Katsuhiko Wada
日本、国立水産養殖研究所
バイオテクノロジーは広い意味がある。このシンポジウムで提出した論文は、食物としてあるいは食物源として使われた水生生物に対する水生バイオテクノロジーの適用を取り上げている。染色体操作は魚と貝でよく試験されているバイオテクノロジーの一つの領域である。日本人はこれらの多数の種を食物として消費しているので、日本で多くの水生種について基礎的で実用的な試験が行われてきた。ハマチ(Seriola quinqueradiata)、タイ(Pagrus major)、カキ(Crassostrea, gigas)ホタテガイ(patinopecten yessoensis)、真珠貝(Pinctada fucata martensil)、ウナギ(Anguilla Japonica)、コイ(Cypinus carpio)、ベニザケ(Oncorhynbchus kisutch)は集約的水産養殖を通じて生産され、400,000mtを上回る年間総生産高の約90%になっている。
これらの種の大部分は、天然資源から供給される。このことにより、バイオテクノロジーを主な種に適用させるのが困難である。実用的な試験は、孵化場で育種される種に限定される。研究は、大学の学部、国立もしくは県立の漁場、研究所、一部の民間養殖会社における染色体操作あるいはバイオテクノロジーの他の領域に集中している。研究は40もの多くの種について現在行われている。タイ(Pagrus major)ヒラメ(Piecoglossus altivetis)、ニジマス(oncorhynchus mykiss)、ベニザケ(Oncorhynbchus kisutch)、サクラマス(oncorhynchus masou)、カキ(Crassostrea gigas)、真珠貝(Pinctada fucata martensil)、ホタテ貝(Patinopecten yessoensis)と海草の多くの種が含まれる。
3倍体動物の人工生産は、魚貝の水産養殖で使われている一つの操作育種技術である。3倍体動物の大量生産の主な理由は、性的成熟を遅延させるか妨げることである。養殖動物の性成熟はしばしば問題となる、成長遅滞、病気による死亡、肉の低品質化による商業的価値の低下を生じるからである。3倍体は多くの動物種で産生される。育種技術は日本での水産養殖では、まだ商用化されていないが、3倍体は21種の魚と軟体動物の7種で試験されてきた(表1と2)
3媒体は卵の減数分裂抑制により誘発される。この目的に、冷却、熱、圧力ショック、サイトカラシンBもしくはカフェインによる化学処置が使われている。温度ショックは日本魚のほとんどの種で3倍体を誘発する一般的な方法で、サイトカラシンBによる化学処置はしばしば使われる。サイトカラシンはヒトにさえ有毒なので、サイトカラシンBよりも3倍体を誘発するのに安全で有効な方法をみつける努力が行われている。カフェインと熱ショックの併用は、カキと真珠貝で3倍体を誘発するのに有効であることが報告されている。
3倍体動物で成熟が遅れる程度には、魚と貝の異なる種の間では、かなりばらつきがある。ほとんどの種の雌3倍体は不妊であることが報告されているが、一部の種の雄は成熟しており精子を産生している。軟体動物の場合には、ホタテ貝は両性で、不妊で、雌と雄は成熟して一部の個体で成熟配偶子を産生している。高い成長率と改善した肉の質は、魚と軟体動物の多くの種で報告された。しかし、3倍体から異常な精子あるいは卵の環境への放出効果に関する問題がまだある。部分的に成熟した3倍体が産生した精子あるいは卵はDNA含量にむらがあり、異常胎芽の放出と成り、環境を害する。川もしくは海岸などの公共区域で養殖されたときには、それぞれの3倍体種の利用について、ガイドラインを確立すべきである。
雌性発生と雄性発生は,雌遺伝子だけもしくは雄遺伝子だけからの胎芽の発生である。雌性発生と雄性発生は、水生動物、特に魚では、染色体操作、選択的育種、脅かされた種の保存、および全雌集団の産生に関する育種技術のさきがけとなった。この最後のテクノロジーは魚繁殖種にとって最も重要である。日本における多くの魚種について、雌の市場価値は雄の価値より高い。多くの種の雌は雄よりも成長が早いし、日本人は魚卵を食べたがる。従来の選択育種は時間がかかるが、雌性生殖は養殖については一つの株(stock)、もしくは遺伝子研究については純粋系に達するために、選択育種に要する時間を短縮する。精子の冷凍保存と雄性発生の併用は、絶滅の危機にさらされた野生種を保存する助けとなるであろう。
現在日本では、雌性発生および/または雄性発生について約17種の魚が研究されている。軟体動物雌性発生2倍体は唯一の日本種アワビについて報告されているようである(表1および2)。2倍体ゲノムが半分にすぎない胎芽の発生を生じるために、紫外線による精子DNAの不活性化、もしくはX線もしくはガンマー線による卵子の不活性化が、通常、雌性発生あるいは雄性発生の初期段階で使われる。これら胎芽は半数体症候群により死亡する。減数分裂阻害は2倍体胎芽を産生し、その一部は正常に発育して、正常な雌性発生個体を産生する。減数分裂は3倍体誘発に関する処置法と同様の処置法で阻害される。雌性発生、雄性発生2倍体は卵割を抑制して誘発され、そしてこのことによりクーロンの確立が可能となる。日本の科学者はこの方法によりすでに数件の商用種のクロ-ンを開発している。これらの種はOncorhychs masu、Plecogilossus altivelisとParalichtys oklivaceusである。
性操作は、雌性発生と性転換を併用して達成される。全雌発芽は、性転換雄(xx雄)をXY性決定システム(雄異型接合体)を持つ種の正常な雌(XX)と交尾させて産生される。全雌産生の育種技術は、雄が成熟している種の完全な不妊3倍体集団を作るのに適用される。これは日本における5種の魚(4種のサケ科サケと1種のヒラメ)で性転換雄(xx)から精子を用いて確立された。ホルモンは性転換に使われてきたが、幼生期の温度が日本ヒラメ(Paralichthys olivaceus)の性決定には重要であることが最近判明した。この種で急速に伸びている企業では、メスは成長率が早くてさらに重要になっている。ホルモンを使う代わりに、幼生が発育する水温を制御する性転換育種技術が開発された。水温25℃で雌性発生2倍体ヒラメを育てることにより、表現型オス(xx)を産生することは可能である。性ホルモン処置は、どちらかというと高くつき時間がかかる。消費者におよぼすホルモンの効果はまだ不明であるので、これらの温度法はヒラメの全雌発芽の産生目的には、簡単で安全であろう。
水生生物の染色体操作に関する研究者は、水産養殖で新しい育種技術の開発と種の改善に貢献してきた。しかし,一部の種には実行可能性試験が必要であろう。操作されている動物が自然環境でどのように行動し、野生集団とどのように違うのかを理解するため、さらに研究が行われるべきである。操作で使われる化学物質は、消費者と養魚者の両者に対する安全性をチェックすべきである。ニホンヒラメの性操作に関するプロジェクトで、温度法のように、安全で簡単な操作方法を開発する努力が必要であろう。