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補遺B. 非雌雄異体様式による再生産を行う遺伝子改変魚類および貝類の審査

 魚類、軟体動物、甲殻類は、幅広く多様性に富んだ様式の再生産を示す。一般的な様式のひとつは雌雄異体で、これはオスおよびメスの再生産器官が別の個体にあり、各個体は単性である。水産増殖で現在使用されている多くの生物種は雌雄異体である。雌雄異体GMOの事故による脱走がもたらすリスクの審査は、既存のフローチャートを使用することで対応できる。
 非雌雄異体様式の再生産は、魚類、軟体動物、甲殻類に存在することが判明しており、これには水産増殖で重要な生物種も含まれている。再生産の様式は非常に変化に富み、しばしばかなり複雑なものであるが、2つの大きなカテゴリが存在し、これは雌雄同体と単為生殖である。雌雄同体生物は、オスおよびメスの再生産器官をいずれも有している。当該種の再生産発生および行動の特定性質によるが、雌雄同体は他家受精あるいは自家受精を通じて再生産することができる。単為生殖には、ひとつかそれ以上のゲノムがクローン的に受け継がれる全ての再生産様式が含まれる(Moore 1984)。真性の単為生殖による再生産では、胚形成を誘発する精子の存在も、生存可能な後代を再生産するためのオスからのDNAの統合も必要とはされない。
 魚類および貝類の非雌雄異体再生産の特定性質にはかなりの多様性が存在する。遺伝子を改変された非雌雄異体GMO放流のリスクを審査するためには、これらの再生産の特定性質に関する知識が必須である。この補遺では次のものを提供する。

1)

非雌雄異体様式の再生産に関する背景知識

2)

懸念度の高い非雌雄異体GMOに関するリスク管理ガイダンス

3)

非雌雄異体GMOで懸念度の高くないものを評価するためにフローチャートを使用する上での重要なガイダンス

非雌雄異体様式の再生産に関する背景知識

魚類

 全ての判明している単為生殖魚類は、胚形成を誘発するために少なくとも精子による物理的な刺激を必要とする(Dawley 1989)。単為生殖生物種によるが、再生産には同種あるいは他種のオスが関与する。オス関与の二つの様式、雌性発生および雑種発生の説明は、Dawley(1989)を参照されたい。単為生殖の生物種を含む科には、PoeciliidaeAtherinidaeCyprindaeCobitidaeなどがある(Dawley 1989)。Poeciliidae科の魚を使う研究者は、研究生物での単為生殖の可能性について、次の文献を参照することから検査を始めることができる。Poecilia formosaについては、Dawley(1989)、Monaco他(1984)、Schartl他(1995)、またPoeciliopsis種については、Dawley(1989)、Vrijenhoek(1984)。
 現時点においては、自家受精する雌雄同体魚はただひとつの生物種のみが知られており、これはRivulus marmoratusである(Soto他 1992、Turner他 1992)。同時的および連続的雌雄同体魚は、Sparidae種の中に存在することが判明している(BuxtonおよびGarrett 1990)。この科におけるGMOが関与した研究は、いくつかの生物種(すなわちタイ、シマガツオなど)が水産増殖製品において経済的に重要であるため、おそらく行われるであろう。Sparidaeに含まれる特定のGMOが雌雄同体であるか否かを判断することは、非常に重要である。連続的雌雄同体魚は、雄性先熟あるいは雌性先熟である可能性がある(SadovyおよびShapiro 1987、Debas他 1990)。連続的な雌雄同体のいくつかでは、性転換は社会的因子によって引き起こされる(Dawley 1989、SunobeおよびNakazono 1993)。

軟体動物および甲殻類

 判明している軟体動物5600属のうち、40%が同時的あるいは連続的雌雄同体であり、これには二枚貝の9%が含まれている(Heller 1993)。二枚貝では、多くの形式の雌雄同体がこれまでに判明している(Peralta 1988)。二枚貝の雌雄同体は、これまで小型の抱卵する生物種に限定すると考えられてきた。さらに、体外受精のために産卵するこれらの雌雄同体生物種は、偶然に自家受精する、あるいは適応度の低い後代がその結果産生されると考えられていた。しかし、水産増殖生物種アメリカイタヤArgopecten irradiansの自家受精の幼生が、他家受精した幼生増殖と同様に成長することが判明している(WilburおよびGaffney 1991)。三倍体カキにおける雌雄同体の発生率の増加が、組織学的研究を通じて記録されているが、そのような雌雄同体が機能的な配偶子を産生するかは不明である(AllenおよびDowning 1990)。
 単為生殖は、水産増殖甲殻類生物種の系統、例えばArtemia(ブラインシュリンプ)(Triantaphyllidis他 1993)やDaphnia種(Hebert他 1993)で発生することが判明している。これらの生物種は、いくつかの水産増殖魚類生物種の生餌を提供するために、増殖、市販されている。淡水甲殻類のCandonocypris novozelandiaeに関する研究の結果は、撹乱された居住空間では性別のある系統が単為生殖系統に置き換えられたことを示唆している(Chaplin 1993)。海洋小エビ種(Penaeus vannamei)で雌雄同体の2個体が、小エビ養殖場の同腹家系で見つかっており、捕獲下で直面した環境的条件の結果として雌雄同体となったことが示唆された(Perez-FarfanteおよびRobertson 1992)。

リスク管理ガイダンス:懸念度の高い非雌雄異体GMO

 他家受精GMOと比較して、自家受精により再生産する生物は、後代の遺伝子型におけるばらつきが少ないため、研究生物として特に利用価値が高いものとなりうる。しかし、そのような生物の事故による脱走は、特に高いリスクをもたらす。本フローチャートは、自家受精の二つの様式による再生産、つまり1)自家受精する雌雄同体、2)真性の単為生殖のいずれかを行うGMOを取り扱う研究に対し、これがもたらすリスクを完全に評価するようにはデザインされていない。
 これらのいずれかの再生産様式を行うGMOの単一個体の事故による脱走は、GMO後代の完全な個体群の樹立をもたらしうる。予防原則に従って、個体群樹立のこの高い可能性により、これらのタイプのGMOを取り扱う研究では、考えられる封じ込めで最も厳重なレベルのものを採用することが求められる。

その他の非雌雄異体GMOのためのフローチャートの用語に関する説明

交雑および雑種形成(フローチャートII.A.1、II.B.1、IV.A.1):単為生殖GMOの場合、「交雑」あるいは「雑種形成」に関する質問は、利用可能な生態系に単為生殖GMOが相互作用し再生産することが可能な生物種が存在することを意味する。特に、オスが単為生殖の胚形成を開始する能力を持つ生物種の存在について述べており、これはこのオスが実際に後代にDNAを寄与するか否かとは無関係である。
 雌雄同体GMOの場合、「交雑」および「雑種形成」は、これらのGMOが他の雌雄同体個体、あるいは他の生物種と他家受精する可能性を意味している。

遺伝子移入の直接的な可能性(フローチャートII.A.1):単為生殖では、遺伝子移入の直接的な可能性およびその結果による影響(フローチャートIV.Aで対応)は、一般的に問題とはならない。そのかわり、主要な問題は、生存可能なGMO個体群の樹立可能性ならびに他の生物あるいは生態系の構造および過程に対する直接的あるいは間接的な有害作用である(フローチャートIV.Bから対応開始)。そのため、GMOが単為生殖であり、フローチャートII.A.1によりIV.Aへと進むよう指示された場合には、そのかわりにフローチャートIV.Bに進まなければならない。
 他家受精する可能性のある雌雄同体GMOは、遺伝子移入の直接的な可能性に関して問題を提起する。そのため、GMOが雌雄同体であり、フローチャートIV.Aへと進むよう指示された場合には、指示されたとおりに進まなければならない。

単為生殖GMOが関与する種間交雑および移入交雑(フローチャートII.C.1):単為生殖による「交雑」は二つの事例が存在することが現在判明している。ひとつの事例では、オスがDNAおよび精子を提供する(Poeciliopsisでの交雑)。二つ目の事例では、通常の場合、精子は胚形成を誘発するだけである(Poeciliaでの雌性発生)。ただしSchartl他(1995)は、全てがメスのP.Formosaとの交配で、他生物種のオスが後代に小染色体を提供する例外を記録している。いずれの事例においても、これらのフローチャートの目的に関する限り、後代は種間雑種と見なされるべきである。いずれの事例でも、オスが保護生物種である場合、あまりにも多くのオスが同種のメスではなく他生物種の単為生殖GMOメスと交尾することによる再生産での競争が、移入交雑よりも大きなリスクとなる。

再生産可能な成熟(フローチャートIII):連続的雌雄同体における再生産可能な成熟個体の同定は、慎重に考慮されなければならない。個体を検査するべき年齢および成熟度を判定する適正な方法について、専門家に助言を求めなければならない。

利用可能な生態系の非生物的因子(フローチャートIV.B):非雌雄異体GMOに関し、非生物的因子が再生産を除外するか否かを検討することに加え、非生物的因子が再生産を誘発する可能性も検討しなければならない。
 雌雄異体と考えられているGMOの場合、非生物的因子が非雌雄異体再生産を誘発する可能性も、専門家との相談の上、考慮されなければならない。ある研究では、屋外小エビ養殖場の捕獲下での飼育条件の環境因子が、養殖個体群での雌雄同体の低い発生を誘発したことが疑われている(Perez-FarfanteおよびRobertson 1992)。
 非雌雄異体GMOにフローチャートIV.Bを使用する場合、この時点で本基準の適用終了が可能となるためには、下記の条件が満たされていなければならない。

  1. 利用可能な生態系には、再生産を誘発する非生物的因子が欠如している。
  2. 利用可能な生態系には、再生産を確かに除外する非生物的因子が存在している。
  3. 利用可能な生態系には、胚形成を誘発することが可能な同種あるいは近親種が欠如している。

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