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水生バイオテクノロジーにおける最近の開発の概観

Dr Raymond A. Zilinskas
メリーランドバイオテクノロジー研究所、
バイオテクノロジー公共問題センター
合衆国メリーランド州、カレッジパーク在

序文
 私は、このプレゼンテーションの焦点を、急速に出現した科学をベースとする技術領域、すなわち水生バイオテクノロジーに絞っている。特に、メリーランドバイオテクノロジー研究所(MBI)の学部で行われ、国立海洋学および大気局(NOAA)海助成金プログラムの援助を受けた主な研究について述べ、考察する。この目的は合衆国、日本、数カ国の他のOECD加盟国における水生バイオテクノロジーの現状を評価し、水生バイオテクノロジー研究と適用における将来の方向を決定することである(Colwell、Lipton、Zilinska、 印刷中)。しかし資源が限られていることから、合衆国での進展に重点を置くことにする。プロジェクトの主任研究員はRita R.Colwell、Dr Douglas Liptonと私である。私が使用できる紙面が少ないので、水生バイオテクノロジーを定義し、その小領域を列記して述べ、行っている研究を幾分詳細に述べ、予備所見の一部を述べる。

水生バイオテクノロジーとその小領域
 水生バイオテクノロジーの用語は、科学者間で意味が異なるが、われわれは,商品とサービスを提供するために、科学と工学原理を水生生物剤による材料加工に適用することと定義している。この定義はOECDのバイオテクノロジーの定義と異なる(Bull, Holt and Lilly,1982)。水生バイオテクノロジーは、海洋環境で生じるか, または海洋環境に関連する生物、化学、環境学における研究開発活動の集合として考えられることもある。ほとんどが日本と合衆国にある、ごく少数の特化施設のみがもっぱら水生バイオテクノロジーの研究に専念している。しかし、多くの研究所に水産養殖、海洋自然産物など水生バイオテクノロジー関連領域で働いている研究者がいる。

 われわれの研究目的において「新生」とは、テクノロジーにより生じた実際面での適用が確認され、実験室過程と技術が実用に移行するとき、テクノロジーが発展サイクルの1つの時期にあることを意味する。別の視点からこの用語を見ると、新生テクノロジーは、公衆とその代表者が、新たな科学知識をもたらし、有用な新製品と工程を生む可能性をはらむものとして認識し始めているものである。今までに水生バイオテクノロジー研究が生んだ適用は少ないが、5年もしくは10年で実現される重要な経済影響の可能性は大きい。P19)
便宜上、水生バイオテクノロジー領域を7つの小領域に小分けする。

水産養殖
 水生バイオテクノロジーは水産養殖に2つの点で有益である。第一に、その研究育種技術は養殖生物の成長率、生殖能力、病気抵抗性、有害な環境条件に耐える能力を高める。結果として、集中水産養殖で成長し生き残る生物の能力は高まり、生産を高める(Marine Board 1992)。第二にバイオテクノロジーにより、普通は海洋生物に有害となる細菌性およびウイルス性疾患に対して、ワクチンが開発されることが考えられる(Meyer 1991)。ワクチンは魚、えび、他の水産養殖生物を、普通は動物株(stock)を定期的に破壊し、アジアとラテンアメリカで莫大な経済損失をひきおこす疾患から保護する(ArthurとShariff 1991)

海洋自然産物化学
 海洋生物は、陸生成物とは異なって進化した。代謝の一部として、多くの海洋生物は生残を助け、そして偶然ではあるが、人間にも有益な特性を備えた化合物を分泌する(Austin 1989)。スクリーニングプログラムは、抗生物、抗腫瘍、抗ウイルス、抗炎症活性がある化合物を産生する藻、サンゴ、海綿、被嚢類を発見した。しかしスクリーニングされたのは海洋種の1%以下である。さらに、現在のスクリーニング方法は範囲が限定されており、少数の生物活性特性しか検出できない(Boydら,1988)。処置法が改善されたので、とりわけ抗寄生性、農薬、免疫増強、成長促進化学物質と傷治癒を促進する化学物質を産生する海洋生物は、確実に見つかるであろう。

バイオレメディエーション
 バイオレメディエーションは微生物を使って、土壌もしくは水中の汚染物質および廃棄物を無害もしくは毒性の少ない最終産物に分解することである。直接有機汚染物質をえさにするか、汚染物質を攻撃する酵素を分泌することにより、微生物は環境修復する。(合衆国会議1991)バイオレメディエーションで使う微生物は、通常自然現場から回収されてきたし、研究開発プログラムを通して、汚染物質を分解するそれらの自然能力は増強されてきた。微生物がえさにする物質が破壊された後、環境修復する微生物数は、急激に減少するであろう。現在の化学および蒸気処分方法よりも、環境に害が少ないので、バイオレメディエーションは、従来の育種技術を上回る重要な利点がある。プリンスウイリアムストレイトでの油流出のバイオレメディエーションの初期結果は、これらの処置は有効で、ヒトにやさしく、環境面でも害がないことを示している。育種技術は完成されているので、バイオレメディエーションは河口、マングローブ、および同様の傷つきやすい海岸コミュニティを浄化することはもとより、汚染港、水路および他の建造物の清掃では、好まれる研究方法となるであろう。

バイオフィルム/バイオ粘着
 表面が海水に暴露されるときはいつでも、海洋生物はその上に定着し、最終的に殻を形成する。殻で網の目にからまっ生物は酸を産生し、桟橋、デリック、他の建造物を腐食する。外被は船の船体抵抗を高め、運営費を増大する(Costerton、LAppinn-Scott 1989)。現在では重金属を含む塗料は生物の定着を防ぐために、表面被覆に使われる。しかし、毒性塗料は労働者に健康面で有害であり、海水を汚染する。水生バイオテクノロジー研究は、定着と粘着プロセスを分子ベースで明確にしようとしている。海洋生物が船と海洋建造物に定着するのを防ぐ清掃法を開発するのに、研究から得た所見が使われることがある。

細胞培養:
 培養フラスコで藻や他の海洋植物を作る細胞を増殖させるのは可能であり、細胞はそこで生長し細菌のように、さらに分割する。培養細胞は植物全体を発生させるのに使用でき、培養液中で増殖することもできる。培養液中では、培養細胞は、普通は植物全体で産生する自然産物を合成することができる。陸生生物細胞培養系はすでに薬剤、食物添加剤、農薬を産生している。海洋細胞培養系も同様の発展をとげている。一つのオペレーティングシステムは藻を産生している(Anon, 1991b)。化学合成と化合物の製造と対照的に、細胞培養産生は省エネで本質的に無公害である。

バイオセンサー:
センサーは特異物質あるいは生物を検出する装置である。バイオセンサーの検出器は特定の生物物質である。2つのタイプが特に興味深い。
 第一のタイプは化学レセプターで、味やにおいなど生理学的機能に関与する生体分子アセンブラーで構成されている。一例としては、蟹の検知用小触覚がある。この器官は、単純な塩からフェロモンにいたる化学的に複雑な溶解物質について水を絶えずモニターしている。実験室では、蟹から切開された触角は、種々のアミノ酸、ホルモン、ヌクレオチド、薬剤、毒素に対して即時に定量的な反応をする(Rechinitz,1988)。化学レセプターは、水中もしくは空気中の非常に低い濃度の物質を検出しモニターするのに適している。

 第二のタイプは免疫学センサーで、認識要素としてモノクロナール抗体もしくはDNAプローブを持っている(Ho、Rechinitz,1992)。これらの生物学分子は,かなり選択性がある。
 一つのモノクロナール抗体は、たとえば、それ自身ただ1つの抗原と結合する。抗原はウイルス、細菌細胞壁成分、あるいはある化学物質である。モノクロナール抗体あるいはDNAプローブをベースとするキットは、コレラの原因となるバクテリアなど、病原バクテリアが常在する水生環境を検出し、正確に同定(Huqら,1990)するのに使われている。種々の他の細菌およびウイルス種を検出するキットは実地試験されている。以前、病原体の培養と確認は24 - 72時間かかり、ウイルス性病原菌の同定は数週間を要するか、不可能であることがわかった。

 大量の生ゴミと産業廃棄物は、毎日海に未処理の状態で集積される。科学者は海洋環境に放出された化学物質と病原体の最終結果を、ほとんど知らない。主な問題は、海洋で物質と病原体を同定して監視し、特定の作用物質と健康事象の間の因果関係を確立するのに付随する困難である。厳格で精度の高いバイオセンサーの利用が、研究者が汚染された海水が公衆衛生におよぼす影響を明確するのに役立つであろう。

陸地農業
 水生バイオテクノロジー研究者は、海洋動物と植物に特有の貴重な特性を、陸生の動植物に移そうとしており、ある程度の成果を得ている。冬カレイは、他の魚などほとんどの動物が生きられない氷点下の温度で生存する。

 科学者たちはヒラメの凍結防止遺伝子を合成し、それをイーストと高等植物に挿入し、そこで発現した(Anon.1991a)この特性が安定しておれば、それは高地もしくは北半球地方で成長する穀物を突然の凍結から保護する。この遺伝子を含む遺伝子操作トマトは現在実地試験中である。別の例では、世界で最も塩耐性のある植物は、ある微細藻類で水が29%の塩を含む死海に生息している。研究者は、塩耐性を遺伝コードする遺伝子を穀類作物に移植している。この研究の成功は、農業従事者が半塩水もしくは塩水で灌漑した土壌で米、油糧植物他の穀物を栽培できることを意味する。

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