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英国の水生バイオテクノロジー

C.E.Purdom博士
英国、農業・漁業・食物省

 水生学にバイオテクノロジーを適用する2つの方法は、さまざまなタイプの汚染を撲滅する(a)遺伝子改変微生物の開発と(b)養魚の精巧な技術 開発である。2つのうち、前者は、英国では可能性はあるがまだ開発のきざしはほとんどない、そしてこの論文でもそれ以上に考察しない。養魚における精巧な遺伝子操作は世界中で受け入れられている。開拓研究の多くは英国で開始されている。

序文
 養魚は古くからの仕事で歴史は数千年前にさかのぼる。ここ20 - 30年で非常に流行し、ヒトにより消費される魚の著しい割合、約10%を生じるという意味で現代的である。養魚で準備する主な種は、一般的なコイとサケ科の魚などまだ従来のものであり、種の多様化は世界中で積極的に求められ、多くの異なる魚分類群は現在養魚業生産で使われ、将来の使用に対する見通しは明るい。従来からの種についても、養魚は、仮に相違があるとしても野生の祖先とほとんど異なっていない状況である。したがって、ヒトに使われるすべての動物および植物種に関する収穫期限の点で明らかに有利な方法である遺伝子開発のため養魚の準備が整っているということはすぐに認められた。

 遺伝子技術はこの25年にわたり多くのタイプの魚で試験されてきた。最も明らかな開発である選択的改善は一部が成功しており、食用魚の商業的重要性の特性についての進歩はわずかか皆無であり、金魚とかいろいろな水槽メダカなどの装飾種では美的、眼に見える特性に顕著な影響がある。魚の最も顕著な遺伝子開発は、染色体工学を使うものである(PURDOM,1993)。したがって、雌性発生、オスの染色体補体が関与しない卵の活性化と発生は、近交系とクローン産生に、また一般的に分析遺伝学に使われる。雌性発生で使われるのと同じ基礎テクノロジーを使う誘発的倍数性は、妊娠性のコントロールに使われ、最終的に性比率コントロールに達するための性染色体操作は、すべての魚種で生殖問題に対する標準的な研究方法である。

 これらの染色体操作育種技術のすべては、魚バイオテクノロジーにおける開発と分類できるが、後の用語は従来使われて、現在では、分子生物学の育種技術を使うそれらの活動、つまりDNAの切断とスプライシング、すぐれたバイオテクノロジー戦術となる機能的ビット、すなわち遺伝子を含む塩基配列が知られているDNAの特定断片のクローニングと大量生産、一つの生物から別のゲノムに遺伝子を挿入するトランスジェニックを包含する。本論文は、簡単に、将来の可能性はもとより、主に英国の立場から魚トランスジェニックの現状を考察し、食物安全性問題で関連する可能性がある一部の面について考察している。

 遺伝子移行テクノロジーの本質は、遺伝子の多数のコピーを、生育中の接合体もしくは核に注入することが可能な量のクローン形で、遺伝子構成を獲得することである。後の評価は挿入の配列構造に相当する複製DNAの検出、転写RNAもしくは最終タンパクの検出あるいは最終的に細胞レベルでも、生物レベルでも挿入遺伝子の完全発現の検出によると考えられる。
 以前の研究における遺伝子の選択は、大部分が、哺乳類における草分け的で成功した遺伝子移行研究の提案する指示に従っている。Chourroutらは(1986)ニジマス卵に、ラット成長ホルモンをマウスに移行するのに用いた挿入物のコピーを注入し、生育中の胎芽からDNAにおける成長ホルモン配列の存在を実証した。

 Macleanら(1987a、1987b)は、同じ研究法を使ったが、挿入遺伝子の取り込みと発現をより詳細に評価した。構成物の性質を図1に示した。融合プラスミドはPalmiterら(1982)が述べた通り、制限酵素を使って切断し、マウスメタロチオネインプロモーター遺伝子とラット成長ホルモン遺伝子などフラグメントを産生した。これを2つの細胞期でニジマス卵に注入した。その理由は、魚卵は大きく、黄身であるので、すべての他の動物のように、単一細胞期を示さないからである。雌性発生により魚卵で単一細胞期を発生させるのは可能であるが、このことは遺伝子移行ではまだ使われていないようであった。他の研究者は、DNAフラグメントを細胞分裂前に卵の動物極に注入しており、2つの細胞期後の細胞分裂は急速であるので、注入するときはそう問題にならないであろう。これに関連して、注入が2細胞期前でも、遺伝子モザイクがトランスジェニック魚で認められることに注目するのは興味深い(Penman ら、1991)。

 DNA抽出、精製、制限酵素分析と特異的ラベリングによる評価など代表的な方法は、適切なRNAの転写の点からも、魚の成長率の強化の点ででも、成長ホルモン遺伝子が発現していないことにより取り込みは成功したことを示した。新しい遺伝子の発現の可能性のあたりで多くの憶測がなされている。プロモーター配列の性質は重要とみなされ、新しい遺伝子を魚に挿入することに関する現在の研究は、魚由来のプロモーターに向けられている(Maclean,Penman)。Oreochromis  niloticusにおけるゴナドトロピン放出ホルモン配列の取り込みの現在の研究は、鯉ベータアクチンプロモーターで使われたときに、発現の明確な兆候を示す。魚凍結防止プロモーターは有望であるようである(MacLean, 私信 1992)。

 発現に加えて、成功した遺伝子挿入の遺伝子安定性は、まだ評価中である。Perimanら(1991)はトランスジェニックニジマスで、マウスメタロチオネイン/ラット成長ホルモン配列の遺伝を実証したが、厳密なメンデル比は一般的に認められなかった。一部のトランスジェニック魚は、フラグメントを次の世代に伝えることができなかった。また中には、伝えることができたが子孫の頻度はばらつきがあった。最終的に一部のトランスジェニック魚は、新しい遺伝子の単一機能上のコピーや他の複数のコピーを持っているようであった。したがって、系の遺伝子安定性は、まだ確立されていなかった。それにもかかわらず、安定した遺伝子形状は魚で確立し、新しい遺伝子が十分にまた有用に発現されるであろうと結論付けるのは、合理的であるようである。
 ウイルスゲノムは、トランスジェニックに関する構成物をコピーするのに使われた。Zhuら(1985)は、金魚の脱塩素卵に注入するためにゲノムヒト成長ホルモンとネズミメタロチオネクチンのコウシパピローマ構成物(図2)を使った。ウイルスはそれ自体ベクターとして作用しないことを強調すべきで、この可能性は後で触れる。種々の新しい遺伝子とプロモーターが関与する多くの異なる構成物は、世界中の実験室で現在開発中である。

新しい遺伝子
 魚における成長ホルモンの関心は、マウスで用いられたクローン配列の存在に大きく刺激された。しかし成長率はどうしても養魚家を悩ませている。このようなトランスジェニック魚が、生来の能力以外の因子が存在する農場条件下で早く成長するのかどうかは、まだわからない。
 遺伝子のいくつかのその他タイプは、魚に取り込まれてきた。魚トランスジェニックと関連して重要なものとして確認された形質の一部は、成長、病気抵抗性、凍結防止、不妊性、薬剤、ハイブリドーマ、モノクロナール抗体、ポリクロナール抗体の産生である。GnRHの過剰生産による不妊性は、極度な冷水における養魚への解決法として、前に提唱されてきた凍結防止プロモーターと同様に(Fletcherら,1988)、述べられてきた。病気抵抗性は永遠の義務である。抗生物質耐性遺伝子は金魚に取り込まれ(yoonら,1990)、ウイルスの抗原部分をコントロールする遺伝子を挿入しやすくなる可能性がある。農場動物における製薬開発は、トランジェニックの標準的事項として受け入れられた。系が低温であるいは筋肉などの組織で、発現を必要とする場では、魚は十分に使用に適する生物であることが十分証明されるであろう。
 ワクチン開発のモノクロナールと診断目的のポリクロナールはおそらく、バイオテクノロジーでは副次的な問題であるが、魚とは関連がある。

将来の開発
 クローン遺伝子やそれらのプロモーターの拡張ライブラリーは、非複製DNA分子接種により、トランスジェニックについてはかなり多様な将来を約束する。メカニックと遺伝学はまだ推測の段階であるが、トランスジェニックのさらに微妙な型は、ウイルスベクターを使って実行可能である。Hughesは(1991)、レトロウイルスベクターはトランスジェニック家畜に使うことができるという見通しを発表した。新ウイルスRNA分子の逆転写は、減数分裂では、魚卵のその場での非機械的処置の手段となり、組織培養では、トランスジェニック細胞系を発生させる方法となるであろう。レトロウイルスは魚で報告されたが、それらの体系的な試験はおこなわれなかった。魚は半数体倍数体全能細胞培養について、また卵核移植テクノロジーについてはすぐれた材料となり、最悪の倫理的制約を回避し、遺伝子工学の包括的なシステムの可能性について十分な科学的評価ができる。

リスク
 遺伝子改変生物(GMOs)の使用に関連する倫理的環境面でのリスクは、徹底的に議論され、立法に制約が組み込まれた。(例として、英国における環境保護法1990)。テクノロジーの日常的なレベルで、この分野で利用できる広い機会に注意してみると、この研究方法が有効であるかどうかはまだわからない。GMOsの使用から生じる食物安全性問題はそう広く考察されなかった。われわれが現在理解できないような、リスクの可能性は生じるが、しかしこれまでにグループ化された事項がある。

  1. 移行した遺伝子転写の化学と新しいゲノムの安定性は真核生物で十分に理解されていないし、予定されていない展開が育種株(breeding stock)で生じる。このようなハザードはもちろん選別できる
  2. 多くのプロモーターの細胞もしくは組織特異性により、特異タンパク産生は、普通は厳密に調節される。移行遺伝子のさらに有効な発現の一部では、細胞特異性が低いプロモーターを使用し、このことは、有害な食物安全性の意味合いがあると思われる成長ホルモンなどの産物の過剰につながる。
  3. 抗生物質の国内生産を通じて病気抵抗性魚の産生の試みは、食物の低レベル汚染のリスクをつきつけ、抗生物質耐性病原菌の創造につながる。
  4. 養魚家は必ずしも魚の動きを管理できるとは限らないし、製薬の産生に関係する株(stock)からの逸出は、脅威をつきつける。
  5. ウイルスベクターがクローニングに使われている場合には、ウイルスゲノムの一部の不注意な複製は、強力な病原体とのの相互作用と関連する。
  6. 遺伝子移行に関するベクターとして使うウイルスの通過は、それ自体食物ハザードとなる

これらの不安は、ある程度、実際よりはっきりしている。しかしトランスジェニック動物の広範な使用をすすめる前に、該当する分野で専門家による考察を必要とする。

結論
 遺伝子移行で使われるテクノロジーの新しさは、潜在的な食物安全性問題に幾分不安な余地がある。魚に関するこの問題は、これらの動物の運動性とそれが提起する困難な安全問題の点で、特に重要である。

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