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1.戦略上の課題

 ライフサイエンスとバイオテクノロジーが、情報技術に続く知識経済の波となって我々の社会と経済に新たなチャンスをもたらすことは広く認識されている。

 ライフサイエンスとバイオテクノロジーは政策的、社会的に重要な課題も提起しており、幅広い社会的議論を巻き起こしている。このことは、2001年の秋に当委員会が実施した市民との総合的な協議の場で確認されたとおりである (i)。これらの課題にはよく注意して慎重に取り組んでいかなければならない。だが欧州では、ライフサイエンスとバイオテクノロジーに関する責任がさまざまな政策、さまざまな主体に置かれている。何が問題かについての認識を共有せず、共通の目的も持たず、また効果的なとりまとめも図らないまま、欧州ではこれらの新技術のもたらす問題とチャンスヘの取り組みが、ゆっくりとかろうじて進んできたにすぎない。

 我々の民主社会は、基本的権利に関する憲章の中でEUの認めた基本的価値観を尊重しながら、ライフサイエンスとバイオテクノロジーの開発と応用が確実に行われるように、必要な保護と対話の道筋を提供しなければならない。

 欧州は政策上重大な選択を迫られている。受け身で消極的な役割を受け入れ、どこかよそで進められた技術開発の影響を甘んじて耐えるか、さもなければ欧州の価値観と基準に沿って責任あるかたちで当該技術を活用するように、積極的政策を打ちだすかのどちらかである。欧州が躊躇すればするだけ、この二番目の選択肢が実現する可能性は薄くなる。

 この件に関する重要な政策面は共同体が管轄している。したがって当委員会には、今後進むべき道を見つけるのを助ける責任がある。本取り組みはそのための枠組みを提案するものである。



幅広く奥深い影響があるために、政策の対応が必要になる


1.1.技術革命と政策の対応
 ライフサイエンスとバイオテクノロジーの知識基盤では革命が進行しており、医療、農業生産、食料生産、環境保護、新たな科学的発見の分野で新しい応用の道が切り開かれつつある。この革命は世界的に起こっている。
 生物と生態系に関わる共通の知識基盤からは、ゲノミクスや生命情報料学などの新し科学分野と、遺伝子検査やヒトの臓器や組織の再生といった新しい応用が生まれている。こうした科学分野や応用からさらにまた新たな応用が生まれ、それが我々の社会や経済に、遺伝子組換え作物などの利用よりもはるかに大きな影響を及ぼすことが考えられる。

 知識基盤の拡大に伴って、最先端の科学的発明は未曾有のスピードで実用的な用途や製品へと変身している。つまり、新たな富が形成される可能性が出てきている。古くからの企業が刷新され、新しい企業が誕生し、知識経済を支える熟練労働者の雇用が創出されるのである。最先端技術の中でもライフサイエンスとバイオテクノロジーは、主導的な知識経済国になるという欧州共同体リスボンサミットの目的達成に、おそらくもっとも大きく貢献できるものとみられる。ストックホルムで2001年3月に開かれた欧州理事会はこのことを確認し、当委員会に対して、欧州理事会とともに次のことを行うよう要請した。すなわち、それらの開発が消費者と環境にとって健全かつ安全で共通の基本的価値観と倫理原則に沿ったものになるように確保しながら、主要な競合相手と対等に張りあえるように、バイオテクノロジーの持つ可能性を全面的に生かすのに必要な手段を検討すること、欧州のバイオテクノロジー部門の競争力を強化すること。

 欧州におけるこれまでのライフサイエンスとバイオテクノロジーの実績からすれば、上記目的の達成は容易ではない。


欧州はためらっているように見える


 欧州でもその他の諸国でも、激しい社会的論争が持ちあがってきた。社会的論争のおかげで重要な問題に対する意識は高まり、具体的改善も見られたが、その焦点は遺伝子組換え生物(GMO)と個々の倫理的問題に置かれており、しかもそれに関して世論は真二つに分かれていた。他の地域や諸国と同様に本共同体でも、これらの分野における科学技術の進歩によって、むずかしい政策課題と複雑な規制課題が持ちあがっている。社会に受け入れられるかどうかが不確実であったために、欧州では、どのような要因が我々の技術革新力、技術開発力、その導入力を決定するかに対して、十分な注意が注がれなかった。そのため我々の競争力は伸びず、研究力は弱まり、長期的には我々の政策オプションを狭めるおそれさえ出てきている。

 現在、欧州は岐路に立っている。将来および地球全体を視野に入れて、責任ある政策を積極的に打ちだす必要がある。さもなければ欧州でも世界でも、我々は他の国々が打ちだした政策を突きつけられることになる。懸案の技術と応用方法は急速に進歩している。したがって当委員会は、欧州の選択すべき政策はこの新たな知識と応用方法の提起する問題を扱うことの是非ではなく、それをどのように扱うかを取りあげることだと考える。




責任が分散されていても当委員会は貢献できる


1.2.欧州の戦略

 欧州委員会は、上記課題に対する検討と取り組みに積極的に貢献する所存ある。2001年9月には、懸案となっている広範な問題に関して、幅広い協議を開始した (ii)これらの問題のうちで本共同体が対処できるものはほんのわずかしかなく、大半は他の多くの公的機関や民間組織の管轄である。本共同体は、一部の分野、たとえば製品承認、域内市場の保護、農業政策、貿易政策などについては独占的に法的権限を有するが、それ以外の分野については法的権限を持たないか、さもなければ加盟国と権限を分担しあっている。したがって成功しても失敗しても、最終的には共同責任となる。

 しかし権限分担原則を尊重することで、欧州各国が共通目標に向かって協力することが妨げられてはならない。地球規模の長期的なチャンスと難題に対する共有のビジョンの中で、特に、開放的脇調と、リスボン戦略を支えるペンチマーキングを通じた新たな形態の協力と監視に頼りながら、我々は明確な戦略目標を打ちたて、整合性のある全体的なアプローチをとることができるのである。


戦略上の
優先順位


 本取り組みで欧州委員会は、一つの戦略を提案する。これは次の三つの大きな疑問に答えられるように、欧州が持続可能で責任ある政策を策定するための戦略である。

  • ライフサイエンスとバイオテクノロジーは、健康、高齢化、食品、環境、持続可能な開発への世界的需要の多くに取り組むチャンスを提供する。どのようにすれば欧州は、上記技術を開発して応用し、それによって社会の需要を満たし、かつその競争力を高められるように、人材や工業資源や財源を最大限に引きつけることができるのだろうか。
  • 市民の幅広い支持を得ることは不可欠である。倫理的、社会的な問題や懸念にも対処しなければならない。どのようにすれば欧州は、市民から信頼され支持され、効果的で信用できる、責任ある政策を打ちだすことができるのだろうか。
  • 科学技術革命は現に世界的に起きており、富める国、貧しい国の別なく、世界のあらゆる国々で新たなチャンスと難題を生みだしている。どのようにすれば欧州は、この地球規模の難題に最善のかたちで対応し、明確な国際的ビジョンを持って域内政策を打ちだし、国際的に活動してその利益を追求できるのだろうか。

戦略と行動計画

 当委員会は、倫理を土合として、科学に基づいた市民主体の責任ある攻策によって<上記問題>に対応するための戦略を提案する。この戦略の狙いは、欧州がライフサイエンスとバイオテクノロジーの持つプラスの可能性の恩恵にあずかれるようにし(第2、3章)、適切なガバナンスを確保できるようにし(第4章)、その国際的な責任を果たせるようにすることとである(第5章)。ここに提案するのは統合型の戦略であり、その個々の構成要素は互いに依存しあい、かつ補強しあうものである。

 この戦略を実施するには、整合性のある信頼できる政策の策走に向けた継続的で開かれた協力が必要である(第6章)。当委員会はまた、当委員会および本共同体による具体的な措置のための行動計画を提案するとともに、権限分担原則を尊重しつつ、地の官民の主体に対する勧告も提案する。


(i) 委員会通達ライフサイエンスとバイオテクノロジーの戦略的ピジョンのための協議文書」、COM{2001}454(2001年9月4目付)。2001年9月27〜28日に開かれた委員会利害関係者会議に関する通達文書、インターネットによるパブリックコメント、および会議の結果は次のサイトで入手できる:http://europa.eu.int/comm/biotechnology
(ii) COM(2001)454(2001年9月4日付) 。

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