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ケース2 Bacillus subtilisに由来するBacillus stearothermophilus αアミラーゼ

1. 検討する概念の要点

(ケース1を参照のこと)

2. 生物/ 製品:B. subtilisに発現したBacillus stearothermophilusのαアミラーゼ

 アミラーゼはでんぷんの加水分解用に食品業界で広く用いられてきた。αアミラーゼは、ごくふつうの多糖類のα1.4-グルコシド結合を加水分解する際に触媒として働く。B. subtilisから得た微生物由来αアミラーゼは、1929年よりチョコレートシロップの粘度調節用に一般的に使われており、1936年からは醸造業でも使われている。こうしたさまざまなB. subtilis株から調製した酵素は、加工する食品に直接に添加された後、濾過によって最終製品から除去されている。

3. 伝統的な製品評価

 ケース1の1.c)項で述べたように、新たに調製した酵素を評価するのは、意図する用途にとって安全かどうかを判定するためである。このような評価では、酵素の特徴と特性、産生生物、製造工程で使われた素材と方法に重点が置かれる。調製したαアミラーゼに対して「伝統的」評価が行われるのか「追加的」評価が行われるのかは、その酵素が新規酵素とみなされるかどうかによって決まる。ケース1の1.a)、1.b)、1.d)項で述べたように、これは基本的に規制上の問題である。
 調製したアミラーゼを単にB. subtilisから調製したαアミラーゼの1例とみなすなら、その新たな例がその安全な利用に影響するような珍しい特性を持っていないことを判定するために、製造業者は伝統的な製品評価を行う。少なくともこれまでは、規制機関が正式な審査を行ったことはない。
 今回の安全性評価では、以下に重点が置かれた。すなわち、酵素の構造的、機能的な特性。供与生物、受容生物、作成途中の組換え体の安全性、特に受容生物の遺伝子改変によって、意図する用途に対する安全性に悪影響を及ぼすような特性が持ち込まれたかどうか。組換え体作成に用いられたベクターの安全性。そして発酵と酵素精製に用いられた素材と方法。
 JECFAは、産生菌株に抗生物質抵抗性がないこと、供与株(B. stearothermophilus)、媒介株(E. coli)および受容株(B. subtilis)に病原性、毒素産生性がないこと、および組換え体作成に用いられたベクター(E. coliに用いられたpBR327、B. subtilisに用いられたpUB110)についてはよく分析されており、当該ベクターが毒素をコードしないことを確認した。産生菌株はベロ細胞アッセイで志賀赤痢菌様毒素を発現せず、抗体検査ではブドウ球菌腸毒素A、B、C、Dのいずれも発現しなかった。
 Bacillus subtilisに由来するB. stearothermophilus αアミラーゼは、酵素固有の活性、分子量、ペプチドマップ、B. stearothermophilus由来のαアミラーゼに対する抗体との反応性の点で、B. stearothermophilus由来のB. stearothermophilusαアミラーゼと同一であることが確認された。イヌを用いた13週間混餌投与試験でも、ラットを用いた1世代生殖試験でも、この調製した酵素から重要な毒性作用は生じなかった。
 以上の情報と、意図する効果の達成に要する調製した酵素の量から、JECFAは当該酵素が意図する用途にとって安全であり、1日当たりの許容摂取量を数値で定める必要はないと結論した。

4. 伝統的評価に利用できるデータベース

 なし

5. 新規の成分/ 製品

 B. stearothermophilus酵素はB. subtilis株から発現する。クローニングは酵素自体、あるいは産生菌株に影響を与える可能性がある。この酵素をB. subtilisから調製した新しい製品とみなすか、単にその1例とみなすかは、ケース1の1.a)、1.b)、1.d)項で述べたように、規制上の問題である。

6. 追加される評価手順

 すでに述べたように、「追加的」手順を行うか「伝統的」手順を行うかは、調製した酵素を新規製品とみなすかどうかによって決まる。

7. 追加される評価手順の理論的根拠

 評価手順を踏む理論的根拠は、その手順が追加的とみなされるか伝統的にみなされるかにかかわらず、調製した酵素がその意図する用途にとって安全でなくなるほど、酵素と産生菌株が共に遺伝子操作によって改変された可能性があることであった。

参考文献
US Federal Register (1990), Vol. 55, pp. 10932-10936, 23 March, and references therein. Also see:
Flamm, E. (1991), Bio/Technology, 9:349-351.
Thirty-seventh Report of the Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives, WHO Technical
Report Series No. 806, and references therein.

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