1990年にOECDのバイオテクノロジーにおける安全性に関する国内専門家グループ(GNE)は、モダンバイオテクノロジーに関する食物安全性を検討するため、食物安全性とバイオテクノロジーに関する研究グループ(GNEの研究グループIV)を設立した。研究グループの最初の大きな仕事は、モダンバイオテクノロジーに由来する食物の安全性評価に関する1つの報告書、すなわち概念と原理を作成することであった。この報告書は、1993年にOECDより出版され、新たな食物あるいは食物成分の安全性評価に関与する人たちが使用することを意図したものであった。安全な使用の歴史とともに、従来の食物との比較をベースとして、現代のバイオテクノロジーに由来する新食物あるいは改変した食物、あるいは食物成分の安全性評価のための科学的研究法を詳しく説明している。研究グループは、当時はこの研究法が実質的同等性の概念をベースとして食物安全性の問題に取り組む最も実用的な方法であると考えた。
食物安全評価に関するこの最初の報告書は、陸生の微生物、植物、動物に由来する新食物あるいは食物成分の安全な使用に評価の対象を絞っている。水生由来生物に関する研究を延期する理由は多い。食物として使われた多くの陸生動物種、植物種は、飼育栽培されて久しいのに対し、ほとんどの水生食物生物は、事実上野生であり、あまり知られていないからである。さらに、一部の水生食物生物は、外部また内部から生産する毒素を含有することが知られている。これらの毒素は陸生生物が生産する毒素と異なっており、このことは、水生生物に特有の安全性考察が推測的に可能であることを示唆している。
これら検討を念頭に置いて、ノルウェーバイオテクノロジー諮問委員会は、王立衛生社会問題省とともに、以下の2つの目的で、1992年6月10-12日にノルウェーのベルゲンにおいて水生バイオテクノロジーと食物安全性に関するシンポジウムの主催を申し出た。その目的とは、水生バイオテクノロジーと食物安全性の現状のスナップ写真を作成すること、ならびに陸生生物に関連する以前の研究では扱われていないと思われる現代水生バイオテクノロジー特有の食物安全性との関係を確認することである。
シンポジウムの間に行われた発表は、食物あるいは食物源として使われる広範囲の水生生物に関する材料を対象としている。閉鎖もしくは開放水産養殖システムでの養殖、野生株(wild stocks)の生物の捕獲もしくは収穫、大規模放牧などを含む水生生物が食物に利用される種々の管理システムにも言及しているが、多くは水産養殖に対象を絞っている。
主な考察ポイントの一つは、水産養殖における水生生物と、より広い水生環境における水生生物の間の密接な関連であった。これは、多くの場合、水産養殖システムが海に置いたケージを利用するという事実による結果である。水産養殖ケージの中に水生生物を封じ込めにくいことについて数人が言及している。
食物として使われる水生生物で認められた種々の毒素の性質については、長時間討議された。これら毒素の多くは、食物生物の外部から産生されているようであり、通常は微生物に由来する。毒素のレベルについては多くの集団に個体間のばらつきがかなりある。このばらつきは、多くの場合、外部からの毒素源への暴露の程度に依存している。
ベルゲンシンポジウムの後、1992年6月13日に、GNEの研究グループIV会議があった。研究グループは、シンポジウムの間に確認した主な考察ポイントを発展させて、多数の結論に達した。研究グループは、陸生食物生物の場合と同じく、水生生物のすべての新特性は、食品の特性に基づいて検討し、安全使用の歴史を持つ類似の従来食品と比較する必要があると指摘している。モダンバイオテクノロジーの育種技術に関連する改善で考えられる副次的効果が、外部からの毒素と水生食物生物との相互作用を改善することが認められた。このような環境では、しかし、産物の安全性評価が、これまでと同様、毒性の知識と毒性を検出する育種技術に依存している。
薬剤の使用および病気に抵抗力ある生物の育種は、水産養殖の生物についても、検討されている。抗生物質を含む薬剤は食物安全性に影響することがある。かかる薬剤の使用については、多くの場合、勧告が出ている。これらの勧告では、処置後の期間(すなわち薬使用休止期間)が指定されており、この期間には食用目的の家畜屠殺が禁止される。
いくつかの水生食物生物はヒトにも有毒な化合物を含有するか、種々の薬剤投与を受けてきたであろうが、この問題は現代のバイオテクノロジー特有の問題でないことが強調されてきた。これらすべての場合、このような食用目的の生物の安全使用は、今までどおり、化学残留物の適切な安全レベルの確認に依存している。バイオテクノロジーにおける現代科学技術は、この必要性を変えることはないであろう。
結局、このグループの主な結論は、現代水生バイオテクノロジーに由来する食物あるいは食物成分に対する実質的同等性の原理の適用を減らすか無効にする問題は確認できなかったということである。しかし、新しい食物もしくは食物成分と比較するときにそれがないと困難を生じる従来種の適切なデータが不足している可能性がある事例が数例確認された。この問題が生じる理由の一つは、食物として使われる陸生動物あるいは植物よりもほとんどの水生食物生物にはなじみがないことである。なじみがないことについては、今後の研究で解決する可能性があるため、多数の特定研究の必要性が確認された。