この研究で、われわれはMARBIOと呼ぶ生バイオテクノロジー専用のデータベースを開発した。MARBIOに含まれる情報は、水生バイオテクノロジーにおける研究をおこなう学術および公的研究機関の調査と、水生バイオテクノロジーのある面に専念している民間会社と、この分野の範囲内である出資研究に由来している。合衆国で水生バイオテクノロジーの研究を行っている学術関連もしくは公的な機関で、約200の研究単位があると推測している。この研究単位数は、われわれが、科学文献、摘要、データベース、上記の小領域での研究あるいは適用を参照する他の情報源を検索し、どこで研究が行われているかを確認した数である。われわれは、218の研究単位をつきとめたが、しかしこれらをわれわれの調査のためサンプル抽出した結果、24%が、われわれの水生バイオテクノロジーの定義に適合する範囲に該当する研究を実施していないことが判明した。他方われわれは、研究単位の約20%が確認できず、したがって合計200であると推測している。
この一覧表から、任意に86研究単位を選択して調査した。質問表を各自に郵送し、あて先は単位責任者もしくは研究主任とした。郵送直後に、受け取り人に電話で連絡をとり、長い質問表に答えられるだけの十分な時間が取れるよう予約をとった。実際の質問表の管理は、したがって、電話でおこなった。6名(7%)が協力を拒否し、前に述べたとおり24%が自分たちの行っている研究がわれわれの定義に合わないと感じていた。残りの59インタビュー(79%)は成功裏に研究を実施していた。これは、われわれが合衆国に存在すると信じている、すべての学術および公共水生バイオテクノロジー研究単位の約30%のサンプルに該当することを示している。したがって、われわれは、結果を水生バイオテクノロジーにおける合衆国のすべてで民間以外の研究努力に適用するため、調査結果を係数3.4だけ拡大した。
企業については、上記と同様の方法学を使って、水生バイオテクノロジーに専念しているか、社内においても社外においても水生バイオテクノロジー研究開発に出資している会社80社をつきとめた。調査質問票はこれらの会社の研究責任者に送り、後に電話でインタビューを行った。会社の調査の分析はまだ終了していない。予想完成日は1993年2月である。
MARBIOデータの予備所見
MARBIOデータ分析結果は、1991年に$44,000,000が、大学と公共研究センターで水生バイオテクノロジー研究開発を支援するのに使われたことを明示している。図1が示す通り、この合計金額は、合衆国の科学と工学に費やされる総額からみると非常にわずかである。主な連邦基金源は、国立衛生研究所(主に国立癌研究所)(28%)国立科学財団(13.5%)、海軍研究事務所(ONR)(9.4%)、NOAAの海助成金プログラム(8.8%)、USDA(7.2%)である。さらに州基金は7%を少し上まわり、民間企業資金はこれらの実験施設で7%以下であった。水生バイオテクノロジー研究の資金調達は1980年代初期のこのテクノロジーの出現で急速に増加し、1988―1991年では、資金調達は横ばいで、次の数年間は実質的な増加は期待できない。
1988―1991年に3つの州カリフォルニア、メリーランド、ノースカロライナは水生バイオテクノロジーに専念する研究センターを設立した。カリフォルニアとノースカロライナのセンターはそれぞれの州が供給する資金で建てられたが、メリーランドセンターの主な資金は、大学研究主導のもとに、ONRで供給された。このプログラムは現在、水生バイオテクノロジーにほぼ専念する予定の、カリフォルニアとテネシーにおけるさらに2つの研究センターの設立に資金調達している。
MARBIOデータは、主な水生バイオテクノロジー研究領域は微生物学と分子生物学で、その次が天然産物化学であることを示している。研究目的の質問に対し、最もよくある答えは, 基礎研究(34%)、製薬、精薬品に関連する研究開発(14.6%)環境/バイオレメディエーション研究(12.6%)もしくは水産養殖関連研究(11.7%)である。基礎的な生物学は、明らかに水生バイオテクノロジーエンジンを動かすエンジンであり、この分野はまさに発展段階にあることを示唆している。
合衆国では研究努力の中心ではないが、今日までの水生バイオテクノロジー研究は、適用を伴う生産的なものである。 MARBIOデータからは、大学と公共研究センターで$11,000,000費やすごとに、特許1件が取得されていると推測される。研究者が現在の焦点である基礎研究から商用適用の可能性が高い研究に焦点を移すにつれて、この特許活動が増加すると考えられる。
これまでの生物安全性を確認するのに必要な活動は、水生バイオテクノロジーの進歩に対して重要な障壁ではなかった。一般的なバイオテクノロジー研究と試験活動で、安全性を確認するのに開発されてきた研究方法は、直接水生バイオテクノロジーに適用する。しかし、これまでの水生バイオテクノロジーに直面する生物学的研究における安全性、バイオセイフティ問題は、ほとんどの研究にからんできた。将来、研究者がトランスジェニック生物を対象とした大規模実地試験を行うまたは開催するのに、市販品を試験するのに許可を求めるとき、一部の人はこれらの活動は海洋環境に特有のバイオセイフティ問題に拍車をかけると主張する。程度は軽いが、アラバマの閉鎖システムでトランスジェニックナマズの実地試験をしたがった科学者が、ある公共利益団体からの反対に直面して、約6ヶ月間保留となったとき、海洋環境に特有なバイオセイフティ問題が生じた。(FOX 1992)。実地試験がさらにオープンシステムで行われるまでに、安全試験を確実にするだけでなく、公衆の関心に対応する安全性処置法を制定するために、入念な計画を行わなければならない。さらに、環境とその住人の安全性を確実にするためにとるべき入念な段階を、関係者全員が理解していることを確かめるために、科学者が公衆と有効な方法でコミュニケーションをはかることは重要である。
われわれは、産業に関連するMARBIOデータを分析していないので、商用に対する水生バイオテクノロジー適用の現在の可能性を予測することはできない。しかし、いくつかの傾向が明らかになっている。たとえば、われわれのデータは、ある小区域、水産養殖で、この分野の経済が成長し続ける場合に、技術進歩の可能性があることを示している。少数の産物で水産養殖を開始できるようにするのが実際に技術進歩、特に遺伝子選択である場合に、水産養殖が需要主導であるというのが、水産養殖に関する一般的な考え方である。水生バイオテクノロジーは、閉鎖システム生産のような革新が経済的に実行可能となるのに必要である。
米国以外の諸国における水生バイオテクノロジー
水生バイオテクノロジーが世界中で新生科学/技術分野であるという多くの徴候が見られるが、用語「水生バイオテクノロジー」はまだ一般的に使われていないし政府もしくは国際機関の刊行物にも現れないので、その開発と成長を文書化することは難しい。バイオテクノロジーの特定の分野についての公的な情報は入手しにくい。この問題は、大部分はOECDにより、またその用語を正式に定義することにより解決できるものである。公的情報源からの情報がないにかかわらず、文献を参照したり、外国の科学者にインタビューすることにより、われわれは重要な水生バイオテクノロジー研究と開発が、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ノルウェー、スェーデン、英国で行われていることがわかった。さらに少数の開発途上国はこの分野にかなり投資している、最も顕著なのは中国とインドである(Zilinskas and Lundin 1992).
われわれの研究には、オーストラリア、カナダ、日本、ノルウェーでの水生バイオテクノロジーの状態に関する限られた評価が含まれている。すべての国の中では、日本が圧倒的にこの分野に最大の注意、努力、資源を投入している。われわれのデータの予備分析は、日本が年間9億ドルから10億ドルをバイオテクノロジー研究と開発に費やしていることを示している。産業がこの資金調達の約80%を提供しており、政府が残りの20%を提供している。政府はまた間接的に特定租税優遇措置とローンプログラムを通じて産業開発を支援している。日本の研究開発の重点領域は水産養殖、海洋天然産物とバイオセンサーである。
試験の予備所見の考察
合衆国の研究者と年金基金積立機関が最初に水生バイオテクノロジーの重要性を認識し、研究開発において最初の躍進の引き金となった。しかし、レーガンとブッシュ政権はNOAAなどの機関の基金削減、海基金廃止の試みで示すとおり、海洋学を軽視する傾向がある(ColwellとZilinskas、1991)。幸いなことに、US会議がこれらの試みに対抗したが、海洋学の資金調達レベルは過去3年間同じで、実質成長はこの分野で生じなかった。新しいクリントン政権は一般的におそらくバイオテクノロジーを促進するが、予算問題が国に直面する場合に、基金調達は海洋学関連で大きく増加しないのではないかと疑う。
バイオテクノロジーと海洋学が集合する水生バイオテクノロジーは、バイオテクノロジーが受け取る資金調達増加による恩恵があるようであるが、おそらく海洋学に資金調達するNOAAなどの機関からは特別優遇を受けないであろう。全体的な資金調達レベルは、近い将来増加しそうにないので、バイオテクノロジー全般で生じた爆発的な成長は水生バイオテクノロジーでは生じることができない。産業が水生バイオテクノロジーにさらに興味を示すと、ある程度のさらなる成長は生じるであろうが、水生バイオテクノロジーからの適用はほとんど進行していないので、さらなる成長の見通しは考えられない。合衆国政府によりこの分野を促進する大きな努力がなければ、合衆国での進歩はプロセス、活動もしくは適用に関する時折の偶然の発見に限られるであろう。しかし、水生バイオテクノロジー産物とプロセスの産生を企図した国の努力の方がほとんどが偶然に依存する産物とプロセスよりもさらに成功が望めるであろうし、社会に対するさらに大きな見返りを生じるであろうとわれわれは云いたい。
われわれの予備所見は、日本は他方、民間企業から多くの支援を注入することにより、海洋の可能性を利用することが期待されていることを示唆している。この努力は、貴重な科学知識を生み、日本人が海洋汚染に取り組み、温室効果のような地球問題に関係する海洋学と大気学現象を明確にし、他の利益につながる助けとなる。日本の企業と政府が水生バイオテクノロジーに投入する資源により、日本の科学者が、海洋生物および物理学で世界の主導的役割を担っているということができる。投資の見返りは、日本の水産養殖、製薬、化学産業への適用については、高い価値があり、5年から10年の中期間で達成する可能性がある。これらの適用は、日本の工業生産を増強し、この国のすでに目覚しい国際競争地位にさらなる能力を付与する。
結論
生物時代は、陸生環境はもとより、水生環境も包含する。多くの島および河川国は、多種多様な河口と海洋生活を保護する海洋スペースを持っていることにおいて、幸いである。亜熱帯、熱帯の開発途上国は、特に多種多様な海洋生物に由来する自然の豊かさに特に恵まれている。同時に世界の海洋および海岸環境の大きな区域は、人造の汚染物質の有害影響に悩まされている。したがって、賢明にそして正しく使用する場合、水生バイオテクノロジーといわれるバイオテクノロジーの一部は、高品質の食物供給を高め、海洋自然資源を持続して環境面でも妥当な利用を可能にし、ヒトと環境に有害な汚染物質を破壊もしくは解毒するバイオレメディエーションを展開し、海水で病原体と汚染物質を正確に検出し継続的に監視することによって公衆衛生を改善するツールになる