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第7章:市販後のモニタリング


7.1 一般原則

 バイオテクノロジー由来の食品に関する市販前の安全性アセスメントは、予想された使用条件の下では無害である、と合理的な確実性をもって結論するための科学的基盤を提供する。特定の栄養に関する有益性を提供するために改変された食品のアセスメントは、人間の健康に対する意図された有益作用について調査を要する場合がある。市販前の評価は、バイオテクノロジー由来の食品の受け入れにおいて非常に重要である安全性と有効性の指標を同定するようデザインされており、一般的に市販後モニタリングの必要性を否定する。しかし、バイオテクノロジー由来の食品あるいはその他の新規食品について、食事での曝露あるいは栄養の結果に対するより良い推定が求められている場合など、ある特定の条件下では、市販後モニタリングが適切となる場合がある。限定された事例ではあるが、栄養改善された食品の食事での摂取量と人間の健康での予想された有益作用とを相関させるため、必要となる場合もある。
 モニタリング手続きには必須となる2つの要素がある。第一に、食品供給内での製品あるいは商品の使用、分布、最終結果をアセスメントするために、適切なデータが利用可能でなければならない。第二に、関連する食品の消費に関する必要な情報を提供するモニタリングプログラムが確立されていなければならない。人間の健康に対するプラスあるいはマイナスの影響の同定が実行可能か否かは、測定すべきバイオマーカーの同定を伴った仮説に基づかなければならず、これは正確な消費データを利用できるか否かに依存している。適切な消費推定値を得るため、または市販前の予想を確定するため、バイオテクノロジー由来の食品の市販後モニタリングに現行の曝露アセスメント原則を適用することができる。しかし、そのようなアセスメントでは、圃場から消費者にいたるトレーサビリティが必要される場合があり、これは商品作物では非常に難しい可能性もあることは認識されなければならない。
 曝露アセスメント方法は、摂取量に関する確定的推定値および確率的推定値のいずれをも含んでおり、これらは食品供給データ、個々の食事調査、家庭ごとの調査、総食事研究などを使用する。正確な曝露アセスメントが必要とされる場合、確定的アプローチを通じて得られた粗評価に対し、確率モデルによって価値ある、しかしコストのかかる精度向上が提供される。バイオテクノロジー由来の食品が健康に及ぼす長期作用を考慮する場合には、習慣的摂取量推定値が必要となるかもしれない。バイオテクノロジー由来の形質とそれが人間の健康に与える可能性がある影響に関して、その特定な関係を確立するうえで最も適切なモニタリングの手段を決定するため、消費の推定で使用された市販後モニタリング方法は、前もって事例ごとに評価されなければならない。

7.1.1 バイオテクノロジー由来の食品の安全性を保証する上で市販前アセスメントが果たす役割
 バイオテクノロジー由来の食品に関する市販前アセスメントは、科学的でリスクを基にした手続きであり、一般消費者に当該食品の安全性を保証するものである。第3章で概略したように、バイオテクノロジー由来の食品に関する市販前アセスメントは、段階を追った手続きであり、改変の特性および意図された食品の使用に依存して事例ごとに様々な特定の安全性決定因子を伴っている。バイオテクノロジー由来の食品で大規模な組成変化がないことから、市販前アセスメントの戦略は、同定された差異の安全性に的を絞っている。調査には、勧告の標準方法に従った毒物学的作用、アレルゲン性の可能性、栄養価に関する生体外および生体内での評価が含まれることがある(WHO 1987、FDA 1992、Munro 他 1996、LSRO 1998、FAO/WHO 2000、NRC 2000)。
 バイオテクノロジー由来の栄養改善された食品には、主要固有成分の量か特定組成のいずれかの増強が意図されているものがある。その結果、主要成分が変化したこれらのバイオテクノロジー由来食品では、これらの変化を既存の食事曝露および予想される曝露の文脈において考慮することが必要とされるだろう。バイオテクノロジー由来か否かを問わず、すべての新規食品に対する市販前安全性アセスメントでは、意図された使用条件の下で、従来食品あるいは既存の食品と比較し、安全性の懸念が増加していないことが確立されなければならない。安全性は、使用条件および曝露が分かっている場合にのみ評価することが可能である。バイオテクノロジー由来食品への食事での曝露を推定する方法は、第3章で触れられている。結果としての曝露推定値は、安全性および有効性を保証するため、毒物学的調査および栄養的調査によるデータの見地から評価される(WHO 1987、FDA 1992、Munro 他 1996、LSRO 1998、FAO/WHO 2000、NRC 2000)。

7.1.2 市販後モニタリングは必要か?
 市販後モニタリングは、食料製品の安全性や規制の承認を支持するうえで、慣行とはなっていないが、例外として、市販前の食事による摂取量推定値を確定し、安全性を保証する必要が生じた2、3の特別な事例はある。人間の健康にもたらされる有害な結果に関する市販後モニタリングをバイオテクノロジー由来食品に対して求める声は、明らかに予想されない長期作用に対する漠然とした懸念に駆られたものである。皮肉にも、すべてのバイオテクノロジー由来食品に起因する有害作用を対象に市販後モニタリングを求める考えは、すべての市販前安全性アセスメントの意図と矛盾するものであり、アセスメントから導出された安全性に関するすべての結論に対する信頼を突き崩すものである(Chesson 2001)。現実的には、バイオテクノロジー由来作物からの食品に対する市販前安全性アセスメントの段階で、食品安全性に関するリスクの可能性がもし同定されたとしたなら、その作物を商品化しようとするいかなる努力も事実上終止符を打つことになるだろう。現在市場に出回っているこれらのバイオテクノロジー由来食品の安全性に関する知識に照らし合わせて見れば、市販後モニタリングが市販前アセスメントを補完する価値ある営為となるためには、定義および強力な科学的基盤が必要である。さらに、市販後モニタリングがバイオテクノロジー由来食品にのみ適用されなければならないと結論づける根拠がない。従来法で導出された食品とバイオテクノロジーで導出された食品との間で、ひとつに対しては市販後モニタリングの使用が必要となり、他方では必要ないとするような、固有の差異の存在は自明ではない。

7.1.3 食品および食品成分の市販後モニタリング
 市販後モニタリングは、食料製品の安全性を支持する上での標準慣例とはなっていない。しかし、ある種の新規食品および食品添加物の当局による承認では、モニタリングプログラムの実行が条件とされてきた。食品の市販後モニタリングのデザインあるいは実行について、規制当局のガイドラインがないにもかかわらず、これらの調査が実行されていることは注記すべきである。例えば、米国食品医薬品局(FDA)は、甘味料アスパルテーム(Butchko 他 1994)および代用脂肪オレストラ(Thornquist 他 2000、Allgood 他 2001、Slough 他 2001)を、市販後モニタリング調査を条件として承認した。同様に、欧州連合(EU)食品科学委員会(SCF)は、「植物ステロールエステル添加のイエローファットスプレッド」のマーケティングには市販後モニタリングの必要性が伴う、と勧告した。EUの規制指令の下におけるこれらの物質に対する市販後モニタリング(SCF 2002)には、特定の仮説に対処するためにデザインされた積極的および受動的構成要素が含まれており、各状況の事例ごとに特定な必要性に応じて、プログラムの優位性が明瞭にされている。Borzelleca(1995)は、積極的サーベイランスを、「消費者から情報を得るための、慎重に構想され構築された計画である。これは、消費者と直接接触を取る製造業者によって開始され、」と定義し、また受動的サーベイランスを「生産者、販売者、規制当局からのインプットなしに、消費者からの自発的な反応を採集するもの」と定義した。受動的サーベイランスあるいはモニタリングは、アレルゲン性など、固有で直接的な有害作用が問題とされている事例では有用となることもある。しかし、受動的モニタリングを通じて答えることができる仮説の適用範囲、ならびにさらなる追跡を伴わない場合の有用性は、限られている。食品の消費に起因する健康作用の確認は、いかなるものも、適切に有効性が確認された診断手段の使用を必要とする。積極的モニタリングは、市販前消費予想の確認が必要とされる場合や、受動的モニタリングで同定された影響がターゲットを絞った調査を必要とする場合、または健康への長期作用の可能性に対する長期モニタリングが対象とされている場合に、適切となる可能性がある。後者では、おそらく、市販後モニタリングがもはやモニタリング自体を構成するのではなく、そのかわり疫学の分野に位置され、そのため適切な疫学的技術が適用されなければならないかもしれない。
 EU内の最近の指令は、GM生物に関する市販後の環境モニタリングを義務としており(EC 2001a)、告知者およびリスク評価者に向けた予備指針文書が公表されている(EC 2002)。指令書は、GM生物の曝露が直接的および蓄積的にもたらす長期作用について、情報を集めることを目的とした環境に関する市販後モニタリング計画を製造業者がデザインし、実行することを求めている。指令には、予測されていなかった有害事象のための一般的モニタリング、および必要な場合には、市販前環境リスクアセスメント手続きを通じて同定された潜在的な影響に対する仮説に基づいた確認の両方が含まれている。
 欧州新規食品規制(EC 1997a)で求められている市販前安全性アセスメントに加え、GM食品および飼料、またGM食品成分由来の製品に関する市販後モニタリングが提案されている(EC 2001b)。定義によれば、提案されている指令書は、積極的手段および受動的手段の両方の実行を要求しており、これにはリスクアセスメント手続きの結果として事例ごとにターゲットを絞った特定のイニシアチブが伴う。EU(EC 1997b)およびFAO/WHO共同バイオテクノロジー由来食品に関する専門家諮問(FAO/WHO 2000)は、新規食品の導入が食事での消費パターンに及ぼす影響の評価、ならびにこれらの変化が特定人口集団の栄養および健康状態に及ぼす恐れがある潜在的な影響に対する評価において、栄養の文脈でのモニタリングプログラムの使用を支持した。最近のEU指令と類似の規制発案は、北米、オーストラリア、ニュージーランド、日本では公式な提案はなされていない。
 いかなる市販後モニタリングプログラムも、特定製品に対する正確な曝露推定値が利用可能でない限り、その価値は限定されたものとなるだろう。その結果、適切な消費データの採集および対象とされているバイオテクノロジー由来食品のトレーサビリティを保証する方法が、この手続きにおいては非常に重要な要素となっている。

7.1.4 市販後モニタリングに対し検証可能な仮説を構成するものは何か?
 バイオテクノロジー由来食品に関する市販前安全性アセスメントは、これらの食品が一般消費へと導入される前に、安全性あるいは栄養について懸念される分野を同定するようデザインされている。そのため、市販後モニタリングプログラムは、直接的な調査を必要とする特定の仮説が市販前アセスメントの結果同定され、市販前調査で生成されたデータによっては問題となっている特定の仮説に対処することができない場合には、適切となる可能性がある。明確に定義されていない市販後モニタリングの使用には根拠がないばかりか、市販後モニタリングについて、これが食品安全性の決定における従来からのアプローチに対する信頼性および信任性を崩す可能性を持ったリスクマネージメント管理のオプションではなく、危険因子同定の適切な手段であると暗に示すことから、誤解を招くものとみなすこともできる。市販後モニタリングの資源集約的な特性のため、モニタリングプログラムの明確な目標が、特に市販後モニタリングが必要あるいは適切であるか否かを決定しようとする場合に、前もって確立されていなければならない。


7.2 市販後モニタリングの適用可能性

 特定の事例においては、市販後モニタリングプログラムを通じて仮説を検証することが適切となりうる。その例は固有の有害事象あるいは長期的な健康への影響に関する調査、市販前の曝露推定値の確定、食事による摂取パターンでの変化の同定などによって示される。先に示したように、すべての市販後モニタリング戦略の成功は、ターゲットとした人口集団あるいは影響を受ける人口集団での正確な曝露推定値、対象とされた特定の結果に関する直接あるいはバイオマーカーを通じた測定能力、交絡因子の管理に依存している。

7.2.1 固有の有害事象
 バイオテクノロジー由来食品の改変の中には、当該食品にさもなければ存在していないタンパク質の発現が含まれていることもある。それゆえ、これらの食品におけるアレルゲン性の可能性は、特定の考慮事項に該当するものとして認識されている(Taylor & Hefle 2002)。タンパク質の存在自体は、バイオテクノロジー由来の食品の安全性に関する懸念として注意に値するものではない。しかし、現行の食品アレルゲンの定義(例:消費後に、感受性のある個人においてIgEを仲介する過剰感受性反応を誘発するタンパク質)は、バイオテクノロジー由来の食品あるいは食品成分が、さもなければ食品に存在しない新規タンパク質を含有している場合には、アレルゲン性の可能性に対するアセスメントが命令であることを要求している。GM食品のアレルゲン性アセスメントに関し、市販前の意思決定樹図の戦略が国連食糧農業機関および世界保健機関によって勧告されており(FAO/WHO 2000、2001)、またバイオテクノロジー由来食品の安全性に関するコーデックス食品規格委員会によるアセスメントでも、第8段階へと進んでいる(Codex 2002)。食品タンパク質のアレルゲン性の可能性を予測できる単一で決定的なアッセイがないことにより、この戦略がアレルゲン性の積極的な予測因子となることは制限されている。しかし、意思決定樹図の全体的な結果で陽性の結果がなければ、アレルゲン性となる可能性が低いことに対する合理的な保証が提供される。それゆえ、第3章で記述したように、バイオテクノロジー由来食品の商業化に先立って適用される科学的アセスメントに基づけば、もっぱらアレルゲン性に対処するために実行される市販後モニタリングプログラムは、必要ないはずである。
 食品アレルギーは、大衆に導入されるすべての食品における安全性の保証において、それがバイオテクノロジー由来かそれ以外であるかを問わず、特有の課題を提起している。市販前アセスメントデータの補完、あるいは科学的不確実性の受け入れを緩和させることをもっぱらの目的とした、アレルゲン性に関する市販後モニタリングプログラムの実行については、食品に対するアレルギー反応が個人ごとの応答を示しており、大半の人々は有害反応を伴わずに問題の食品を消費することが可能である、という知識によって抑制されるべきである。人口集団すべてが、バイオテクノロジー由来食品の消費に続くアレルギー性反応に感受性があるわけではないだろう、という予測は合理的である。実行されるモニタリングアプローチでは慎重を期さなければならず、また市販後モニタリングが実行されることとなった特殊な条件が定義している特定リスクについては、そのおそれがある人口集団を識別するための努力が払われなければならない。感受性のある個人の集団に向けた指針が、市販前評価で実行された複合アセスメント検査から利用可能でなければならない。
 バイオテクノロジー由来食品のアレルゲン性の可能性についてアセスメントする市販後モニタリングプログラムは、急激な市販後曝露の条件下で発生する自発的有害事象に関する受動的報告プログラムということになる。さらに、プログラムが使用に関するモニタリングデータを提供するためには、曝露アセスメントに関連した要素(例:消費の正確な推定、トレーサビリティなど)に対処するものでなければならない。さらに、そのようなプログラムでは、食品アレルギーに関する現在の理解範囲が制限されていることに起因するさらなる問題が認識されていなければならない。世界全体の食品アレルギーの90%以上は、牛乳、甲殻類、卵、魚、ピーナッツ、大豆、ツリーナッツ、小麦に関連したタンパク質、あるいはこれらの食品由来の成分に起因すると報告されているが、これをアレルゲン性とするタンパク質の特性は、アレルギー発症につながる個人の感受性を支配している生物学的変数と同様、いまだに決定されていない(Taylor & Hefle 2002)。食品に対するアレルギー反応は、明らかに食品安全性の特殊ケースを提示している。研究は進んでいるものの、感作を誘発するために必要なアレルゲンタンパク質の最小量および曝露期間は、いまだ判明していない。また、一度個人が感作した後で、アレルギー反応を引き起こすために必要なアレルゲン性タンパク質へのその後の曝露レベルも描出される必要がある(Taylor 他 2002)。

7.2.2 長期的な健康への影響
 食事と健康の関係は、よく認識されている。この事実にもかかわらず、特定の食事成分と特定の健康での評価項目との因果関係を確立することは、莫大な量の研究が既に実行されていても困難である。例えば、現在受け入れられている食事改変と冠動脈性心疾患との関連では、それを支持するために50年以上もの証拠が必要とされた(Schaefer 2002)。
 市販前安全性アセスメントでは同定されなかった健康に対する長期的有害作用の同定を目的として、市販後モニタリングプログラムを使用することは、科学的には不可能ではないかもしれないが、現実性はほとんどない。その実行では、仮定された結果が無いまま特定人口集団を長期にわたって前向きにモニタリングすることが必要とされるか、あるいは、特定の疾患あるいは健康状態を有することが判明している個人グループを対象に、特定のバイオテクノロジー由来食品に曝露した可能性を後ろ向きに同定することが必要とされるだろう。対象結果を絞り十分に定義された食事調査ですら交絡因子の管理は困難であることから、適切な調査デザインおよび適切な仮説の同定がない場合には、ほぼ確実にすべての観察調査がこれらの因子に悩まされる。急性の有害事象と見なすことができるアレルゲン性に関する特別な事例は別として、バイオテクノロジー由来食品の長期的消費に基づいた有害作用の可能性は、その他の食品の長期消費に関連した有害作用の可能性と異なるところはない。食品の承認がその安全性に関する市販前アセスメントに依存していることから、その定義において、有害性の可能性は最小のはずである。
 人間の健康に対して有益な作用がある可能性を市販前アセスメント調査で示唆された食品では、市販後モニタリングあるいは臨床試験によって食事と健康のポジティブな関係を決定的に明示することで、主張された有益性を確認する必要があるかもしれない。特定の栄養上の有益性あるいは機能性特性の向上提供を目的としてデザインされたバイオテクノロジー由来食品が出現したため、有害事象で述べた状況と比較し、生理学的に妥当な健康上の有益作用の検出を目的とした市販後モニタリングの使用が、より適切でより容易に適用できるものとなる可能性がある。この場合には、市販後モニタリングはターゲットを絞った従来法の疫学的調査で構成され、特に特定のバイオテクノロジー由来食品の長期有益性をモニターするようデザインされたものとなるだろう。このタイプの調査の実行には、すべての長期の食事研究と同様の困難が伴うが、特に遵守、緩和因子あるいは交絡因子、寄与するリスク因子、作用に対する素因の点で研究対象集団に固有の不均質性などに関するものが伴う(van den Brandt 他 2002)。食品の利用可能性ならびに個人の食習慣での継続的な変化も、観察された健康上の有益性とバイオテクノロジー由来食品の長期消費との間で直接的な因果関係を確立することを難しくしている。

7.2.3 市販前曝露推定値の確定
 市販前安全性アセスメント手続きでの重要なステップは、食事での摂取量推定値の作成、およびそれと食品添加物の1日許容量、栄養素の許容摂取上限、汚染物質の週間摂取の暫定忍容量など、公表されたガイドラインとの比較である。曝露アセスメントでは、段階的アプローチが一般的に支持されており、その場合には、より精度の高い消費推定の必要性を指示する目的で粗スクリーニング手段が使用されている(Kroes 他 2002)。市販前曝露アセスメントは、控えめな仮定、あるいは摂取量の過大推定の結果である「最悪ケース」の仮定にしばしば基づいていることから、最初の消費スクリーニングを提供する可能性がある。このアセスメントによって、毒物学的に有意な曝露が同定されなかった場合には、さらなる精度向上は正当化されないだろう。
 特定の状況では、市販後モニタリングが、市販前の消費予想に関する価値ある確定を提供する場合がある。例えば、市販前曝露アセスメントが、現実世界での曝露の状況を把握していないか、あるいは安全性の上限を比較するためにより正確な推定値が求められる場合などである。同様に市販前曝露推定が、特定の人口集団や特定年齢グループの消費を適切に特徴づけしていない可能性もある(Kroes 他 2002)。この状況では、予想摂取量に関する市販前の仮定を検証することによって、また人口集団の特定サブグループ、特にリスクの大きい可能性がある個人のグループにおける曝露パターンを決定するためのサンプルを追加することで、市販後アセスメントはさらなる安全性基準を提供する。

7.2.4 食事での摂取パターンの変化の同定
 栄養特性が改善されたあるいは機能性が向上したGM作物由来の食品の出現により、消費者が、栄養あるいは生理学的な有用性に基づいて積極的に製品を選択することができる。その結果、実際の曝露レベルならびにその結果である食事消費パターンへの影響、そしてそれによる栄養状況は、バイオテクノロジー由来食料製品が市場に導入された後でなければ明確とならない可能性がある。バイオテクノロジー由来食品の微量栄養素および多量栄養素のプロフィール改変は、食事での摂取量に顕著に影響し、その結果、栄養失調、あるいはその逆に上限レベルに達するか超える可能性がある(FAO/WHO 2000)。同様に、バイオテクノロジー由来の食料製品が他の中心食品あるいは食品成分を置き換えることによって消費パターンを変えた場合には、栄養状況が影響を受ける可能性がある(EC 1997b)。特殊な事例では、これらの考慮事項により、市販後モニタリングの使用が必要となるだろう。しかし、交絡因子の存在が、消費パターンの長期モニタリングを困難にしており、また食事と健康の間で観察される関連を最小のものにしている。これは、栄養的に意味があるか健康によい食品選択を行う個人は、同様の選択を行わない個人とは食事パターンが顕著に異なるだろうと思われるからである。


7.3 方法論的問題点

7.3.1 食品および食品成分に対する人口集団の曝露の測定
7.3.1.1 食品供給に消失したバイオテクノロジー由来食品の追跡
 人間の健康に対するプラスあるいはマイナスの影響を同定するようデザインされた市販後モニタリング戦略では、その実行は、正確な消費データの利用可能性に依存している。適切な消費推定値の取得や市販前予想の確定を目的として、低分子量化学物質、微量栄養素、多量栄養素、全体的食品に関する摂取量の定量化で従来から使用されてきた曝露アセスメント法を、バイオテクノロジー由来食品の市販後モニタリングに適用することは理論的には可能である。
 特定物質への曝露は、食品化学物質の濃度および特定食品の消費が判明していれば、定量化するか、あるいはかなりの信頼性をもって推定することが可能である。この手続きには2つの要素がある。食品供給網内での製品あるいは商品の最終結果を評価するための適切な情報が利用可能でなければならない。次に、関連食品の消費に関する必要情報を提供するモニタリングプログラムが確立されていなければならない。曝露アセスメントを通じた摂取量推定値の生成で要求される正確度は、モニタリングプログラムの仮説によって指定され、これは逆に支持するデータの精度に依存している。そのため、曝露アセスメントが全体的な市販後モニタリング手続きにもたらす貢献は、評価の基礎となる情報の質に直接的に関連している。この必要事項は、その後の分析に向けて適格で適切なデータが採集され、将来におけるデータの使用可能性が想定されていることを保証するため、調査目的をあらかじめ設定することの必要性を強調している。またこのことは、バイオテクノロジー由来食品あるいはバイオテクノロジー由来成分を含有する食品などの新規食品および食品成分の摂取量推定において、既存のデータが使用された事例では、様々な国間で意味を持って結果が比較できるよう、食品消費および食品構成成分の双方に関するデータ採集において標準方法が確立されることの必要性も強調している。
 バイオテクノロジー由来の食品あるいはそれ由来の成分濃度を、加工食品の素材あるいはブランドのレベルで適切に定量化するためには、それらの素材について、飼料および食品連鎖内での動きが記録できるよう、商品あるいは食品成分のトレーサビリティを保証する手続きが容易に利用可能となっていなければならない(Stave 2002)。バイオテクノロジー由来成分を含有する特定の食料製品が、食品生産、加工、販売の全レベルを通じて高い正確度レベルでは同定できない場合、バイオテクノロジー由来食品による潜在的な健康への影響をモニターすることは、不可能ではないとしても非常に困難になるだろう。一部の人は、市販後モニタリングを事例ごとのものとしてではなく、バイオテクノロジー由来食品への曝露に起因する健康上の有害作用に対する完全な代表モニタリングとして考える傾向がある。このシナリオで利用価値のあるデータを生成するためには、特定食品あるいは主要農業商品のバイオテクノロジー含有物に対する中央貯蔵庫が利用可能となっていなければならず、また産業独自の情報を統合するため、現行の食品構成成分のデータベースを拡大する必要があるだろう。さらに、市販後モニタリングプログラムの目標が、人間の健康に対する長期作用の可能性をモニターすることにあるのだとしたら、これらのデータベースには、食品構成成分に関する時間的な情報も含まれる必要があるだろう。食品構成成分情報での不連続性を制限するため、食品供給におけるバイオテクノロジー由来食品の成分レベルが、過去、現在、未来において正確に測定され、予測される必要があるだろう。明らかに、これは時間がかかり、とりわけ費用対効果に優れた努力でもなく、特に市販前アセスメント手続きで低リスクが保証されている点からすれば、なおのことである。

7.3.1.2 食品消費データベースと消失データの統合
 バイオテクノロジー由来の食品あるいはそれ由来の成分に対する曝露アセスメントの精度は、使用したモデルおよび基礎となるパラメータの有効性に依存する(Kuiper 他 2001)。特定食品構成成分の摂取量をアセスメントするための、食品成分と消費データを統合する数学的方法には、精度の低い順から、点推定、単純分布、確率モデル、モンテカルロ分析などがある。点推定では、食品の化学物質濃度の単一推定値と、これに対応する一般的には「最悪ケース」の食品消費固定推定値とが組み合わせられる。これに替わるものとして、単純分布では、曝露の分布を化学物質濃度の固定値と組み合わせる。最後に、確率分析では、食品消費および食品構成成分データのいずれにも関連するばらつきの測定が含まれる。これらの各分布からのデータを利用することで、様々な曝露結果の確率の推定が数学的な反復モデルによって算出可能となる。バイオテクノロジー由来の栄養改善された食品では、いくつかの異なる製品が同様の栄養上の有益性あるいは生理学的な健康上の作用のために改変されている可能性があるが、これらの食品の導入を考察する場合には、特に確率モデルが適切となる。モンテカルロアセスメントは、同一の機能性特性をもつ様々なバイオテクノロジー由来の食品ソースに対する総曝露の確率を決定することが可能である。それゆえ、意図された食品使用を、特定のターゲットグループ、感受性のある下位グループ、一般人口集団全体などでもたらされる曝露と比較することができる。その結果、採集されたデータ、調査している特定の評価項目、曝露アセスメントで要求された精度にもよるが、適切な分析方法を選択することが可能となる。
 バイオテクノロジー由来の食品が健康に及ぼす長期影響を考察する場合、習慣的摂取あるいは一生のうちに摂取する量の推定が必要となる場合がある。しかし、関連食品のバイオテクノロジー由来含有量あるいは食品消費量のいずれかについて、長期疫学的研究で過大推定することは、曝露の過大推定をもたらすだろう。それゆえ、バイオテクノロジー由来食品に関連したリスクあるいは有益性は、その結果として過小推定されることになる。同様に、アレルゲン性など、急性の評価項目が対象とされている場合、つまり単一の決定的な曝露が有害事象を誘発する可能性がある時には、反応を誘発するあるいは引き出すために必要な摂取量の知識が限られていることから、関連する食品の消費に関する信頼できるデータが利用可能でなければならない。正確な曝露アセスメントが必要とされる場合、確定的アプローチを通じて得られた粗評価に対し、確率モデルが価値ある精度向上を提供する。しかし、これらの方法の実行で必要とされる費用と資源にはかなりばらつきがあり、因果関係を決定できる可能性も限られている。バイオテクノロジー由来食品の栄養強化あるいは特性形質とそれが人間の健康にもたらす可能性がある影響との特定な関係を確立する最適なモニタリング手段を決定するため、消費の推定に使用された市販後モニタリング方法は、事例ごとに前もって評価されなければならない。

7.3.2 因果関係の明示
 人間の健康に対しなんらかの作用があると主張する食品に対する市販後モニタリング戦略では、因果関係の明示が、目的とされる結果のひとつとなる場合がある。食品消費と消費者に対する健康上の特定作用との因果関係を識別するための市販後モニタリングプログラムでは、測定可能なパラメータで支持された科学的に有効な仮説に対する考察が必須要素となる。定義された仮説が無い場合には、健康関連の作用の調査を目的としたデータマイニングは、バイオテクノロジー由来の食品の消費に限定されないランダムな相関関係を同定することになるだろう。
 バイオテクノロジー由来食品の安全性が市販前アセスメントで確立され、また効能が市販前および市販後調査で明示されるとしても、現実世界の条件では交絡する無数の変数に直面しなければならないことを考えると、予想外の有害作用あるいは健康に対する意図された有益作用が識別可能となることは難題である。交絡因子で補正されていない相関関係は見かけだけのもので、バイオテクノロジー由来食品の食事での曝露とは因果関係がない可能性もある。市販後モニタリングプログラムを実行する前に、特定の交絡因子あるいは関連するリスク因子が予想されなければならず、またこれらのリスク因子は適切な統計デザインおよび分析を通じて最小化されなければならない。さらに、市販後モニタリングプログラムで採集されたデータが因果関係を明示できる能力は、調査プログラムの対象とされた人口集団の特性によって限定される可能性がある。市販後モニタリングプログラムで、人間の健康に対して報告された作用が食品消費による曝露の結果であると確立するためには、決定的証明の概念に依拠することはできず、代わりに、関連の科学的基盤を確立するための証拠の重みに依拠することになる。Hill(1965)は、因子と作用の間で観察された関連から因果関係を推論する場合に、その前に考察しなければならない基準のリストを提示した。これらの基準における因果関係の因子をバイオテクノロジー由来食品の消費で置き換えることによって、これらの食品に由来する主張されているすべての健康関連の作用について、考察事項の基礎が提供される。しかしHillの基準には、バイオテクノロジー由来食品への曝露の適切な定量化、消費および使用に関する正確な推定値の統合、交絡因子の管理について、明白な期待が内在しており、さもなければ有効ではない関係を推論する可能性がある。因果関係を結論するためには、すべての基準が満たされることが期待されているわけではない。しかし、これらの事項での支持的な証拠は、因果関係の全体的強度に対して寄与するものとなる。


7.4 結論および勧告

 同一の市販前安全性アセスメント原則が、従来食品およびバイオテクノロジー由来食品の双方に適用される。しかし、これまでの経験は、バイオテクノロジー由来食品が、従来法によって導出された食品よりも厳密に評価されてきていることを示唆している。特定の検証可能な仮説を伴わない市販後モニタリングの使用によって、バイオテクノロジー由来食品の消費と人間の健康に対して起こりうる有害作用あるいは有益作用との因果関係を確立することは、技術的には可能であったとしても、困難なものとなるであろう。
 市販後モニタリングの実現可能性を評価する場合には、いくつかの点が考察に値する。

勧告

7-1.
市販後モニタリングは、人間の健康に影響を及ぼす可能性がある評価項目に関連した科学主導の仮説に基づいたものでなければならない。

勧告

7-2.
モニタリングは、食品開発で使用された技術によるのではなく、事例ごとにモニタリングが必要かあるいは適切であるか否かを決定するための、十分に定義された戦略をもとに、すべての食料製品に同様に適用されなければならない。

勧告7-3.
市販前アセスメントは、安全性および栄養に関する懸念事項を同定する。健康に対する有害性で科学的に根拠のある懸念がある新製品は、いずれもまず市場に出ることはないだろう。栄養改善された食料製品の市販後モニタリングは、市販前の食事曝露アセスメントを検証するため、あるいは食事での摂取パターンの変化を同定するため、役立つ場合がある。市販後モニタリングは、科学的に根拠のある検証可能な仮説が存在する場合か、市販前曝露推定値を検証する目的でのみ、実行されるべきである。

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