前へ | 次へ

トランスジェニックサケの開発を含むカナダでの水産養殖
バイオテクノロジー

Dr Edward MDonaldson1, Dr Robert H. Devlin1, Dr david A, Higgs1. Ilfa M, Price

カナダ、ブリティッシュコロンビア、西バンクーバー、漁業および海洋部、生物学ブランチ、西バンクーバー研究室
カナダ、オンタリオ、オタワ、漁業海洋部、生物学代表

序文
 捕獲漁業からの世界産生量は1970年の70,000,000mtから1990年の100mtに上昇した(Larkin 1991)。世界の海の多くの魚株(fish stock)の多くは乱獲またはとり尽くされており、漁獲開発中の魚株(fish stock)が少ないので、漁獲量のさらなる増加は考えられない(Larkin 1991)。したがって、人間の消費に関する高品質水生食物の生産を高めるために、水産養殖に集中する傾向が強くなっている。

 カナダでは、水産養殖によるサケの商用生産が、ここ50年で急速に増加した。現在、最初の売り上げで、年間評価額が$213,000,000である。東カナダセンターの養殖は、南New Brunswickでの大西洋サケに集中し、1991年の生産は9000mtで約$80,000,000と評価される。カナダの太平洋岸の生産はキングサーモン(Oncorhynchus tshawytscha)と大西洋サケに集中する。このサケ2種のブリティッシコロンビアにおける現在の生産レベルは、それぞれ15466mtおよび3396mtであり、最初の売り上げ合計額は$133,000,000であった。カナダの大西洋岸の水産養殖生産は、天然をはるかに上回り、その区域のサケの生産を高めた。事実大西洋サケの商用漁場は原則的に閉鎖されている。Nova StociaとNew  Brunswickでは、養殖大西洋サケは、底釣り漁業についで評価額が2番目である。太平洋岸で、水産養殖生産は、野生および成育強化サケ(enhanced salmon)の商用捕獲の約20%であるが、額面では50%を上回った。

 カナダはまたニジマス、北極イワナ類、イガイ、カキ、ハマグリ、ホタテガイを産生している。大西洋タラ、太平洋大西洋オヒョウ、ギンダラ、ウルフフィッシュ、ランプフィッシュ、ギンポの類に関する現在の研究は、これらの種を近い将来レパートリーに加える可能性がある。

 農業食物生産は、ちょうど4種類の哺乳動物(牛、豚、羊、ヤギ)と4種類の鳥(ニワトリ、七面鳥、ガチョウ、アヒル)にほとんど集中している。

 水産養殖は他方、多数の種類の魚、軟体動物、甲殻類動物を含み、それぞれの種は、温度、衛生、酸素含量、pH、流速度など特異的な環境条件に順応している。水産養殖は、また生産周期の長さで動物および家禽畜産と異なり、一般的には鳥類で週、哺乳動物種で月、水生種で数ヶ月から数年である。他方水産養殖は、産生を最適化するのに必要な科学研究と開発の分野で、農業に類似している。これらは生殖、栄養、成長、健康、遺伝、製品品質、製品安全性である。カナダは、これらの主題に関する一部の研究と開発において主導的役割を果たしている。漁業・海洋庁(Department of Fisheries and Oceans)は、水産養殖のバイオテクノロジーと遺伝学に関する同庁の学問専門センター(CODE)である西バンクーバー実験所で、水産養殖に対するバイオテクノロジーの適用に関する研究を強化した。さらに、1983年にカナダ政府は、バイオテクノロジー開発を強化するために国内バイオテクノロジー戦略を採用した。この戦略は、水生バイオテクノロジーを含むバイオテクノロジーのいくつかの局面について政府の研究を支援するものである。

 本論文は、西バンクーバー水産養殖におけるバイオテクノロジーと遺伝学に関するDFO CODEに絞って、カナダにおける最近の水生バイオテクノロジー研究と開発の簡単な概観を述べるものである。

産卵の誘発
 囲い込み産卵は、水産養殖で、遺伝学と遺伝子バイオテクノロジーの適用に必要であるが、多くの種の養殖魚は、囲い込み状態で容易に産卵しない。魚における排卵と精子の誘発は、最近目立つほど進化した。合成ゴナドトロピン放出ホルモン類似体(GnRHA)の使用は、ゴナドトロピンを含有する下垂体抽出物の使用に代わる。サケ科魚の成熟を加速するGnRHAの使用法は、少し前に開発され、最近太平洋カナダの2つの最も貴重な海洋種、ギンダラ(Anoplopoma fimbria)(Solarら2987,1990,1992)と太平洋オヒョウ(Hippogiossus stenoplepsis)(Solarら、1990)で最初に排卵を誘発した。われわれはマイクロカプセルに入れた(D-Trp6)LH-RHが有効だということを認めたが、一般的にdesGLY10(D-Ala6)Lh-RHエチラミド類似物を使用した。ギンダラでは、GnRHAとドパミン拮抗薬ドンペリドンの併用は何の利点もなかった。AlbertaにおいてPeterと共同研究者が開拓したドパミン拮抗薬の使用は、しかし、タイコイ(Puntius gonionotus)などのコイの産卵誘発に関するわれわれの試験では、必要であった。最近われわれは、GnRHAとドンペリドンの経口投与により、このコイの排卵誘発に成功した(Sukumasavinら,1992)

管理される性分化
 性分化調節に関するバイオテクノロジーは、単性魚と不妊魚の生産目的に開発された。最初は生産の最適化をめざして開発された単性魚と不妊魚の発生は、遺伝的に変化した魚もしくは外国産魚の生殖封鎖の手段として、注目が高まってきている。カナダの太平洋岸で全雌太平洋サケが逸出したとしても、自然環境で野生化集団を形成しない。水産養殖施設での成長を目的とする完全な不妊株(sterile stock)は、商用水産養殖で、遺伝子変更した魚を使用しやすく受け入れやすくすべきである。
 したがって、開発中の(以下参照)トランスジェニックサケの新種の場合は、生殖能力がある種親株(reproductively viable broodstock)は厳重に隔離され、成長用に産生された子孫は不妊であろう。遺伝子が変更された魚の封じ込めの処置法は、最近検討された。(DevilinとDonaldson 1992、Donaldsonら,1993)

 単性株(monosex stocks)の産生に関するいくつかの処置法は開発されてきたか、開発中である。サケ科魚の場合、研究は単性雌の産生に関する方法論の開発に絞られている。サケ科魚は初期成長の臨界期中の短期間で、自然もしくは合成エストロゲンの処置により、直接雌化される(PiferrerとDonaldson,1991)。単性雌サケ科魚は、雌染色体のみを含有する精子を産生する遺伝子メスの雄化により間接的に産生される。これは、雄化した遺伝子雌が精管を産生できない欠陥により区別される1世代育種技術(Purdom 1986、ByeとLincoin 1986) もしくは雄化したメスを確認するのに子孫試験が使われる2世代処置法(Donaldsonb,1986,Donaldson and Benfey 1987)のいずれかである。

 われわれは、短期間のアンドロゲン処置により雄化され(PiferrerとDonaldson 1991)、単性雌精子を産生する表現型オス雌性発生源として成熟する、単性雌胎芽を生じる雌性発生を使用することの実行可能性を検討している。最近、われわれは、キングサーモン(Devlinら,1991)のY特異性DNAプローブを開発した。このプローブ、つまりすべての魚種用に開発される第一の性特異性DNAプローブは、雄化した遺伝子型雌キングサーモンを遺伝子型オスからの分離を容易にし、保証単性雌キングサーモンの確実な産生を可能にする。Y特異性DNAプローブは最近認可され、昨年、北アメリカ、南アメリカ、ニュージーランドにおいて性別管理によるキングサーモン株(chinook salmon stocks)の試験に使われてきた。

 水産養殖に関するサケ科魚と他の魚の不妊法は、2世紀以上前にさかのぼる(Watson 1755)。外科による去勢が初めて発表されて以来、多くの不妊処置法が検討された(DONALDSONら、1993)。2つの処置法がカナダではかなり注目された。開発初期のアンドロゲン投与と単性雌3倍体の産生である。アンドロゲン不妊処置法は、通常の未処置魚より数年間長く生き延びる。その結果大型サイズに成長する、すぐれた不妊サケを産生する。しかし、この処置法は、規模を拡大するときには注意が必要であり、処置の最初から最後まで、2-3か月にわたり、操作者の注意が必要である。他方、不妊雌3倍体の産生は、特に単性雌精子がその後に圧力あるいは温度によるショックを受ける卵子の受精に使われる場合は、短い期限で達成される(Johnnstone ら1991、Jungalwalla 1991、Guoxiong ら,1989)。最近、われわれは、1つの性が性腺発達の特定の初期段階に達するときに、それ自身が自動的に不妊になるトランスジェニックサケの発育に関する可能性を調べ始めた。

 食物安全性の観点から、正常なサケは捕獲時に重要なレベルの生殖ステロイドを含有する一方、初期成育期中にアンドロゲン処置で不妊にされ、したがって性腺のないサケはわれわれの試験で普通の捕獲サケより約300倍低い、すなわち極度に生殖ステロイドレベルが低いことを知ることは興味深い。

発育刺激
 飼料は、典型的なサケ養殖場運営費の約半分を占める(Higgs 1986)。したがって、成長および飼料変換強化ペプチドとタンパクを水産養殖に使用することにかなり関心がある。ソマトクリニン、アンティソマトスタチン、ソマトトロピン、胎盤ラクトゲンとソマトメジンはすべて、調査済みであり、ソマトトロピンとその親類が最も注目を受けている(Donaidosonら,1979、DownとDonaldson 1991、McLEanとDonaldoson,1993)。哺乳動物ソマトスラクチンと哺乳動物、鳥類、魚のソマトトロピンは、魚においては、すべてが成長を刺激し、飼料変換を改善することが認識されている。われわれはこれらのペプチドに関し、適切な徐放処方もしくは食事投与処置法を開発し、それを通常の過程で実行する必要がある。われわれは100日の期間にわたり成長を促す(McLeanら,1992a)腹腔内投与用のソマトトロピンのカプセル型を開発した。そしてわれわれはソマトトロピンの経口および食事投与に成功した(McLeanら、1990、McLeanら1992b)。成長を加速する処置法は、2年子サケ段階前のサケ(サケの幼魚)に投与すると2年子サケへの成長を加速する。組換え子牛胎盤ラクトゲンを2年子サケ前の幼魚に投与すると、特に明らかである(Delvinら、1992、未発表)。

トランスジェニック
 1970年代の組換えDNA方法論の開発は生物学の革命につながり、研究者は多くの遺伝子制御特性の分子ベースを理解および操作できるようになった。1980年代の初期に、PalmiterとBrinster(1985)はスーパーマウスの合成について述べた。遺伝子工学成長ホルモン遺伝子をマウスの正常の遺伝子構成に加えた結果、マウスは対象の約2倍の大きさに成長した。これらの結果は、産生動物の成長とサイズ特性を改善するこのようなテクノロジーを使用することを試みる、種々の重要な種(魚を含む)における一連の実験を生んだ。魚へのトランスジェニックテクノロジーの適用は、効率と企業の利益性を改善するために存在する莫大な可能性から、強力な水産養殖ベースのあるところで最も集中していた(カナダ、中国、日本、ノルウェー、スコットランド、合衆国など)水産養殖の強化のため、トランスジェネシスを使う成長、生殖、環境条件への抵抗性、病気抵抗性の操作は、現在では多くの国際研究グループにより検討されている。
 遺伝子操作に関する可能性は莫大で、操作可能な生物学的過程は、希望する特性に影響する遺伝子の分離でようやく制限される。

 遺伝子移行に関する最も成功した方法論は、受精卵への外来DNAのマイクロインジェクションである。外来DNAを受けた胎芽は通常それを分解し、正常に成長する。しかし胎芽の1-4%が、導入されたDNAを保持し、染色体に統合し、すべて次の娘細胞に伝える。一度統合されると、新しい遺伝子材料は、安定して遺伝を受けて次の世代に伝わると考えられる。新しい遺伝子の有効な発現を見込んで、適合する遺伝子プロモーターとエンハンサーは、遺伝子のたんぱく質をコード化する部分に接着しなければならない。よくある方法は、たとえば、通常下垂体で量を限定して発現する、成長ホルモンの発現を作動させるために、肝臓において高濃度で通常発現するプロモーターを使うことであった。このような遺伝子構成物は、GHをさらなる組織で産生させ、通常の下垂体調節システムから遺伝子を除去することにより、魚で成長ホルモン(GH)濃度を上昇させるべきである。
 このような構成物は銀サケの大きさを最大10倍増加させることが示されてきた(Devlinraら,未発表)

 魚における、最初のトランスジェニック実験は、ヒトもしくは他の脊椎動物に由来する一様ではない遺伝子を使い、水産養殖生産では適切ではなかった。適当な全魚構成物を開発するために、Davies、Fletcher、Hewはカナダでの研究を開拓し、結果的には, 宿主のゲノムに挿入され,新しく獲得した遺伝子を含むことが実証された、最初のトランスジェニック大西洋サケの産生につながった。(Fletcherら,1988)かれらは大西洋サケの凍結抵抗性を改善するために、冬カレイに由来する凍結防止遺伝子を用いた。目的は大西洋カナダの氷に閉ざされた地域で、商用水産養殖の成功を改善することであった。寒さ抵抗性を備えるためサケは十分な凍結防止タンパクをまだ取得していなかったが、調節制御因子と遺伝子を増量する改善は有効であることがわかった。

 成長制御では、成長ホルモン、成長ホルモン放出因子、インスリン様成長因子に関する遺伝子はすべて、トランスジェニック魚を作るのに使われた。今まで、成長改善はコイ、ドジョウ、サケ科魚で、成長ホルモン構成物により達成された。普通のコイでは、ごく適度の増加がニジマスGH遺伝子を使って観察されたが(Zhangら,1990)、ドジョウでは3-4倍の大きさの増加が観察された。サケ科魚では、大きさと成長で非常に大きい増加が、肝臓におけるGHの過剰発現を設計する構成物を利用することによって観察された。大西洋サケの場合に、大きさで13倍の増加が観察され(Duら,1992)、コホサケでは、27倍までの増加が観察された(Devlinら、未発表)。成長能力の改善は、水産養殖に利用する生産戦略を改革する可能性がある。

 トランスジェニック生物を商用水産養殖に導入する前に多数の問題を解決すべきである。
(1) 人間の消費に関する産物の安全性
(2) 環境に関する産物の安全性
(3) 改変生物の公衆の認識
 ヒトに関する安全性については、トランスジェニック生物の品質と容量を制御する規制が必要であろう。環境面での関心は、自然コミュニティのある面に有害な影響を及ぼす可能性ある遺伝子変化生物が逸出する可能性に集中している。このような影響は、同一もしくは密接な関連のある種の野生族との直接的生殖相互作用、もしくは食物もしくは生殖環境に関する競争などの間接効果である。物理的、生物学的封じ込め手段は現在開発中であり、自然環境に対する影響を減らすであろう(Delvin Donaldson,1992)
これらは3倍体もしくはホルモン処置による不妊術である。これらの封じ込め手段は、大衆の関心を呼び起こすと考えられる。

栄養と肉の品質
 カナダでは、消費者グループと衛生当局は、1980年代の後半に、市場サイズの養殖サケと野生サケの肉脂質組成比較に対する関心を表明した。
いくつかの疫学試験と生物医学研究プロジェクトは、ヒトにとっては、食事によるリノレイン酸とアラキドン酸(N-6脂肪酸)摂取に関連して適量のエイコサペンタ塩酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)(まとめてn-3高度不飽和脂肪酸あるいはn-3HUFA)を摂取するのが重要であることを示唆した。前者の脂肪酸はますますヒトの健康にとって重要であると考えられる(Herold and Kinsella 1986、Lands 1986, 1989,Yetiv 1988,Poivi 1989)。

 ヒトはn-3 HUFAの食事供給のほとんどをナガスクジラと二枚貝、特に海洋源から得ている。肉では、脂質が10%以上の野生サケはn-3HUFAが特に高く、n-6脂肪酸が低い。この状況はニシン、エビ、アミ、オキアミとイカなど自然餌の脂質組成を反映している。(Hardy とKing 1989,Higgsら1994)。養殖および野生エビ、ナマズ、ザリガニ、ニジマス、コイに関する試験は、前カテゴリーの動物の可食部における高濃度のn-6脂肪酸と(n-3)/(n-6)脂肪酸の低い比率を明らかにした(Chanmugarmら1986,鈴木ら 1986)。これは調製食の脂質組成によるものと信じられる。魚と他の動物(ヒトを含む)は(n-3)もしくは(n-5)シリーズの親酸を合成できないからである。したがってヒトに関する養殖太平洋サケの栄養価に疑問が生じる(脂質組成の観点から)。

 西バンクーバー研究所は、市場サイズ養殖、野生ベニザケとキングサーモンの肉における脂質組成を決定した。野生サケは、養殖サケと比較してn-3HUFAの割合が一貫して高く、(n-6)脂肪酸の割合が低い。(n-3)/(n-6)脂肪酸の比は、野生サケの肉脂質で14.0−16.7であり、養殖サケは2.4~4.4であった。しかし、養殖サケの肉は、脂質の割合が高く、コホサケの場合には、mg/100g部分をベースとして表わされるn-3HUFAの絶対量は、養殖と野生では著しい差がなかった(HIGGS ら1989)。キングサーモンのn-3HUFA量は、しかし、養殖魚と、とりわけ、食事組成に依存する。したがって、養殖キングサーモンの1つは野生魚で観察されたのと比較して、肉ではn-3HUFAが同等であり、他の2つはn-3HUFA含量がわずかか、もしくは著しく低い。養殖ベニザケとキングサーモンは、野生サケと比較して肉脂質の(n-6)脂肪酸の絶対量が増加していた(higgsら、1994)。

 野生サケと比較して、肉において、養殖サケがn-3HUFA含量と(n-3)/(n-6)脂肪酸が同等か,または、それ以上であることを確実にするため、いくつかの手段による栄養研究が、カナダおよび世界の他の場所で開始された。現在の研究戦略は、カナダの漁業・海洋庁で進行中である。
(1) n-3 HUFAによる食事性脂質の濃縮(Polvi1989、Dosanjhら、1991未発表データ)
(2) 食事性タンパク/脂質比の減少(Silverら,1993)
(3) 運動、食料、食事性タンパク/脂質比における変化(食料効果に関する最初の試験についてKiesslingら1989参照)
(4) 食事性タンパクとエネルギーレベルの変化とむすびつく給餌サイクル(空腹期間と最大配給量への再供給)
(5) 高n-3 HUFAと低(n-6)脂肪酸含量に関するキングサーモンの特異株(specific stocks)の確認

 食事タンパク/脂質比の減少には2つの効果があることは注目に値する。それは海水のキングサーモンの筋肉でn-3HUFAの相対量(%)と絶対量、(n-3) /(n-6)脂肪酸比を高め、単不飽和脂肪酸の肉含量の同時上昇に結びつく(Silverら,1993)。この所見は、血清コレステロール値の低下に関連する潜在的なヒトの健康上の利益に意味があると考えられる(Grundy,1989)。さらに、Polvi(1989)は、養殖大西洋サケの筋肉脂質が、生育時期と成長率(脂質沈殿の程度)により、6週間もの短い時間で、野生大西洋サケで認められるよりも大きな成長率でn-3HUFAによって濃縮可能であることを示唆している。したがって、水産養殖サケの将来の源は、前述の栄養戦略の適用により、潜在的なヒトの栄養上の利点と一致し、野生の魚よりもさらに適切な脂肪酸プロフィールがあるように調整される。

 われわれに開かれている研究の別の道は、魚飼料成分に適切な脂肪酸プロフィールを与えるための、野菜源に由来する魚食物のトランスジェニック操作である。代わりに、魚食事で安い植物たんぱく源の利用を改善するフィターゼとセルラーゼの適用など、バイオテクノロジー研究方法を使用している。このことは、飼料費を軽減させ、環境に受け入れやすくし、高品質魚食の世界生産への制限によって課せられると考えられる、水産養殖の将来の規模に対するいかなる制限も取り除くであろう。

結論
 われわれは水産養殖バイオテクノロジーの領域における、最近のカナダの主導的な研究開発を述べてきた。われわれは水産養殖を通して高品質、安全で栄養のある食物の産出において、カナダと世界中においてバイオテクノロジーの役割が高まることを期待している。

前へ | 次へ