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集中法による海洋魚幼魚飼育:現状と食物安全性

P.Divanach1、M.Kentouri 1,2、N.Papandroulakis1
ギリシャ Crete、Heraklion、Crete海洋生物学研究所
2ギリシャCrete、Heraklion Crete大学、生物学部

序文
 この論文は集中海洋魚幼魚孵化場の現状の概要を述べている。食物産物として孵化場後の商用魚の品質に影響する因子を検討した。これら因子は食物安全性に影響するものではない。しかし、新しいテクノロジーの出現でこの結論は変わることもある。
集中的海洋養殖魚は、ぜいたくな顧客が求める高品質で市場価値の高い魚の産生を目的にしている。性質は野生魚と同じで、同時に利益を生じる魚を産生しなければならない。

 この2重の目的(品質と利益性)は、主に孵化レベルで、すべての育種の原料である稚魚を産生する精巧な生産技術の公式化につながる。しかし、形態学レベルであろうと、感覚刺激に反応するレベルであろうと、さらに重要なこととしてヒト健康レベルであろうと、稚魚の大量生産は最終産物の品質を落とすことになってはならない。生産育種技術は、したがって、最適な自然条件の再生を試みるものである。以上の通り、これは、いわゆるバイオテクノロジーとまったく異なり、どちらかというと新語のエコテクノロジーに関係するものである。

 魚の種類、初期資金およびタンクのタイプが異なる、種々の集中幼魚育種技術が存在する。これらすべての技術には共通事項がある。幼魚は、特定の設備で生育している、似たようなレベルの幼魚、食物連鎖の原則によると、植物プランクトン動物プランクトン幼魚を生餌として、食べているということである。
 幼魚育種期については、以下に詳細に述べており、ヒト健康に影響する因子を考慮して試験が行われた。

配偶子の取得
 配偶子は、捕捉繁殖種から得られる。繁殖種は、タンクに保存され、冷凍自然食と、成長期に供給されるものよりビタミンとたんぱく質が豊富な、生殖能力を高める特定の合成餌が供給される。
 生殖期以外で、繁殖種は1年に3回のうち2回は予防的抗寄生虫処置で処置する。病気の間、従来の抗生物質による治癒処置が行われる。化学製品(フォルマリン、硫酸銅、ネグボン、フラルタドン、オキシテトラサイクリンなど)および投与量は、成長期の間に使われる投与量と同じである。すべてのこれら産物の使用中止期(Elimination times)については、今のところ、ほとんど研究されていない。

 繁殖種の成熟は、魚が野生で産卵するシーズン中に自然に行われるか、または、光周期性およびもしくは熱周期性環境を改変することにより適切な時期に簡単に移ることがある。同様に、成熟動物の産卵は自然であるか、合成ペプチドホルモン注入により(それぞれ1000-1500IUおよび5-10 g/kg用量で、数時間の周期にわたり1回もしくは2回、ゴナドトロピンあるいは放出ホルモン投与)誘発される。同じ、もしくは密接な関連ある種の下垂体抽出物は使われることは、さらにまれである。いかなる場合に、血中のホルモンレベルの低下は急速で数日の間に微量が消失する。最近、ホルモン注射を循環が遅く作用が遅延するホルモン移植に代える実験が小規模で行われ、ある程度成功している。
 受精は自然にまたは人工的に行うことができる。繁殖種は配偶子をはがされ、卵子と精子は海水で混ぜられ、またまれには乾いた環境でまぜられる。この人工受精法はサケでおこなわれ、配偶子放出後死に、一部の特定の例(すなわち3倍体もしくは雑種産生)では、ヒトの介入が必要である。ただし、これは実験室規模に限られる。
 毎年、主にタイのように雌雄同体については、育種株(breeding stock)の一部が若い個体に代えられている。この代えられた動物は、他の設備に関する繁殖種として生体で、もしくは消費用に死体で販売される。消費用の販売前の遅れは、サケ科魚で経験した遅れと同様である。

卵の収集と培養
 産卵と受精の後、卵は循環水流により、タンクの下水管の上に位置する細かいメッシュの同心捕集器の中に運ばれる。卵はここに収集される。孵化は、他の処置なしのそのままの状態で、または、はヨード溶液の浴槽中で消毒した後に行われる。
 一般的には、卵の孵化、およびその結果生まれた前幼魚のビテリン吸収は、幼魚育種タンクで行われる。最もこれは、適切な形と大きさの孵卵器でも行われる。

植物プランクトン培養
 種により、また、一定の人工照明により、16-22℃の一定の温度で培養する。
 植物プランクトンコロニーは、鉱物塩、ビタミン、微量成分で補充した、低密度、無菌、場合によっては人工環境で、試験管にいれて保存する。前培養は、人工無菌環境もしくは0.5μmでろ過し最終的に10ppm未満の抗生物質で処理した天然海水中で、エルレンマイアーフラスコ、風船、ジャー、ポリエチレンバッグにいれて行われる。培養液それ自体は、0.5μmでろ過し、100-1000ppmで次亜塩素酸により殺菌した海水を満たしたポリエチレンバッグまたは透明カラム中に作られる。これは24時間後にトリポリリン酸ナトリウムで中和される。培養液は前培養から接種され、無機肥料もしくは特定の鉱物とビタミンをベースとする栄養培養液で栄養強化する。抗生物質は、藻の成長を低下させるのでこのレベルでは使っていない。
当面は野菜成長ホルモン、もしくはバイオテクノロジーに由来する藻のコロニーが使われる。

動物プランクトン培養
 集中飼育では、2種類の動物プランクトン生物が、サイズが適当、栄養価が適当、および、特に供給と大量培養が容易であることから使われる。その2種は輪形動物門Brachinus plicatilisであり大多数の海洋魚幼魚で最初の餌となり、また腕足動物門甲殻類動物ノープリウスであるArtemia salinaで、これは幼魚飼育過程でB.pliatilisに代わるかそれの後で使われる。
 B.plicatilisは単為生殖コロニーの選択と培養を通じて得られ、それは生殖周期を総合的に制御することを意味する。単為生殖雌は自然集団から選択される。このようにして作られたコロニーは18 – 20℃の少量の緑水中に保存される。前培養は18-20℃の100-300リットルのポリエチレンバッグ中で、植物プランクトン培養の汚染後に、雌集団の統計学的急増により得られる。

 大量培養は2つの方法で、27-30℃で得られる。
a) バッチ単位で、イーストおよびもしくはアミノ酸および多不飽和脂肪酸が豊富な商用人工飼料のはいった楕円円錐0.5-4m3タンク中
b) ブルーム単位で、植物プランクトン培養を含み、植物プランクトンが枯渇したときに上記飼料で給餌される0.7-2m3カラム中

 海水との接触により再活性化された持続卵(嚢)の孵化から、Artemia salinaのナウプリウスが生じる。それらの卵は野生(塩湿地)から採取され、真空、塩水、乾燥大気中に保存される。場合によっては、直接孵化される。空の卵の殻は光の使用によりナウプリルから分離し(ナウプリルの陽性光向性)、除去される。他の場合には、卵の殻は次亜塩素塩の濃縮溶液中に短時間浸ることで溶解され、その後培養前にチオ硫酸塩で中和される(カプセル開放)。この操作は空の殻を除去する必要性を軽減し、卵を全体的に消毒できる。
 一般的にB.plicatilisとA.salinaは、多不飽和脂肪酸と幼魚の成長と生存に必要なアミノ酸が欠乏している。それらの酸の使用状態は、いわば、成長障害およびもしくは死亡率につながる。それらはしたがって、流通前に濃縮する必要がある。餌に、多不飽和脂肪酸(C20もしくはC22)が豊富な油水乳化もしくはタンパクが豊富な粉末をあたえることにより、濃縮は高密度(500-2000個体/ml)、また室内温度でおこなわれる。流通前に、濃縮えさは、表面フィルムを作り、幼魚の浮き袋の膨張を防止しそうな余分な脂質をおとすためにすすがれる。

幼魚飼育
 飼育には2つの主な育種技術がある。
 はじめに、いわゆる緑水育種技術は日本の育種技術に由来し、タイとヒラメに主に使われる。この育種技術は、タンク内でエコシステムの外観を作る。それは10-503の大きい円柱タンクで実行され、平均密度は30-50幼魚/Lである。スズキで使われる、2番目の最近の育種技術は浄水育種技術である。一般的に円柱円錐タンクで行われ、幼魚密度は非常に高く100-200/Lである。これらの育種技術の中間改良型は存在する。

 2つの例で、生産者のテクノロジーとノウハウは, 2つの事例で重要である。発生可能な異常な挙動を防止するためタンクの壁は黒にすべきである。幼魚の泳ぎを妨げない直径100μ以下の泡を作る能力がある木製散布器を使って宛空気混和を行う。表面フィルムを排除し、幼魚の浮き袋がちょうどよく膨らむようにスキーマーを使う。温度は19-21℃である。水圧システムは開閉できるものとする。水は海もしくは海井戸から直接ポンプでくみあげ、一般的には砂と回転ふるいを使って機械的にろ過する。合成基層を通じて生物学的にろ過し、ときに紫外線で処置する。

 種と年齢にしたがって、特定の環境パラメータが使われる。スズキの場合、照明はよわく、最初の15日は30-70luxで、徐々に300-500luxにあげる。タイでは光は最初から200-300luxと照度が高い。最初の水の取り込みは、タンクの幼魚沈殿が減少するように、タンクの底から行う。
 飼育法は、集中的であっても、精密で自然である。絶えず幼魚に注意を払い、ストレスはすべて軽減する。抗生物質が使われることはまれである。一般的にその後の成長と生存能力が低いので、病気の場合、その株(stock)は処置されるというよりは、処分される。

考察
 集中的に飼育された海洋魚稚魚産生で使われたテクノロジーを要件ごとに分析するに当たり、以下の点に留意すべきである。

 選ばれた培養種は自然環境で見出されたのと同様である。遺伝子変化を受けなかったし、三倍体化など染色体変化を行わない。しかし、実験は進行中で、このような動物は最終的には市場に出てくるであろう。
 給餌生活の初めから、2-3年後のマーケティングまでに、海洋魚の体重は10,000,000-20,000,000倍に増加した。孵化相に相当する最初の4ヶ月間に、体重は1000-5000倍に増加する。したがって、この期間にしたどのような過失も、生存および最終産物の形態学的様相に不利になる。事実、孵化場の操作者が技術的に優先すべきことは、魚群の健康維持のため最適条件を確保することである。飼育は集中的であっても、ごく自然な条件で行われる。過剰強化に関する研究は、この状態を変えるであろう。

 大多数の事例では、配偶子は、成熟の日と配偶子の放出に影響する熱光周期サイクルを変化させることによって、ほぼ自然な方法で得られる。産卵をホルモン注射で誘発するとき、飼育者(breeder)が施す処置が最終産物を変える可能性は殆どない。一方、最近孵化した幼魚の出現と最終産物の間の時間は、代謝されないであろう考えられる潜在的有毒産物を10,000,000〜20,000,000倍に希釈する。他方、可能性があるペプチドホルモン注射を除くと、飼育者(breeder)が行うすべての処置は、将来市場に出る動物の成長期に受ける処置と同じである。

 現在、幼魚の最初の給餌は、生餌で構成されている。選ばれた餌がB.plixriliasとA.salinaの場合、生息環境が異なるので、自然環境でスズキやタイに摂取されるチャンスがほとんどないが、人間の消費で使われる多くの他の魚種に摂取される。多不飽和脂肪酸とポリペプチトによる濃縮(enrichment)は、幼魚が自然生息環境では見つけたと思われるが、これらの2種のプランクトンを含んでいない野生動物プランクトン中に存在する産物による生化学面での埋め合わせを表す。濃縮に用いられる不飽和脂肪酸は、自然海洋に由来する。
 離乳とその後の生育に使う人工餌は、自然養魚もしくは大きい養殖産物をベースとしている。どの自然システムでも、汚染の可能性は存在する。多くの場合、水産養殖動物は、食物連鎖で濃縮現象に悩む野生沿岸動物種より汚染が少ない。それにもかかわらず、成長ホルモンの使用実験で、この結論は変わることがあるであろう。

 合成餌の処方は、意図する動物の生化学組成によりまた代謝必要性により誘導される。それはしたがって、利益上の理由から、他の農業栄養活動からの種々の副産物(骨粉、羽粉など)とバイオテクテクノロジー由来の産物(油、イーストなど)を使用しているにかかわらず、肉と感覚刺激に反応する性質が、野生基準の性質と同じである動物の生産につながる。このことはいろいろな場合に行われる感覚刺激試験で確認され、捕獲品と養殖品の間で著しい差は示されなかった。それにもかかわらずこのレベルでは確実に進歩しており、集約孵化場の枠組みを超えている。

 市販品と野生標準の類似性を実際に変える唯一の点は、幼魚飼育の最初の技術ミスと関係する。このことは屈曲のある個体の生産につながり、浮き袋のかわりに食欲をなくす黒っぽい区域を呈する。それにもかかわらず、これらの動物は正常な種と同じように食欲をそそると報告され、ヒトの健康を脅かすものではない。それは孵化場から出るときに一般的に分別され、処分されるので、これらの魚では比較組成分析はおこなわれなかった。
 最後に繁殖種として使われる魚消費のマーケティングは、産卵誘発ではペプチドホルモン注射を経て、倫理的な問題を提起する。過去にヒト健康問題となったステロイドホルモンと対照的にペプチドホルモンは急速に代謝され、数日の時間がたつと消失することを知ることは重要である。拡散が遅く排卵だけでなく成熟に影響する、ホルモン移植がさらに集中的に使われているとき、この問題はさらに深刻になるリスクがある。
 現状で、上記の2つの問題(すなわち野生標準の遵守と、生涯にホルモン注射を受けた。

結論
 繁殖種のマーケティングと、環境の汚染物質残留物による動物で考えられる汚染を排除した海洋魚孵化場で用いられる技術処置法は、市販製品の食物安全性にマイナスの影響を及ぼすようにはみえない。しかし、遺伝子的改変動物(3倍体)もしくはバイオテクノロジー由来産物(イースト、藻、成熟もしくは成長ホルモン)が普通のことになるのであれば、現在の結論の再評価をおこなうべきであろう。この目的に関連する試験を、近い将来行わなければならない。

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