緒言
本節は、本実施基準のこれまでの全ての部分が完了されたことに基づき、リスク管理が必要であると決定された研究プロジェクトのみに適用される。本節は、遺伝子改変魚類および貝類が関与する研究プロジェクトのデザインと運営について、特定のリスクを管理する目的で推奨事項を提供する。管理手段の計画立案および実行は、プロジェクトの立地、障壁のデザイン、セキュリティ、アラーム、運営上の必要事項(書面での運営計画、緊急時の対応計画、訓練、交通管理などが含まれる)などを含む、本節で述べられている全ての因子に対応するものでなければならず、またプロジェクトの開始前および開始後に審査されなければならない。
審査で補完された事例特異的なアプローチ
リスク管理を必要とする様々な研究プロジェクトは、GMOの生物学的特徴、特定のリスク、研究プロジェクト全体の特徴(例:プロジェクトの立地)において、広範な多様性を示す。このことにより、すべての考えられる事例に対する管理手段の最良の組み合わせを予想することは不可能である。それゆえ、本節では一般的な推奨事項を提示し、フローチャートVI.AあるいはVI.Bで特定されている「脱走無し/無視できるレベル」か「事故による脱走での受容できる数の個体」のいずれかを達成するリスク管理手段の最も適切な組み合わせの作成については、使用者に委ねている。「無視できるレベルの脱走」を構成するものが何であるかの決定は、フローチャートVI.AあるいはVI.Bで繰り返されたように、提案プロジェクトに対して同定された特定リスクに関連するものでなければならない。目的は、環境に対して無視できる程度の結果となることである。本節の使用者は、本実施基準が最小限の必要事項を定義するものであることを明確に認識しなければならない。特定の事例では追加の手段が賢明である場合がある。この事例特異的なアプローチが適切なリスク管理をもたらすことを保証し、また本実施基準を全面的に遵守するため、本節の使用者はプロジェクトの開始前には同領域専門家によるリスク管理手段の審査、また運営の開始後には現場の審査を仰ぐことが求められており、その際に審査者には水生生物学および生態学の専門家が確実に含まれていることが求められている(下記の同領域専門家による評価および現場での審査の副題にある詳細な記述を参照)。
研究プロジェクトと商業的運営
本節で提示されている推奨事項は、研究プロジェクトの特定リスクのみを管理するようデザインされている。これらは、商業的規模での運営によって提起される全ての問題に対応するようにはデザインされておらず、商業的運営で同定される可能性のある特定リスクを管理するには明らかに不十分である。しかし、商業的運営でのリスク管理に対する推奨事項を将来において作成する上で、役に立つ開始地点を提供してくれる可能性はある。
プロジェクトの立地
任意のプロジェクトにおける特定のリスクに対する管理の容易さあるいは困難さは、研究プロジェクトの地理的な場所に大幅に依存する。遺伝子改変生物を取り扱うプロジェクトの立地および物理的な施設は、洪水、嵐、地震、その他の自然災害の際に事故による放出を防がなければならない(表2)。研究者は、洪水、波、強風によってGMOの自然水系への脱出が起こりえるような立地は避けるよう努力しなければならない。海洋および汽水域での立地は脆弱性がより高いかもしれないが、このような状況は特定の淡水立地でも起こりえる。例えば、野外研究用池が、河川、湖、あるいは自然の地表水へと続く排水溝に近接して位置している場合である。これらの条件を回避することが不可能な場合、飼育ユニットは、洪水、波、強風から保護されていなければならない。プロジェクト審査者および検査者は、洪水、ハリケーンや竜巻といった嵐の際の波しぶきや波、またその他の強風の事例を通じたGMOの事故による脱走に対する予防策の適切性を評価することが求められている。
淡水および海洋立地に対する異なる基準
ほとんどの淡水での研究プロジェクトは、100年に一度の洪水レベルよりも上の場所という基準を満たすことができるが(表2に指定)、多くの海洋および汽水域の研究所はこの同じ基準を満たすことができない。そのため、海洋および汽水域領域に立地する研究プロジェクトは、それ以外の管理オプションに一層大きな重きを置かなければならない。多くの海洋事例では、洪水、ハリケーン、その他の自然災害(例:激しい嵐の間の風および波による破損)に対する準備として最も実現性のあるアプローチは、研究プロジェクトの規模を十分に小さいまま保持し、すべての動物を安全に別の場所に移動することが可能か、あるいは特定の時間内にすべて殺処分することが可能とするものである。動物の移動あるいは殺処分は、災害警告を受け取ってから条件が危険になりすぎ行為を完遂できなくなるまでの時間に完遂されなければならない。ハリケーンは非常に破壊的ではあるが、気象サービスにより追跡されており、通常は動物を移動するか殺処分するための時間は十分にある。そのような緊急行動のプロトコルは、書面によるプロジェクトの運営プランの緊急対応部分に詳細に記されていなければならない(下記の運営プランに関する副題を参照)。
表2 水生GMOを取り扱う上での特定リスクが同定された場合の研究プロジェクトの立地に関する最低基準
事象 |
淡水 |
海洋 |
洪水 |
100年に一度の洪水レベルより上 100年に一度の大雨に対してデザインされた雨水管もしくは貯水の配置 表面流出はプロジェクトの敷地を迂回 |
洪水レベルおよび雨水管の基準は適用不可能、実験規模および他の因子に関する管理についてより大きな重点を置く 表面流出はプロジェクトの敷地を迂回 |
風荷重1 |
研究所施設に対する現行の要求事項 |
研究所施設に対する現行の要求事項 |
雪荷重1 |
研究所施設に対する現行の要求事項 |
研究所施設に対する現行の要求事項 |
地震荷重1 |
研究所施設に対する現行の要求事項 |
研究所施設に対する現行の要求事項 |
その他1 |
研究所施設に対する現行の要求事項 |
研究所施設に対する現行の要求事項 |
1 これらの基準は、室内あるいは屋外に位置する研究プロジェクトの飼育ユニットおよび機械的障壁に適用される。室内の場合、荷重基準は、一般的に飼育ユニットおよび機械的障壁を収めている建物に適用される。屋外の状況では、荷重基準は一般的に飼育ユニット(例:屋外にあるグラスファイバーのタンクおよびタンクカバー)および機械的障壁(例:地下排水溝の構造、屋外にある周囲のフェンス)に直接的に適用される。
特定のリスクを回避するためのプロジェクトの立地
フローチャートVI.Aで概略されたごとく、いくつかのプロジェクトでは特定のリスクは、準絶滅危惧種、絶滅危惧種、危惧種の保護個体群に対する有害な影響が関与している。これらのリスクを管理する手段を実行する代わりに、もうひとつのオプションとしては、利用可能な生態系にそのような保護個体群が含まれていない立地へと提案プロジェクトを移動させることがある。研究者がそのような転地を真剣に考えている場合、転地先の適性を評価するため、審査フローチャート(IからV)をまず利用するべきである。特に、転地先が管理を必要とする他の特定リスクをもたらすか否かを判断することが重要である。
淡水の状況では、陸地内排水があり恒久的な水系のない地域における研究プロジェクトの立地が、遺伝子改変動物を取り扱う経験がさらに増えるまでは賢明かもしれない。米国西部のより乾燥した地域では、すべての地表水が地面に吸い込まれるか蒸発してしまう場所が多くある。この区域での全ての地表水系は一時的なものである。事例によっては、プロジェクトの転地により、プロジェクト区画に必要とされる障壁の数およびタイプが低減する場合がある。転地のための最良の理由は、当該GMOの全生活史を通じて致死的であることが判明している環境に、流出水および排水を排出することができる場合である。例えば、全生活史を通じて海水が致死的であることが判明しているGMOに関する研究は、プロジェクトの流出水および排水を直接海洋(すなわち、完全な海水)へと排出することが実現可能な海洋立地で実行することができる。事例によっては、このような戦略により、プロジェクトの流出水および排水における障壁追加の必要性を排除することが可能である(下記の副題の関連記述を参照)。
障壁のデザイン
この副節では、GMOを研究プロジェクトの区画内に封じ込めるために使用される様々な障壁のデザインで考慮されなければならない因子について述べている。リスク管理を必要とする各プロジェクトにおいて、水系での起こりうる脱走の各経路に対して最低限望まれていることは、フローチャートVI.AあるいはVI.Bで特定されているように、プロジェクトの期間中に発生するGMOの全生活段階を通じて、「脱走無し/無視できるレベル」または「事故時の受容できる数の脱走個体」のいずれかを達成するため、十分な数の障壁を連続して有することである。起こりうる水系脱走経路については、下記の副節で述べられている。水系を越えた脱走経路に対する保護も必要である(この問題については下記の副節を参照)。
水系に対する障壁の全セットは、プロジェクトの過程で発生する保管がもっとも困難な生活段階での脱走を予防するものでなければならない。通常、これは生活段階の最小のものである。いずれの障壁タイプも常に100%効果的であるということはないため、全体としての封じ込め手段の信頼性は、連続して存在する個々の障壁の数に大きく依存している。研究者は、事故時の受容できる数の脱走個体を達成するうえで必要とされる障壁について、障壁タイプの適切な組み合わせおよび総数を決定することが求められている。独立障壁の数は立地およびプロジェクトに個別的であるが、一般的には3〜5である。周囲環境(利用可能な生態系)がGMOの全生活史を通じて致死的である場合(例:淡水プロジェクトから海水への排出あるいは海洋プロジェクトから過塩性環境への排出)、水産飼育ユニットの標準タイプならびに排水スクリーニングを超えた障壁は必要とされない可能性がある。プロジェクト審査者および検査者は、選択された障壁の組み合わせおよび総数の適格性を評価することが求められている。
水生脱走経路の考えられる障壁として、少なくとも4タイプを研究者は使用することができる。
物理的あるいは化学的障壁
これは、飼育水の物理的(例:水)あるいは化学的(例:pH)特性を操作し、GMOのひとつあるいはそれ以上の特定生活段階が利用可能な生態系に達する前に、これらの生活段階での100%致死性を誘発するものである。例えば、孵化器からの排水あるいは全ての飼育ユニットからの最終排水において、水温あるいはpHを致死レベルに保つことが可能である。もうひとつの例は、化学物質(例:塩素、臭素、オゾン)を致死濃度で添加し、その後、プロジェクト区画から排水を排出する前に致死化学物質を適切に除去することで、プロジェクトの排出水を化学的に滅菌することである。化学物質の正確な投与量および曝露時間は、生物種および生活段階に依存する。10〜15mg/Lの塩素による15〜30分の処理は、淡水の魚類を殺処分するのに効果的である。補遺Cでは、海水排出水の化学的滅菌に関し、海洋研究所で使用されてきているプロトコルについて記述している。軟体動物を取り扱うプロジェクトでは、隔離タンクに保持されている成体の自然産卵を慎重にモニターする必要がある。モニターをすることで、産卵が発生した場合には、化学処理あるいは温度処理の投与量および時間を適切に調節することができる。
機械的障壁
このカテゴリには、GMOの特定生活段階のひとつかそれ以上がプロジェクト区画から脱走することを物理的に抑止する機械的な構造(静止あるいは可動)が含まれている。機械的障壁は、プロジェクトの水系に沿って、一か所あるいはそれ以上の場所に連続して配置することができる。例えば、多数の飼育ユニットから排出水が集まる各ポイントおよび全飼育ユニットの排出水が最終的な排出河川を形成するポイントに障壁を配置することができる。考えられる機械的障壁の例には、静止型あるいは可動型スクリーン(例:床排水スクリーン、直立管スクリーン)、ひとつかそれ以上のタイプおよびサイズの素材で構成されるフィルター(例:砂利トラップ)、可動部のある粉砕機、タンクカバーなどがある。補遺Dは、機械的障壁のいくつかの例を詳細に記しており、これには室内魚類胚孵化器からの排出水に対するソックフィルター、室内魚類養殖施設からの最終排出水に対するステンレススチールロッドスクリーン、屋外魚類養殖池に対する地下排水溝などがある。
生物学的障壁
プロジェクトのGMOの全てあるいは特定部分における生物学的特徴あるいその変更が、次のいずれかの場合には、障壁として機能することができる。(1)プロジェクト区画での再生産の可能性をすべて阻止する。これにより微小な配偶子、胚、幼魚段階の脱走リスクを排除する。(2)プロジェクトのGMOが事故により利用可能な生態系に脱走した場合に、再生産あるいは生存の可能性を大幅に低下する。プロジェクトの連続した障壁の全セットを生物学的障壁のみで構成することはできない。その理由は、生物学的障壁の効率については、個体間でばらつきが予測されるからである。それゆえ、プロジェクトは、障壁の総数において少なくとも他のタイプの障壁を一つ有していなければならない。生物学的障壁の例には次のものがある。(1)GMOが再生産生活段階に達する前に、GMOの殺処分あるいは除去することが、プロジェクトのプロトコルに含まれている。(2)プロジェクト区画では、完全に雌雄異体GMOの単一の性のみが飼育される1。(3)全ての養殖GMOを、これらが捕獲下で再生産可能な成熟に達する前に恒久的不稔性とする。
障壁としての実験規模
これは、事故による全生物の脱走が、プロジェクトの特定リスク(フローチャートVI.AおよびVI.Bに掲載されたリスクを参照)に関連した有害な影響をもたらさないよう、実験生物の数を小さく抑えることを意味している。この基準を満たす数を同定し、正当化することは困難である。GMOが自家受精する雌雄同体あるいは真性の単為生殖である場合(補遺Bを参照)、実験の規模はプロジェクトの障壁のひとつとして見なすことはできない。なぜなら、たった一つの個体が事故により脱走した場合でも、利用可能な水系でGMOの完全な個体群を樹立することが可能だからである。そのような生物を扱う実験は可能な限り小規模に保たれるべきであるが、他タイプの複数の障壁が封じ込めを達成するために必要とされる。
水系の考えられる全ての脱走経路に対する障壁
GMOの事故による脱走は、次に述べる水系のいずれの構成部分を通じても起こりうる。流入水および補給水(水再利用系に適用)、排水および水抜き時の水、フィルターの洗浄やスクリーンの研磨および飼育ユニットをサイホンで洗浄する際に回収される廃棄スラリー、いくつかの貝類では幼貝孵化場からの飛沫。それゆえ、各水系構成部分は、脱走を予防するため、機械的あるいは物理的/化学的障壁の十分な組み合わせおよび数を有していなければならない。
流入水/補給水:地表水は障壁の適切なセットを必要とする。井戸水、他の完全に密閉された水源、水道水は障壁を必要としない。
排水および水抜き時の水:その他の全ての条件が同等である場合、事故による脱走のリスクは、水排出の頻度が増加するに伴って増大する。静止あるいは閉鎖水系は、一般的に水系の水抜きする時を除いて排出水がない。水再利用系および池は、運営法および天候条件に依存するが、微量の排出水を有する可能性がある。流入通過系では継続的な排出水がある。下水管はひとつの障壁として機能する可能性があるが、下水への排出だけでは、ほとんどの事例で事故による脱走に対する適切な障壁を提供しない。その理由は、(1)多くの下水では、雨水が高位の場合には水を雨水下水管あるいは地表水に迂回させる。(2)いくつかの水生動物は、下水管および下水処理場を通じた移動において生存可能である。下水への排出の前に、排水および水抜き時の水は、事故による脱走個体数が受容可能なものとなるよう、プロジェクト区画にある十分なセットの障壁を通過しなければならない。全タイプの水系に関し、排出水容量は、多数の飼育ユニットでの同時の水抜きに対処できるよう、通常の流入水容量の少なくとも2倍以上なければならない。研究者は、適切な排出水容量を同定することが求められており、審査者および検査者はその適切性を評価することが求められている。
継続的な流入通過のない水系では、排出水および水抜き時の水を通じた脱走に対するもうひとつの予防方法は、全プロジェクトを、床排水がなく、特定数の実験ユニットの水を保持する容量のある室内設備に設置することである。例えば、施設は、実験ユニットの5〜20%が破損した場合にその全ての水を保持するようデザインすることができる。研究者には、適切な水保持容量を選択するため、予定されている同領域専門家の審査者および検査者から情報を得ることが求められている。さらに、そのような室内設備からのすべての排出水は、廃棄スラリーとして処理されなければならない(下記を参照)。
廃棄スラリー:これらでは、餌の食べ残し、糞、おそらく孵化した卵の殻、その他の特定物質の混合物中に、微小あるいは休眠中の生活段階にある生存可能なGMOが隠れている場合がある。廃棄スラリーに存在している可能性のあるすべての生存可能なGMOを殺すため、GMOの微小生活段階に致死的であることが判明している化学的あるいは温度によるバッチ処理が推奨される。いくつかの生物種では、現場での廃棄スラリーの乾燥が適切な場合もある。処理された廃棄スラリーの最終廃棄は、適用されるすべての環境規制を遵守しなければならない。研究者は、所属する組織から、また該当する場合には適切な政府機関部門から、ガイドラインおよび規制を入手することが求められている。一般的にそのようなスラリーを水生生態系に排出することは違法である。処理した廃棄スラリーの適切な廃棄の例は、下水への排出、浄化槽への排出、機関の危険廃棄物施設への移送、承認された土地区画への堆積がある。
水経路以外を通じた脱走の予防
水生GMOの脱走は、プロジェクトの水系以外の経路を通じても起こりえる。研究者は、下記で述べられたひとつあるいはそれ以上の脱走経路をプロジェクトが有しているかを判断し、これらを予防するための手段を実行しなければならない。
実験動物の安全な廃棄:いくつかの生物種では特定の生活段階において、水の外でも長期にわたって生存が可能である。例えば、二枚貝の成体は、温度が比較的低く、周囲にわずかな湿り気がある限り、水の外でも3日間以上生存する場合がある(例:多数の成体が密閉されたコンテナに密に詰められている)。それゆえ、研究者は、動物が廃棄後も生存し、自然水系への導入が予防されなければならない必要性に気づいていない人の手に渡る恐れのある状況を想定し、これを回避しなければならない。このような問題を回避する最良の方法は、まず、廃棄される予定の動物を、現場に置かれた堅牢でラベル表示のある廃棄コンテナに入れ、その後に、コンテナを危険廃棄物施設や土地廃棄区画など、指定された安全な廃棄施設に移送することである。
飛沫:二枚貝およびいくつかの甲殻類の幼生は、魚類の幼生よりもはるかに小さい。そのため、これらの生物の孵化場は、幼生が飛沫を経由して近くの水生生態系に脱走することを予防するようデザインされていなければならない。孵化場の排気扇は、屋外へと搬送された飛沫が、いかなるものも水生生態系へと達しようないような場所に設置されなければならない。2
器具の洗浄および保管:特定水生GMOの特定生活段階は、湿ったネット、魚卵選別器の小さな水溜り、GMOを取り扱う作業員のバケツまたは手袋やブーツの残り水、その他の器具に偶発的に閉じ込められた場合、しばらくの間、生存することが可能である。そのため、生きているGMOと接触するすべての器具は、使用毎に適切に洗浄され、水抜きされなければならない。生きているGMOを他のセキュリティ保護されていない区画に偶発的に搬送することが確実に起きないようにするため、このような器具では、次のいずれかを行わなければならない。プロジェクト区画のみで使用および保管するか、区画から持ち出す前にはGMOの全生活段階に対して致死的な処理を用いて殺菌し、完全に水抜きをする。プロジェクトの器具に対する備品目録が推奨される。
セキュリティ
セキュリティ手段は、次のために必要とされる。(a)認可を受けた人員の通常の動きをコントロールする、(b)区画への認可を受けていない立ち入りを防止する、(c)屋外のプロジェクトでは、動物を区画外へと持ち出す可能性のある捕食者の立ち入りを排除する。周囲区域に存在する捕食生物種の数度および行動にもよるが、セキュリティ手段は電気フェンス、鳥網、その他の排除手段が含まれることが必要となる場合がある。研究者は、セキュリティ手段の適切なセットをデザインすることが求められており、同領域専門家の審査者/検査者はこれらの適切性を評価することが求められている。表3は、必須手段およびオプション手段の一組を提示している。
表3 特定リスクの管理が必要な研究プロジェクトのセキュリティに対する必須手段およびオプション手段。オプション手段の実行は、プロジェクトおよびプロジェクトの立地の性質に依存する。
手段 |
必須 |
オプション |
作業員 |
||
背景検査1 |
必要 |
‐ |
立ち入りの管理 |
鍵 |
カード |
出入り時の署名 |
‐ |
推奨 |
写真つきIDバッジ |
‐ |
推奨 |
セキュリティ訓練 |
必要 |
‐ |
訪問者 |
‐ |
‐ |
出入り時の署名 |
‐ |
推奨 |
付き添いの必要性 |
必要 |
‐ |
動物(屋外施設) |
||
電気フェンス |
‐ |
推奨 |
鳥網 |
‐ |
推奨 |
穴を掘る動物に対する埋設ライナーあるいは適切な障壁 |
屋外池では必要 |
‐ |
施設 |
||
完全周囲の管理 |
必要 |
‐ |
セキュリティアラーム |
‐ |
推奨 |
セキュリティアラームに対する 契約応答者あるいは警察の応答 |
‐ |
推奨 |
看板/警告 |
必要 |
‐ |
書面によるセキュリティ計画 |
必要 |
‐ |
同領域専門家および現場での検討 |
必要 |
‐ |
1 背景検査は、雇用の可能性がある者、また雇用された被雇用者の権利を守るため、該当する法律および組織の方針を遵守しなければならない。
アラーム
プロジェクトの計画段階では、水位、洪水、周囲のアラームを設置する価値について、慎重に考慮する必要がある(表4)。しかし、いずれのプロジェクトも、電池あるいは緊急時の電源バックアップのある水位アラームが適切に配置されていなければならない。水位が通常以上あるいは以下になった場合、水がプロジェクトのすべての障壁を迂回するはるか前に、指定の人員に警告が発せられなければならない。アラームシステムの適切性は、ワークシートで正当化され、同領域専門家の審査者および検査者に提示されなければならない。設置されたすべてのアラームは、現場の視覚的あるいは聴覚的な信号および電話発信機に接続されていなければならない。発信機は、指定された順序で人員に連絡を取らなければならない。また、すべての設置されたアラームは、電池あるいは緊急時の電源バックアップがなければならない。自動アラームシステムは、唯一のモニタリングの形式であってはならず、人間によるモニタリングへのバックアップを提供するべきものである。
表4 特定リスクの管理が必要とされるプロジェクトに対する必須および推奨アラームのタイプ
アラームのタイプ |
必須またはオプション |
コメント |
水位アラーム |
必須 |
電話発信機、現場の信号、電源バックアップが必須 |
洪水アラーム |
プロジェクトが100年に一度の洪水レベルよりも下にある場合は必須。 |
効率は、電話発信機、現場の信号、電源バックアップに依存 |
周囲アラーム |
飼育ユニットが屋外の場合は必須。 |
効率は、電話発信機、現場の信号、電源バックアップに依存 |
侵入アラーム |
オプション |
効率は、電話発信機、現場の信号、電源バックアップに依存 |
予備電源
予備電源は、研究実験に対する損害を予防するためばかりでなく、プロジェクトのひとつあるいはそれ以上の障壁が機能停止する可能性を回避し、アラームの機能を保証するために必要である。
運営計画
リスク管理を必要とするすべての研究プロジェクトは、承認を受けた書面による運営計画を有していなければならない。計画は、次のものを記していなければならない。(a)通常の条件においてはプロジェクトがどのように運営されるか、(b)発生するかもしれない予想される問題およびそれに対する対応方法、(c)災害状況に対する緊急対応計画。計画は、下記に提示された通常および緊急時の運営の主要構成部分に対応していなければならない。書面による計画全体は、その実施に先立って同領域専門家による審査を受けなければならない(下記の同領域専門家による審査および現場審査の節を参照)。
訓練
プロジェクトに立ち入りするすべての人員に対し、適切な訓練が提供されなければならない。そのような人員は運営計画を読まなければならない。これらの人員は、計画を読み、どのように実施するのか理解したことを示す簡単な同意書に署名することが推奨される。必須および推奨される訓練のタイプを下記の表5で提示した。研究者は、適切な訓練プログラムをデザインすることが求められており、また同領域専門家の審査者/検査者は、特定の研究プロジェクトに対するその適切性を評価することが求められている。
表5 特定リスクの管理が必要とされる研究プロジェクトに対する必須および推奨の人員訓練
タイプ |
必須 |
オプション |
定期 |
主要研究者およびその他のプロジェクト職員 |
‐ |
緊急時 |
緊急時の対応者として指定されている全ての人員 |
緊急時の対応者として指定されている全ての人員に対する再教育および訓練 |
一般 |
‐ |
機関の責任として推奨される |
交通管理
封じ込め施設を出入りする交通の管理には、人員、機器、廃棄物、水、組織サンプルなどが対象とされる。運営計画の交通管理部分の原案を作る場合、関連する推奨については、次に述べる上記の節を参照のこと。「水系の考えられる全ての脱走経路に対する障壁」(廃棄スラリーの管理)、「水経路以外を通じた脱走の予防」(機器および動物の最終的廃棄の管理)、「セキュリティ」(人員の管理)。
記録の管理
運営計画への遵守を審査するためには、適切な記録が管理されていなければならない(表6)。これには、人員および機器の記録とともに毎日の実験日誌が含まれる。遺伝子改変個体をすべて数えることは、損失を発見し、盗難を妨げる手段として効果的である。小生物の群に対しては、個体数は頻度を基準に追跡されるべきである。ひとつのオプションは、観測された死亡の毎日の計測数に基づいて生存動物を推定するものである。生物が大型に達したならば、個体数の正確な計測が維持されなければならない。実現可能である場合には、十分に大きな個体に対する個別の標識付けが強く勧められており、その理由は、これにより改変個体の全てを個々に追跡することが可能になるからである。
緊急時の対応計画
緊急時の対応計画は、運営計画の必須構成部分である。この計画の目的は、プロジェクトが直面する可能性のある最も一般的なタイプの緊急時を定義し、水生GMOの損失を防ぐために何がなされなければならないかを概略することにある。プロジェクトの立地に関する節で最初に述べられたように、緊急時の対応計画の適切性は、100年に一度の洪水レベルより下に位置する海洋プロジェクト、また波による損害やハリケーンおよびその他の自然災害の通り道となる可能性のある場所に位置する全てのプロジェクトにとって特に重要である。そのようなプロジェクトでは、実験の規模は、動物の安全な場所への移動あるいは殺処分を、災害条件が危険になりすぎてこの行為を完遂できなくなる前に行えるように、十分小規模でなければならない。
表6 特定リスクの管理が必要とされるプロジェクトの必須および推奨される記録
記録のタイプ |
必須あるいはオプション |
人員記録(施設への出入り) |
推奨 |
機器の移動記録 |
推奨 |
個々の動物の標識 |
可能な場合は推奨 |
実験日誌 |
必須 |
動物目録記録 |
大型動物−必須 |
責任者:プロジェクトの主要研究者あるいは指定された代理人が、緊急の問題に対処するよう、本人直接、あるいは電話を通じて常に求めに応じられるようになっていなければならない。
封じ込めが損なわれた場合の告知:封じ込めが損なわれた場合、責任者は担当の地元官庁および存在する場合は組織のバイオセーフティ委員会に告知しなければならない。ほとんどの事例では、最初に連絡を取るべき地元の官庁は、州の水産管理官庁の地元事務所である。
緩和あるいは回収計画:緊急時の対応計画は、プロジェクト区画およびGMOの生物学的特性が回収あるいは緩和を許すような場合には、脱走GMOの緩和あるいは回収計画を含んでいなければならない。そのような計画を作成する場合には、州の水産管理官庁が関与していなければならないが、これは自然水系で発生するすべての回収および緩和行為に対し、この官庁が監督責任をおそらく持っているからである。
動物の安全な場所への移動あるいは殺処分:責任者は、地元の担当官庁(おそらく州の水産管理官庁)および存在する場合には組織のバイオセーフティ委員会に対し、そのような行為が行われることを告知しなければならない。組織のバイオセーフティ委員会のメンバーあるいは地元官庁の職員による行為の監督が強く推奨される。緊急時の対応計画は、動物の移動あるいは殺処分を始動させる事例を明確に定義していなければならない。
同領域専門家による審査および現場の審査
本節は、研究プロジェクト開始前の研究プロジェクト審査と開始後の定期的な現場の審査を区別している。いくつかの事例では、この区別での柔軟性が認可されている。例えば、水生GMOが関与し、同領域専門家による審査および現場審査を既にパスした過去の他のプロジェクトが使用した区画において、新タイプのGMOを取り扱う新規プロジェクトの実行を研究者が計画している場合が挙げられる。新しいプロジェクトが古いプロジェクトと同じ特定リスクを有していることが明確であれば、同領域専門家による審査はそれほど徹底したものではなくとも適切とされる場合があるが、現場の審査は継続されなければならない。新しいプロジェクトが異なるセットの特定リスクをもたらす場合には、開始に先立つ同僚域専門家による審査が正当化づけられる。審査は、プロジェクト区画および障壁の既存の形状および構成が、新しいプロジェクトに適切であるか否かを取り扱わなければならない。
プロジェクト開始に先立つ同僚域専門家による審査
プロジェクトの立地、障壁のデザイン、セキュリティ、運営計画に対する同僚域専門家による審査が必須とされる。審査者には、プロジェクトの水生GMOの生物体生物学および個体群生物学の分野を専門とする科学者、および利用可能な水生生態系の生態学の分野を専門とする科学者が含まれていることは絶対必要である。州の水産管理官庁の代表を含めておくことは有用であるかもしれない。研究者の組織が組織のバイオセーフティ委員会(IBC)を有している場合、同領域専門家による審査はIBCが実行しなければならず、その際には確実にそのメンバーが適切な水生専門家を含んでいるか、あるいはそのような専門知識を持つ外部の顧問が相談されるようにしなければならない。当該組織にバイオセーフティ係官のみがいる場合には、バイオセーフティ係官を含んだ学際的な審査チームが召集されなければならない。ひとつのオプションは、主要研究者の学部の部長あるいは監督官に、同領域専門家による審査チームを参集させることである。研究者は、物理的な施設のデザインおよび運営計画の原案における早期の段階で、州の水産管理官庁および研究者のIBC、あるいはその他の形式の審査チームの双方から助言を求めることが役に立つと思うかもしれない。
いくつかの州および多くの機関では、組み換えDNA分子を保有する生物が関与する実験に対し、国立衛生研究所(NIH)の「組み換えDNA分子が関与する研究のガイドライン」(NIH 1994)およびその最新の訂正(例:NIH 1995)を遵守し、またIBCもしくはその他の団体の承認を得ることを要求している。全ての連邦基金による研究は、これらのNIHガイドラインを遵守しなければならない。本実施基準の意図は、魚類および貝類を取り扱う全ての研究者がNIHガイドラインおよび適正安全実施基準に遵守する上で、これをさらに補助することである。その他の担当の地方、州、連邦官庁にも連絡を取らなければならない。これらの官庁から取得することが必要な許可/承認は、プロジェクトの開始前に取得されていなければならない。
プロジェクト開始後の現場審査
現場審査は強く推奨されており、そのスケジュールは研究者の組織が責任を持たなければならない。現場審査の回数は、次のことに基づかなければならない。(a)研究プロジェクトの特定の性質。例えば必要とされるリスク管理手段の複雑性など。(b)それ以前の現場審査中に得られた所見。現場審査の目的は、プロジェクトが脱走個体を事故による受容可能な脱走個体数以下に保っているか否かを決定することにある。現場審査は、次のことを判断しなければならない。(1)適切な養殖実践が実際に実行されているか否か、(2)物理的施設が機能しており、所定の通りに維持されているか否か、(3)運営計画に従っているか否か。さらに、記録を調べ、例えば、プロジェクト職員による定期的障壁検査およびメインテナンスの頻度が適切であるか否かを確認する場合がある。運営計画への遵守で問題が同定された場合には、追加の現場視察を予告なしに行うことが適切となることもある。
申請審査者および現場審査者に提出すべき書類
研究者は、プロジェクト申請およびプロジェクト現場のいずれの審査者にも次の書類を提出することが求められている。実施基準フローチャート、実施基準補助文書、全て記入したワークシートと付随文書、書面による運営計画。フローチャート、補助文書、ワークシートを統合したコンピュータ化された対話型のエキスパートシステムが作成されることが望まれている。そのようなツールが作成された場合には、研究者はハードコピー形式ではなく、ソフトウェアによる書面提出を選択することが可能である。
プロジェクトの承認
申請されたプロジェクトについて同定されたリスクに対し、リスク管理手段がそれへの対処として適切であるとIBCあるいは他の指定された審査チームが決定した場合には、この承認を文書による書類で取得することが薦められる。この承認の形式は関係する組織の自由裁量に一任される。オプションのひとつは、IBCあるいは審査チームの議長が、全て記入されたワークシートの最終版に承認の簡単な文書を付けることである。
1 このタイプの生物学的障壁は、真性の単為生殖あるいは自家受精する雌雄同体のように、脱走した1個体が完全な個体群を樹立することが可能な非雌雄異体での再生産様式を有する魚類および貝類の生物種に対しては効果的ではなく、そのため容認されない(補遺Bの記述を参照)。
2 このことは、水生生物バイオテクノロジー作業部会のメンバーであるSusan Ford博士(ラトガーズ大学、ハスキン貝類研究所)、およびJohn Kraeuter博士(ニュージャージー水産養殖技術普及センター、副所長)、Walter Canzonier氏(モーリス川カキ養殖基金およびニュージャージー水産養殖連盟会長)、Gregory Debrosse氏(ハスキン貝類研究所、孵化部長)によって推奨された。