するか。
  3. 新しい遺伝子物質の既知の機能は何か。
  4. もし遺伝子改変された微生物が導入点を越える場合、形質転換の結果として周囲の母集団、植物、動物、および固有微生物の共同社会にどのような影響を与えうるか。

 遺伝子転移とは自然の遺伝子機序を通じての遺伝子物質の播種のことである。プラスミドおよび/または染色体遺伝子が転移される機序には接合、形質転換、形質導入および細胞融合がある。こうした機序は試験所において研究されているが、自然における遺伝子交換の頻度についてはほとんど知られていない。我々は自然における遺伝子転移の頻度は試験所に比べて低いと予測しているが、自然における頻度は広範囲に研究されたことはない。自然における、あるいはシミュレートされた自然環境における遺伝子物質の若干の交換が発表されている。
 転移に影響を与えると考えられるいくつかの要因は以下のものの存在または不存在である。i)交配を高める大きなバクテリア密度  ii)形質転換を推進すると考えられる自由DNA、および iii)成長およびプラスミド転移を推進するが形質導入しないと考えられる粘土材料またはミネラル、広範囲な宿主範囲の存在、高コピー数プラスミドは分散の多くの機会をもたらすと考えられる。比較的に大多数のドナー細胞が受容株への転移を容易にする。さらに転移に影響を与える他の要因としては、バクテリアの空間的、時間的、生理学的隔離;土壌粒子、有機物質、他の生きた生物への付着による不動化;制限系およびプラスミド非競合性などの遺伝子障壁、および環境条件がある。
 同じ様な考慮に基づき、特別の環境において観察される可能性の高い転移頻度の評価が行われた。しかし遺伝子転移が起こる頻度および自然に起こる転移と比較したこのような転移の重要性はケースバイケースで評価しなければならない。

注  意

  1. 「移動」とは昆虫ベクターとの関係などふるまいの選択に関与すると考えられる活動プロセスのことである。
  2. 「分散」とは雨水のはね散りなどのように受け身的なプロセスのことである。
  3. 「生育地域」とは生物が発見される物理的場所のことである。生育地域の物理的、化学的特徴がその中に見つけられる微生物の成長、活動、相互作用、生残に影響を与える。
  4. 「ニッチ」とは生育地域よりも広い。ニッチは物理的生育地域だけでなく、機能的な役割もさす。そしてその空間における微生物の行動のことをさすこともある。本文書で用いられる場合「ニッチ」は生態系内の生物の機能的役割のことである。

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