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第四章 環境及び農業への利用

 組換え体は、封じ込められずに環境中でも利用するような目的のために、開発されることもある。例えば、殺虫剤や生育のよい作物の作出、鉱石からの金属の溶出、石油の二次・三次回収、汚染物質の分解などである。組換え植物及び動物が、繊維、食料及び飼料の生産を増強するために使用されることもまたあり得る。他の用途として、ある種の動物や人間用の薬品の製造と使用もあり得る。工場敷地からの組換え体の漏出もあるいは起り得るかもしれないので、同様に考慮しておくべきである。
 最近の農業の研究開発では、従来の方法で改変された生物を商業化する前に、広範囲に試験するのが普通である。この試験は一般的に段階的方法で行われる。温室又は他の種類の特別な封じ込めから始まり、限定された規模の管理された小区域の野外実験、そして最後に各種の地理的現場における大規模の多目的野外実験を行う。組換え体を農業用に開発する場合、同様な手順が適当である。動物や人間に使用する医薬品の臨床的利用も、商業化の前に試行段階の研究が重ねられる。微生物の環境への散布は、普通実際に放出する前に管理された系で予備テストされる。段階が進むごとに評価とデータ収集を行い、効力を確認すると共に、環境に対してやっかいな影響をもたらす生物又は用途(すなわち目的とした効果の無いもの)を除いて行く。これらのデータは、環境への影響を評価するのに適切であることが多い。
 組換え体を農業や環境用に利用するに当たって予想される、いろいろな生物、環境及び放出形態のすべてに、ただ1組の科学的考察が適用されるということはあり得ない。むしろ特定の用途や組換え体の性質が、ある安全性評価が正当であるかどうか又はどのような特定の検討項目が適切であるかを示すであろう。本章における論議は、このような評価の時に適切であろうと考えられる種々の科学的考察法を記述するのが目的であって、計画書の点検のために例外なく適用できる制度又は基準を提案するためのものではない。組換え体の環境及び農業への利用が増えるにつれて、それらの安全性に関する記録が集積され、従来の生物のそれと比較されることが重要である。

組換え体を環境及び農業へ利用する際の安全性評価時における検討事項

 本章における科学的考察は、実際に悪影響が生ずるために必ず起らなければならない一連の事象すべてについて、系統立てられている。したがって、特定の生物の安全性評価は、これらの事象に対する考察を段階ごとに評価して組み立てられる。もしこれらの事象のうちどれかの起る確率が低ければ、環境への悪影響が起る総合的確率は低い。

1. 環境における使用

 使用する場所の位置及び性質並びに使用の方法と規模が、安全性評価を行うのに重要である。食料、飼料及び繊維生産のための農業利用は、大量の組換え体(例えば除草剤抵抗植物、氷核非形成細菌、ウイルス性又は微生物農薬、トランスジェニック動物)を陸系又は水系の生態系に放出することになる。組換えDNA技術による動物や人間用のワクチンは、ある種の植物に共生する微生物と同様に、宿主に対する生物学的特異性の故に、環境への暴露はかなり限られた形態を持つであろう。しかし、下水及び飼育用地又は灌漑の用水等では、環境への偶発的な漏出が当然起り、それはかなりの量になる。環境への利用(例えば金属抽出、汚染物質や毒物の分解)は始めは特殊な地域に限られるが、広大な生態系が暴露されることもある。安全性を評価するための科学的考察は、生物や人間及び(又は)主な生物相に対する物理的、生物学的近接性により、個々の事例ごとに異るであろう。地域の検疫規則及び研究開発中に用いる監視方法もまた関係がある。

2. 環境における生存、増殖及び(又は)伝播

 利用される環境における生存と増殖及び新しい環境への伝播に関する生物の相対能力を考察することは、放出時の安全性を評価するのに重要である。勿論、農業や環境の目的に使う組換え体は、その用途の目的を達成するために生存し増殖し、そして恐らく伝播する能力をある程度持つことになろう。これは多くの大規模に工業利用する生物学的に弱められた(生物学的に封じ込められた)生物と対照的である(第三章参照)。評価は組換え体が、その生存や増殖に影響する環境条件(例えば気候又は土壌要因)に暴露されている時に、宿主と異なった性質を示すかどうか、組換えDNA技術がその生物の伝播の経路及び(又は)範囲に影響するかどうか、そしてその生物の数量が異常に増加して、環境へ悪い影響を与えるかどうかについて行うことになる。さらに、他の生物に転移して環境に拡がる能力の制限されたベクターを、優先的に使用すべきである。

3. 種又は生物システムとの相互作用

 組換え体とそれが用いられる生態系との間の相互作用を明らかにするには、2つの一般的検討が必要である。すなわち生態系の記述(例えば生育地、優勢種)とその生態系における潜在的相互作用(例えば病原性、遺伝子転移、異常大量発生)である。その生態系を構成する要素を完全に明らかにすることは、ほとんど不可能である;したがって通常は、特定の生態系の主要な特徴に焦点を当てて考察すべきである。
 組換え体の特性を宿主と比較することは、どのような相互作用が最も重要になるかを決める指針として役に立つ。この評価で考慮すべき諸点は、既に第二章で述べており、また添付資料BとDに述べている。

4. 環境への影響

 この評価段階では、重大な環境へのインパクトにつながる要因について考察する。この中には、(i)病原性、感染性及び競合者、捕食者、宿主、共生生物など他の生物に対する影響;(ii)鉱物循還、窒素固定など生物地球化学的プロセスにおける、既知又は予測されるかかわり方;(iii)放出生物の遺伝的又は表現型の安定性;(iv)生態系における他の生物への遺伝物質転移の可能性;(v)利用後、生物の数が異常に増加することによる影響、などが含まれる。

植物及び動物との関連

 本章で説明している科学的考察の多くは、組換えDNA技術によってつくられた植物と動物に関しても当てはまる。さらに、DNA供与体、宿主及び組換え体の重要性を説明している第二章の全般的考察もまた、安全性評価の初期段階では必須のものである。
 植物や動物についての環境への安全性評価は、微生物の場合と大きな相異がある。それは主に寿命や遺伝的隔離性又は生物学的封じ込めの程度だけでなく、生物体の複雑さと大きさに差があるためである。微生物の利用について問題となった検出、監視及び封じ込めに対する関心は、植物や動物では微生物の場合と同じ程高くない。

情報と試験方法の有効性

 生物を放出した場合の環境へのインパクトを評価するに当たって、一般的に留意すべき要因を添付資料Dに例示している。環境に生物を導入することに対する危険性評価は十分開発された研究の分野ではないが、動植物や微生物に関する生態学、病理学、分類学及び生理学上の豊富な情報が存在しており、これらはデータとして利用できる。
v組換え体の応用を含めて、現在の技術の水準が研究から野外実験、そして商業的利用に進むにつれて、さらに科学的情報が得られるようになることが期待されている。組換え体を生態系に導入する場合の結果を予測する能力を増加する研究を、さらに強化させるべきである。最善のテスト方法と共に、生存や伝播に関する最も完全なデータが、恐らく栽培植物や家畜に対して病原性のある微生物に関して、存在しているであろう。
 微生物に関する既存のデータは、ある限られた範囲で集積され、系統化され、コンピューター化されている。菌株固有のデータシステムが、国際的に調整されようとしている。遺伝的要素(例えばプラスミド、ファージ)の遺伝子配列及び機能地図のデータは自動化されつつある。数種のウイルスのゲノム配列がすべて明らかになっている。
 栽培植物、家畜又はある種の微生物の、導入育種及び放出をした長い歴史から得られた情報から、組換え体を評価するための重要な基礎データを得ることができる。すでに述べた通り、受容体生物に関する情報は、組換え体の行方を予測するのに十分役立つ。
 組換え体が環境に対して悪影響を与えることに対する心配のために、追加データが必要になることがあり得る。封じ込められるか、シミュレートされた環境で得られたデータが、しばしば評価に役立つことがある。しかし、生物はシミュレートされた環境で振舞う通りには必ずしも野外では振舞わないかもしれないので、有効なデータを得るにはどうしても小規模の野外実験が必要であろう。

工業的用途から放出された組換え体の環境に与える危険性の評価

 大規模な工業利用に関する安全性評価では、生物が事故又は偶発的に環境に放出される可能性を考慮せねばならない。大規模は工業利用のほとんどすべては、安全に長期間使用した歴史及び(又は)施設外では限られた生存能力を持つ、GILSP生物を利用する。普通使用される物理的封じ込めの程度は、漏出の制御も含め、組換え体の生物学的な性質によって決められる。
大規模な工業利用で生きた組換え体が環境に大量漏出することを想定した場合に対しては、安全性の評価は本章に述べている科学的な検討を用いて行わねばならない。

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