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第二章 安全性の考察

 本章の目的は、微生物、植物及び動物を工業及び環境で利用する場合の潜在的危険性を評価する時に、また適切な安全確保策をとる時に、考慮すべき科学的考察の範囲を提案することである。
 微生物は人間、動物、植物及び環境と関係があり、その影響は有益であることが多い(第一章参照)。しかし、これら微生物のあるものは病原性であり、またあるものは環境に悪い影響を与えるかもしれないから、微生物の安全使用に対する科学的な考察が必要である。
 従来及び最新のバイオテクノロジーにはさまざまな用途の可能性がある。その範囲は、特定の性質を持つか、又は希望する生成物を合成する遺伝学的に改変した微生物を封じ込めて利用する工業用途から、農業又は環境中で封じ込めることなく利用する用途まで及んでいる。このような用途と関連のある潜在的危険性を評価するため、多くの既存の科学的方法が利用できる。

リスクアセスメントの方法

 リスクアセスメント手法の詳細な検討は、本報告書の範囲を超えたものと考える。この節では組換え微生物の利用に特に関係ある手法について概観している。しかしこれらの方法は、基本的には植物や動物にも適用できる。次の六段階は、最近の米国のレポート1) を少し変更して引用したものである。
 微生物のバイオテクノロジーへの利用を表現する有益な記述的なモデルが、米国議会技術評価局(OTA)の報告の中に出ている。2) OTAのモデルの各段階は次の通りである。すなわち

1.生成……

意図的な又は偶然による遺伝的に変化した微生物の創出。

2.放出……

これら微生物の作業現場内及び(又は)環境への意図的な放出又は事故による漏出。

3.増殖……

放出に続いて起こるこれら微生物の、環境における増殖、遺伝的再構成、生育、移動、改変、死滅。(遺伝物質の他の微生物への伝達の可能性を含む)

4.定着……

人又は他の生物相での定着の可能性を含む生態系のニッチェ(生態的地位)における、これら微生物の定着。

5.影響……

定着に続いて起こるその生物とある宿主又は環境要因との相互作用による、人間又は生態に及ぼす影響。

 初めの2段階、すなわち生成と放出は、リスクの原因が何かを示す段階である。これらの段階は、原則的には結果の大きさと関連づけた確率を数量化することによって解析できる。確率と結果の大きさの推定は、一般的にフォールト・ツリー解析又はイベント・ツリー解析又は最近のEPAによる研究3) のようなシミュレーションによって、行うことができる。
 最後の段階の人間と生態に及ぼす影響は、原則的には通常の疫学又は毒物学の方法を応用することによって解析できる。このような方法を用いて、宿主生物の感染及び疾病の活性化に関する可能性を評価するために、数多くの研究が既に行われている。4) 広く研究されている別の分野は、人間集団の中の抗生物質耐性菌株の伝播に関するものである。このように既存のリスクアセスメント手法が、人間がバイオテクノロジーによる生成物にさらされた時の結果を推定するために、現在利用されている。しかし、予測モデル化が農業生態系の疫学的研究において進められているといっても、生態的影響のアセスメント手法は十分発達しておらず、もっと研究が必要である。
 中間の第3と第4段階は、既存のリスクアセスメント手法を使って解析するのが困難である。最も困難な点は、微生物の既存生態系との相互作用の評価である。例えば導入された微生物は、遺伝物質を他の微生物に伝達するかもしれない。一度定着した微生物は、潜在的にはさらに増殖又は遺伝物質の伝達を促進させる方向に環境を変えることができ、それが二次的な影響のもとになる。
 増殖と定着に関する研究の重要な二つの分野は、(i)微生物の環境における伝播と消長 と(ii)生態系における相互作用 である。微生物伝播と消長に関する知識は、標的外の地域又は標的外の生物が暴露される可能性を評価するのに役立つ。最近、伝播経路と消長の道すじの科学的研究が、各種の細菌、藻類、ウイルス及び他の微生物に対して、排水処理方法、伝染性因子の伝播、殺虫剤及び給水保護の研究に関連して行われている。これらの研究によって得られたものの多くは、組換え体の伝播と消長の評価に参考となる。
 組換え体と他の既存生物間の潜在的生態系内相互作用の可能性は、正確に記述し予想することが極めて困難である。1つの定性的なリスクアセスメントは、異なった環境条件の下での生存、定着及び遺伝的安定性の傾向を比較するのに利用できる。導入された又は導入の後で変換された微生物の増殖は、恐らく3つの型の1つに従うであろう:すなわち一時的に生存するが終局的には消滅する。1つ又は数個の安定な集団として定着する、又は限界に達するまで増殖する口である。これらの原理は微生物に関して論議されているが、植物や動物に対しても適用できる。

組換え体のリスクアセスメントに関する考察

 従来の突然変異法又は選抜の技術により、生物のある特性を増加させたり引き出したいならば、新しい生物のリスクアセスメントは、親に関する知識と、新しい生物が親とどのように異なるかの解析に基づくであろう。同様に、工業、農業又は環境で利用するように計画された組換え体のリスクアセスメントでは、いづれも最初に、その生物の問題となる性質を明かにする。
 組換え体は一般的に、供与体からのDNA小断片を受容体の中に導入することによって作られる。したがって、これら2つの「親」から組換えDNA技術で得られる生物のゲノムは、受容体のそれに非常に似ている。組換え体の遺伝子情報のほとんど大部分は受容体のそれであるから、受容体の性質の記述が組換え体の性質を調べる時の最初に役立つ情報を提供する。組換え体と受容体の性質の違いを説明する情報が、リスクアセスメントの枠組みを決定する。
 リスクアセスメントの結果として組換え体を物理的に封じ込めねばならないという結論になった場合、これを工業的な用途に利用することは可能であるが、農業や環境への利用は不可能である。この違いは、改変された生物が遺伝子操作によって作られたものかそうでないかということより、一層根本的なものである。

1. DNA供与体と受容体の性質

 考慮すべき受容体の性質には、遺伝的特性、病原性、生理学的及び生態学的特性と共に、起源と分類が含まれる。DNA供与体の性質については、挿入DNA断片の構成と機能が関係する。これらのDNA断片が十分に特性付けられていない場合は、供与体の性質に関してもっと情報が必要である。この種の情報は一般に、実験室、野外試験及びパイロットプラント段階を通して明らかになるが、追加データを得るために追加のテストが必要な場合もある(添付資料B参照)。
 化学的に合成された核酸を用いて組換え体を作る時は、その配列の構成と機能を考慮せねばならないこともある。

2. 組換え体を作るための組換えDNA技術

 受容体及び供与体DNAの適当な性質は、これらの組換え体の特定の性質に関する情報を提供する。
 組換え体を作るための組換えDNA技術の記述は、組換え体の性質を予測する上で重要な情報を提供する。それには例えば、供与体DNA、調節系、連結配列、抗生物質耐性遺伝子、近傍領域などが含まれる。

3. 組換え体の性質

 アセスメントの本質は、導入DNAによってどの程度受容体の性質が変わるかである。最初に考慮すべきことは、導入された遺伝物質の発現の程度である。次に考慮すべきことは、意義のある新しい又は予測できない影響を含め、遺伝子操作の結果として受容体の問題となる性質が改変される程度である。宿主生物と組換え体がよく似ているので、組換え体の性質を記述するのに役立つテストが可能になる。
 組換えDNA技術を使って生物のゲノムを改変できる。例えば受容体のゲノムの一部を欠失させることができる。欠失技術は、他の操作方法による改変よりも安全性に対する心配が通常少ないと考えられる。なぜならば、欠失は一般に微生物を弱らせつつ、わずかなより正確に決められた変化を与えるのが一般的であり、親の生物に新しい遺伝情報が付け加えられないからである。欠失はまた生物の中で自然に起る欠失突然変異に似た変化を生じ易い。しかし他の改変の場合は、特に予想外の機能が表われる可能性について適切に考慮しておくべきである。

大規模工業利用に関連した安全性の考察

 工業的に用いられている伝統的な生物プロセスは、特性の十分明らかにされた微生物を使っている。危険性が少ないと考えられる生物に対しては、最小限の規制と封じ込め方法だけが必要である。少数の例外(例えばワクチン生産)を除き、人間や動物に対して病原性のない生物だけが用いられている。

予測される災害と安全性の証拠5)

 組換えDNA技術が初めて導入された時、その潜在的危険性に関して当然の心配があった。しかし制御された条件下における10年以上の実験の後も、これらの危険性は推測上のものに止まっており、事実に基づいたものになっていない。これらの技術の安全性に関する初期の不安が、3件の力強い証拠によって軽減されている。第1は、宿主がDNA供与体から予期できない危険な性質を獲得し得るという仮説をテストするために、特別に計画されたリスクアセスメント実験の結果、このような予想された危険の存在を立証できなかった。第2は、基礎免疫学、病原性、伝染病の過程に関する既存情報をより厳密に検討した結果、国の関係省庁によって勧告されていた封じ込め規制が緩和された。第3は、最近行われた実験では新しい危険性が観察されなかった。
  上記の証拠は組換え体の安全性の水準が、組換えDNAプロセスで使用する各構成要素の既知の性質を検討することによって、間違いなく評価できることを示唆している。例えば強力な毒素をコードするDNAをクローン化する時は、当然特別な注意が必要である。
  組換え体の工業的用途における潜在的危険性は、他の生物因子と同じ性質のものと予想される。すなわち

(i)

感染の危険……生物又はウイルスに曝らされた後の、人、動物及び植物における発病の可能性。

(ii)

死菌体又は細胞、その成分、自然に生じる代謝生成物による毒性、アレルギー原性又は他の生物学的作用。

(iii)

生物によって発現される生成物の毒性、アレルギー原性又は他の生物学的作用。

(iv)

環境に対する影響(次の節参照)、である。

 適切な設備と制御方法の開発によって、バイオテクノロジーは一般的に安全な産業とみなされるようになった。上述の(i)〜(iv)の危険が予想される所では、漏出の危険性に注意が払われる必要があり、またそのような漏出を防止するか最小にするために、十分な適当な方法を採用する必要がある。工業規模の作業を企てる時でも、組換え体又はその生成物に関して、実験室規模の作業に比べ本質的により危険なものはないといってよい。増加するのは主に操業の規模であり、したがって漏出する量、濃度及び漏出期間である。一方、十分明らかにされた方法によって制御された発酵条件の下においてのみ、単位容積当りのバイオマス及び生産物レベルを最大にすることができる。実験室の研究段階における生物に関する不確実な点は、ほとんどスケールアップ以前に解消している。もしその生物が発酵槽内で定められたプロセス条件のもとで効率的なら、弱められた実験室宿主株を発酵生産物用に使用することができる。企業には元来危険の少ない生物を使いたいという意向があることも、また強調すべきである。このことは国の法的制約を最小限にするのみならず、例えば高価な封じ込めプラントやそれに関連した厳密な封じ込め安全手順の必要性を最小にすることによるコスト低減を、可能とする。
 伝統的生物及び組換え体による人や動物、植物に対する潜在的危険性についての詳しい解析が、添付資料Eに記載されている。これらには、病原性、大量の微生物の取扱い及び生理活性物質についての考慮が含まれている。

農業及び環境利用に関連した安全性の考察

1. 全般的な考察

 この節では、組換え体(微生物、植物及び動物)を農業や環境で使用することと関連する、安全性と想定される危険性について論じる。選抜と交雑育種によってこのような目的にとって利用価値の高い品種を作出できることが分かってから、生物の遺伝学的操作が意図的に行われ始めた。組換えDNA技術を使って、現在では極めて特異的な改変を生物の中に導入でき、生物種間の遺伝物質の伝達を今まで妨げていた障壁を乗り越えるか避けて通れるようになった。こうして組換えDNA技術によって作られた微生物、植物及び動物のあるものは、自然の中で見つけられたり従来の育種法で作られる変異型と、質的に又は量的に異なる。
 これらの組換え体を環境で利用すると生態学的な危険が生ずるという心配が表明され、この潜在的な災害を評価するための企てが行われている。今のところ、これらの企ては主に(i)自然発生した変異体を、それが今まで生存していなかった生態系に導入すること、(ii)在来の個体群における新たな形質の発展、及び(iii)農作物、植物関連微生物及び動物の操作に関する経験から類推する、程度に止まっている。しかしこれらの領域のある部分における予測的な知識は乏しく、工業への利用の場合に得られた知識とは比べようもない。したがってこれらの領域は、その分野が発展すると共に絶えず見直されねばならない。
 起り得る危険性を確実に把握するために、生物種導入時の過去の経験が研究された。大多数の例において、害のあった結果は記されていない。しかしある場合には導入によって受け入れ環境に生物的変化が生じており、その中で重大なものが2〜3例あった。さらに定着させるには到らなかったので文献には記されていない導入例を知ることは、不可能である。
 既存個体群の中で「新しい」形質を獲得していくことに関する経験が、潜在的な危険の要因を確実に把握するための基礎をなしている。生物種内の遺伝的変化は、自然の中では絶えず起っている。時々、新しい性質が選択に有利性を与えた結果、棲息数が増えたり、宿主域や棲息分布域を拡大すること及び(又は)新しい物質と棲息場所を利用する生物が生じることがある。このような結果はまれであるが、この経験は、小さな遺伝的変化が表現型に重大な影響を持ち得ることを示している。変化の性質によってはその影響が特定の生態的条件の中で増幅され、環境への影響が重大になることがある。
 組換え体のごく一部が環境に有害な影響を与えるかもしれないという推測は、さらに次の論拠に基づいている。すなわち(i)ある用途では利用する組換え体の数が大であるかもしれない;(ii)生きた組換え体は環境の中で増殖し拡がる能力を持っている;(iii)希望する特性を与える目的で組換え体に挿入するDNAは、プラスミド、ウイルス、又は他の方法によって別の生物に伝達され、その生物は好ましくない特性を持つようになるかもしれない;(iv)組換えDNA技術は自然の中では一般に発生しない他種との組み合わせによる生物を作るであろう、といういことである。
 組換え体を農業や環境に使う場合の環境に与える潜在的影響は、農業用の自然に生じた変異種や選抜した変異体を導入した時に観察されている影響と同様であると想定される。それらの中には、(i)組換え体の目的外生物に対する直接ではあるが予期できない影響;(ii)生物種間の直接的相互作用の結果に及ぼす影響;(iii)生物種間の間接的な相関関係の変化;(iv)すべての生態系を支えている生化学的プロセスに対する影響;(v)生物種同士及びそれらの物理的及び化学的環境に対応する生物種の進化の速さと方向の変化、が含まれる。
 環境及び農業での生産物の研究開発が進むにつれて、組換えDNA技術はいろいろな目標を達成するために使用されようとしていることが、明らかになって来ている。これらは生物のゲノムのごく一部分を欠失させることから、生物の中で既に存在している代謝径路の大幅な制御、近縁の生物から遺伝物質の組み込みから、非常に遠縁の生物種間で遺伝子を伝達させることにより自然では起りそうもない性質の組み合わせを作ることまで、広い範囲に及んでいる。この広い範囲の操作方法に対しては、組換え体及び用途を別々の危険性分類に分けるのがよく、その分類のあるものは他のものより危険性が少ない。危険性の少ない用途の区分けが既に完了している。6)
 組換え体の応用による予期しない有害な影響の確率は、幾つかの理由でしばしば低いものとされる。組換えDNA技術は大抵の場合、伝統的な技術によって得られる生物より、詳しく性質が明らかとなった生物を作ると考えられる。有用な組換え体の開発が成功するかどうかは、適当な受容体の選択;希望する機能を支配する遺伝子の同定;遺伝子を単離・クローニングし、目的とする受容体に導入すること;そして導入した遺伝子が計画通り働くように調節することにかかっている。このように有用な生物を作り出すには、その生物に関する大量の知識が必要であり、また作り出す過程から追加の情報が得られる。
 微生物や高等生物が農業や環境用に開発される時に普通採用している方法は、物理的封じ込めを段階的に緩和して行く方法である。実験室での研究、ミクロコズム及び他の封じ込めた環境での研究、小規模な野外試験、そして大規模野外試験によって、安全性や性能データを集める論理的で有効な段階的方法が可能になる。この段階を追う方法においては、生物は各段階で調べられ、注意深く観察されるので、次のより緩和された段階における生物の挙動が予測できる。

2. 微生物に関する考察

 環境に放出された組換え微生物に関する心配の中には、遺伝子操作がその宿主域に影響し、窒素やリグニンのような基質を利用する能力に影響し、微生物を病原性に変え、及び(又は)微生物を生態系において生態学的に相互関係にある個体群との間の平衡関係を変えるかも分からないという可能性が、含まれている。
 病原体は、人や農業システムに対して最も明白な影響を与えるため、大きな関心事は、遺伝的改変が非病原性生物を病原体に変える可能性又は植物や昆虫や他の害虫を制御するために使用する病原体の宿主域又は毒性を変える可能性である。病原体に関する研究は、微生物が病気を引き起すには多くの遺伝子が適切に相互作用しなければならないということを立証している。病原体は認識要素、定着性、毒性及び宿主の防御システムに対する抵抗性のような性質を持ち、発現しなければならない。病原性の可能性又は履歴を持たない生物の1つの遺伝子の改変又は病原性に寄与しない数個の遺伝子の導入のために、予期できない病原性を生ずることはないようである。さらに病原性に関する幅広い経験と広範なデータがあり、組換えDNA技術の影響を考える時、検討すべき事項を明らかにするのに役立てることができる。

3. 植物に関する考察

 組換えDNA技術で改変された植物を農業用に使用することに対しては、微生物に対して示されたものより、予想する危険に対する不安が少ない。なぜなら植物は、一般に監視したり制御し易いからである。それでも特に心配されることは、植物の遺伝子操作によって制御困難な雑草が発生することである。不安の大きさは、植物の性質、改変遺伝子及び改変された植物が導入される環境によって変る。仮説ではあるが、雑草は次の各項によって発生する、すなわち、(1)偶然に;(2)意図的に作物に耐性を導入する計画を通じて;(3)野生植物と組換え植物との自然交雑によって である。仮説としては、交雑によって新しい遺伝子が野生植物に転移し、除草剤抵抗性、ストレス耐性及び耐虫性のような性質が与えられる可能性がある。単一の遺伝子によって支配されている特性で、その対立遺伝子が既に多くの植物に存在する場合には、移入される確率が最も高い(例えば除草剤抵抗性)。
 雑草の種属の分類学、遺伝学の知識によれば、雑草性植物を作る可能性は、雑草性植物又は雑草を含んでいることが知られている属に属している植物を、新しい植物品種を作るために操作する時に最も大である。しかし、トマトの改良にみられるように、この分野では従来の育種における経験や成功がある。植物が雑草の性質を発現するには、非常に多くの遺伝子が適切に相互作用を起さねばならないようである。そしてこのことから見ると、植物の遺伝子操作は雑草性植物をうっかり作るようなことはないようである。とにかく、組換えDNA技術によって作物の中に「雑草性」が導入される機会は、従来の植物育種法によってそのような特性を導入する時よりもはるかに少ない。従来の植物育種法では、雑草が耐病性や耐虫性のような好ましい形質の遺伝資源としてしばしば用いられているからである。
 人間又は動物の消費用に組換え植物を開発する時の次の不安は、改変された植物が毒性のある二次代謝産物又は蛋白質毒素を、特にその植物に耐虫性を付与するために操作した時に、産出するかも分からないということである。この問題もまた伝統的な植物育種の場合にも起きている。
 伝統的な植物育種におけるその他の不安のあるものは、組換えDNA技術を使った育種にも同じく当てはまる。これらの不安の中には、植物の遺伝的変化に対応するか、又は単一品種を広い地域にわたって集中して栽培することから来る、植物に関連したミクロフローラの変化が含まれる。このような潜在的な悪影響の一例は、病原体や昆虫が植物の抵抗性の変化に対して遺伝的に反応することである。これらの反応によって有害生物が植物の抵抗性に打ち勝つことができるようになる。この進化論的な反応は、多くの有害生物において昔から観察されており、したがって組換えDNA技術の応用に限っての問題と考えるべきではない。

4. 動物に関する考察

 動物に対する特定の遺伝子操作についての現在の実験の数は少ないが、その危険性は低いと思われる。家畜に対する遺伝子操作と関連した主な不安は、次の通りである。すなわち動物の遺伝子の調節の変化、内在性の潜状ウイルス又は外因性遺伝子の発現及び食品中の生理活性物質の許容水準を起える存在である。環境に対して自由に接近し又は接近する可能性のある水生又は他の動物に対しても、植物又は微生物に対するものと同じ安全上の原理が適用される。これらの可能性のある問題は、本報告書では詳細には考察していない。

5. まとめ

安全に対する不安は、組換えDNA技術によって改変した生物の環境や農業での利用が、危険の増大を招くかどうかに集約される。組換えDNA技術は自然界では観察されていない性質の組み合わせを発現する生物を作ることになるかもしれないが、組換えDNA技術を用いることによる遺伝的変化は伝統的な技術に比較して、本来より大きな予測可能性を持っていることがしばしばである。なぜならば組換えDNA技術は、より高度な精密さで特定の改変ができるからである。組換え体の応用と関連する危険性は、組換え体でない生物に関連した危険性と一般的に同じ方法で予測できると考えられる。組換え体(微生物、植物及び動物)に関してさらに研究と経験を重ねることによって、組換え体を多くのさまざまな生態系に導入した時の結果を正確に予測するための能力が、確実に増大することを認めるものである。

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