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II.A、II.B、II.C、生存および再生産の審査

 フローチャートII.A、II.B、II.Cおよびそれに従属するフローチャートは、本基準が対象とする遺伝子改変をひとつかそれ以上保有する生物の審査が行えるようデザインされている。例えば、三倍体を誘発した遺伝子導入魚は、フローチャートII.A、II.A.1およびそれに続く過程へと手順を踏むことによって審査することができる。三倍体を誘発した種間雑種では、フローチャートII.B、II.B.1およびそれに続く過程へと手順を踏むことによって審査ができる。種間交雑によってのみ改変された魚については、フローチャートII.C、II.C.1およびそれに続く過程へと手順を踏むことで審査ができる。

用語の定義

 これらのフローチャートおよびそれに続くものを使用する上で、研究者は次の用語の包括的な定義についてフローチャートIの補助文書を参照しなければならない。(1)遺伝子の意図的変更、(2)意図的な染色体操作、(3)種間交雑/雑種。利用可能な生態系という用語の定義については用語説明を参照のこと。

早期の適用終了ポイント

 これらの3フローチャートは、GMOの生物学および生態学に関するより高度な質問へと進む前に、この時点で本基準を適用終了することができるプロジェクトを同定するようにデザインされている。最も一般的に利用される適用終了は、利用可能な生態系がGMOの事故による全ての脱走個体の生存を排除するという知識によるものであろう。研究プロジェクトの立地に関する長期プランを練る場合には、本基準からのこの早期の適用終了を考慮することが望ましいだろう(第VI章「特定のリスクを排除するためのプロジェクトの立地」での説明を参照)。

利用可能な生態系でのGMOの生存可能性の審査

 親生物に対する精通、特に過去における親生物の増殖経験の結果は、この質問に答えるのに部分的なガイダンスを提供してくれるだろう。そのような結果は、親生物が生存した環境条件の範囲(広範あるいは狭小)を示唆する場合があり、それにより改変生物の生存範囲の可能性について感覚的に提示してくれる。
 生存および存続が予想に反して発生した事例について特に注意が払われなければならない。なぜならこのことは改変生物における予想外の結果の可能性を示唆しているからである。例えば、カラフトマスの放流では、遺伝子改変カラフトマスが、天然の範囲におけるカラフトマスの生物学的研究で予想されたよりも広範囲の利用可能な生態系において、生存、再生産、存続可能であることを示した。銀化および未成熟魚は淡水中では生存できないという仮定にもかかわらず、ローレンシアン・グレートレイクスでは、スペリオル湖の孵化場の排水溝から21,000尾の幼魚が流出してから20年後に、カラフトマスの爆発的な増加を経験している(KwainおよびLawrie 1981、Emery 1981−KapuscinskiおよびHallermanが検討 1981)。
 改変生物の物理的/化学的パラメータ(温度、塩分、pH、溶存酸素量など)の耐性に対して、遺伝子改変がもたらす恐れのある影響を判断するためには、親生物の生活史および環境的必要事項に関する徹底的な調査が必要とされる。複合的な物理的因子に対するある生物種の耐性を審査することは、個々のパラメータに対する耐性を審査することよりも難しいが、そのような情報が利用可能であるなら、これは評価しなければならない。親生物種の分布も自然状況では生物学的因子(例:生息場所、捕食者、病原体、栄養の必要事項など)によってコントロールされていることがあるが、特に生物を受け取る生態系が人間の活動によって大幅に改変されている場合には、これらが改変生物の数度を調節できるかどうかは不明である。それゆえ、利用可能な生態系において改変生物が定着する可能性を評価する際には、改変生物の物理的および化学的因子に対する「許容範囲」が、第一の考慮事項でなければならない。改変生物の許容範囲を決定するための重要な情報源は、環境因子(例:水温、pH、溶存酸素量、その他の無機および有機物濃度)の上限および下限致死限界に関する生理学的データである。これらの致死限界は、当該生物が生存できる環境条件の下限および上限域を設定する。すなわち、これらが当該生物の許容範囲を決定する。それゆえ、次のことを審査することが絶対必要となる。(a)改変生物の許容範囲が、親生物種の致死限界の片側あるいは両側を越えて拡張したか否か、(b)範囲が拡張した場合には、改変生物が親生物には致死的である利用可能な環境において生存するか否か。例えば、遺伝子導入魚が親魚よりも低い致死温度限界を示した場合、利用可能な生態系の最低水温が遺伝子導入生物の許容範囲内にあるか否かを知ることは重要である。

分散能力のあるGMO

 適合環境への直接的および間接的なアクセスに関する質問に答えるためには、改変生物の死亡遅延およびより適合した生態系への分散の可能性も審査されなければならない。特定の状況では、改変生物は利用可能な生態系に侵入した後に死亡せず、致死的な条件となるまで存続する可能性がある。例えば、ティラピアは温帯の生態系では冬の始まりとともに水温が落ちるまでの数か月間にわたって存続することがある。この死亡遅延により、生存可能で再生産できるさらに遠隔地にある生態系へと分散する時間が当該生物に与えられる可能性がある。そのような事例では、GMOが直接的に利用可能な生態系に存続している期間にGMOが環境に及ぼす影響を審査することも重要になる。それゆえ、そのような可能性をもたらすプロジェクトを考えている研究者は、適合する生態系が間接的に利用可能であるかという質問に対し、「はい、あるいは分かりません」と答えなければならない。この時点で本基準を適用終了してはならない

隔離された利用可能な生態系

 隔離された生態系に関する質問は、隔離された自然のシステムで直接的に研究が実行されるのではなく、封じ込められたシステム(室内また屋外)で実行される状況に適合するよう用語選びをされている。しかし、本実施基準を使用している研究者の中には、特定のGMOが環境に及ぼす影響についてより困難な質問を審査するために、必要な情報を集めることを目的として、隔離された人工的な水系で実験を直接実行したいと望む者もいるかもしれない(例:フローチャートIVからVにおけるいくつかの質問に答えるため)。
 この重要な情報のいくつかを得るためには、起こりうる生態学的な影響について、かなり大規模な屋外の人工的な水系において実験を実行する必要性があるだろう。これらの水系は、自然あるいは半自然のシステムからは隔離されており、実験が終了次第、実験生物を除去することができるものである。そのような例としては、隔離された貯水池や池、あるいは流出口のない放棄された採石場などがあるだろう。そのような隔離された場所に位置する研究プロジェクトは、フローチャートを進む上でリスク管理推奨事項へと進むよう指示された場合、隔離された人工水系を自分たちのプロジェクトの場所および孵化地として取り扱って、フローチャートを進まなければならない。そのような場所における研究は次の場合にのみ進むことができる。実験の終了とともに、全てのGMO(およびおそらく当該システム中の全水生生物)を殺処分することが実現可能であり、適切な水産資源管理当局によって許可されている。(2)使用した隔離された水系が、いかなる希少種、準絶滅危惧種、絶滅危惧種の生きている遺伝子バンクではない。(3)例年の洪水のようにかなり予想のできる事例ばかりではなく、1993年のミシシッピ川の氾濫やフロリダおよびハワイでの最近のハリケーンのように頻繁には起こらない大災害に対しても適切なリスク管理手段の遂行が実現可能である(第VI章「リスク管理推奨事項」のいくつかの副題にある災害準備に関する記述を参照)。


II.A.1 意図的な遺伝子改変の影響

 このフローチャートは、意図的な遺伝子改変を保有し、ひとつあるいはそれ以上の付加的な遺伝子改変を保有している可能性がある生物を審査するようデザインされている(上記の「フローチャートの概略」の補足説明を参照)。

問題を提起しない意図的な遺伝子改変

 フローチャートの最初の質問に「はい」と答えるためにはGMOに関する次の情報が必要である。意図的な遺伝子改変の分子的特徴および安定性、およびすべての意図的に誘発された遺伝子改変の発現、機能、作用。これらの情報があり、唯一の変化が表1(下記)で同定された形質には影響を及ぼさないマーカー遺伝子の発現である場合、この審査手順は省略することができる。この審査手順を省略するためには、研究者は、ただ単にマーカー遺伝子がGMOの生理学および適応性に影響を及ぼさないと仮定するだけでなく、当該マーカー遺伝子の発現の影響を直接的に検討する必要がある。例えば、キャベツシャクトリムシTrichoplusia niに対するバキュロウイルスの殺虫性作用は、バクテリアlac Z遺伝子を保有しマーカーのβガラクトシダーゼを発現している組み換え型のウイルスを検査した場合には、低下していた(Wood他 1993)。

さらなる審査が必要な意図的な遺伝子改変

 表1に掲載されているいずれかの形質変化の発現について、その可能性を研究者が否定できないGMOが関与するプロジェクトの場合、安全性およびリスクに関する弁護可能な決定に達するためにはさらなる審査が必要とされる。フローチャートのその後の質問で対応されているように、GMOおよび利用可能な生態系のその他の因子にもよるが、これらの表現型での変化は環境に対してリスクをもたらす可能性がある。環境に有害作用をもたらすうえでこれらの形質変化が果たす役割については、KapuscinskiおよびHallerman(1991、p.101〜103)ならびにKapuscinskiおよびHallerman(1990、p.6〜7)で詳細に述べられている。改変生物の導入の規模が問題を提起するほどに大規模である場合には、形質変化のより詳細な例およびそのような改変生物の導入による起こりうる有害作用について、これらの文献を参照されたい。


表1
 遺伝子を改変された魚類、甲殻類、軟体動物における表現型変化のクラス、例、およびこれが及ぼす可能性のある生態学的影響。これらの表現型変化のひとつあるいはそれ以上を発現しているGMOが関与するプロジェクトは、安全性およびリスクに関する弁護可能な決定に達するため、審査を続行する(フローチャートの適切な段階へと進む)。

クラス

表現型変化の例

生態系への影響

代謝

‐成長率
‐エネルギー代謝
‐食物利用

‐被捕食者サイズの移行
‐栄養およびエネルギーの流れの変化

物理的因子への耐性

‐温度
‐塩分
‐pH
‐水圧

‐好む居住場所の移行
‐地理的範囲の変化

行動

‐再生産
‐なわばり
‐回遊
‐化学的感覚(フェロモン、
 アレロケミカルなど)
‐泳力/ナビゲーション

‐生活史パターンの変化
‐個体群動態の変化
‐種間相互作用の変化

資源あるいは物質の利用

‐食物利用

‐生態系的限界からの開放
‐食物連鎖の変化

個体群調節因子

‐新規の疾患耐性
‐捕食/寄生の低下
‐居住場所の好み

‐個体群および群落の動態の変化
‐生態系的限界からの開放

再生産

‐様式
‐成熟年齢および期間
‐産卵数
‐不稔性

‐個体群および群落の動態の変化
‐関連生物の再生産への干渉

形態学

‐形および大きさ
‐色
‐ヒレ/付属器の形態

‐種間相互作用の変化

生活史

‐胚および仔魚の成育
‐変態
‐寿命

‐生活史パターンの変化
‐個体群および群落の動態の変化

同種あるいは近親種との交配

 利用可能な生態系における同種の存在は、GMOがそれまで恒久的に不稔性であったのでない限り、いずれの脱走GMOもこれらの生態系で再生産ができ、自然の個体群との交配が可能であることを確定する。水生生物種のいくつかは、同じ環境に存在している近親種とも交雑可能である。いずれの状況も、新規遺伝子の自然個体群への浸透性交雑(遺伝子移入)の可能性について審査する必要性を提示している。
 遺伝子移入が準絶滅危惧種、絶滅危惧種、危惧種の個体群に対して影響を及ぼす場合を除いて、本フローチャートの質問が、遺伝子移入の環境安全性あるいはリスクに関する結論へと導くことはない。そのような結論に達するためには、研究者は審査の手順にそって進めていく必要がある(このデザインの特性は、フローチャートII.C.1にも適用され、そこでは移入交雑の可能性について審査している)。
 本フローチャートのこの時点で、遺伝子流動の予測についてさらに知りたいと思う研究者は、「フローチャートIV.A.1 生態系への影響−改変遺伝子の遺伝子移入による影響」にある記述を読まなければならない。

近親種との交配の可能性

 脱走GMOからの新規遺伝子が利用可能な生態系の近新種の個体群に遺伝子移入可能か否かを審査することは必須である。その理由は水生生物種間での種間交雑は、特に北米淡水魚類では、自然状態で低い頻度で発生しているためである(Hubbs 1955)。これらの種間における交雑は、体外受精、行動による再生産隔離のメカニズムの弱さ、最近分化した種の二次的接触を理由として、比較的一般的である(Campton 1987)。またさらに、多くの水生生物種の種間雑種は稔性である。

恒久的不稔性

 フローチャートII.A.1、II.B.1、II.C.1は、GMOが恒久的に不稔性であるか否かによって異なる審査手順を提示している。いくつかの事例では、恒久的不稔性により本基準を早期に適用終了することが可能となっている。当該GMOの適切な生活史段階で適切な評価を実行することなく不稔性を仮定してしまうことを防止するため、「はい」と答えるための基準は、GMOが恒久的に不稔性でなければならないということである。この質問に「はい」と答える前に、研究者は統計的に有効数の個体サンプルの生活史を通じて、特に性的成熟と関連する年齢に焦点を当て、不稔性を評価していなければならない。不稔性にするために三倍体を誘発されたカキに関する最近の研究では、チェサピーク湾ヨーク川に設置されたトレイに入れられていたカキの20%で、いくつかの細胞が二倍体の状態に復元していた(Blankenship 1994)。このことはこれらの個体においては時間とともに稔性が回復する可能性を示唆していた。
 魚類および貝類で誘発された不稔性の効果は、生物種、方法(例:三倍体の誘発、眼柄除去、生殖腺組織の切除)、実行した方法の特定のプロトコル(例:三倍体誘発での温度あるいは圧力ショックの特定のレベル、タイミング、期間)、さらには方法を施行した者の技術能力によって、大きく異なる。二倍体水生生物に三倍体を誘発することによって不稔性とする作業に関する文献が、この多様性を物語っている。処理した群での三倍体の頻度に関する報告は3〜100%にわたっており、多くの報告は40〜60%であるが、生存頻度は新規三倍体の誘発により低下する(Ihssen他 1990)。通常、三倍体生物の卵子あるいは精子は、受精時にペアとならないままの染色体を含んでおり、そのため生存不可能な胚がもたらされるため、不稔性となっている。しかし三倍体の再生産構造の発生、再生産行動、配偶子産生の有無に関しては、種間で異なっている(HallermanおよびKapuscinski 1993)。不稔性の度合いは、オス三倍体魚類および貝類に比べ、メス三倍体の方がより完全であると思われる(ThorgaardおよびAllen 1992)。三倍体が完全稔性と関連している可能性がある事例についての記述は、補遺Bを参照されたい。このことは非雌雄異体様式(例:雌雄同体、単為生殖)での再生産を行うことができる水生生物のいくつかで発生する。

準絶滅危惧種、絶滅危惧種、危惧種の個体群への影響

 魚類および貝類において人間が誘発した生物種の絶滅および個体群の減少は、今世紀に入ってから劇的に増えており、収まりつつあるとは思えない。北米では、多くの淡水魚類が絶滅の危惧があるか、既に絶滅した(Miller他 1989、Williams他 1989、MinckleyおよびDeacon 1991)。貝類生物種も急激に減少しつつある。世界でも最も多岐に渡る淡水ムール貝の動物相は北米で発生しているが(WilliamsおよびMulvey 1994)、世界的にも重要なこの生物多様性の構成部分は、人間の影響が引き金となって劇的に消失しており、北米動物相の42%にあたる141種が、絶滅危惧種、準絶滅危惧種、あるいはすでに絶滅した恐れのある種である(Williams他 1993)。海洋生物種も減少と絶滅の危機にさらされている。適切なモニタリングがないため、最近の絶滅に関する記録は少ないが(例:海洋無脊椎動物での最初の絶滅は、Carlton他によって1991年に報告された)、実際の消失ははるかに大規模であり、増大していると信じられている(Norse 1994)。遡河性サケのように、生活史の異なる段階で淡水と海水環境に生息する遺伝子的に特異的な個体群および生物種の消失も増大している(例:Nehlsen他 1991)。これらの水生動物相での消失はいずれも、居住空間の変化あるいは破壊、外来種の導入、過剰捕獲などの因子のひとつあるいはそれ以上によってもたらされた。
 枯渇した水生生物個体群を復元し、地域的に絶滅した生物種を再導入することに対する社会的な要望は増大しているが、これらの事業を実行するために必要とされる資金およびその他の資源が利用可能となることはまれである。復元および再導入の事業は技術的に困難であり、成功するためには長期的な取り組みが必要とされる。このような状況では、絶滅危惧種、準絶滅危惧種、危惧種の個体群(保護個体群)を、脱走GMOとの交雑を通じてさらなる人為的な変更へとさらさないようにすることが明らかに賢明であり、また費用対効果も大きい。そのため、意思決定の手順は、そのような研究プロジェクトが適切なリスク管理手段を含んでいる場合にのみ、その実行が促進されるようデザインされている(フローチャートVI.Aおよび第VI章の補助文書を参照)。

遺伝子改変生物が非自生種である場合

 GMOが非自生種である場合、研究者は非自生魚類、甲殻類、軟体動物の使用に関して監督責任を持つ該当の州および連邦の天然資源管理官庁に相談する必要がある。本実施基準は、実験生物が非自生種であることで特別に生じる環境安全性およびリスク問題の評価には適用されない。問題となる非自生種にもよるが、申請された研究あるいは開発プロジェクトには政府の承認が必要とされる場合がある。承認手続きは生物種および州によって異なっており、これには適切な管轄官庁に対する研究プロジェクトの設備およびプロトコルを説明した手紙の提出と承認から、特定条件の下での非自生種の使用に対する許可の公式申請まで様々である。いずれの官庁に連絡を取るべきかの知識があらかじめない場合、研究者は州の水産資源について責任を持つ州政府機関に連絡を取ることから始めるべきである。通常これらの州政府機関の名称は、天然資源省、漁業および野生動物局、あるいはこれらの名称を変化させたものである。これらの州政府機関の水産部門は、非自生種を取り扱う研究に関する州および連邦の監督について知識を持つ職員を有しているはずである。
 非自生種の環境安全性およびリスクの審査に関与する生物学的な原則について、その背景的知識を得るには、研究者は多くの論文ならびに水生生物種に関連する様々な団体が作成した推奨プロトコルを参照することができる。その例には、概念モデルの考察(Kohler 1992)、非自生種軟体動物の遺伝子的影響に関する考察(GraffneyおよびAllen 1992)、米国における魚類導入に関する推奨プロトコル(KohlerおよびStanley 1984)、水生生物種の導入に対する米国水産学会の見解表明(KohlerおよびCourtenay 1986)、国際海洋探査協議会が作成した「海洋生物種の導入によって惹起される有害作用のリスクを低減するための実施基準改訂版」(Sindermann 1986/1992)、欧州内水面水産勧告委員会の推奨(1988)、米国水生有害生物種作業部会が1992年に提案したプロトコル(補遺Aに再掲)などがある。


II.B.1 意図的な染色体操作の影響

 本フローチャートは、次のように改変された生物を審査するようデザインされている。(1)染色体操作のみ、例、四倍体誘発および三倍体誘発、(2)染色体操作および種間交雑。後者のタイプのGMO産生は、ある種の種間交雑種では、三倍体の誘発によって生存率の増大が示されることが原動力となっている。例えば、いくつかのサケ雑種三倍体は、同雑種二倍体よりも高い生存率を示す(Chevassu他 1983、ScheererおよびThorgaard 1983)。

交雑あるいは交配/恒久的不稔性/非自生種

 本フローチャートのほとんどの意思決定手順は、利用可能な生態系において、染色体操作されたGMOが自然個体群と交雑する、あるいは交配しようと試みる可能性を判断することを目標としている。この焦点に対する根拠は、次の表題のもとにある、上記の表題の下(印)に述べられている。

I. 

実施基準の適用性

 

 適用生物および非適用生物に関する根拠
   *意図的な染色体操作
   *意図的な種間交雑


II.A.1 

意図的な遺伝子改変の影響

 

 *同種あるいは近親種との交雑
 *恒久的不稔性
 *遺伝子改変生物が非自生種である場合

特定の倍数体における非常に低い生存率

 現時点までにおいて、研究室で作成されたほとんどの四倍体魚は、非常に低い生存率を示しており、性的成熟にまで達する個体は少ない。このことは、脱走した四倍体が二倍体と交雑し、多くの不稔性三倍体の後代を生産することによって自然個体群の減少の引き金となる可能性に関し、四倍体の能力を軽減する因子である。それゆえ、本フローチャートでは、生存率の極度に低い倍数体が関与する研究に対しては、研究プロジェクトが小規模であるという警告とともに、適用終了を用意している。研究者がこの適用終了を採用するうえで適切な実験規模をいかに同定するかについてガイダンスを求める場合は、フローチャートIIIに進まなければならない。そこでは適用終了またはリスク管理の必要性へとつながる因子を比較することができる。


II.C.1 種間交雑の影響

 本フローチャートは、遺伝的に独特な種の自然個体群を損失するリスクについて審査するようデザインされている。この懸念に対する根拠は、「I. 実施基準の適用性」の下にある副題「意図的な種間交雑」に提示されている。質問は、利用可能な生態系における親生物種および他の近親種の存在に対応しているが、これは種間雑種が、単にその親生物種のみならず多くの生物種と交雑する可能性を有するからである(より詳細な説明はII.A.1章の「近親種との交雑の可能性」を参照)。利用可能な生態系に親生物種あるいは近親種が存在しない場合、リスク管理は大幅に簡略化され、利用者は単に本基準の適用終了を指示されるか、あるいは適用終了し、非自生種の使用に関するガイダンスについて該当する州および連邦当局と相談するよう指示される。非自生種の使用についてガイダンスを求めることの根拠およびさらなる情報は、第I章の副題「非適用生物」および第II.A.1章の副題「遺伝子改変生物が非自生種である場合」に提示されている。
 利用可能な生態系に親生物種あるいは近親種が存在する場合、種間雑種が恒久的に不稔であるか否かについて答えなければならない(II.A.1章の「恒久的不稔性」で示されている根拠を参照)。種間雑種が実際に恒久的不稔である場合、フローチャートは移入交雑に関連するリスクの審査を省略し、フローチャートIIIに進むようにと利用者へ指示する。それ以外の場合には、利用者はその次に、利用可能な生態系に雑種が交雑可能な準絶滅危惧種、絶滅危惧種、危惧種の個体群が存在するか否かを決定する。この問題の対応方法についての根拠は、II.A.1章の「準絶滅危惧種、絶滅危惧種、危惧種の個体群への影響」に提示されている。このことが問題とならない場合には、本フローチャートは、本基準からの適用終了に関する他の可能性を審査するため、最終質問を提示する。
 研究室で生産され飼育された魚類あるいは貝類の種間雑種のいくつかは、非常に低い生存性を示しており、しばしばこれは発生の初期に示される。このことは、脱走した雑種個体が親生物種あるいは近親種と交雑する能力、またそれゆえ遺伝子的に独特な生物種の自然個体群を移入交雑により損失するリスクに対し、これらを軽減する因子となっている。それゆえ、本フローチャートでは、生存率の極度に低い種間雑種が関与する研究に対しては、研究プロジェクトが小規模であるという警告とともに、適用終了を用意している。研究者がこの適用終了を採用するために適切な実験規模を同定する方法についてガイダンスを求める場合は、フローチャートIV.A.1に進まなければならない。そこでは遺伝子移入が生態系に及ぼす影響の審査を開始している。これにより、研究者は適用終了またはリスク管理の必要性へとつながる因子を比較することができる。

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