NIHガイドライン1976の緩和
石川 前回までの座談会で次のようなことが明確になってきたと思います。
①アシロマ会議の結論を引き継いで、1976年にNIH(米国国立衛生研究所)はガイドラインを制定した。その安全性のコンセプトの根拠は科学的な「事実」と「仮定」の両方に基づいていた。
②アシロマ会議には微生物の病原性の専門家が出席していなかったため、組換えDNA実験について適正な安全性評価ができなかった、という批判が出てきた。これに対しNIHや全米科学アカデミーは、アシロマ会議で論議しなかった、あるいは誤った推論がなされた重要な点について、それを補うためいろいろなワークショップを開催した。
③その結果、「大腸菌K12株は実験室での組換えDNA導入では病原菌には変えられない」(ファルムス会議)、「ウイルスDNAを大腸菌K12株に導入する場合、ウイルスそのものを取り扱う場合以上の危険は存在しない」(アスコット会議)、という結論が得られた。
④安全性のコンセプトの根拠のうち「仮定」に基づく部分に関して、科学的知見が集積・整理され、事実としてはどうかということが明確になってきたため、「仮定」に基づいて厳しめに設定していた条件(例えば、封じ込めレベル)を見直す必要が生じた。
今回は、その後の科学的論議がどのようになされ、ガイドラインの緩和がどのように実施されていくのかレビューしていきたいと思います。
内田 1977年12月にNIH長官の諮問委員会(DAC)がガイドラインの緩和を検討するために招集されました。ガイドライン改訂案は1978年7月に公表され1)、同年9月15日に改訂案についての公聴会が開催されました。公聴会での意見をすべて検討し、修文の後、1978年12月22日に第一次緩和の最終案として公表されました2)。公示にあたって、Fredrickson長官の書簡がつけられました。これには食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)の権威により企業にもガイドラインを順守させるべくFDA長官に要請したこと、同様の要請を環境保護庁(Environmental
Protection Agency、EPA)の長官にも行ったことが述べられています。FDAは認可すべき製品に関連した組換えDNA実験はNIHガイドラインを順守することを要求するつもりである、と官報に発表します3)。公表することによって、公衆からの意見聴取が容易になるとFDAは判断したからです。
炭田 NIHガイドラインは、当初はNIHの研究補助金を受ける研究者や機関のみを対象としていたのが、許認可官庁であるFDAやEPAの権威により、企業にもNIHガイドラインを順守するよう処置をとったということですね。1974年に「科学」の世界でスタートした安全論議の結果が、その4年後には「行政と産業」の世界にすでに波及してきたといっことは、組換えDNA技術が持つ技術革新としての大きさを示すとともに、それがすでに産業化の見通しを持ちつつある時代に入ったことを意味しますね。
内田 そうですね。それでは、第一次緩和の要点を見てみましょう。まず禁止(Prohibition)、例外(Exception)と免除(Exemption)という三つの用語に注目してください。禁止実験の設定に対しては反対の意見が多く、しだいに例外または免除措置を取るべく、NIH長官はRACに特別の検討を指示します。禁止実験の内で例外として認められた実験には、適切な封じ込めレベルが指定され、ガイドラインの枠内で扱われることになります。免除された実験は、ガイドラインとは全く関係がなくなります(ただし、免除の例外が指定される場合があります)。
増田 つまり三つの言葉の関係は「禁止」に対する「例外」、「ガイドライン」からの「免除」ということで、「例外」と「免除」によって禁止措置を順次解除していくということを意味し、NIHガイドラインの緩和を意味する。
内田 そのとおりです。第一次緩和では5種類の「免除」が認められました。これには①裸のDNA、②単一染色体(またはウイルスDNA)由来のDNA断片同士の組換えDNA分子、③セルフ・クローニング(宿主とする細胞と同種の細胞由来DNAの組換えDNA)、④自然界でDNAを交換することが知られている異種の組換えDNA、⑤NIHの公式手続きによって「健康と環境に意味ある危険を与えない」と認定された組換えDNA分子、などが含まれます。自然界で遺伝子転移が認められる生物同士のDNAの組合せは、新奇(unique)性がないとして組換えDNAガイドラインから免除されました。
増田 例外としてどのようなものが挙げられ、どのように扱われたか解説していただけますか。
内田 米国がん研究所(NCI)により中程度のハザードがあると分類されている発がん性ウイルスの核酸の組換えDNAの作成は、禁止実験の例外と指定されました。アスコット会議の結果ふまえ、禁止実験にする必要はないと判断したためです。禁止実験のままでは危険度評価ができない、という理由で例外と指定される場合もあります。
さて、この第一次緩和においてガイドラインの改訂手続きが明確にされました。特にガイドラインに関して重要な決定(例えば改訂)を行う場合には、長官は必ずRACの助言と意見を聞き、公衆と連邦政府に対してコメントする機会を与えなくてはいけない。RACの会合予定は遅くもと開催30日前までに公表する。NIH長官は予定する提案を30日以前に公示する。RAC会議の結果、最終決断をするのはNIH長官である。決断の30日以前にこれを官報に発表してもよい。長官の最終的決断は官報と“Recombinant DNA Technical Bulletin”に印刷公表されるなどがそのポイントです。NIHが論議を一般社会の監視のもとでオープンにして進めることに気を配っていることがよく分かります。社会的合意の形成にはまず市民との会話が先決である、との原則を実際に実行するところがアメリカの偉さなのでしょう。
さらに機関内安全委員会(IBC)についてその判断の範囲を拡大し、P1、P2の実験についてはRACの権限を大幅にIBCに委譲しますが、同時に委員構成には注文をつけます。
| ① | 委員会は少なくとも5名から構成され、そのうち委員数の20%以上(しかも少なくとも2名以上)は当該研究機関の構成員であってはならず、周辺住民の健康と環境保全の立場を支持できるものであること。 |
| ② | 委員会総体としては、組換えDNA技術に経験と理解があり、安全評価ができるものであること。 |
| ③ | 委員名簿はNIHに届け出ること。 |
などの条件を示しています。
ガイドラインには情報公開の項目が設けられ、また知的財産権の保護についてはガイドラインの付録として近く公示することを予告しています。このようにして、組換えDNA実験ガイドラインの第一次緩和は無事に認められました。
増田 ガイドラインの第一次緩和にあたって、“改訂の手続き”を明確にし、その後の緩和のために、一つの定式化を図ったことは合理的な発想だと思います。おそらく科学的知見の蓄積とともに以後も何度となく緩和が必要となるであろう予感があったのでしょう。
緩和の科学的論理と手続きの両方を明確にすることによって、第一次緩和はその後の一連の緩和のための基本路線を引いたことになります。
それにしても判断の権限を大幅に現場におろした点は、自主管理という観点からも重要なことです。そして中央のレベルでも自主管理の現場に近いレベルに対しても、社会との対話のメカニズムをおりこんだことは大変大きなことだったと思います。国情の違いがあるとはいえ、日本ではいまだに社会的合意の形成が進まず大きな足かせになっているのをみると、なおのこと大きな一歩であったと今さらながら思います。NIHはすでに当時、組換えDNA技術の問題は「安全問題」というよりは、将来的には「安心間題」になっていくと読んでいたのかもしれません。
緩和の準備3*:
組換えDNA産物の危険度評価(パサデナ会議)
内田 「仮想の危険」の実態を明らかにする努力がさらに続けられます。そして、それによって得られた科学的根拠に基づき、さらなる緩和が実施されていきます。
1980年4月11〜12日、国立アレルギー・伝染病研究所(National Institute of
Allergy and Infectious Diseases, NIAID)はカリフォルニア州パサデナ市(Pasadena)で組換えDNA産物の危険度評価に関するワークショップを開催しました4)。会議は二つの分科会から構成されました。第一分科会はペプタイドとホルモンの分科会で、その目的はホルモンを生産する組換え大腸菌K12株の危険度を評価することでした。第二分科会は自己免疫の分科会で、動物(真核生物)のポリペプチドを合成する組換え大腸菌K12株が動物の器官に寄生したとして、これが自己免疫によって好ましくない効果を示す可能性があるのかどうかを評価することでした。RACから9名の委員が出席していました。第一分科会の座長はChicagoのMichael Reese病院のLouis Sherwood博士で、第二分科会の方はNorthwestern大学のPhilip Y.Paterson教授でした。
まず、座長総括を参考にしながらSetlowとCampbellの報告を見てみましょう4)。ヒトは1日当たり2×109個の各種の大腸菌を排泄し、これらは血清学的に2〜9種に分類できます。尿路感染の80〜90%は大腸菌が原因で、その半数は溶血性毒素を作ります。尿路感染を起こす大腸菌が宿主細胞に接着するための繊毛を作る遺伝子が分離され、溶血性毒素遺伝子と共に大腸菌K12株に導入されましたが、大暢菌K12株に病原性を与えることはありませんでした。組換えDNA実験でよく用いられるプラスミドpBR322はヒトの腸内で他の菌に移動する確率は非常に低く、測定不能でした。
大腸菌K12株をミルクに混ぜて6名に飲んでもらった実験では、3〜4日のうちに排泄が認められなくなりました。アンピシリン耐性菌をアンピシリンと共に飲ませた場合には69日間もアンピシリン耐性菌の排泄が継続しました。一方、大便から無作為に分離した数百株の大腸菌のうち、わずか1%についてしか、大腸菌K12株の特徴であるラムダ・ファージに対する感受性は示しませんでした。
炭田 1976年に開かれたファルムス会議で「大腸菌K12株は実験室での組換えDNA導入では、病原菌に変えることはできない」と結論されました。前述の諸事実、特に尿路感染を起こす遺伝子を導入しても大腸菌K12株に病原性を与えることはなかったということで、これはファルムス会議の結果をさらに補強する科学的知見だと言えるわけですね。
内田 そのとおりです。さてパサデナ会議のペプタイドとホルモンの第一分科会に戻ります。W.Gilbertは大腸菌K12株によってインスリンを作る二つの製法を紹介しました。第一の製法は、インスリンはA鎖とB鎖に分かれているので、大腸菌K12株AにはA鎖を作らせ、大腸菌K12株BにはB鎖を作らせ、後でつなげる。この場合にはAもBも単独では活性のあるホルモンを作らないので、共にハザードがあるとは考えられない。第二の製法は大腸菌K12株にプロインスリン(またはプレプロインスリン)を疎水的なリーダー配列と連結させて1本の融合タンパク質として作らせ、大腸菌細胞膜から細胞外に分泌させたあと、リーダー配列を切断し、活性プロインスリンを作る、というものです。大腸菌1細胞はこの時点では1000分子のプロインスリンを合成しました。しかし、将来は大腸菌の全タンパク質合成能力の1/3をインスリン合成に向けさせ、菌1個体当たり100万分子を合成できることが期待されています。これは1gの大腸菌(菌数にして5×1011個に相当)が5mgのプロインスリンを合成するという計算になる。
大腸菌は実験条件が良いと20分に1回分裂しますが、実験室の条件とは異なり腸内では12時間にやっと1回分裂し、ヒトの排泄する大腸菌は1日当たり生菌数にして2×109(この数字は腸内フローラの1%に相当)にすぎない。この菌数で合成しても、プロインスリンは最大0.5単位にしか相当しない。正常人は1日当たり25〜30単位のインスリンを膵臓で合成している。大腸菌のみでなく、腸内常住菌のすべてがインスリンを最大限に合成すればプロインスリンとして60単位に相当する。しかし、プロインスリンはそのままではインスリンの1/50ないし1/20の生理活性しか示さない。
ちなみに同じような計算を成長ホルモンについて行えば、多く見積もって50μgが腸内で作られる。ヒトの治療には週間投与量は5〜7.5mgである。
インスリンの生理活性についての解説や大腸菌にとって必要でないペプタイドを大腸菌が分解する反応や分解酵素の誘導についての発表もされました。腸内でペプタイド・ホルモンが合成された場合に考えられる分解と吸収やそれに影響を与える疾病についても発表されました。
要約すれば1977年に開催されたファルムス会議では、すでに大腸菌K12株に限っては腸内に定着できないとの事実が安全性の科学的根拠として示されました。しかし、万が一大腸菌K12株から組換えDNA分子が腸内に存在するすべての細菌に導入され、それらがインスリンを最大限度に合成したと仮定しても、それが生理的な悪影響の原因と考えられるほどの量にはならない、という計算がパサデナ会議において示されたのです。
増田 これまでファルムス会議やアスコット会議では「病原性」という生物自体の安全性が論議されてきたわけですが、パサデナ会議に至って、組換えDNAによって作られる産物(プロダクト)の安全性の議論になった。これは科学的論議の中で一つの質的な展開が起こったことを意味する。人間は組換えDNA技術によって実用的に有用な特定のプロダクト、例えばインスリンや成長ホルモンを作るわけですから、これを克服して初めて次の実用化のステップに進むことができるということになる。新しい局面に入ったわけです。
自己免疫は問題か?
内田 さて、パサデナ会議では、いまひとつ自己免疫の問題を論じています。何故、こんな問題が取りあげられたかと言えば、ヒトタンパク質を合成する大腸菌に感染したら自己免疫不全が起きるのではないか?という仮想の可能性が提起されたからです。
このような問題提起がされた背景を理解していただくために、免疫寛容の現象について少し解説をしておく必要があります。動物一般の免疫系は自己組織の抗原(自己抗原)に対しては免疫反応を示しません。自分が作る抗原物質(タンパク質など)に対していちいち抗体が作られ、免疫反応が起きては困ってしまいます。そこで免疫寛容といって自己抗原に限って特異的に免疫反応を示さない状態が個体発生の過程でできあがります。すなわち、動物が個体発生の過程で自己抗原に対する免疫系を作る細胞クローンのみが特異的に破壊され、自己抗原に対する抗体を作れなくなります。この状態を自己抗原に対する免疫寛容の成立した状態と呼びます。もちろん、外来の非自己抗原に対する免疫反応は正常に起こします。免疫寛容が崩れると、自己免疫病とよばれる状態になりますが、なぜ崩れるかの原因についてはいろいろの説が出されています。組換えDNAとの関係で免疫寛容の崩壊を引き起こす仮想の危険性とは、正常の自己抗原と免疫学的に交差する非自己抗原が組換え体によって多量に合成され、その結果免疫寛容が崩れ、自己免疫病の症状がでるかもしれないという可能性でした。このことに関して論議の結果、次のような結論に達しました。
| ① | ヒトタンパク質と細菌またはウイルスの外皮タンパク質との間で免疫学的交差反応を示す例は組換えDNA実験以前から文字どおり何百と知られているが、これらの少なくとも大部分は、自己免疫疾患とは無関係である。 |
| ② | 確かに交差反応を示す系の一部は自己抗体を作るが、これらの自己抗体の抗原結合力は極めて弱く、組織破壊または臨床的な意味での疾病を起こすものではない。 |
その結果、ヒトタンパク質を作る組換え体の感染によって自己免疫病の症状がでる可能性は極端に低いとの意見が大勢を占め、仮想の危険性は否定されました。また実験者の健康管理を自己免疫病に注意して行う、との提案も支持されませんでした。
アシロマ会議から7年経っての反省5)
内田 1978年の第一次緩和以来、ガイドラインの一連の改訂が続き、1981年7月1日には第四次改訂が実施されました。当然アシロマ会議に対する反省が続きます。アシロマ会議の基本テーマは何であったのか?これは次の3点の仮説に要約できます:
仮説①組換えDNA技術により自然界に存在しない新奇な生物が誕生するかもしれない。
②この生物が実験室より出た場合、環境に住み着くかもしれない。
③この生物はヒト、動物、植物に有害かもしれない。
もし、この仮説のどれか一つでもあてはまらないならば、組換えDNA技術に対して特別な注意を払うことは不必要です。過去7年の間にこれらの仮説に関連して集積した知見をまとめると、:
仮説①関連知見:イ 組換えDNA技術により導入しうる新しい機能には限界がある。
ロ 遺伝子交換は自然界でも起こるから、それが確認されている場合は組換えDNA技術によって新奇性が出るとは言えない。
ハ グラム陰性菌の間を動き回るプラスミドが発見6)され、これらのプラスミドは抗生物質耐性も染色体遺伝子も運ぶことがある。グラム陽性菌の多くは環境からDNAを取り込む7)。
仮説②関連知見:イ 生物学的封じ込めは有効である。大腸菌K12株はヒトの腸内に住み着けない。
ロ 組換え体は一般に不安定である。
仮説③関連知見:イ 大部分の病原菌に関する実験は禁止ないし制約されている。しかし、少しずつは知見が得られている。
ロ 動物・植物(真核生物)などと細菌(原核生物)とでは遺伝子発現のメカニズムが非常に異なっている。
ハ 大腸菌はウイルスDNAを動物に導入するためのベクターにはならない呂〕。
ニ 活性のあるホルモンを合成する大腸菌は動物の生理に影響を与えるとは考えられない9)。
1976年のガイドラインでは組換え体はすべて危険かもしれないと仮定したので環境に住み着けないような封じ込めを条件に指定することによって組換えDNAの安全を確保しようとしたわけです。しかしその後知見の集積によって、一部の病原菌由来の組換えDNAを作る実験については、従来からの病原菌の取扱いと同様に、長い病原菌の取扱い経験の中で作られ病原菌の取扱いに際して使われてきたCDCガイドラインの指定する封じ込めを必要とするが、それ以外はP1レベルの封じ込めでよいと、安全確保のコンセプトが変化したわけです。免除実験もP1レベルで実施されることを期待する、ということです。
増田 みごとに三つの仮説に対応して論議がなされてきたわけです。その結果を一言でいえば、病原菌に対する実験は、組換えDNAを論じるよりも病原菌として従来の経験と従来から使われている病原菌に関するCDCガイドラインに従えば十分である。そして組換えDNAについて固有の危険性を考え、ガイドラインを設けておくことの科学的根拠はほとんど無くなったということかと思います。
内田 一方、ガイドライン自身は度重なる緩和の結果、非常に複雑な文書となり分かり難くなったことや、ガイドラインの実施と緩和のために、RACやIBCの委員、あるいは実験者が使う時間が上限に達してきた、などのデメリットも目立ち始めました。
以上のような状況に立ち至った時に、RACの委員であったBaltimoreとCampbellがNIHガイドラインを「自発的な規範」に変える提案(Baltimore-Campbell提案、1981年3月)を行いました10)。具体的な点として、①ガイドラインの目的は組換えDNA分子と組換え体作成の際の標準的規範を示すことであり、その順守を奨励するが義務づけない、②非組換えDNA実験についてCDCガイドライン等で物理的封じ込めレベルが指定されている場合にはそれを守ること、③その他の実験については禁止実験でない限りP1で実施すること、生物的封じ込めについては実験の目的に即した最高のレベルを選択すること、④禁止実験に対する例外措置はNIH長官の許可が必要である、などが挙げられます。これは実質上NIHガイドラインを廃止する提案と受け取られました。アシロマ会議から7年の間の科学的知見の蓄積と科学的議論によって、組換えDNA技術に対する固有のガイドラインの必要性に疑問が出されるところまできたわけです。
増田 アシロマ会議以後7年間のサイエンスベースの成果は大きかった。RACの委員の中には以下のような見解を持つ者が出てきた。
「1976年以来、組換えDNA実験がヒトおよび環境に悪影響を持つことを示す実験的あるいは理論的根拠は得られなかった。したがって、実在しないと考えられる仮想の危険から社会を保護するために将来にわたって時間と費用を注ぐことを正当化する理由を見いだせない。さらに、組換えDNA実験に限って物理的封じ込めのレベルを高く設定すべき理由はない。病原菌に関してはあくまで病原菌として従来からの経験やガイドラインを尊重すれば十分である。禁止実験については有効性があると考えられるが、今後とも見直していく。」
そして、ついにRACの委員であるBaltimoreとCampbellは、こうした現状認識からガイドラインを自発的な規範というレベルまで緩和するべきである、すなわち組換えDNAについてのガイドラインは実質上不要であり廃止する、という提案を出すに至るわけです。すでにこの1981年の時点で「組換えDNA技術に固有の危険性はない」というコンセプトが実質的に出ていたわけです。それは最終的には1987年に至って全米科学アカデミーによって確認されるわけですが。
石川 どうもありがとうございました。次号も、さらにサイエンスベースの流れとそれを受けたガイドラインの緩和の流れを追っていきたいと思います。
○参考文献 |
|
| 1) | Federal Register,43,33042〜33178(1978) |
| 2) | ibid.,43, 60108〜60131(1978) |
| 3) | ibid.,43,60134〜60135(1978) |
| 4) | Recombinant DNA Tech.Bull.,3(3),111〜128(1980) |
| 5) | Federal Register, 46, 30773〜30778(1981) |
| 6) | Alexander, J.L.&
J.D.Jollick:J.gen.Microbiol., 99, 325〜331(1977) |
| 7) | Low, K. & D.D.Porter:Ann.Review.Genet., 12, 249〜287(1978) |
| 8) | Israel, M.A.,
H.W.Chan,W.P.Rowe and M.A.Martin:Science,205, 1140〜1142(1979a) |
| 9) | Stebbing,N., K.Olson, N.Lin,
R.N.Harkins,C.Snider, M.J.Ross, F.Fields, L.May, J. |
| 10) | Federal Register, 46:59381〜59382(1981) |