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第一章 組換えDNA技術の利用

大規模工業への利用

 この節では、組換えDNA技術の製造工業における現在並びに将来の利用について概観する。我々は現在及び将来に予見される産業への適用についてすべてを検討したわけではなく、組換えDNA技術が産業へ提供し得る機会がどのような内容でどのような範囲のものかを論じたものである。米国議会技術評価局(OTA)1)、世界保健機構(WHO)2)、ドイツ化学機器協会(DECHEMA)3)、及び経済協力開発機構(OECD)4) による検討は、よい参考になる。
 組換えDNA技術の応用は、広範囲にわたって産業界へ新しい可能性をもたらした。人と動物の治療や食料関連、発酵工業プロセス、環境汚染物質の分解、鉱物や原油の回収及び農業に、この技術が利用される可能性がある。そのような利用により疾病を理解し、診断する方法に重要な新発展がもたらされて、必然的に健康管理上優れた治療・予防法につながり、また製造工業や環境制御の手法の改善や、より高品質の食品や繊維の生産の増大につながることになろう。
 医薬品、食品添加物、ファインケミカルズ及びある種のバルクケミカルズの製造プロセスにおいて新規製品や従来ある製品両方に新しい生合成プロセスが適用され、その収量及び純度の改良の両面にわたり有益である。
 組換えDNA技術による明白な利益は、健康管理に関連する製造工業において既に表れている。例えばヒトインシュリンは、最初に市販された組換えDNA技術による医薬品であって無制限に供給することも可能であり、場合により豚や牛の組織から製造される非ヒト由来インシュリンに取って代わっている。
 ヒトインシュリンの生産は、恐らく現行薬剤よりも優れた新しい医薬品を製造する上で、組換えDNA技術の可能性を示すものである。より重要と考えられるのは、疾病の治療に使用するために必要な量と純度を従来のテクノロジーでは製造できなかった、インターフェロン、血液因子やワクチンなどの量が少なく高価な治療用物質の製造に、この技術を用いることである。例えば、それがなければ下垂体性小人症になったであろう患者の成長を増すために用いられるヒト成長ホルモン(hGH)は、以前には死後収集する人間の下垂体からしか得られず必要量には満たなかった。しかし、組換えDNA技術を用いることにより、ヒト成長ホルモン合成をコードするDNAを細菌内に挿入して、事実上無制限にヒト成長ホルモンを供給することが可能になった。その上、病原体等(ある種の下垂体由来のhGHには、最近Creutzfeldt-Jakob因子がみつかった)の混在する可能性がほとんど排除される。
 生産量が不足している他の医薬品を製造するために多くの組換え体がパイロット規模で培養されており、いくつかは製造規模にあって、培養量数千リットルという製造がなされている。これらのプロセスは、種々の治療領域で臨床試験を実施するのに十分な試料を製造している。実験レベルからパイロット規模を経て最終的に製造レベルへのこれらのプロセスのスケールアップは、これまでの細菌、酵母、真菌類の大規模発酵工業で得られた極めて広範囲にわたる経験を利用することで達成されている。
 発酵技術におけるこれまでの経験というこの大きな資産の重要性を、有用生産物を十分量製造するために組換えDNA技術という新しい技術を有効利用するに当たって、過小評価してはならない。組換えDNA技術で作られた生物の性質はよく理解されており、極めて高品質で高純度の生産物を製造するのに役立っている。かくして現存の発酵技術と組換えDNA技術の組合せは、健康管理その他に用いる多くの重要な物質を生産する強力な手段を我々に提供するものである。
 種々のヒトのホルモン、免疫システム調整物、抗ウイルス剤と抗癌剤を始めとする組換えDNA技術による生産物の種類の範囲を拡大する研究が、続行されるであろう。このような物質は多くの主要疾病に対する新たなる洞察と新療法とを、我々に与えるであろう。疾病は組換えDNA技術に基づく新診断法が利用できるようになるにつれて、現在よりも正確に早く診断されるようになるであろう。血液凝固機構に関連する疾病を予防ないし制御する新薬剤が製造されるであろう。さらに組換えDNA技術によって、ウロキナーゼやティッシュ・プラスミノーゲン・アクチベーター(TPA)のようなヒト線維素溶解酵素の製造に関する研究及び血液凝固因子IXとVIIICの大規模発現に関する研究が、継続し発展するであろう。後者プロセスは生産量の乏しい凝固因子の供給量を増加させるのみでなく、生産物の純度を保証しかつ病原体等による汚染の可能性を少なくするものである。この技術はインフルエンザやコレラ用の既存ワクチンを改良し、また、例えばマラリア、ヘルペス、ウイルス性出血熱用に全く新しいワクチンを製造する機会をも提供する。これらのすべての場合において、多量の病原体を取り扱う必要が無くなる。
 このように健康管理の領域では、従来からある医薬品の新たな改良品、全くの新薬、並びに現在では治療法がほとんど無いか全く存在しないような疾病に対するワクチンなどが供給されるようになろう。これらの成果は、より優れた診断技術により支えられ、個人のみならず地域社会にとっても優れた健康管理につながるべきであろう。経済的な利益はまだなかなか得られていないかもしれないが、組換えDNA技術が進展するにつれて利益は増大するものと思われる。
 医学の領域内だけでなく医学の領域外でも、組換えDNA技術は製造業で利用され、医薬品工業、化学工業、食品工業において既存製品の収量改善、あるいは新規化合物製造という方向に向かうものと考えられる。引用できる例としては次のものが挙げられる。(a)SCP(微生物蛋白)製造での省エネルギー化による原価低減化。(b)ペニシリンから6‐アミノペニシラン酸への転換のためのペニシリンアシラーゼの収量増大。(c)ビタミンの一つであるリボフラビンの生産の増大。(d)有毒廃棄物処理として塩化芳香族化合物の分解と生物変換のための新規微生物の創造。(e)廃棄物と下水からのメタン生産の増大。
 大規模バイオリアクターに使用するための酵素を組換えDNA技術によって製造することは、アミノ酸製造における生合成方法の導入がそうであったように、製造業に影響を及ぼしている。組換えDNA技術の力によって、数々の新展開が期待され、現在の製造プロセスの収率のみならず品質も高められよう。以前は、そのような目的は広範囲にわたる偶然に基づく古典的な突然変異法によって、達成された。古典的な突然変異法は多くの例で成功を収めているが、本質的には非選択的で成り行きまかせのプロセスであり、最適微生物を選別するには高価なスクリーニング方法が不可欠であった。
 新しい発展は、生物の改良や新物質を製造するために、必要なDNAを抽出したり合成したりすることを可能とする基礎科学研究の進展の結果により、もたらされている。新しい組換えDNA技術は広範囲の製造業に広まり、相当な利益をもたらすであろう。今までの経験から明らかなことは、組換えDNA技術の利用は、大規模発酵技術、生産物の抽出精製技術などの従来からのプロセスに依存するところが大きいということである。この組換えDNA技術は、生産物の特徴づけと品質管理の手段と組合わされるとすると、収量増加、純度増大、生産物の安全性増大等をもたらすであろう。

農業及び環境への利用

 この節では、組換えDNA技術の農業及び環境における現在並びに将来の利用について、概観する。これらの利用の多くは、開発の初期段階にあるが、将来は幅広く利用されるものと思われる。

1. 農業に応用される組換えDNA技術

 組換えDNA技術が農業に主要用途があることは確実である。世界中で数多くの大学、政府、企業の研究グループが、食糧生産の量、質、効率の向上という総合目的でこの新しい技術の応用を試みている。作物の新品種作出、動植物の新しい診断技術の開発、動物の改良、動物ワクチン、新しい殺虫剤や除草剤の開発といった農業分野への応用が、現在熱心に研究されつつある。
 選抜、分離、交配という古典的遺伝技術は、約1万年前に狩猟、採取から作物栽培へと移行して以来、農業において主体的な位置にあった。こうした方法は、圃場管理の実施、大規模栽培、試験管内栽培技術、農薬、化学肥料、広範な潅漑により促進され、農業のバックボーンとなっている。
 29種の基幹作物(禾穀類8種、需根作物3種、糖料作物2種、マメ科穀類7種、油料種子7種、他にバナナとココナッツ)に加えて主要野菜品種15種、果物類15種が、人の食糧の93%を占める植物生産物である。現在組換えDNA技術は生理学、生化学の全く新しい種類の基礎研究を可能にし、多数の作物の改良と、これら作物と有益な寄生微生物や動物、塩分、酸度、水分、温度及び化学肥料、殺虫剤などの複雑な農業生態系との相互作用の解析を可能としている。
 特に農業における組換えDNA技術の目的は、例えば環境ストレスに対するぜい弱さを減少させること、動物や生育中及び収穫後の作物の感染因子を検出・防除すること、化学殺虫剤依存性を低減し、使用パターンを修正し、化学肥料と潅漑への依存性の低減を行い、並びに種子、果実、穀物粒及び野菜の栄養面での質を向上させることである。
 組換えDNA技術は農業における重要な微生物の操作でまず実現し、動物・植物でも単純な遺伝をする形質において、すぐにも改良が行われるまでになるであろう。しかし収量、適応性、光合成などの多くの遺伝子の発現を必要とする複雑な遺伝形質の改良は難しく、現時点では技術的にみて極めて困難であろう。他種の遺伝子を導入することによって、遺伝的多様性を増加させ、大幅な環境変化の影響に耐えるような能力を付与することができる。以下に示す応用がこの分野の研究方向を示している。

a)

種子貯蔵蛋白の栄養面での品質向上
豆科植物の種子や穀粒は、人の食糧蛋白要求量のほぼ70%を供給している。しかしながら、これらのものから得られる蛋白は、人が食糧として摂取せねばならないある種のアミノ酸を欠いているために、バランスのとれた食糧とはならない。アメリカにおいて農業における組換え体植物の野外試験の最初の要求は、食糧として十分な量の必須アミノ酸を含む蛋白をコードするトウモロコシの貯蔵蛋白遺伝子を作る実験に関連していた。

b)

冷害及び霜害抵抗性増強
霜害は、アメリカで年間30億ドルにものぼる損害を出すと見積もられている。貴重な農作物を保護するために通常用いられる物理的手法には、送風機、化石燃料を燃やすたき火及び大量の水の汲み出しが含まれる。これらはすべて高コストで、環境的には好ましからぬことが多く、効果のないこともある。凍結温度から5℃以内の低い温度では、葉上の氷形成は、Pseudomonas syringaeErwinia herbicolaなどの細菌の表面蛋白によって仲介される。このプロセスは氷核形成といわれる。5) 氷核形成能の欠失した細菌(I−細菌)をI+細菌と葉上で拮抗させることにより、作物の霜害を制御することができるかもしれない。このようなI−細菌は、(i)自然界から単離されるか、(ii)化学的突然変異で入手するか、(iii)組換えDNA技術により、氷核形成遺伝子を除去することにより得られた。組換え体は、少なくとも他の突然変異体と同様に同定されており、特定の宿主植物に適応した微生物と拮抗する可能性が高いと考えられる。

c)

農作物の化学物質や病害への抵抗性の強化
除草剤のような植物の成長を制御する化学物質が、農作物と競合する雑草を除くために広く用いられている。トウモロコシのようにある種の重要な作物は除草剤アトラジンに耐性を示すが、同じ農業環境で大豆のような他の作物はこの除草剤によって害を受ける。トウモロコシや耐性のある雑草におけるアトラジン解毒作用は、遺伝子により制御されている。したがって、もし耐性のある雑草からその遺伝子が単離され、組換えDNA技術によって大豆に組み込まれたならば、そしてもし大豆中で発現したならば、耐性機構も導入されることになるであろう。
病原因子や害虫に対する抵抗性を付与する遺伝子は、栽培作物の近縁種にしばしば見出されてきた。従来の交配技術による種間の交配で抵抗性遺伝子を栽培作物に導入してきたが、何世代にもわたる戻し交配技術と選抜により始めて除去が可能な多くの望ましからぬ遺伝子と共に、導入されていた。生物学的な障壁によって、他家受精や接合子の発生が妨げられる場合には、細胞融合やプロトプラスト融合を植物の再生技術とあわせ用いて、遺伝子の伝達を行うことができた。このような生物や細胞育種技術は、特定の耐性遺伝子を細胞やプロトプラストに直接導入する組換えDNA技術と結びついて、従来の技術による育種年限を大きく短縮するだろう。

d)

化学殺虫剤を微生物農薬に代えること
マイマイガ等の幾つかの鱗翅目の害虫を制御する薬剤として、微生物Bacillus thuringiensisが広範に用いられてきた。この毒素は蛋白質であり、遺伝子がクローン化され、同定されており、これら昆虫の幼虫を殺す能力がある。組換えDNA技術を用いることにより、毒素の遺伝子を、土壌中の根に生息する細菌に導入して、病害虫に毒素を投入する試みが行われた。このような生物学的な制御剤は、化学殺虫剤に代わる可能性が極めて大きい。
さらに、微生物生産物はサイレージや干草のpHあるいは他の性状を調整することができるので、雑菌の混入による収穫後の損失を劇的に減少させることになる。組換えDNA技術はこの微生物生産物の効力を増大させることに利用されるであろう。

e)

生物の窒素固定による肥料の節約
植物の必須元素であり農作物生産性の主要決定因子である窒素は速やかに土壌から失われる。6千万トン余の窒素肥料が世界中で使用されており、2000年までには1億6千万トンに増えるものと考えられている。皮肉なことに、植物は窒素(空気の80%)を浴びている。ほとんどすべての他の経済植物とは違って、大豆、アルファルファ及び他の豆科植物はその根瘤内で、Rhizobium細菌と共生関係を発達させており、空中から直接窒素を固定している。アセチレンの還元を利用する窒素固定能測定法は、生物の窒素固定能をスクリーニングし、関連酵素群を単離するのを便利にした。
組換えDNA技術で、酵素群、電子伝達系蛋白、並びに窒素固定に関連するあるいはそれらの発現を制御する、少なくとも15種の遺伝子群が同定されている。これらの遺伝子群を単離し、ベクター内に挿入し、その遺伝子群を非窒素固定種あるいは属に移すことは可能である。しかし残念ながら、これらの遺伝子を受容細胞中でいかに機能させるかを決定するのがより困難であった。窒素固定能を他の共生細菌に導入することに著しい進歩がもたらされるものと思われる。
見込みのある1つの方法は、Azotobacterを採用することである。この菌は土壌中で独立して生きており、農作物に根瘤を形成する必要がないからである。他の土壌微生物も窒素固定用に操作されるかもしれない。

f)

植物感染病の診断
組換えDNA技術は、植物感染病を診断するのにも使用できるかもしれない。この組換えDNA技術の応用は、ウイルスやウィロイドにより引き起こされる多くの病気の有用な診断を可能とした。この病害因子に特有のRNAあるいはDNA断片が単離され、診断用遺伝子プローブが作成された。モノクローナル抗体に基づいたたくさんの診断法は、ウイルス性の病害因子のみならず細菌性の病害因子(温室栽培された観賞植物の根頭がんしゅ(クラウンゴール)病やかんきつ類やソルガムのXanthomouas病)及び真菌類の病害因子(芝生のFusarium)などで、ウイルス病同様に用いられる。この方法は、栽培や交配用に病害因子を含まない植物を選抜すること及び感染に関して農作物をスクリーニングすることに極めて有用であり、動物及び人の医薬品と同様である。

g)

動物の生産性
特にOECD各国においては、食糧の極めて主要な部分が肉、魚肉や鶏肉により占められる。これらは競争の激しい産業であり、そこでは生産効率が重要となる。動物成長ホルモン因子はクローン化され、発現ベクター系に入れ、胚に導入されて、速やかな成長と動物の大型化がもたらされた。一般に食用動物への遺伝子導入は、耐病性の増大、成長速度の増加や宿主動物組織の質的変化等の商業的に価値のある性質を導入する意図で行われるであろう。実験動物への遺伝子の導入は、現在は胚細胞へのマイクロインジェクションのような機械的な方法によって行われている。将来はそれが、遺伝形質を伝えるのには十分だが、明らかに病気を引き起こさないよう弱められた動物ウイルスを用いた遺伝子の導入が、食用動物に対して行われることも可能である。
動物の病気の診断、治療、予防もまた優先的に行われる。動物用ワクチンの世界市場は5億4千万ドルと見積られ、その中1億8百万ドルは狂犬病ワクチン、1億1千8百万ドルは養鶏用に、1億9百万ドルは家畜用に、残りはほぼ同規模の割合で豚、羊、馬、猫用のワクチンである。すでに使用されている組換えDNA技術製品としては、新生豚の下痢(伝染性下痢症)を予防するワクチンがある。他の微生物に対するワクチンも開発中であり、その中には口蹄疫ウイルス、鮭やうなぎに病原性を有するビブリオ属細菌、鳥類胞子虫病、猫白血病ウイルスに対するワクチンが含まれている。組換えDNA技術の利用により、広範囲に利用されているステロイドホルモン抗生物質、飼料添加物の使用を減らすことができよう。

2. 環境汚染制御に用いられる組換えDNA技術

 組換え体は環境汚染という主要な問題を抑制したり克服したりする試みで、役立つところが大きい。ここでは厳しい環境条件下でも機能する微生物を見つけ出すか改変せねばならず、その微生物は既存の微生物相や捕食動物、時には極端にあるいは広範囲に変動する化学的及び物理的条件と競合して生き残り増殖をしなければならない。
 農業、林業、工業及び都市の活動より生ずる廃水は、我々の環境に巨大な重荷となっている。特に土壌、埋立地、農・林産物廃棄地域に常在する微生物は、顕著な分解能を持ってはいるが、通例その酵素活性レベルはかなり低い。微生物の利用は広範に行われているが、持続的に有毒な化学品を分解したり、極端な温度や塩度中で機能を発揮する微生物のほとんどが、生理学的にも遺伝学的にもほとんど研究されていないといえよう。さらに遺伝子操作技術はこの種の細菌についてほとんど開発されていないといえよう。他方、自然環境中に見出されるPseudomonas属の細菌はさかんに研究が進められており、環境利用に適したものであることが明らかにされつつある。
 生物学的システムは産業廃水及び家庭廃水の汚染制御に長年用いられて、効果を挙げている。これは基本的には、広範囲にわたる生化学的機能を発揮するものの混合体からなるケモスタットのシステムである。これは相当希薄で時間的に変化する廃水を受け入れて、効率的に無機化せねばならない。組換え体を利用するのに最も有望な方法は、発生点での組成の単純な濃縮廃水の処理といった製造工程に直結したところで用いることである。最も有力な生化学反応は、脱ハロゲン化、脱アミノ化、脱硝酸及び環の開裂である。有害物質の部分的解毒も、総合的廃棄物戦略の上では有用な手段であろう。
  一般廃棄物に関しては、量やかさを減少させたりする微生物的手段は価値があろう。
 組換え体の最も注意を引く環境利用の1つは、高度有毒廃棄物の分解である。この領域では現在組換え体を用いた研究が相当程度実施されている。文献には、塩化フェノール類、シアン化物、ダイオキシンなどの有毒化合物を分解するために、組換え体を使用する例が数多く含まれている。
 しかしながら、多くの場合に有害廃棄物は、微生物自体にも有毒である。もっとも、適当な選択技術を用いることができればこの問題は小さくなろう。うまく制御した環境中の有毒廃棄物、例えばタンクに入った十分特徴の分かっている廃棄物の分解促進が、恐らく一番最初に開発されるものに含まれよう。一方、池の清澄化や漏出したものの浄化において廃棄物濃度を低下させるために、組換え体の使用に関する研究も進んでいる。土壌、船体、油溜めの汚染除去もよい目標である。常在微生物は組換えDNA技術によって、主要有毒物質の特異的分解により大きな力を発揮し得るであろう。

3. 微生物による金属抽出と回収

 一世紀にもわたり、鉱石からの金属回収に微生物が商業的に用いられてきた。1950年代に、Thiobacillus ferroxidansT. thiooxidansとが種々の硫化銅鉱物と同様、数種の金属を酸化することが明らかになった。これらの微生物は今日商業的にかなりの量で、鉱石から銅とウラニウムを溶出するのに用いられている。同様に、その後の回収用として金属を濃縮するために微生物を用いる作業が、1960年以来発展してきている。使用できそうな微生物には、藻類(例えばChlorella vulgaris(クロレラ)、Hormidium fluitans)や細菌(例えばPseudomonas aeruginosa(緑膿菌)、Bacillus subtilis(枯草菌)、Escherichia coli(大腸菌)及び真菌(例えばSaccharomyces cerevisiae(酵母)、Asperegillus niger(コウジカビ))が含まれる。
 従来技術では回収できる金属の量が商業的にはもはや採算がとれない点まで、多くの鉱石堆積物が採掘されてきた。微生物による金属溶出(バクテリアリーチング)技術を用いれば、このような低品質鉱石からかなり安価に金属を手に入れることができよう。また、微生物を用いる操作は、他の従来の回収技術よりもずっとエネルギー集約的でない。組換えDNA技術を用いる利益は、酸性及び塩度条件に大きな耐性を与え、高温あるいは低温生存能を高め、かつ多くの種類の金属を溶出する能力をもつ生物を作り出すことであろう。

4. 石油回収率向上

 世界の石油埋蔵の相当量が地下油井中にあって岩石層中に閉じ込められているか、あるいは粘度が高すぎて汲み出せない状態である。こうした障害が研究者に、石油をより多く回収するための特殊化学品と微生物工程の両者を開発させるところとなってきている。古典的突然変異法と選択技術によって改変されたAcinetobacter calcoaceticusにより生産される有効な炭化水素乳化剤である微生物バイオポリマーは、船倉からの残余石油回収率も高めるために用いることができよう。このバイオポリマーは、井戸から石油を容易に汲み出す手助けをする石油回収促進剤としての試験が、期待されている。組換えDNA技術は、他の微生物を改変して石油回収率を最大にするために、特別に計画したバイオポリマーを生産する能力を付与したり、改良したりするのに役立つであろう。
 石油の井戸の中に直接注入するための改良した微生物も、組換えDNA技術の使用の結果生み出されるであろう。微生物が商業的に有用であるためには、酷しい熱、塩度及び圧力の条件を生き抜く力を備えねばならない。いったん井戸内に入ると、微生物はガスを発生して井戸に圧力を加えるか、あるいは界面活性剤を産出して石油の粘度を低下させるであろう。こうした優れた微生物を作るために組換えDNA技術を用いれば、世界の回収可能な石油貯蔵量の増大に大きな影響が及ぼされるであろう。

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