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IV. 発症頻度の少ない動物由来のアレルゲン性食物

A. 軟体動物
軟体動物門はムラサキイガイ、ハマグリ、ザルガイ、カキ、ホタテガイ等の斧足綱(二枚貝);アワビ、ホラガイ、カサガイ、カタツムリ、エゾバイ等の腹足綱;そしてタコやイカ等の頭足綱から構成されている。軟体動物のアレルゲンはIgE関与の反応を引き起こすことが知られているが、十分な研究はなされていない。

1. カキ(二枚貝)
カキは感受性のある被験者に有害反応を引き起こすことがよく知られている207。LehrerとMcCants207は6人のカキアレルギーの被験者(カキ摂取後に消化管にのみ症状が現れる)で、皮膚テストとRASTはカキ感受性と相関しないことを認めた207

2. イカ(頭足綱)
イカは感受性のある被験者が摂取または料理の蒸気を吸入した後にIgE関与の反応を引き起こす。ある研究では7人のイカアレルギーの患者全員が皮膚テストにおいてゆでたイカの抽出物と市販の各種甲殻類の抽出物に対して強い陽性反応を示すことが報告されている。さらに、イカアレルギーの人の血清はゆでたイカの抽出物に対する特異的IgE免疫測定法において陽性であった205

3. カサガイ/アワビ(腹足綱)
カサガイやアワビの摂取によるアナフィラキシー反応が報告されている。感受性のある被験者は皮膚テストやRASTで貝殻を有する軟体動物の抽出物に対して陽性であった204,208。ある研究では、カサガイアレルギーの被験者は調理されたカサガイの抽出物に対して皮膚テストや好塩基球のヒスタミン遊離試験で陽性となったが、生のカサガイ抽出物に対しては反応しなかった204。イムノブロッティングによって、カサガイの主要なIgE結合タンパク質の分子量は38と80kDaであると考えられているが、これ以上の特性検討はなされていない209

4. カタツムリ(腹足綱)
カタツムリに対してアレルギーを有する10人の被験者を対象とする研究で(内8人が気管支の症状を経験しており、6人は皮膚と消化管に症状を示すことが報告されている)、被験者全員がカタツムリの抽出物に対して好塩基球のヒスタミン遊離試験と皮膚テストで陽性反応を示したが、頭足綱と二枚貝は有害反応を引き起こすことなく摂取できた206
別の研究では203、アトピーの被験者70人の内、61%が皮膚テストでゆでたカタツムリの抽出物に対して陽性であり、19%がカタツムリの抗原に対してRAST反応性を示した。15%の被験者ではカタツムリの摂取による喘息症状が報告された。ゆでたカタツムリの抽出物のSDS-PAGEとイムノブロッティングから分子量が12〜66kDaの範囲にIgEに結合する6つの異なるタンパク質が存在することが判った。皮膚テストとRASTが陽性の被験者は1μgのカタツムリ抽出物で好塩基球のヒスタミン遊離試験が陽性となった。これらの被験者では、カサガイヘモシアニンは好塩基球のヒスタミン遊離試験で交叉反応を引き起こさなかった。特異的IgE結合が66kDaバンド(10人中2人)、24kDaバンド(10人中9人)、15kDaバンド(10人中3人)および12kDaバンド(10人中6人)に認められた;しかし、これらのバンドの特性はこれ以上検討されていない。

V. 発症頻度の少ない植物由来のアレルゲン性食物

A.ソバ
ソバは、雑草のタデ科グループに属し、穀類との関係はない。ソバの摂取は、消化器症状、蕁麻疹、血管浮腫、およびアナフィラキシーと関連付けられている210。職業上ソバに暴露されている人達では、職業病としてのアレルギー反応を起こすことが知られている211,212。ソバを摂取するとアナフィラキシー症状を繰り返し発症する患者の血清を用いたイムノブロッティングによると、IgE結合成分として分子量9〜40kDaの4つのバンドが認められ、それら全てが糖タンパク質であった213。Yanoら214は、ソバに対して高いRASTスコアを示す患者の血清から、IgEを結合した分子量8〜9kDaの3つのタンパク質を見出した。そのタンパク質の1つはトリプシンインヒビターであった。

B. ハウチワマメ(ハウチワマメの種子)(Lupinus albus
ハウチワマメは、マメ科に属する。ハウチワマメは、世界的に栽培されているエンドウに似た植物で、主として飼料として使用されたり、耕地の養分のために215土中にすき埋め込まれたりしている。しかし、このマメ科植物はまた、人が食べる食物としての用途としても、何年もの間評価されている。
HefleとBush216は、ピーナッツアレルギーの小児がハウチワマメを含むパスタ製品に対してアレルギー反応を示したと報告した。彼らはさらに、皮膚テストと、ピーナッツアレルギーの大人6名のIgEを用いてin vitroでのハウチワマメタンパク質のバインディング分析を実施した。ハウチワマメのIgE結合タンパク質は、SDS-PAGEにおいて21kDaおよび35〜55kDaの分子量をもち、熱安定性があった。6名の患者血清の内、3つの血清はこの21kDaのバンドに弱く結合しただけであったが、この21kDaのバンドは、他の3名の血清においては主要なIgE結合タンパク質のようであった。ハウチワマメ抽出物を用いた皮膚テストで陽性反応を経験した患者はまた、青エンドウに対して有害な反応を示したことがあると語った216

C. エンドウ
エンドウはマメ科植物に属するが、エンドウに対するアレルギー過敏反応の頻度は、ピーナッツやダイズに比べるとかなり少ない。しかし、このことは恐らく、ヒトが食事としてエンドウタンパク質をどれくらい摂取するかに関係しているかもしれない。食事の中にエンドウやハウチワマメといったマメ科植物のタンパク質の添加量が増加していたならば、エンドウアレルギーの罹患率は増大したであろう。
栽培変種や分画方法にもよる217が、グロブリン画分が総種子タンパク質の75〜80%を占め、アルブミン画分はその残りの大部分を構成している。青エンドウマメ(Pisum sativum L.) leguminは約256kDaで、20kDa及び40kDaをサブユニットとする6組で構成されている。それぞれのサブユニットは、60kDaのポリペプチド鎖で構成されている218。青エンドウvicilinは、50kDaのサブユニットを構成成分とする三量体である219,220。一方、convicilin と呼ばれるvicilin様のエンドウタンパク質は、71kDaの4つの単量体より構成されている221
粗精製のエンドウ抽出物とエンドウアルブミンは、皮膚テストで陽性を示した。しかし、主要なエンドウグロブリンのlegnum (11S) とvicilin (7S)は、10人の青エンドウ過敏症患者について行われた調査研究の皮膚テストで、陽性反応を引き起こさなかった222。そのアルブミン画分は、加熱されたり、煮沸されたりしても、そのアレルギー活性をすべて保有していた。
「PMA-L」と称された53kDaの主要なエンドウアルブミンは、約25kDaの2つのサブユニットから構成されていた。もう一つの成分である「PMA-S」は、48kDaの分子量があり、2つの24kDaのサブユニットを構成成分としていた。PMA-Lと PMA-Sは、どちらも発芽の間にほとんど低分子化しなかった。このことは、これらが種子貯蔵タンパク質ではないことを示唆している223。24または25kDaのサブユニットをもつホモダイマーで、「Psa MA」 (P.sativum主要アルブミン) と称されたエンドウアルブミンに関するその後の研究は、「Psa LA」の発見とそのアミノ酸配列の解明をもたらしている。Psa LAは、54アミノ酸残基から成る低分子量アルブミン成分(11kDa)である。このタンパク質は、ほぼ間違いなく6kDaのポリペプチドの二量体であり224、プロテアーゼインヒビター活性を有していない。Psa LAは、Ochterlony法またはイムノブロッティング法による評価において、エンドウの貯蔵タンパク質であるPsa MA、またはエンドウレクチンに対する抗体に反応しなかった。SDS−PAGEにおいて約1.8kDaの分子量をもち、30%の炭水化物を含む青エンドウアレルゲンが透析物から精製された225が、それ以上の性質は明らかにされなかった。

D. オオバコ種子
オオバコ種子の粘液片はPlantago属に属する植物の種子の殻から得られる。それは1500年代より下剤として大量に使われており、職業病として発症するアレルギーであることがよく知られている226,227。オオバコ種子は、高コレステロール血症患者の血清コレステロールレベルを下げるのに有効である228と判明した以後、穀物食品に添加されるようになった。オオバコ種子が強化された穀物製品の摂取は、重篤なアナフィラキシー反応を引き起こした229。アレルギー症状を示した人達の大部分は作業中の暴露によって感作されたが、一部の人達の感作はそのようなルートによるものではなかった。吸入あるいは摂取のいずれかのルートで感作された20人の患者は、20〜36kDaの分子量範囲にある6つのオオバコタンパク質に反応するIgEを有していた229。これらのIgE結合タンパク質の性質を明らかにするための研究は、それ以上なされなかった。

E. コメ
コメ(Oryza sativa)は、世界人口の約1/2をまかなう主食である。日本では、コメはIgE依存メカニズムを介して頻繁にAD(アトピー性皮膚炎)を増悪させている。2つの米タンパク質画分、すなわちグルテリンとグロブリンに関する1つのレポートがある。それによると、これらタンパク質は、RASTにより示されているように230コメアレルギー患者血清の特異的IgEに反応する。主要なコメアレルゲンは、微妙な違いがあるアルブミンタンパク質群から成っており、それらは分子量が14〜16kDa、pIが6〜817で、多重遺伝子ファミリーにコードされている231。その主要なコメアレルゲンをコードしているcDNAのヌクレオチド配列が明らかにされている232。それは、162アミノ酸残基をコードする486ヌクレオチド配列である。生合成されるタンパク質は約14.7kDaの分子量を有する。明らかにされたそのアミノ酸配列は、オオムギ トリプシンインヒビター(20%)とコムギ α-アミラーゼインヒビター(40%)232とそれぞれ相同性を有する。アレルギーを起こすコメタンパク質は、熱安定性があり、タンパク質分解抵抗性がある。この1つのタンパク質が多くのアレルギー反応の原因となっているので、化学変異を導入し、系統種の選択を行うことによって低アレルギー米233を創出し、コメアレルギーを減少させようという試みがなされている。2番目のアプローチは、そのコメで生合成されるアレルゲン性タンパク質の量を減らすアンチセンス遺伝子を作るために、その遺伝子のヌクレオチド配列を利用する方法である。Watanabe234は、コメのアレルゲン性を減少させるために、プロアテーゼ処理工程を導入した。これは多少成功したが、必要な酵素量は膨大であった。

F. リンゴ
新鮮なリンゴは特定の地域で経口アレルギー症候群(OAS)の原因となり得る。このリンゴアレルギーはヨーロッパにおいてよく見られる(本号のSusan L. Hefleら、「アレルゲン性食物」参照)。ヨーロッパでは、リンゴは一般的なアレルギー食品として認識されている。Ebnerら235は、17〜18kDaのリンゴ抗原とカバ花粉のBet v 1が同一の抗体認識部位を有していることを示した。彼らはさらに、カバ花粉から調製したRNAがリンゴから調製した約800bpのRNAと類似の配列をしていることを示した。Viethsら236はイムノブロット法によりリンゴの18kDaのタンパク質にアレルゲン性があるとし、また、13、30、50kDaのタンパク質にアレルゲン性があることを明らかにした。彼らはリンゴの18kDaのタンパク質濃度について数品種を比較し、ゴールデンデリシャスとグラニースミスが特に高濃度であることを確かめた。グロスターおよびジャンバには18kDaタンパク質は少なかった。Viethsら237は、18kDaタンパク質のN末端26残基のアミノ酸配列を調べ、カバ花粉のBet v 1抗原と62%の相同性があることを明らかにした。18kDaタンパク質は病気への耐性と関係があるようである。Hsiehら238は花粉アレルギー患者34人の血清をイムノブロットにより調べたところ、37.5%のヒトに18kDaのタンパク質に結合するIgEが検出され、75%のヒトに31kDaのタンパク質に結合するIgEが検出された。また、12、14、16、38、50kDa(SDS-PAGE)のタンパク質に結合するIgEも検出された。18kDaおよび31kDaのタンパク質のN末端アミノ酸配列に、Bet v 1や他の様々な植物の疾病抵抗性タンパク質と約50%の相同性が見られた238。Viethsら236は、保存中に18kDa抗原が増加することを発見したが、これが果実の熟成そのものによるのかどうかは解っていない。そのため、この抗原タンパク質の増加は疾病抵抗性に関係する因子によって引き起こされているのではないかと考えられている238

G.キャベツ
キャベツ(Brassica oleracea)はアブラナ科の植物である。ゲル濾過技術により、20〜67kDaの複数のアレルゲン性画分が分離されている239

H. セロリ
セロリはヨモギ花粉アレルギーやカバ花粉アレルギーの患者にとってOASの原因となることが報告されている(第VII項F参照)。セロリはときに重篤な症状を引き起こすこともある。Valloierら240は、セロリから15kDaの原因タンパク質を同定している。それはSDS−PAGEで2本のバンドを示すヘテロ2量体タンパク質である。セロリアレルギーの患者から採取したIgEは、カバおよびヨモギの花粉にも結合することが示されている240、241。リンゴと同様に、セロリアレルギーはヨーロッパの一般的なアレルギーである(本号のSusan L. Hefleら、「アレルゲン性食物」参照)。

I.チョコレート
チョコレートにアレルギー反応を示す人が多くいることが報告されているが、そのアレルギー反応は再現できない場合が多い。実際に感作がDBPCFCによって確認された例がいくつかある。しかし、皮膚テストでは陽性と出る場合が多い242、243。チョコレートの場合、皮膚テストでは誤った判定をすることが多いため、皮膚テストは臨床上のテストとして避けるべきである。チョコレートがIgEに結合するアレルゲンとして働くのかどうかは定かでないため、原因抗原を同定する仕事はこれまで行われていない。

J. メロン
スイカ、カンタロープ、ハネーデュ−メロン、バナナは、ときとしてブタクサ花粉症の人にOASを引き起こす。場合によってはより重篤な症状を起こし得る。Enbergら244はpH4〜6での等電点分画法により、スイカ抽出物からタンパク質を分離し、ニトロセルロース膜に固定後、スイカに反応した人の血清を用いてIgEが結合するか調べたが、一定したIgEの結合は認められなかった。しかし、Jordan-Wagnerら245はSDS−PAGEおよびイムノブロッティングにより、スイカに反応する患者から調製したIgEに結合する15kDaのタンパク質をスイカから見出した。そのタンパク質はセロリ、キュウリ、ニンジンに見られる類似のタンパク質と交叉性があったが、それ以上のことは解っていない。

K.パパイン
パパインはパパイヤから調製されるタンパク質分解酵素である。パパインは肉の軟化剤やビールの清澄化助剤、あるいは生化学や免疫化学、薬品の工業における試薬として用いられる。パパインが職業病喘息の原因となることを示唆する報告がいくつかある246、247。何名かの人達はパパイヤ248、あるいは肉の軟化剤249としてパパイヤを食べることによって、あるいは椎間板ヘルニア248を治療するために使用したキモパパインの注射によって感受性が増していた。皮膚テスト、RAST、経口負荷試験で陽性であったため、この酵素に対するIgE抗体の関与する感作が成立していることを確認できた。

L. モモ
モモは、OAS程度からアナフィラキシーに至るまで、様々な程度のアレルギー反応の原因となり得る250。イムノブロッティングによるモモタンパク質の分析報告がいくつかあるが、結果はそれぞれ異なる。Wadeeら251は、モモ抽出物中にナシやリンゴにはない30kDaのアレルゲンタンパク質を検出した。Taylorら252は41、67および72kDaのアレルゲン性のあるタンパク質もしくは糖タンパク質をモモ果肉から得た。Lleonartら253は、モモにアレルギー反応を示す人から採取したIgEに結合する8〜10kDa程度のタンパク質複合体がモモの皮中にあることを示した。Pastorelloら250はスモモ類のいくつか(アプリコット、チェリー、モモ、プラム)に共通して見られる13kDaのアレルゲンタンパク質を同定した。彼らはモモ、チェリー中にそれぞれ14kDaと30kDaのアレルゲンを発見した。現在のまでに、モモ中のIgE結合タンパク質の精製やアミノ酸配列の決定はなされていない。

M.ジャガイモ
ジャガイモに感作するケースは非常に珍しい。ジャガイモに感作した人の血清を用いたイムノブロッティングでは、生のジャガイモ中の16〜65kDa(pI4.6〜5.2)の複数のタンパク質に結合するIgEがあることが示されている254、255。カバ花粉アレルギーの人の中には、生のジャガイモを食べると口にかゆみを生じる人がいる。通常そういう人たちは調理したジャガイモであれば問題ない。理論的に推定されるアレルゲンはポルフィリンであろう(第VII項F参照)。

N.トマト
トマト(Lycopersicon esculentum)はナス科の植物である。Bleuminkら256は、イオン交換クロマトグラフィーによりトマトのタンパク質を分画し、アレルゲン性を示す糖タンパク質の画分を得た。しかし、アレルゲンは他にも多くの画分にわたって散見された。アレルゲン性はトマト果実の熟し程度に依存するようであった。皮膚テストでの反応は、室温で14日間保存した赤く熟れたトマトが最も高かった。アレルゲン性画分は、タンパク質と還元糖とが熟成中に非酵素的褐変反応(メイラード反応)を起こすことによって生成したのであろうと推測された。

O.種々の食物アレルゲン
5. 綿実
綿実(Gossypium 種)の油とタンパク質は、食物として利用されることがある。綿実は、ゴシポールと呼ばれる有毒性の色素のために、伝統的な育種技術によってゴシポールフリー種が樹立されるまで、ヒトの食物源としての利用が制限された257。この技術のおかげで、綿実のタンパク質と油とが食品として利用可能となった。綿実タンパク質や綿実粉を含むサプリメント、キャンディー、あるいはパンを食したことによるアナフィラキシー反応がこれまでに報告されている258-260。このアレルゲンは2Sタンパク質のようである。このタンパク質は水溶性のアルブミンである。

6. ゴマ実
ゴマ実(Sesam indicum)は東インドのゴマ科のハーブである。ゴマ実から得られる種子と油はアナフィラキシーを起こす261。超遠心分離とイムノブロッティングを用いると、ゴマ実のアレルゲンは8〜64kDaの多様なアレルゲンより構成されていることがわかった199, 262。イムノブロッティングとRAST抑制試験により、ゴマ実とヘーゼルナット、ライ、キウイ、そしてポピーの実を含む様々な食品の間で交叉反応するバンドが同定されている263

7. ポピー実
ポピー実は全身性の反応を時折示す。交叉反応性以外で、ポピー実のアレルゲン成分に関する研究はほとんどなされていない。

8. スパイス
セロリやアニス種子、フェンネル、コリアンダー、クミンなどを含むセリ科のいくつかの種は、セロリにアレルギー反応を示す人、とりわけヨモギの花粉およびカバ花粉に反応する人において陽性の皮膚反応を誘発する265(第VII項F参照)。ヨモギ花粉とコリアンダーの間の交叉反応性がRAST抑制試験により確認されている266。Helbinらは267、生のニンジンとセリ科のスパイス、アニス、クミン、そしてコリアンダーの間に交叉反応性をいくつか見出した。このグループによるイムノブロッティングの研究でも、アニスの17, 21,そして23kDaのタンパク質がIgEに結合性を示すことが明らかとなった。一方、クミンでは17kDaのタンパク質でのみIgE結合性が示された。

9. マスタード
イエローマスタード(Sinapis alba)とオリエンタルマスタード(Brassica juncea)はアブラナ科に属する。これらアレルゲンは両方ともクローニングされている。Sin a 1はイエローマスタード種子から得られる2Sのアルブミンであり、イエローマスタードの主要なアレルゲンである。Sin a 1はジスルフィドで結合された二つのポリペプチド鎖からなる貯蔵タンパクで、それぞれのポリペプチド鎖は39残基および88残基のアミノ酸からなっている268。両ポリペプチド鎖のアミノ酸配列はこれまでに明らかになっている。また、このタンパク質はナタネやヒマタネ、そしてブラジルナッツからも同定されている268。更なる研究により、Sin a 1のIgEへの結合様式は構造的なものであることが示唆されている。両ポリペプチド鎖を還元カルボキシアミドメチル化すると、このタンパク質のIgEへの結合が実質的に減少したからである。チロシン残基をニトロ化するだけでも、特異IgEの結合性は低下した。このチロシン残基は88アミノ酸鎖の60番目に位置している。この領域に結合するマウスのモノクロナール抗体を使用しても、IgE結合性は50%にまで低下した。チロシンの果たすこの役割は、タラのアレルゲンであるGad c 1のIgEへの結合性に類似している268
N末端とC末端の両方をコードするオリゴ鎖プライマーを用いたポリメーラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、Sin a 1アレルゲンの遺伝的解析がさらに研究された。遺伝子の多型を示す二つのヌクレオチド配列が同定された。2SタンパクはNapinファミリーに属しており、イントロンのない遺伝子によってコードされ、ポリペプチドの前駆体として合成される。合成されたペプチドは特殊な成熟プロテアーゼによりプロセシングを受け、成熟タンパク質の二つの鎖となる269
オリエンタルマスタードの種子の主要なアレルゲンであるBra j 1がこれまでに同定されている270。イエローマスタードが主にヨーロッパで使用されているのに対し、オリエンタルマスタードは合衆国と日本でより一般的に使用されている。食卓に出るマスタードは、しばしば両種の種子を粉状にした混合物からなっている。Bra j 1のアレルゲンはわずかに非定型性を示し、免疫学的にはイエローマスタードの主要なアレルゲンであるSin a 1と交叉する。Bra j 1は16と16.4kDaの間にある。16kDaのタンパク質と16.4kDaのタンパク質は、いずれもαへリックス構造を有している。αへリックスはタンパク質分解酵素、あるいは熱による分解に対して抵抗性を示す。また、両タンパク質はグルタミン含量が高い貯蔵タンパク質である。類似のタンパク質がキャベツやカブから同定されている。なお、キャベツとカブは同じ科に属する。

VI. 吸入性アレルゲンとしての食物

食餌性タンパク質の摂取により消化管を介して感作が成立するという様式は、食物アレルギー反応の主要因である。しかしながら、特に食品工場における職業特有の抗原による曝露が起こるケースや、食品とアレルゲン性が交叉する様々な花粉に感作した結果として、呼吸器系を介した感作が成立することがある。食物アレルゲンはハウスダストに取り込まれ、空気を介して運ばれることになるかもしれないという仮説も存在する271
アレルゲンの中には、職業性喘息を引き起こすものがある。乳タンパクが職業性喘息に発展することを示す症例がこれまでに2例報告されている。一つの症例では、粉乳の吸入によって鼻の症状と喘鳴が誘発された272。その患者はまた、 乳製品を摂取すると口腔内に痒疹や焼灼感も経験した。反応したタンパク質はナトリウムカゼイネートと同定された。もう一人の患者はBernaolaら273が報告したもので、患者はα−ラクトアルブミンの曝露によって職業性喘息を発症した。
卵タンパク質が「bird-egg syndrome」に関連していることが知られている。この症候群にかかった人は、トリの血清抗原に曝露された後、一般的に呼吸器系を介して感作される。その結果、彼らはニワトリの卵黄を摂取することで反応するようになる。この症候群は、はじめに成人で見出された274が、小児の症例報告275もある。この反応に関わるアレルゲンは、α−リベチンという70kDaの血清アルブミンである。このタンパク質はニワトリの卵黄にも存在する276
van Toorenenbergenら277は、トリ抗原に曝露された際に、卵黄中の60kDaのタンパク質がアレルゲンとして働くことを見出した。それとは対照的に、トリの曝露がなく、摂取することにより卵アレルギーを発症する子供は、35kDaのタンパク質に反応した。これら卵黄タンパク質の更なる特性化研究は行われなかった。
マメ類や他の植物から発生する有機物粉末は呼吸器系を介して感作する。ダイズ粉の吸入が多数の吸入性喘息の原因となっていると言われている278。ダイズ粉による喘息に関連するダイズ タンパク質を評価すると、14.9〜54.5kDaの範囲にある9種類のタンパク質が同定された279。ダイズ レシチンはまた、感受性の高い人において職業性喘息を発症した280。流行といえるような喘息の集団発症は、空気で運ばれたダイズ タンパク質(スペイン・バルセロナ)281やヒマの種282-284が原因とされている。生のサヤインゲンを調理する主婦に職業性喘息が起こる原因としてサヤインゲンが挙げられている285。コーヒー豆の加工業者に起こる職業性喘息は、緑のコーヒー豆の粉末が原因であるといわれている286
魚類や甲殻類は職業性の反応、特に魚介類加工業での職業性反応に深く関わっているといわれている287。ノルウェーロブスター(Nephrops norvegicus)やキングクラブ(Paralithodes camshaticus)、あるいはスノークラブ(Chinoecetes opilio)やヤリイカ204や他の魚介類由来のタンパク質が空中に浮遊し、吸入されることで、様々な職業性喘息が発症すると言われている。感作は、工程中で発生する蒸気を通じてタンパク質を吸入するために起こると信じられている。
製パン業者の喘息はパン製造工場従業員に見られる。コムギ、ライムギ、オオムギの粉のタンパク質が最も共通したアレルゲンとして知られている。これら穀類の粉から種々のタンパクが精製され288、コムギとオオムギの粉からアレルゲンがクローニングされている289。Blandsらの報告290によれば、調査した163名の製パン業従業員のうち53%がコムギ粉に、25%がライムギ粉に、そして23%がそれら両方にアレルギー反応を示した。最も高い皮膚反応性は水溶性画分によって誘導された。交叉免疫電気泳動法(CIE)により40の抗原画分が同定された。それら画分の中には、タンパク分解酵素による分解を生じたために、部分的に相同性を有するものが含まれているかもしれないことがわかった。Frankenら291は、IgEが14kDaタンパク質に結合することをイムノブロッティングで示した。類似のタンパク質がライムギ粉に見つかった。しかし、ライムギのIgE結合性はコムギよりも低かった。Pfeilら292は、イムノブロッティングを用いた研究により、47、 17、15kDaの3つの主要なコムギアレルゲンを見出した。Gomezら293は、イムノブロッティングを用いることにより、製パン業者の喘息に関わる主要なアレルゲンをコムギの内胚乳から見出し、それらがトリプシンやα−アミラーゼのインヒビターファミリーに属するものであると同定した。ある種のコムギから見出されるいくつかのトリプシンやα−アミラーゼのインヒビター(Triticum duram Desf cv Agathe294, T. aestivum L. genomes AABBDD cv Chinese Spring295, T. turgidurm L. genomes AABB cv Senatoree-Caplelli295, T. aestivum cv Timgalen296)について、分子のクローニングとDNA配列が報告されている。
Armentiaら288は、コムギとオオムギの粉から、α−アミラーゼ/トリプシンインヒビターの一連のファミリーを形成している11種類のタンパク質を精製した。アレルゲンのほとんどはアルブミンとグロブリンの画分から見つかった。その後、代表的なアレルゲンが同定され、それらにはコムギからは単量体が、オオムギからは二量体が含まれている。Menaら289は、オオムギの内胚乳から14.5kDaのタンパク質である主要なアレルゲンをクローニングした。これは、穀類から得られるα−アミラーゼ/トリプシンインヒビターの多遺伝子ファミリーに含まれるグリコシル化された単量体である。アミノ酸配列はおそらく、132残基を含むと考えられている。5アミノ酸の連続的なIgE結合性エピトープがコムギのアミラーゼインヒビターから同定されている50

VII.交叉反応

A.牛乳
牛乳アレルギーの人は、しばしばヤギやヒツジの乳に対する血清IgE抗体を持っている13,14,21。ほとんどの場合、それはDBPCFCでは確認されない。しかしヤギ乳を飲んだ牛乳アレルギーの小児の10人に9人は、牛乳により引き起こされる症状と同様の反応を示す(H.A. Sampsonからの私信)。

B.魚類
魚種におけるアレルギー交叉反応の程度は、個人によって大きく異なる297。異なる魚種による魚アレルギー患者の反応を評価する試みが、いくつかの研究でなされている。de Mortinoと共同研究者達298は、20人のタラアレルギーの子供に17種類の異なる魚種の皮膚テストを行った。ほとんどの子供(85%)はウナギ抽出物で反応を示したが、両親の話ではこれらの子供達はいずれもウナギは食べたことがないとしていた。Pascualら299は、魚類に過敏に反応する79人の子供を対象として、シタビラメ、ヒラメの一種 (whiff)、カレイの一種 (witch)、ヘイク、タラ、およびビンナガマグロに対する皮膚テスト反応を行った。これらの患者はすべて、これら6種類の魚と反応を示した。この試験結果は、皮膚テストだけでは魚種に対する臨床交叉反応を適正に診断できないことを示している。
DBPCFCおよび他の試験を用いた検査56,298では、魚アレルギーの小児はすべての魚種に決まった反応を示さないことがわかった。Bernhisel-Broadbentら83は、DBPCFCに対する様々な反応を認めた。すなわち、経口誘発試験では、7人の患者はただ1種類の魚と、1人の患者は2種類の魚と、2人の患者は3種類の魚と反応した。11人の患者のうち8人では、皮膚テストした10種類の魚すべてに対して陽性を示した。残りの3人は、皮膚テストした少なくとも2種類の魚種に対して陽性反応を示した。しかしある研究60では、9人の魚アレルギー患者のうち1人だけが、経口誘発試験において、皮膚テストでは反応した魚に対して反応しなかった。
魚抽出物のin vitroにおける交叉反応はまた、SDS-PAGEおよびイムノブロッティングによっても調べられている。ある研究83では、生および加工した9種類の魚の抽出物を調べた。生および加工したマグロを除くすべての抽出物は、タラの主要な抗原であるGad c 1と類似すると思われるSDS-PAGE上の13kDaの位置にある顕著なバンドを含んでいた。魚アレルギー患者の血清を用いたイムノブロッティングの結果から、IgEが最も著明に結合するタンパク質はこの13kDaのバンドであることが示された。マグロにはこの13kDaのタンパク質が存在しないようであった。このことは、マグロがほかの種の魚と強く交叉反応しない理由を説明しているかもしれない。
患者血清を用いたイムノブロッティングはさらに、経口誘発試験で臨床的に過敏な反応を示さなかった魚の抽出物と結合することを示した。阻害ELISA法による評価では、特異的IgE結合の50%を阻害するために必要とされる魚抽出物の濃度は、臨床的にアレルギー症状を示す魚でもそうではない魚でもほぼ同じであった83
阻害RASTによる研究において、魚種間の交叉反応性が様々であることが示されている。RAST研究では、マグロまたはビンナガマグロは最も弱い阻害作用を示し298,300、皮膚テストでもほとんど反応を示さない299。Helblingら300は、マグロ抽出物がマスRASTでは45%、サバRASTではわずか26%しか阻害しないことを見出した。Gad c 1を用いて ヘイク、whiff (ヒラメの一種)、シタビラメ、witch (カレイの一種)および、ビンナガマグロに対する阻害RASTを実施したところ、パルブアルブミンがタラのアレルゲンとして重要であるにもかかわらず、他のタラの仲間(gadiform)やヘイクでは重要でなく、さらに他の魚種では一層重要でないことが観察された299
Helblingら300は、魚に対して有害な反応を示した経歴を有する多くの人は、甲殻類、主にエビに対しても有害な反応を示すことを見出した。しかし、魚の抽出物(サケ、カタクチイワシ、マグロ、マス、pollock(タラの一種)およびサバ)は、エビRASTにおいて阻害活性を示さないことが明らかとなったことから、その患者達は複合的な食物アレルギーであったとも考えられる。

C.甲殻類および軟体動物
10. 甲殻類
多様な甲殻類に対してIgE過敏性を示したことがあるという病歴がたびたび報告されている。エビアレルギーの人は、甲殻類のほかの種に反応する。彼らは他の甲殻類に対して、皮膚テストおよびRASTで陽性を示す98,301。阻害RAST解析および、他の免疫化学分析手法を用いた研究によって、エビと他の甲殻類には共通した抗原性/アレルゲン性反応部位のあることが示されている101,302,303。Halmepuroら101は、交叉免疫電気泳動分析において、ザリガニから抽出した6つのIgE結合性沈降抗原のうち5つがイセエビ、ショウナンエビ、ワタリガニ抽出物の沈降抗原と部分的に免疫学的相同性を有していること、そして4つのイセエビIgE結合沈降抗原のうち3つがザリガニ、ショウナンエビ、ワタリガニ抽出物と部分的に免疫学的相同性を有していることを見出した。さらに、エビ、ワタリガニおよびザリガニの抽出物はすべて、Pen a 1 RASTも同じ程度阻害する5Pen a 1特異的モノクロナール抗体と同様にPen a 1反応IgEもザリガニ、ワタリガニおよびイセエビに存在する36kDaタンパク質を検出する93ことから、おそらく共通のIgE結合部位が存在するのであろう。特有で、しかも綱で共有されるアレルゲンに反応するIgEの存在は、一人の患者が一つ、または多くの甲殻類の仲間に臨床的な過敏反応を示す理由を説明しているかもしれない。

11. 軟体動物
軟体動物は甲殻類に比べてアレルゲン性は非常に弱いが、カキおよび甲殻類抽出物の交叉反応研究は、阻害RAST研究をもとに、いくつかの共通な抗原性/アレルギー性反応部位の存在を示した。エビ、ワタリガニ、イセエビおよびザリガニは、いずれもカキと高い交叉反応性を示した207
ある研究でも、イカアレルギー患者がエビを食べた後、症状を示した。その患者達はまた、ゆでたイカの抽出物およびあらゆる市販の甲殻類抽出物に対して強い皮膚テスト陽性反応を示した。特異IgE結合阻害研究は、エビ、ロブスター、カニ、カキ抽出物とゆでたイカの抽出物と交叉反応を示した205。しかし、交叉反応は、イカとタコ(ほかの頭足動物)との間ではなく、さらに、イカとアオヤギ、ムラサキガイ、および他の軟体動物との間にもなかった。
カサガイに過敏に反応する患者を対象としたある研究では、何の症状もなくイカ、アサリなどの二枚貝、ザルガイ、タコ、カタツムリ、カキ、エビ、ロブスターおよびザリガニを食べることができた204。ラパスガイ、アワビ、そしてカサガイのヘモシアニンの間での交叉アレルギー反応のあることが、カサガイに反応する患者の血清を用いた生カサガイRASTで証明された208

12. 海産食物/昆虫の交叉反応
発生学的な系統維持が起こっているかもしれないことから、甲殻類と軟体動物は、節足動物のいくつかの種とアレルギー決定部位を共有しているかもしれない。共有されているアレルギー決定部位の存在が、エビの主要抗原とショウジョウバエ (Drosophila)抗原との間で示されている。Pen a 1とPen i 1は、ショウジョウバエのトロポミオシンと同様に、アミノ酸配列の86〜87%の相同性を有している5, 92。ユスリカ(刺さない型)にアレルギーな患者は、甲殻類に対する皮膚テストにおいてもたびたび陽性を示す。ユスリカ抽出物はエビRASTを阻害する。また逆も同様である304。しかし、他の研究者達は、この試験方法を用いて低い交叉反応性を報告している305
Wittemanら306は、チリダニ (Dermatophagoides pteronyssinus )抽出物に対して反応するモノクロナール抗体がエビ抗原、おそらくPen a 1に交叉反応することを示した。そして、チリダニ、カ、およびゴキブリ抽出物とも反応を示することを示した。Wittemanらは、トロポミオシンがエビアレルギー患者に見られるダニ、エビおよび昆虫との交叉反応に関わっていると結論している。最近Akiら307は、31名のダニアレルギー患者の主要なアレルゲンとなっているダニ(Dermatophagoides farinae)タンパク質の組換えタンパク質をクローニングした。cDNAフラグメントから明らかになった理論的アミノ酸配列は、ショウジョウバエ トロポミオシンと76%の相同性を持ち、精製した天然型ダニ トロポミオシンの一部であるアミノ酸配列フラグメントと完全に一致した。明らかとなったアミノ酸配列は、エビ トロポミオシンの2つのIgE結合部位(エビの50〜66残基、161〜163残基)と全く同じアミノ酸を、それぞれ17個のうち11個と9個のうち6個有していた。この新しい抗原はダニ トロポミオシンであると結論された。いくつかのカタツムリ反応性血清試料は、ダニ結合性IgE陽性を示す。そして、カタツムリRASTの阻害がダニ(Dermatophagoides)抽出物に見られた(14〜66%阻害)203。ほかの腹足動物、カサガイに対する特異IgE結合は、ダニ(D.pteronyssinus)により有意に阻害された205。しかし、これと同じ研究グループ204は、ダニ(D.pteronyssinus)またはゴキブリ抽出物によるイカ特異IgEの有意な阻害はないと報告した。
無脊椎動物のヘモグロビン(エリスロクロリン)分子がトビケラと軟体動物の交叉反応に関わっている308。それはユスリカに反応するヒトにとって可能性の高いアレルゲンである。ある研究において、トビケラの幼虫に過敏に反応する患者の血清は、軟体動物およびハチ毒からの抽出物中の分子量がよく似た成分と反応した308

D.マメ類
マメ科植物間において、in vitroでのアレルゲン性の幅広い交叉反応が報告されている。たとえば、Barnettら309は、RAST研究において、マメ類に敏感な患者由来血清の25%がピーナッツ、サヤエンドウ、ダイズ、 ヒヨコマメの抽出物と強く反応することを認めた。Bernhisel-Broadbentら310は、イムノブロティングとドットブロティング法を用いて、ピーナッツ、ダイズ、エンドウ、そしてリママメについて、マメ類過敏症患者の62名中57名に広範なin vitro交叉アレルゲン性を見出した。しかし、同じ研究者達による以前の研究では、臨床結果とin vitroでの結果はマメ科植物間におけるアレルゲン性の交叉反応性評価において相関しなかった。すなわち、皮膚テスト陽性患者の59%が経口誘発試験で陽性であり、そしてわずか2.8%のみが2種類以上のマメ類の経口誘発試験で陽性であった。経口誘発試験陽性のうち、ピーナッツ過敏症は31%を占め、ダイズは23%、エンドウは5%を占めた。青エンドウとリママメは、経口誘発試験で陰性反応を示した。
それぞれのマメ タンパク質が、相互のサブユニットや分解産物として、あるいは翻訳後の糖鎖付加が分子量に及ぼす影響の結果としてどのように相互に関与しているかについては分かっていない。また、臨床反応やin vitro反応を引き起こすこれらのマメ類間において交叉反応性を示すアミノ酸配列やエピトープも分かっていない。
上述した研究報告は、IgE抗体が関連している食物中のタンパク質と交叉反応を示し、皮膚テスト陽性反応やRAST陽性反応を示すにも関わらず、臨床症状で交叉反応が現れるのは極めてまれであることを示している。しかし、ピーナッツ アレルギー患者らは、春巻きの具としてよく使用されるtaugeh(発芽した小粒青豆)に対してIgE抗体を介した重篤な反応を起こすことがある。ピーナッツ過敏症の子供がルピナスを配合したパスタに反応したという症例が最近報告された216。ルピナスの抽出物に対して皮膚テスト陽性反応を経験した患者らは青豆に対しても反応した経験を持つことも報告された。したがって、一種類のマメに臨床的に過敏であるからといって、文献的には、殆どの場合、食事から摂る全てのマメ類を制限する必要はないと思われる。これらは個人ベースで評価すべきことである。

E.穀類
分子研究技術の発展により、穀類タンパク質の交叉反応の研究が増加した。パン類製造業者の喘息の主要アレルゲンは、α-アミラーゼインヒビタータンパク質群のひとつとして同定された。オオムギ由来のα-アミラーゼインヒビターとコムギ由来のα-アミラーゼインヒビターは、アミノ酸配列の37%が同一である294。明らかにされたコメのα-アミラーゼ/トリプシンインヒビターとコムギのα-アミラーゼ/トリプシンインヒビター間のアミノ酸配列の相同性は40%であり、コメとオオムギ間の相同性は20%である232。14kDaのコムギα-アミラーゼインヒビターに対するモノクロナール抗体は、ライムギ291における同様の成分も認識し、エピトープが同一であることを示唆している。Frankenら312は、コムギの主要アレルゲンとしてα-アミラーゼインヒビターの重要性を確認した。最近、穀類に対するIgE抗体の交叉反応の程度と臨床上の感受性について報告があった313。コムギアレルギーの小児の約25%が他の穀類(オオムギ、オートムギ、ライムギ)に反応した313

F.木の実、野菜、果物、花粉アレルギー
樹木花粉アレルギー(カバ、ハンノキ、ハシバミ、カバノキ、オーク)の患者が木の実、果物、野菜に対する不耐症を経験する報告は非常に多い314 - 318。北欧において、カバ花粉症患者の70%がこれらの食物に対して不耐症である。一方、カバ花粉にアレルギーでない患者では、19%が食物に対して不耐症である314。キウイのような植物学上関係していない果物に対する反応の報告があるが、リンゴ314,319やヘーゼルナッツ(ハシバミの実)315,319が最も共通した原因物質である。牧草または雑草アレルギーのある患者は、しばしばニンジン、セロリ、ジャガイモ、そしてある種のスパイスに感受性を示し266,321,322、ブタクサアレルギー患者の多くは、ヒョウタン科の果物やヒョウタン科でないバナナに対して不耐症であると報告244,323されている。これらの交叉反応の多くはOASの症状を示すが、患者の中には全身症状を示す例もある324。これらの交叉反応を示すアレルゲンは調理により不活化されるが、木の実と交叉反応を示すアレルゲンは熱に安定である。
T細胞エピトープマッピングが、カバ、ヘーゼルナッツ、そしてハンノキ花粉について研究されている。しかし、過敏反応を誘発する特異的なアミノ酸配列は同定されていない。樹木花粉への暴露は、同様のアミノ酸配列から成る様々な食物タンパク質に対するエピトープを認識するIgE抗体価の増加を誘導しうる。最初の感作原は花粉であって、食物ではない。

13. Bet v 1
Bet v 1は、主要なカバ花粉アレルゲンであり、カバ花粉―食物間の交叉反応にとって最も重要なアレルゲンである。それは、17kDaの細胞質内にあるタンパク質で、そのcDNA配列 315が双子葉植物326においてよく保存されており、病原体感染327した幾つかの高等植物の体細胞組織で誘導される一連のmRNAと相同性を有する。
Ebnerら235は、イムノブロット技術を用いて、カバ花粉症患者83名のうち81名の血清がBet v 1とリンゴ(2本のバンド)に対してIgE抗体の結合性を示すことを見出した。これらのリンゴアレルゲンに対するIgE抗体の結合は、血清をBet v 1 と予め反応させておくことにより完全に阻害された。さらに、カバ花粉とリンゴのアレルゲンをコードする核酸は、ノーザンブロット235においてクロスハイブリダイゼーションを示した。他の研究者たちは、他の植物における疾病抵抗性遺伝子238に加えて、18kDaと31kDaのリンゴアレルゲンがBet v 1 と約50%の相同性を有することを見出した。また、イムノブロットにおいて、18kDaアレルゲンに対するヘーゼルナッツアレルギー患者のIgEの結合が予め血清を組み換え体のBet v 1195と反応させることにより阻害されることから、18kDaのヘーゼルナッツアレルゲンが、Bet v 1 と類似するIgE結合部位を有することも示された。
カバ花粉アレルギー患者43名の果物に対する不耐症歴の研究において、2つの集団が見出された。すなわち、血清がカバ花粉と果物中の20kDaに反応する集団と、血清がカバ花粉、果物、牧草花粉、ジャガイモ中の18kDaに反応する集団である。RAST阻害試験とイムノブロット解析により、カバ花粉と果物、特にリンゴ、サクランボ、モモ、ナシのアレルゲン間には抗原類似性があることが判明した。これらはバラ科に属する果物である。
Bet v 1の生物学的特性は、未だに不明である。カバ花粉症患者血清を用いて全オープンリーディングフレームをコードするcDNAだけは発現ライブラリーのスクリーニングにより分離することができたので、B細胞エピトープは存在すると考えられる328

14. プロフィリン( Bet v 2)
プロフィリンは、カバ花粉−果物過敏症に関与しているが、他の食物329との交叉反応において、より広い役割も担っている。プロフィリンは、植物学上関連づけられる種に存在するその他の主要アレルゲンと異なり、花粉症患者のIgE抗体の約20%がこのアレルゲンと結合する330ので、アレルギ−症状にとって重要な交叉過敏症アレルゲンである。Bet v 2は、分子量14kDaのプロフィリンとして同定されたカバ花粉タンパク質で、様々な果物や野菜に交叉反応するアレルゲンとしても同定されている329。プロフィリンは、ほとんど全ての真核細胞で見出され、高度に保存されているごくありふれたタンパク質で、アクチンの重合を制御する。それらは、様々な花粉から単離されている。
花粉プロフィリンは、多くの食物と交叉反応を示すようである。Ebnerら324はイムノブロットで、予めカバ花粉症患者血清を組換え体Bet v 2と反応させておくと、ナシ、セロリ、ニンジン、ジャガイモのタンパク質に対するIgE抗体の交叉反応が減少することを見出している。Vallierら241は、63名のヨモギ アレルギー患者の内、18名がヨモギの15kDaタンパク質および14kDaと16kDaの2つのカバ花粉タンパク質に対する特異的IgE抗体を有していることを示した。セロリRAST陽性患者36名のうち18名が、約15kDaの2つのセロリ タンパク質と結合する特異的IgE抗体を持っていた。これら18名の患者血清は、ヨモギの15kDaタンパク質と14kDaと16kDaのカバ花粉タンパク質にも反応した。その後の研究で、同じ研究者たちは15kDaのセロリ アレルゲンを精製し、それと血清を予め反応させておくと、ヨモギおよびカバ花粉中の15kDaのアレルゲンとのIgE抗体の結合が阻害されることを示した。さらに、3名のBet v 2アレルギー患者から得たIgE抗体は、精製した15kDaのセロリ アレルゲンと結合し、この結合が組み換え体Bet v 2と予め反応させることにより阻害された。
生のメープルシロップは、樹木花粉過敏症患者の舌の血管浮腫を誘発した331。熱に不安定なアレルゲン、おそらくプロフィリンがこの反応の原因物質であると理論的に考えられた。

15. 交叉反応を示す糖鎖部位
Bet v 1やプロフィリン以外にも、糖タンパク質上の糖鎖構造が花粉−野菜交叉反応に関与しているが、それらの臨床診断は疑わしい321,332

G.ラテックスと食物間の交叉反応
ラテックスに対するIgE抗体を介したアレルギーの過去10年間おける増加に伴い、ラテックスと様々な食物との交叉反応が報告されている。Blancoら333は、ラテックス過敏症患者25名を調べ、7名がアボガド、4名がクリ、5名がバナナ、2名がキウイ、2名がパパイヤ、そして2名がイチジクに対して全身反応を経験したことがあると報告した。RAST阻害分析では、ラテックスとアボガド、クリ、バナナ間の交叉反応が認められた。したがって、ラテックスは、植物学上関係しない他の果物と抗原決定部位を共有していることが示された。パパイヤ、イチジク、キウイはRAST阻害分析ではラテックスと弱い親和性を示した。
Anibarroら334は、クリの経口投与に反応するラテックスアレルギー患者では、特徴として蕁麻疹と血管浮腫が見られると報告した。この患者血清を用いたイムノブロッティングでは、14kDaのバンドに対する強いIgE結合が認められ、いくつかの25〜30kDa付近のバンドに対する弱いIgE結合が、同じ分子量の範囲にあるラテックスタンパク質に対するIgE結合に加えて認められた。もう一つの研究では、10名のラテックスアレルギー患者の内7名がアボガドに対してアナフィラキシーを経験していた。これらの患者達は、バナナ、クリ、キウイ、パパイヤに対してもアレルギー症状を示した。RAST阻害試験は、アボガド、ラテックス、クリ、バナナ間の共通エピトープの存在を示唆した335。ラテックスアレルギーの患者はまた、バナナとクリによるアナフィラキシーを示したことがある335。上述した交叉反応に加えて、ラテックスの交叉反応はセロリ、パッションフルーツ、モモとの間にも認められている337

VIII 遺伝子組換えアレルゲンおよび食品技術に対する関係

A. 序論:遺伝子組換えアレルゲンの利点と欠点
1983年以降のアレルゲン構造に関する知識の劇的増加は、主に組換えDNA技術の成功した応用に起因する。分子的技術は様々なアレルゲンタンパク質からB細胞エピトープ、T細胞エピトープばかりでなく抗原の一次構造を決定する助けとなった338。これらの技術は、研究や臨床利用のためのアレルゲン性素材のため信頼性のある供給源の開発に革命をもたらす効果をもたらす。
現在、バッチ間一貫性があり、信頼性、再現性のあるアレルゲン供給源が生産可能であり、安定して大量に利用でき、目覚しい功績となっている339。これは診断や免疫治療のためにアレルゲン性抽出物が改良されるという結果となるはずである。遺伝子組換えアレルゲンは非常に高純度で生産することができ、他のアレルゲンや非アレルゲン性の材料を含む可能性のある天然の供給源による抽出物よりも勝っている。遺伝子組換えアレルゲンの更なる利点は、現行のアレルギー抽出物の品質を改良するために天然の抽出物に添加されることだろう340。しかしながら、この方法は診断目的のために与えられた供給源からクローニングされた少数(2〜4種)の遺伝子組換えアレルゲンでしか用いられていない。
しかしながら、おそらくバイオテクノロジーの最大の価値は、ハチ毒のような限られた量の天然産物に含まれるアレルゲンの代わりに用いられる遺伝子組換えアレルゲンを提供することだろう。遺伝子組換えアレルゲンはアレルゲンの規格化や組織的な研究、T細胞、B細胞エピトープ同定のためのよいツールとなるだろう。このような研究はアレルギー性疾患の治療における免疫療法的なアプローチに新しい概念をもたらすこともありうる。組換えDNA技術はアレルゲン間の交叉反応性分析にも有用であろう。このような技術は多くの花粉アレルゲンが種内、種間および遺伝子間の可変性と交叉反応性を持つことを示している341
遺伝子組換えアレルゲンの潜在的な欠点は天然相当物よりIgE結合性が低い可能性があることである。また、多くのアレルゲン性抽出物は複数のアレルゲンを含むので、実質的な供給源は、特定の食物において必要とあれば全ての遺伝子組換えアレルゲンが必要となるかもしれない。最終的に安全性と有効性は主要な関心事であり、人の使用前に考慮されねばならない問題である。

B. 遺伝子組換えアレルゲンの必要条件
生産される遺伝子組換えアレルゲンの主要な目標は、天然の相当物と遜色ないことである。In vivoで用いられる遺伝子組換えアレルゲンは以下の性質について充分に分析されるべきである: タンパク質純度は遺伝子組換えタンパク質の世界保健機構(WHO)文書の記載として明確にされている342。遺伝子組換えアレルゲンは動物モデル系によって毒性がないことが示されなければならない(本号のTaylorとLehrerによる「食物アレルゲンの原則と特徴」参照)。これらの分子は安定でなければならず、半減期はアレルゲンの規格化に通常用いられるin vitroアッセイで評価されなければならない。
多くのアレルゲンは酵素やレクチンといった本来の生理活性を持っているので、それらに相当する組換え体も同様の活性を持つ可能性がある。毒性のような望ましくない特性がある場合、その特性は除去しなければならないだろう。特定部位の突然変異誘発は、この目的を達成するために用いることができる。最終的に、遺伝子組換えアレルゲンが天然の相当物と同様のIgE結合活性を持つことは重要である340

C. 分子的にクローニングされたアレルゲン
多数のアレルゲンが過去数年でクローニングされた。重点は吸入アレルゲンに向けられた(Stewart 343、Scheiner 344のレビュー参照)。アレルゲンの中で最初にクローニングされたのは主要チリダニアレルゲンであるDer p 1である345。クローンはウサギ抗血清とオリゴヌクレオチドプローブにより検出された。しかしながら、用いた発現系では、発現タンパク質とIgEの結合を容易に示すことはできなかった。このことは立体構造についての翻訳後のイベントが必要であることを示唆している。他の発現系では遺伝子組換えアレルゲンが関連クローンの同定のため、IgE結合を用いて検出できることが示された。
多数の花粉抗原を含む、多くの非食物吸入アレルゲンが同定された346。カバ花粉アレルゲンとヘーゼルナッツのような食物やプロフィリンとの配列相同性は第VII項Fで検討された。幾つかのブタクサ花粉アレルゲンもクローニングされている。PCRに基づいた技術の利用により、主要ネコアレルゲンであるFel d 1をコードする遺伝子全長が同定された。これらの研究から得られた情報から、Fel d 1分子内のT細胞エピトープが同定された。現在、これらのアミノ酸配列に基づく合成ペプチドは、ネコアレルギー患者におけるアレルギー反応を緩和する免疫療法について審査段階にある。カビのアレルゲンもアルテルナリア属やアスペルギルス属からクローニングされている。アスペルギルス属タンパク質は、アレルギー患者における皮膚プリックテストで陽性となる数少ない遺伝子組換えアレルゲンの1つである347。有針昆虫の毒タンパク質の分子クローニングも報告されている。これらのタンパク質の一部と植物由来のタンパク質の配列相同性や、ゴキブリのアレルゲンと食物タンパク質の配列相同性が検討されている。
遺伝子組換え食物アレルゲンも生産されている。ピーナッツアレルゲンの1つであるAra h 2は遺伝子組換え技術で生産されている348。コメ種子由来の主要アレルゲン性タンパク質をコードしている遺伝子が報告されている231, 232。幾つかのcDNAとゲノムクローンが調製された。これらの配列分析によりオオムギのトリプシンインヒビターとコムギのα-アミラーゼインヒビターで相同性を推測されるアミノ酸配列が明らかにされた。精製された16kDaの主要コメアレルゲンのアミノ酸配列に基づくオリゴヌクレオチドプローブによりクローンが検出された。しかしながら、分子生物学的にクローニングされたタンパク質とヒト血清IgEとの結合能を調べた研究はない。Gonzalez de la Penaら269はイエローマスタード種子由来の主要アレルゲン(Sin a I)のクローニングと発現について報告した。クローニングは非縮重オリゴプライマー(nondegenerate oligo primers)と成熟タンパク質のN末およびC末をコードする部分を用いたPCRで行われた。核酸配列分析により、アレルゲンの複数のアイソフォームの存在が示唆される遺伝的多型性が示された。しかしながら、IgE結合試験は行われなかった。
現在までクローニングおよび配列決定されたアレルゲンのリストは、この号のDean D. Metcalfeらによる「遺伝子組換え作物に由来する食物のアレルゲンの可能性評価」に示されている(表1、2参照)。このリストは疑いなく経時的に増大し、非常に貴重なアレルゲン情報を提供し、アレルギー疾患の新療法の開発が促進されるだろう。

謝辞
著者らはこの論説に対するSamuel B. Lehrer博士の貢献に謝意を表する。

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