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III. 自然の再生産との干渉の可能性

 本フローチャートでは、脱走GMOによる再生産への干渉が自然の個体群の再生産成功率を低下させるリスクについて審査する。質問は、再生産への干渉が発生する可能性のある少なくとも2種類の方法をカバーするようデザインされている。(1)脱走GMOは機能的には不稔性であるが、自然の個体群の稔性個体と交尾行動をとることで、一腹の仔が不妊となる。および(2)脱走GMOが自然二倍体と交配する稔性四倍体で、不稔性三倍体の後代が産生される。第一の問題の例としては、不稔性であるとされているサクラマスおよびアユの三倍体オスが同種の成熟メスに対し通常の求愛行動を示す証拠がある(InadaおよびTaniguchi 1991、Kitamura他 1991)。

ステロイド産生および再生産行動

 いくつかの魚類生物種の三倍体オスは、同種の二倍体オスに匹敵するテストステロン濃度を示す。三倍体ニジマスは、生殖腺の発生が異常であるにもかかわらず、正常な性分化を示し、少なくともいくつかの三倍体オスは精子を産生する。三倍体オスの求愛および産卵行動が二倍体オスのものと十分に類似している場合、三倍体オスは二倍体メスと交尾することが可能である。胚は異数体となるために生存可能な後代はもたらされない。しかし、多くの三倍体が交尾を獲得した場合、一腹の仔全体が損失することで自然に存在する個体群の再生産成功率が低下し、個体群内での遺伝子多様性の損失もしくは個体群統計学的カタストロフィーによる個体群絶滅のリスクが増大する。第I章の「適用生物種および非適用生物種の根拠」にある文書が、副題「意図的な染色体操作」のもと、これらのリスクに関するさらなる根拠を提示している。
 フローチャートIIIは、再生産可能年齢の個体におけるステロイド産生の証拠を検査することに焦点を当てている。その理由は、適切に管理された検査の結果が陰性であれば、脱走GMOが再生産行動に入る可能性を明確に否定できるからである。これに対し、実験室での行動的実験から、自然生態系での再生産行動について推測することは困難である。実験室環境下で特定の行動が存在しないということは、野外におけるその行動に関する予測因子としては不確定的である。

保護個体群への影響

 再生産に対する干渉が起こりうる場合、フローチャートは使用者に対し、3つある決定のうちのひとつへと進むよう指示する。準絶滅危惧種、絶滅危惧種、危惧種の個体群が問題となっている場合、使用者をリスク管理へと進むよう指示することでこのリスクへの曝露は最小化される(第II.A.1章の「準絶滅危惧種、絶滅危惧種、危惧種の個体群への影響」の根拠を参照のこと)。保護個体群が問題となっていない場合には、最終質問への回答により、使用者が本基準の適用終了をできるか、あるいは再生産への干渉による生態系への影響に関する審査に進まなければならないかが決定される。

干渉の可能性がある個体群に対するGMOの数

 この最終質問は、利用可能な生態系における干渉の可能性がある個体群のサイズに対して、GMOの数が十分に小さく、たとえ事故によりプロジェクトから全てのGMOが脱走した場合でも再生産への干渉が起きないか否かを審査するよう研究者に指示する。この質問への回答では、事例ごとのアプローチが強く勧められる。しかし、利用できる開始地点としては、GMOの数が、干渉の可能性がある各個体群の再生産可能な年齢の成体数に対し、少なくとも2桁の単位で小さい場合にのみ肯定的な回答をすることだろう。この質問に「はい」と答え、本基準の適用終了をするためには、研究者はプロジェクトに関与するGMOの数の正確な計測値および干渉の可能性がある個体群の非常に重要な個体群統計学的な変数に関する弁護可能な推定値をもとに回答しなければならない。後者に関して、必要とされる個体群統計学的な変数の推定値には次のものが含まれる。再生産可能な成熟年齢の個体数の予想値、再生産に成功するこれらの個体の予想割合(生存可能な子孫を少なくとも1つ生産する)、再生産を行う成体ごとの再生産成功(生存可能な子孫数)の予想値。予想値には、変数の平均および分散の推定が関与する。自然個体群はこれらの個体群統計学的変数において一時的な変動を示すが、自然個体群が再生産への干渉に対して最も脆弱性を示すのは、これらが範囲の下限にあった場合である。そのため、この質問に対し「はい」と回答するためには、これらの変数の自然状態での範囲において、低い数値を根拠にしなければならない。
 自然個体群の個体群統計学的変数の推定方法に関して役に立つ背景知識は、水産個体群力学の論文(例:Rothschild 1986)および同領域専門家が査読する学会誌の広範な論文に記されている。地域の魚類および貝類個体群の個体群動態に関する専門家との相談は、研究者にとって非常に役に立つかもしれない。これらの専門家は、水産あるいは水生生物学の分野をカバーしている大学の学部、海洋助成金大学プログラムのある州の海洋助成金普及員、地域の魚類および貝類資源に関与している政府職員(例:州の天然資源あるいは水産および野生生物局、米国国立生物学庁、米国魚類野生動物庁、米国海洋水産庁)に連絡を取ることで見つけることができる。

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