ウイルス性疾病は、農業に著しい経済損失を引き起こす。ウイルス感染は、多くの重要な作物種である果実、葉、種子、花、茎、根に損傷を与える。自然条件下で、ある種の植物性ウイルスは特定の作物あるいは雑草の宿主に決まって存在する。特定の植物において生ずる症状の型は、ウイルス種、特定のウイルス株、その植物が一つのウイルスまたは数種のウイルスによって感染しているか、宿主植物の品種、環境によって異なる。特定のウイルスによる感染の強さは、しばしば生育場所、生育する季節から次の季節、症状が発生する環境の重要性の反映、ウイルスへのベクターの転移率によって異なる。いくつかのウイルスの発生は非常に強いために、特定の地域で標的となる作物(甜菜、カンキツ類、コメなど)の作付け全てが全滅している。多くの作物種は、日常的に数種の異なるウイルスに感染している。米国の植物疾病植物病理学協会の大要は、世界の主要な作物に影響を及ぼす主要なウイルスの一覧を掲載している。Bruntらによる「熱帯植物のウイルス」(1990)は、熱帯植物のウイルス性疾病について役に立つ情報源である。
植物性ウイルスは、ウイルスの種によって様々な方法で蔓延する。蔓延の方法には、ベクター介在による伝播、種子または花粉による伝播、(植物の樹液の転移あるいは感染した宿主組織の増殖による)物理的な伝播が含まれる。ウイルスのベクターは、線虫類、ダニ類、菌類、昆虫類である。いくつかの環境下において、またある種のウイルス性疾病では、昆虫自体が標的作物に著しい損害を引き起こすことがなく、場合によっては生物学的方法によって統制されうるとしても、深刻なウイルス性疾病に対する特定のベクター(普通は昆虫)を統制するために、農薬の実質的な投入が必要とされる。ベクターの統制は、必ずしもウイルス性疾病を完全にあるいは有効に管理するものではない。さらに、ある種の環境下において、特定の作物種は、感染した植物および潜在するベクター群が絶えず存在するため、有効に生育することができない。土壌由来の(線虫類あるいは菌類によって伝染した)ウイルスは、さらにひどい。これらの寄生されたベクターがその土地で確認された場合には、根絶あるいは満足のいく統制をすることすらほとんど不可能であり、環境上守れない。耐性品種が入手できなければ、その土地にふさわしい作物の栽培は断念されなくてはならない。インドのある地域におけるインド産ピーナッツ塊フロウイルスの感染、イギリスにおける甜菜のリゾマニア病(ビート壊疽性葉脈黄化ウイルス(BNYVV)によって引き起こされる)などの例がある。
植物性ウイルスは比較的単純な病原菌であり、本質的にDNAまたはRNAのどちらかのゲノムの周りを覆っているタンパク質コート(キャプシド)である。いくつかのキャプシドも炭水化物および/あるいは脂質を含む。ウイルス性ゲノムは、少なくとも自身の核酸複製酵素、植物内でのウイルスの移動に必要とされる1個もしくは複数のタンパク質、ウイルスのコートタンパク質、また、しばしば他のタンパク質を暗号化する。宿主植物細胞内に入った後、ウイルス分子(ビリオン)は脱殻し、そのゲノムのコピーを複製してウイルスタンパク質コートに対するタンパク質のサブユニットを製造するために、CP遺伝子を使用してその後新しいビリオンを集める。新しいビリオンあるいは感染動因は、周辺の細胞に広がるか、ベクターによって他の宿主植物に運ばれる。
植物性ウイルスは、通常は感染した植物で最初に発見され病状の型が観察された植物種によって命名される。それぞれの植物性ウイルスのゲノムは、ウイルスにより単一成分もしくは複合成分の、DNAあるいはRNAの特徴的な構成をしている。いくつかの植物性ウイルスは、それぞれのウイルス分子に1つ以上の核酸分子を含んでいる。他のウイルスでは、ゲノムはそれぞれが分離したビリオンに包まれた1つ以上の核酸分子で構成されている。いくつかのウイルス性感染も、サテライトRNAの生成物あるいはサテライトウイルスと関連している。サテライトRNAは、それ自身のRNA複製に必要な複製酵素のための特定のウイルス(ヘルパーウイルスと呼ばれる)によるものであり、その大きさは通常はヘルパーウイルスゲノムより小さく、ヘルパーウイルスゲノムに重要な連続相同をもたず、(少なくとも数種の宿主において)疾病の症状に影響を及ぼす(Matthews,1991年)。サテライトウイルスでは、サテライトRNAがヘルパーウイルスのコートタンパク質中にとりこまれている一方で、サテライトは自身のコートタンパク質を暗号化する。植物性ウイルスは、分類上、核酸構成およびビリオンの物理的特性によって分類される。何百もの動物性、植物性ウイルスゲノムが順に配列している核酸は、多くのウイルスの間に進化の関連を示している。ウイルス分類学の重要な資料としては、Murphy(1995年)らによるウイルス分類学国際委員会(ICTV)の刊行物がある。
植物性ウイルスは、伝統的に、農業における効力の異なる様々な方法を利用して統制されてきた。それらは、ウイルスの確証(指数によることが多い)を付して国あるいは州境での汚染物質の排除、感染作物の間引き、適切であれば植物根絶法、ウイルスにかかっていない系統あるいは種子の証明(果樹のプラム痘瘡ポティウイルス、ジャガイモに見られる多くのウイルスを統制するなど)、ウイルスの蔓延あるいは持続性を最小限にする農業経済学手法の使用(指定された期間はその土地で特定の作物を植え付けないなど)、従来のウイルス耐性品種の育種、従来の交配保護(同ウイルスの別系統による強度の感染から保護するために、植物をウイルスの軽い系統に先に接種するなど)、(程度は異なるが、ヨーロッパおよび日本におけるトマトモザイク病トバモウイルス、ブラジルにおけるカンキツ類トリステザ病クロステロウイルスを統制するために使用される)である。従来の交配保護は、土地によってはいくつかの作物にとって商業上重要であるが、ある種のウイルスにのみ有効である。そのようなウイルス系統が存在するのであれば、作物と密接に関連した適度な弱いウイルス系との意図的な感染もある。従来の有用な方法で育種されたウイルス耐性作物系統の開発に関連した主要問題のうちの2つは、(1)適切な耐性特性/遺伝子を含む系統の育種の確認、(2)ウイルス耐性特性の遺伝子移入および作物自体の他の農業経済学上重要な特性の間におけるトレードオフの可能性である。
WhitmanらがTMVに耐性を与えるタバコN遺伝子をクローン化し、配列化した1994年まで、植物由来の伝統的ウイルス耐性遺伝子がクローン化されたり配列されたことはなかった。N遺伝子の正確な機能は、一般的な病原菌耐性に対する普通の信号伝達機構との関係を示す近年の証拠があるにも関わらず、まだ理解されていない(Staskawiczら,1995年)。それにも関わらず、伝統的な耐性遺伝子を農業経済学上望ましい品種に導入することは、その行動形態は理解されて来なかったけれども、植物をウイルス感染から保護するために何十年もの間用いられてきた。伝統的な耐性遺伝子のメカニズムあるいは伝統的な交配保護手段についての理解が不足しているとして使用が妨げられることはなかった。
ウイルス性疾病から植物を保護する別の方法には、植物自身のゲノムのウイルスCPを暗号化する遺伝子の導入および発現を含む。この方法は「コートタンパク質遺伝子介在保護」と呼ばれ、その効力はまず1986年のPowell Abelらによるタバコモザイク病トバモウイルス感染で証明された。これは標的となるウイルス、同様に、しばしば関連系統に対する受容体植物種の遺伝性を保護することに役立っている。この方法は、今日まで少なくとも50の異なるウイルスに効果的であることが実験室あるいは農場実験で証明されてきた。それ以来、CP遺伝子以外のウイルス遺伝子(特定された運動タンパク質、レプリカーゼ(ポリメラーゼ)、リボザイム、サテライトRNAおよび欠陥妨害RNAを含むようになったウイルス遺伝子)も受容体植物にウイルス耐性表現型を与えることが証明されてきた。ウイルス耐性を暗号化するために使用される遺伝子の数が増加していることは、感染する植物よりも耐性が標的とするウイルスの多様性を例証している。しかし、本文書は、ウイルスCP遺伝子の導入によってウイルス耐性となったそれらの遺伝子組換え植物のバイオセイフティ、組換え受容体植物が環境下において植物性ウイルスと相互作用することに関連したバイオセイフティにのみ焦点を合わせている。