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第1章:

現代の農業バイオテクノロジーの紹介

これからの10年間、食品および農業生産システムは、世界人口の増加、国際競争の過酷化、グローバリゼーション、開発途上国での肉消費増加への移行、食品の品質や健康強化および利便性の向上に対する消費者の要求の高まりなど、数多くの著しい変化に対応するよう大いに強化される必要があるだろう。農業部門の効率を世界的に向上させることによって健康な食品の十分な供給を確保するため、新規で革新的な技術が必要とされるだろう。現代のバイオテクノロジーは、そのような技術群のひとつを取り囲むものである。近年、農業バイオテクノロジーは、DNA組換え技術の使用を意味するようになってきた。バイオテクノロジーは、伝統的な植物育種法に対して強力な補完的役割となるものであることが証明されている。
科学的見地からすれば、「遺伝子改変生物」(GMO)および「改変生物」(LMO)という用語は、実際のところ栽培飼育されているすべての作物および動物に適用されるものであり、DNA組換え技術による産生物のみではない。選抜および従来法の交雑による遺伝子操作は、数世紀にわたって続けられてきている。前世紀において、植物および動物の育種家は、様々な他の技術を使用する目的で、従来の育種法を超えて遺伝子操作の手段を拡大した。植物の場合、これには異数体、二倍体、胚培養、プロトプラスト融合、体細胞繁殖系の選択、放射線(コバルト60)あるいはエチルメタンスルホン酸塩による突然変異生成などがある(Brock 1976)。これらの技術ではゲノムレベルでの対象を特定した改変をすることができず、複数の遺伝子が同時に導入あるいは影響を受けるため、好ましくない影響を除去あるいは軽減するために長い年月におよぶ戻し交配が必要とされる(Rowe & Farley 1981)。さらに、従来の育種プログラムは、時間がかかり、労力を要求し、近種間での遺伝子の導入に限られていた。いくつかの例外はあるが、これらの従来の表現型選抜技術によって作成された植物は、別のクラスの作物としては定義されておらず、世界のほとんどの場所において、環境および市場への導入に先立って、食品あるいは環境に関する公式の安全性アセスメントあるいは審査を受けていない(FDA 1992)。遺伝子を改変され、従来法で作成された作物が、現在の農業食糧生産の大部分を占めている。
DNA組換え技術では、従来の植物育種法と比較し、幅広く数多くの形質をより正確で予想可能な方法で導入することができる。モダンバイオテクノロジーを通じて開発された植物のクラスは、これまで様々な用語で同定されてきた。これには遺伝子改変(GMあるいはGMO)、遺伝子操作(GEあるいはGEO)、トランスジェニック、バイオテック、リコンビナントなどがある。この考察においては、用語が簡潔であること、および広く認められていることから、「遺伝子改変」(GM)という用語を使用する。バイオテクノロジーの使用は、従来の選抜と育種法を用いることで可能であったスピードと正確さをはるかに超えて、単一の形質を改変することができる。現代のバイテクノロジーが提供する一群の手段は、このようにして農業革新に新しい次元を導入したのである。
農業バイオテクノロジーは、食糧生産の効率と収穫高を増加し、食品の品質と健康さを向上させ、農業の合成化学品に対する依存を軽減し、生物および無生物へのストレスを減少させ、原材料の費用を削減する可能性を有しており、これらすべてを持続可能で環境に優しい方法で行う。
第一世代のGM作物は、改善された農業的特性を形質として持っており、これらの作物は7年以上にわたって市場に出回っている。次世代のGM作物は、向上された栄養特性の形質を含むものとなるだろう。栄養改善されたGM作物は限られた数であるが、既に導入されている。その他の多くのものは、開発中で、10年以内に商業化されると期待されている。農業的形質のGM作物の安全性アセスメント手続きおよび栄養特性決定に関し、疑問と懸念があったことは認識されている。後で示すことになるが、これらの作物は、農業作物の歴史の中で他には例を見ないほどに徹底して検査されてきている。現在では米国、カナダ、アルゼンチンを含む世界各地のいくつか国で、多くの様々なGM作物製品が規制手続きを終えており、またそれより数は少ない製品に対し、日本、欧州共同体、オーストラリア、ニュージーランド、インド、ロシア、中国、南アフリカで手続きを終えている。農業的に改善された形質を持つGM作物で得られた経験を考慮に入れ、この文書の焦点は、栄養改善されたGM作物の安全性および栄養品質の評価に関する科学的諸原則と方法に当てられている。


1.1 現在までの進展

GM作物の世界全体での作付面積は、農業バイオテク適用習得国際サービスが発表した報告によれば、2003年に15%、すなわち900万ヘクタール増加した(ISAAA 2003;James 2003)。同報告によれば、GM作物の世界全体での受け入れは、2003年に6770万ヘクタールに達し、世界人口のうち半分は、GM作物が政府機関によって公式に承認され栽培されている国に住んでいる。さらに、大豆、トウモロコシ、木綿、ナタネに関しては、世界全体の作付面積の5分の1以上がモダンバイオテクノロジーを使用して生産された作物を収容している。2003年では、18か国の700万人近い農業従事者がGM作物を栽培しており、これらの農業従事者のうち85%以上は、発展途上国の資源に乏しい農夫である。同報告は、GM作物の世界全体での作付面積およびこの技術を使用する農業従事者の数に関して、近い将来の継続的な増大を予測している(James 2003)。
2003年では、主要6か国が世界全体のGM作物の99%を栽培した。米国が4280万ヘクタール(世界全体の63%)、次いでアルゼンチンの1390万ヘクタール(21%)、カナダ440万ヘクタール(6%)、ブラジル300万ヘクタール(4%)、中国280万ヘクタール(4%)、南アフリカ40万ヘクタール(1%)となっている。世界全体での主要GM作物は、大豆(4140万ヘクタール;世界全体での61%)、トウモロコシ(1550万ヘクタール;23%)、ワタ(720万ヘクタール;11%)、ナタネ(360万ヘクタール;5%)である。作物および国ごとの1996年から2003年の内訳を、図1-1および図1-2に示した(ISAAA概要からのデータ)。
商品GM作物導入からの8年間(1996年〜2003年)で、GM作物は世界全体で累積総計にして3億ヘクタール(約7億5千万エーカー)以上にわたり、数百万の大規模および小規模農場で栽培された(James 2003)。世界各地での数百万の農業従事者によるGM作物の迅速な受け入れと栽培、世界規模で大きくなるGM作物への政治的、組織的、国家の支援、独自のソースからのデータは、GM作物に関連した有益性を確認し、支持するものである(James 2003)。
農業的形質を改善したGM作物の最も明白な有益点は、農業従事者に対するもので、生産高の増加、投入コストの削減、殺虫剤の使用量の低下、環境的に管理された方法での害虫および雑草コントロールの増強、保全的な耕作の強化、経済的な見返りの増加が可能であった(Gianessi 他 2002)。消費者は、この農業バイオテクノロジーの第一世代に関し、自分たちにとっての有益性についてほとんど気づいていない。例えば、トウモロコシでは虫害の減少およびその結果としての菌類胞子感染の低下により、フモニシン真菌毒素による汚染濃度が最大93%も低下したが、これはアワノメイガ抵抗性Btトウモロコシの導入によって実現された(Munkvold 他 1999)。このフモニシン濃度の低下は、これらの真菌毒素が作物における最も有害な物質のひとつであり、肝臓癌から脳障害までの疾患をもたらすことから、人間および動物にとって直接的な安全性での有益性を有している。またほとんどの消費者は、化学的殺虫剤の使用が顕著に削減されたことにも気づいていない(Gianessi 他 2002)。
農業バイオテクノロジーの次の大きな段階は、消費者にもっとすぐにはっきりと分かる有益性を提供する形質、また食品および飼料加工業者の視点から付加価値のある組成を与えてくれる形質を導入することである。これらの形質の多くは、消費者にすぐにはっきりと分かる有益性を提供するものであり、それ以外は食品および飼料加工業者の視点から付加価値を与えてくれる組成となるだろう。次段階のGM作物の採用は、市場が、いかに価格を決定し、価値を共有し、特殊化された最終用途の特性に対応するためにマーケティングおよび取り扱いを修正するかという問題に対面するため、より緩慢に進行するかもしれない。さらに、既存の製品との競争が消失するわけではない。農業的に改善された形質を持つGM作物に伴った問題、例えば欧州での規制手続きの足踏み状態などは、栄養改善されたGM製品の受け入れにもやはり影響を及ぼすであろう。


図1-1 主要GM作物4種の耕作面積(出典:ISAAA概要)


図1-2 主要4か国におけるGM作物の耕作面積(出典:ISAAA概要)


1.2 GM作物の安全性

科学的な意見および証拠に関する共同見解は、GM技術の適用は食品/飼料の安全性に関して固有の問題を導入せず、承認手続きを通過したこれらの製品が害をもたらす証拠はない、というものである。この結論には、数多くの国立および国際機関が達している(例:国連の食糧農業機関/世界保健機構[FAO/WHO]、経済協力開発機構、EU委員会、フランス科学学会、米国研究評議会、米国科学アカデミー、ロンドン王立学会、毒性学会、表1-1および1-2)。
GM作物に関して、厳密な安全性検査パラダイムが開発され適用されており、これは体系的、段階的、分析的で、全体的な安全性アセスメントアプローチを利用したものである(Cockburn 2002)。その結果としての科学に基づいた手続きは、導入された新規形質の毒性可能性およびGM作物の健全性に関する古典的な評価に焦点を絞っている。さらに、遺伝子提供物のみならず親作物に関しても、歴史および安全な使用について詳細な考察が与えられている。全体的な安全性アセスメントは、「実質的同等性」として知られる概念によって始まり、これはすべての国際作物バイオテクノロジーのアセスメントガイドラインに共通するモデルである。基本的にこの概念は、GM製品と、安全な使用の歴史が分かっているひとつかそれ以上の適切な比較対照物との間で、類似点と相違点の同定を求める同等性のアプローチである。遺伝子提供物のみならず、親作物の歴史と安全性についても詳細な考察が加えられるが、親作物はしばしば主要な比較対照物となる。このことは、比較対照物との類似点の同定が、製品のこれらの面が問題となることはまずないだろうとの結論を出すための確固たる基盤を提供する。親作物および遺伝子提供物の安全性に関する考察は、好ましくない恐れのある形質がこれらの供給源から導入されてしまう可能性を除去したり、あるいは、改変生物にどの程度までこれらの形質が移転されてしまったのかを決定するためにこれらの形質を直接的に探査したりするうえで役に立つ。認識された比較対照物との相違点は、導入された新規形質を含め、これらが毒性、アレルゲン、栄養に関して与える可能性のある影響について古典的な評価の対象となる。形質転換過程(親から新規作物へ)の各段階で詳細なプロフィールを積み上げ、GM作物とその比較対照物との間で検出される可能性があるすべての相違点について、安全性の面から顕著な点を徹底的に評価することで、情報の包括的な基盤が構築される。この情報は、GM作物由来の食品あるいは飼料が、従来からの対応物由来の食品あるいは飼料、また適切な比較対照物と同程度に安全であるか否かの結論に達するために使用される。世界的にすでに承認されている50以上のGM作物に関する評価でこのアプローチを使って、GM作物由来の食品および飼料は、従来作物由来のそれと同程度に安全かつ栄養がある、という結論が出されている(表1-1)。過去7年にわたり累積2億3500万ヘクタール以上で栽培されたGM作物の生産と消費に関し、それに由来する立証された有害作用がまったくないということは、安全性に関するこれらの結論を支持するものである。
米国国立研究評議会(NRC 2000)は、現代の分子技術を用いて改変された作物と従来の育種法によって改変された作物とに相違点は存在しない、と結論づけた。NRC報告の著者らは、現在市場にある食品について、遺伝子改変であるがためにこれを摂取することが安全ではないことを示唆する証拠については、いかなるものも認識していない、と強調している。科学委員会は、そのような作物を栽培することは、環境に対し他の作物よりも優れている可能性がある、とさえ結論している。
委員会議長のPerry Adkissonは、リスクアセスメントの焦点は、GM植物の性質に当てられるべきで、それが生産された過程に向けられるべきではない、と注意している。しかし、NRCは、GM植物を管理する米国システムの強度を認めたうえで、市場に出るこの種の植物の量と混合が増加するため、規制当局はその任務を連携させ、手続きへの公共のアクセスを拡大する点で、一層優れた作業を行わなければならない、と警告している。新たな規則は、いずれも科学的理解の向上を反映して容易に更新できるよう、柔軟性がなければならない。
毒性学会は、2003年の見解表明(Hollingsworth 他 2003)でこの所見を支持し、バイオテクノロジーを通じた食品生産の過程が、毒性学者が既に慣れ親しんでいる類のリスクあるいは植物、動物、微生物の改善を目的とした従来の育種法が生み出すリスクとは異なる性質のリスクに結びつくと考える理由はない、と言明した。それゆえ、安全性評価において注意の焦点が当てられなければならないのは、その食品が生産された過程ではなく、食料製品そのものであると認識することが重要である。同文書はさらに、毒性学会が、実質的同等性の概念をGM作物由来の食品および飼料に対する安全性アセスメントの一部として使用することを支持する、と表明している。この手続きは、GM作物由来の食品が、従来法の育種による作物、つまり消費者によって一般に安全であると考えられているソースに由来する食品と、顕著に異なるか否かを確立することを求める。さらにこの手続きは、同定されたすべての相違点に関して安全性を保証し、新規の食品源で増加した健康上の危険要因の性質に関しては、いかなるものも批判的な評価を提供するよう、デザインされている(Hollingsworth 他 2003)。
EU委員会報告(2001)は、ヨーロッパ全域の400の科学チームについて15年にわたって行われたバイオセイフティの研究を要約しており、その中で、これまでに開発され市販されたGM植物および由来製品に関する研究は、通常のリスクアセスメント手続きに従えば、人間の健康あるいは環境に対し、従来法の植物育種での通常の不確実性を越えた新規のリスクは示していない、と言明している。より精密な技術の使用、また規制によるより綿密な調査により、おそらくGM植物は従来法の植物および食品よりもさらに安全なものとなっている。予期されなかった環境への作用は、これまでのところ見つかっていないが、もしあるとしたら、これらは既存のモニタリングシステムにより迅速に検出されるはずである。英国王立学会は、この結論を支持する2報告(王立学会 2002、2003)を発表している。王立学会は、規制環境が、リスクに関するデータ群の進歩に対応できるよう柔軟であり続ける必要がある、と警告している。
医学界は、GM植物の導入を支持している。米国医学会(AMA 1999)は、「遺伝子操作は本質的に危険を及ぼすものではなく、DAN組換え技術が健康および経済にもたらす有益性は、それが社会にもたらすいかなる危険も越えている、ということを社会一般および政府当局者に納得させるためのプログラムについては、これを支持し、実行することがAMAの方針である」と言明している。フランス科学学会の報告(ADSF 2002)は、GM作物に対する欧州モラトリアムを終結させることを要求している。同報告は、「GMOに反対する批判は、厳密に科学的な基準によって適切に対処することが可能である。さらに、GMO関連の起こりうるリスクに関する一般化は、いかなるものも不可能であり、これは科学的厳密性が事例ごとの分析からのみ進展することが可能だからである」と言明している。英国医学会さえも(当初は、GM作物に対する懸念を表明していたが)、GM作物由来の食品がもたらす健康リスクに関するアドバイスを変更しようとしている。科学倫理部長のDr. Vivienne Nathansonは、それが危害を及ぼすということ、および人々に対し直接的な健康上のリスクはない、ということを示す「証拠」はこれまでのところ目にしていない、と述べている。しかし、同博士は、GM作物が環境に及ぼす影響について、また「世界的な有益性」を人々に再保証することに関し、努力が必要であると警告している(Ahmed 2003)。

表1-1

バイオテクノロジー由来の食品の安全性アセスメントにおける国際的同意での重大ポイント

機関

事項

参照文献

1990

IFBC

一般的な安全性アセスメントガイドライン

IFBC
1990

1991

FAO/WHO

モダンバイオテクノロジー由来の食品の安全性アセスメントに関する戦略を記述した報告

 

1993

OECD

実質的同等性の諸原則を記述した報告

OECD
1993

1996

ILSI/IFBC

アレルゲン性の可能性アセスメントに関する意思決定樹図

Metcalfe

1996

1996

FAO/WHO

実質的同等性の諸原則を含む、一般的な安全性アセスメントに関する専門家審議

FAO/WHO
1996

1997

ILSI Europe

新規食品タスクフォース。新規食品の安全性アセスメント

ILSI 1997

1999

現在

OECD

新規食品および飼料の安全性に関するタスクフォースの設置。同等性評価を支持するものとして作物組成に関する同意文書の編纂も含まれる。

 

2000

FAO/WHO

実質的同等性の諸原則を含む、一般的な安全性アセスメントに関する専門家審議

FAO/WHO
2000

2001

ILSI Europe

遺伝子改変技術および食品消費者の健康と安全に関する簡明な研究書

Robinson
2001

2001

EU

EU助成による遺伝子改変生物の安全性に関する研究。「GMO研究の大局」「生活の質および生命資源の管理」プログラムの外部諮問グループが開催したワークショップの報告。

EU 2001

2001

NZRC

遺伝子改変に関するニュージーランド王立委員会

NZRC
2001

2000

2003

FAO/WHO

コーデックス食品規格委員会ガイドライン、作成はバイオテクノロジー由来の食品に関するタスクフォース、バイオテクノロジー由来の食品に関するコーデックス政府間臨時タスクフォース、国連食糧農業機関、イタリア、ローマ。

FAO/WHO
2002,
2003

2003

ILSI

作物組成データベース(www.cropcomposition.org

ILSI 2003



表1-2

バイオテクノロジー由来の食品あるいはその安全性に関し、2001/2003年に発表された報告の例

機関/著者

関連する結論/勧告

参照文献

英国王立協会

同等性アプローチの承認、組成分析に関する「プロファイリング法」の開発、官民共同による参照データ群の構築、アレルギーアセスメントは食品および吸入アレルギーを含まなければならない、市販後監視のアレルギー部分。

Royal Society 2002

科学技術および発明に対するアイルランド評議会

バイオテクノロジー由来の食品は、従来の食品よりも安全性で劣るわけではない。植物に遺伝子導入されたウイルス配列は、自然に存在するウイルス遺伝子と同等である。

ICSTI 2002

毒性学会

バイオテクノロジー由来の食品が従来の食品と同程度に安全であることの安全性アセスメントの指針としての実質的同等性、現在アセスメントに使用されている方法は現行の製品に対して適切、将来の製品に対する毒性学的方法およびアセスメント方法の更新、複合改変を評価するためのプロファイリング方法の開発、タンパク質アレルゲンのさらなる同定と特徴づけ。

Hollingsworth
他 2003

カナダバイオテクノロジー査問委員会

健康に及ぼす長期的作用の仮説に関する研究および利用可能な食品摂取データの作成。

CBAC 2002

フランス科学学会

報告。Les plantes génétiquement modifiées 「遺伝子改変植物」(Académie des sciences 2003)。「遺伝子改変植物」は、バイオテクノロジー作物に対する欧州の一時的凍結を終結するよう求めている。GMOに対する批評は、厳密に科学的基準によって適切に対処することが可能である。さらに、GMO関連の起こりうるリスクに関する一般化は、いかなるものも不可能であり、これは科学的厳密性が事例ごとの分析からのみ進展することが可能だからである。

ADSF 2002

オーストラリアおよびニュージーランド

オーストラリアおよびニュージーランドでの遺伝子改変食品の規制。

Brent 他 2003


1.3 作物と過程の比較実際例

カリフォルニア大学(UC)デーヴィス校で行われた作業の例は、同様のエンドポイントが従来の精密ではない方法と現代の精密な方法で達成することが可能であることを示すのに役立つ(Klann 他 1993、1996)。トマト加工では、可溶性固形分が多いことが商業的に望ましく、固形分が多ければ多いほど缶詰でのペースト量が増加する。一般的な加工用トマト品種Lycopersicon esculentumは、グルコースおよびフルクトースを蓄積し、約5%の可溶性固形物があり、六炭糖蓄積物と呼ばれている。野生種トマトL. chmielewskiiは、10%可溶性固形物を有し、成熟した果実では、栽培トマト品種と違って高濃度で可溶性糖分を蓄積する。しかし、このことだけが野生トマト品種の好ましい特性である。L. chmielewskiiのその他の特性は好ましいものではなく、これには小さなサイズ、苦味、低収穫量、毒性などがある。トマトはジャガイモと同様、グリコアルカロイド毒を産生するベラドンナ(ナス科)の仲間である。UCデーヴィス校の研究者たちは、より高濃度の可溶性固形分の特性を野生種トマトから栽培種トマトへと移入し、同時に栽培品種の好ましいその他のすべての特性を保持することを目的に、古典的な育種法を長年にわたって用いた。残念ながら、新品種は、多産性が低下したことに加え、毒性物質がどれだけ遺伝子移入によるものなのかを測定することの技術的困難から、進展を阻まれた。このことは、古典的植物育種法が、つねに好ましい特性の配列を生み出すものではなく、時には、育種家による管理が難しい好ましくない特性につながるものであることを示している。後代の遺伝子および生化学的分析により、スクロース蓄積果実における酸転化酵素活性の欠如が、酸転化酵素mRNAの欠失と一致していることが示されたが、当該タンパク質をコードする遺伝子は無傷であった。このことは、L. chmielewskiiの転換酵素遺伝子が果実では転写段階で抑制されており、これがL. esculentumL. chmielewskiiの種間交雑由来の後代におけるスクロース蓄積の基本となっていることを示唆している(Klann 他 1993)。
この情報をもとに、トマトの可溶性固形成分を増加するため、同じことを目標とした2回目のアプローチが実行された(Klann 他 1996)。遺伝子工学の使用を通じ、研究者たちはアンチセンスと呼ばれる技術を用いて遺伝子の相補配列を追加することで、実質的に果実のその他の好ましい形質に何の変更も加えることなく、当該遺伝子の発現を阻害した。それゆえ、もしいずれの果実が商業的栽培者にとってより同等のものであるかと尋ねられた場合(すなわち、従来法の幅広い交雑から生産され、毒性のある関連植物からの移入遺伝子を持つものか、モダンバイオテクノロジーの技術を用いて生産され、高濃度のグリコアルカロイド毒をコードしている遺伝子を導入していないものか)、ほとんどの人はモダンバイオテクノロジーによるアプローチが、実質的により同等で、より安全な可能性のある果実を作成したと結論するだろう。しかし、GM製品を規制解除状態に登録するための費用があまりにもかかりすぎることから、商業化されたのは精密さに欠ける技術を用いて作製された品種であった。それゆえ、最も安全で、効果的かつ効率に優れた農業製品の開発を推し進めるためには、科学に基づいた効率の良い安全性アセスメント手続きが作成、実行されることが重要である。


1.4 GM作物に関する規制監視

遺伝子改変作物およびそれらから由来した食品は、過去15年間に、多数の規制当局の監視下で、実験室および管理された自然環境下で徹底して広範に検査されてきている。例えば米国では次の当局、すなわち米国国立衛生研究所(NIH)、米国環境保護局(EPA)、米国食品医薬品局(FDA)、米国農務省動植物衛生検査部(APHIS-USDA)が監視に当たった。例えば、USDAは米国全体で35000以上の場所が関連した8700件の圃場検査を少なくとも承認している。同機関は、環境に開放する場合のGM植物の安定性について評価してきている。世界全体では、約3万件の圃場検査が45か国で100品種について行われてきている(国際圃場試験ソース 2002)。これまでのところ、安全性を懸念する報告へと結びついた予想外あるいは異常な結果の報告は、1件もない。
数千年にわたって食べられてきた伝統的な食品は、国家政府によって厳密に規制されたことがなく、また規制監視のための細密な手続きが実施されたこともない。しかし、GM作物に関しては厳密な検査および安全性アセスメント手続きがある。より精密さに欠ける方法、例えば交雑、変異誘発育種、種全体にわたる交雑(検査されていない数万の遺伝子が組み合わされる)を用いて改善された多くの作物品種は、世界のほとんどの場所においてGM作物と同じタイプの精密な検査あるいは調査を受けることはない。GM作物由来の食品は、市販前にその安全性に関し徹底した評価を受ける。最近の報告および活動のいくつかは、それに基づいてアセスメントが実行される戦略について焦点を当てている(表1-1)。承認手続きでは国間で違いがあるが、GM作物由来の食品に対する実際の安全性アセスメントは、国際的に承認された同意のアプローチに従っている(表1-1)。この同意は、FAO/WHO、OECD、ILSI、IFBCなどの国際機関の活動を通じて得られたもので、これらの機関は科学者、規制当局、その他の利害関係者と共同で作業をしてきた。これらの活動は、商業的GM作物の第一号が導入されるはるか以前にさかのぼることができる。それ以来、多くの重要な公刊物が発表されてきた。これらの公刊物を表1-1に概略した。
国際同意アプローチの主な原則を下記にリストアップしたが、これらは次章以降でより詳細に考察される。これらは、考察の中心における様々な諸原則を示しており、常に更新されている。

実質

的同等性:
これは安全性アセスメントの指針となる原則である。簡単に言うと、実質的同等性は、GM製品と、安全な使用の歴史がある従来からの対照物とを比較する概念である。そのような比較は、通常は、農業的性能、表現型、導入遺伝子の発現、組成(多量栄養素および微量栄養素)、栄養素吸収阻害物質および毒物の量を含んでおり、GM製品と従来からの対応物との間で類似点および相違点を同定する。同定された相違点に基づき、さらなる調査がこれらの相違点の安全性を評価するために実行される場合がある。これらのアセスメントには、導入DNAから産生されたすべてのタンパク質が含まれる。

遺伝

子導入の可能性:
食品安全性の面から見て好ましくない形質に対し、選択での優位性が与えられるかもしれない可能性がある場合には、このことが評価されなければならない。例えば、植物産生の薬剤に関する遺伝子コードが商品トウモロコシに導入されるというほとんど起こりえない事例がある。導入された遺伝子が他の作物に移入されるかもしれないという可能性がある場合には、導入された遺伝子および付与された形質が環境に及ぼしうる影響について評価されなければならない。

アレ

ルゲン性の可能性:
ほとんどの食品アレルゲンはタンパク質であるため、食品で新規に発現されたタンパク質に関しアレルゲン性の可能性を考慮しなければならない。ILSI/IFBCが導入した意思決定樹図によるアプローチ(Metcalfe 他 1996)が、国際的に承認されており、最近ではコーデックスにより更新された(FAO/WHO 2002)。このアプローチは、当該遺伝子を提供した生物の既知のアレルゲン性特性から開始される。このアプローチで頻繁に使用される事項には、導入タンパク質とアレルゲン性タンパク質の構造上の類似点、新規に導入されたタンパク質の消化性、最後にそして必要な場合には、導入されたタンパク質もしくはバイオテクノロジー由来の製品を用いた血清結合検査がある。

毒性

の可能性:
毒性を持つことで知られるタンパク質もいくつかあり、これには病原性細菌によるエンテロトキシンや植物由来のレクチンなどがある。一般に使用されている毒性検査には、新規に発現したタンパク質のアミノ酸配列と既知の毒物のアミノ酸配列とのバイオインフォマティックによる比較などがあり、他には当該タンパク質の急速投与によるネズミ毒性検査がある。精製されたタンパク質に加え、GM作物由来の全粒は、体外での消化性検査のみならず、動物試験(例えば、古典的な亜慢性(90日)毒性ネズミ検査)の対象とされてきている。

意図

されていない影響:
遺伝子改変の意図された作用とは別に、導入されたDNA配列と植物ゲノムとの相互作用は、意図されていない影響を生み出す可能性がある。その他の発生源としては、導入形質が植物の代謝を予想外に変更してしまう場合がある。意図されていない影響は、予想されるものと予想されないもののいずれもある。例えば、改変の対象となっている代謝経路の中間物と最終物の変動は、好ましくないものの予想が可能である。しかし管理領域でのランダムな挿入による未知の内因性遺伝子の発現は、意図されておらずまた予想することもできない。当初の数百から数千におよぶ導入事例の中から単一の商業化製品を選択する製品開発の過程で、意図されていない変化をもたらす可能性があるほとんどの状況は削除される。選択された商業化製品の候補事例は、表現型、農学、形態学、組成について詳細な分析をさらに受け、そのような影響に対する一層の選別を行う。

市販

後の監視:
市販前の安全性アセスメントは、GM作物由来の食品あるいは飼料の消費による有害事象の可能性を排除するため、厳密でなければならないということは認識されている。しかし、そのような食品については長期的作用を市販後監視することで、モニターもしなければならないと主張する者もいる。安全性について意味ある情報を提供する上で、そのような監視調査が検証可能な仮説なしで技術的に可能か否かについては国際的な同意は存在しておらず、また安全性について検証可能な懸念のあるGM作物は規制審査にまずパスしないだろう。測定可能なバイオマーカーの使用の概念が提案されているが、そうなるとこれらをすべての食品および飼料に対し、その供給源が何であろうと、また適切な経済負担に関する疑問が生じようとも、常に決定されなければならない必要がある。

FAO/WHO、OECD、ILSI、IFBCなどの国際機関とは別に、その他の機関もGM作物由来の食品の安全性に対し、それぞれの見解と勧告事項を形成してきている。表1-2で、専門家報告の最近の例について、いくつかは2001/2002年に公表された最新の関連結論と共に一覧にした。
これらの報告の一般的結論は、現行の安全性アセスメント方法は現在市場にあるGM作物製品に関して適切であると考えられる、としている。将来のより複雑な改変を伴うGM作物の安全性アセスメントについては、有効性の確認された方法をさらに開発する必要性が指摘されている。さらに、報告のひとつは、仮説に基づいた市販後監視を勧告しているが、他のものはアレルギーに指向を置いた監視を特に勧告している(表1-2)。
GM作物の食品安全性アセスメントに関する包括的概要のいくつかは、科学学会誌で公表されてきている(例:Kuiper 他 2001、Cockburn 2002)。この同等性アセスメント概念およびその適用は、第3章でより詳細に論じる。

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