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7. トマト

Jacqueline Philouze、Louis Hedde著


A. トマトの特性

a) 原産地;多様性の中心地域

野生種のトマト(ナス科(Solanaceae family)、Lycopersicon属)は、南アメリカの西部、すなわち、コロンビア南部からチリ北部まで、太平洋沿岸(ガラパゴスを含む)からアンデス山脈の西側前山(foothill)まで広がる地域を起源とし、種によっては標高が最高3400mの場所で生育していた。この野生型のうち、栽培種のトマトは、L. esculentum var. cerasiformeであり、これも同じ地域を起源とする。自生地に留まったままである他の8種の野生のトマトとは異なり、L. esculentum var. cerasiformeは、アメリカのあらゆる熱帯および亜熱帯地域に、テキサスやフロリダまでも拡大した。現在広く認められているある仮説は、トマトは、メキシコで栽培化されるようになったというものであるが、その時期については分かっていない。トマトは、16世紀前半に、メキシコからスペインに伝えられ、その後、スペインから他のヨーロッパの国々に、また他の大陸に移動した。

b) 使用の地理的分布:主な生産地域

トマトは、長い間、疑いの目で見られてきた。トマトは、ナス科(Solanaceae)の他の種(例えばベラドンナ(Belladonna, nightshade)など)のように毒性があると考えられ、長い間、観賞用または珍品的価値のために栽培されていた。この根強い偏見は、18世紀、この植物が作物として栽培され始めた時まで残っていた。トマトは、19世紀、その後20世紀には、より重要性を帯びてきた。現在、トマトは、あらゆる国、実質上赤道から極圏まであらゆる緯度で栽培されている。トマトは、世界で最も広く食されている野菜である。世界的な生産高は、1978年の4800万メートルトンから1983年の5600メートルトン、1988年の6400メートルトン(FAO、1989年)と、年々増加している。表7.1に、生産国上位10か国、およびEEC加盟国のうち生産高が最も高い6つの国の生産高を示す。


表7.1. 1988年の世界のトマト生産高
(生産国上位10か国)

生産地

表面積
(×1,000ヘクタール)

収率
(トン/ヘクタール)

総生産高
(×1,000トン)

世界
アメリカ合衆国
ソビエト社会主義共和国連邦(USSR)
中国
トルコ
エジプト
イタリア1
スペイン1
ブラジル
ルーマニア
ギリシア1
ポルトガル1
フランス1
オランダ1

2,669
166
400
341
140
172
116
61
62
75
35
16
13
2

24.0
50.0
18.0
16.1
37.5
29.1
39.9
42.6
38.4
30.7
54.6
53.1
57.6
239.1

63,988
8,301
7,200
5,475
5,250
5,000
4,643
2,596
2,378
2,300
1,929
865
743
550

1. EECにおける6つの主要生産国のうちの1つ
出典:FAO(1989年)


c) 分類学的地位

Lycopersicon属は、わずか9種のみ、すなわち栽培種のトマトであるL. esculentum(および小さな実をつけ、トマトと容易に交雑する、その野生型のL. esculentum var. cerasiforme)と、以下の、すべて小さな実をつける8種の野生種からなる:

- L. pimpinellifolium、赤い実をつける;
- L. cheesmanii、オレンジ色の実をつける;
- L. hirsutum    
- L. parviflorum  
- L. chmielewskii  緑色の実をつける;
- L. chilense  
- L. peruvianum  
- L. pennellii  

これらの種の間に系統学的なつながりが存在するかどうかは分かっていない。L. pimpinellifoliumが、L. esculentumの祖先であるという仮説は、もはや認められていない。これら2種は明らかに、さらに前の共通の祖先に由来する。より確かな仮説を生み出すために、今後数年に渡る分子生物学研究が期待されている。

d) 遺伝学および細胞遺伝学的特性

栽培種のトマトは、Lycopersicon属の他の種と同様、2n =24の染色体を有する二倍体の種である。
トマトの葉のシルバリング(silvering)は、細胞質遺伝が原因である。同様の遺伝に伴う他の形質は知られていない。

e) 生殖質の移動に関する現在の植物衛生学的検討

タバコモザイクウイルス、ならびにCorynebacterium michiganensePseudomonas tomato、およびXanthomonas vesicatoriaなどの病原因子は、トマト作物に甚だしい損害をもたらす可能性があり、種子を介して伝染可能である。乾熱で(80°Cで24時間)、あるいは、さらに好ましくは、乾いているあるいは湿っているときに、次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)を用いて種子を処理することが、有効な清浄法である。
フランスでは、例えば、汚染された堆肥中で生育された若いトマトが、近隣国から輸入されたときに、他の病気が発生した。根に寄生するフザリウム(Fusarium)(Fusarium oxysporum radicis lycopersici)の場合がそうであり、フランス南部では、多くの温室栽培者に、新しい品種への完全な転換を余儀なくさせた。最後に、いくつかの動物性寄生生物(例えば、温室コナジラミTrialeurodes vaporarorium、ハモグリムシLiriomyza亜種)が、一連の異なる種の野菜または花の導入によって、また、こうした非常に強力な有害生物が冬に生き延びることができる温室の発達によってもたらされ、急速に広がりつつある。地中海沿岸では、それらのうち最悪なものは、ウイルス性の病気の媒介動物であり得、その例としては、アブラムシ[ジャガイモウイルスY(PVY)およびキュウリモザイクウイルス(CMV)の媒介動物]、アザミウマ(thrips)Frankliniella occidentalis[トマト黄化えそウイルス(TSWV)の媒介動物]、ならびにコナジラミBemisia tabaci[トマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)の媒介動物]が挙げられる。

f) 現在の最終用途

トマトは、生で、あるいは加工して食べるために栽培される。トマトペースト、ジュースまたはケチャップ、および皮をむいた、あるいはつぶした(crushed)、あるいは粉末状のトマトを含めた非常に様々な保存食品が、業界によって提供されている。

生殖のメカニズム

a) 生殖および受粉の様式

栽培種のトマトは、Lycopersicon属の他の野生種と同様、種子繁殖を用いて繁殖させる。挿木も使用できるが、種子繁殖よりも費用が高く、成長した植物から採った挿穂の衛生が、望まれる通りにならないことが多いので、実際には使用されない。
栽培種のトマトであるLycopersicon esculentumでは、雄蕊円錐体(staminal cone)は、雌蕊を完全に囲み、雄蕊は下方に面する柱頭を囲んでいる。雄蕊の裂開は、雄蕊円錐体の内側の縦方向の2つのスリットによって起こる。花粉は、柱頭が、まさに最も受容性のある時に放出され、この花は、完全な自家受精を確実にする構造となっている。

b) 多年生対一年生

栽培種のトマトは、霜に弱いことから、一年生植物であると考えられる。野生種は、原産地では一年生草本または寿命の短い多年生植物である。野生種も、霜に弱い。

c) 栄養繁殖体の拡散および生存のメカニズム

花の構造、ならびに花蜜がないこと(昆虫が花粉を運ばないと考えられる)が原因で、温帯の国々では、他家受精の割合は、1000あたり約2〜3と、非常に低い。
熱帯または亜熱帯の国々では、2つの要素が組み合わさって、他家受粉の割合が数パーセントとなり、それによって育種者にとっての問題が引き起こされる可能性がある。第1に、花柱の長さが環境に応じて変わり、雄蕊円錐体よりも長くなる可能性があることである;第2に、非常に活発な昆虫(例えば、フランス領アンティル(French Antilles)におけるExomalopsis亜種)の存在によって、他家受粉が確実に行われることである。したがって、制御された自家受精または交雑のために、花部をセロハン袋に入れることが望ましい。
栽培者、特に温室を使用する栽培者は、トマトの結実の向上を求めている。したがって、(花粉が少なすぎる、あるいは相対湿度が高すぎる場合、)完全に開花した花を付けた花部を、短く(1秒)震動させ、花粉の放出を助ける。これを、電気式震動器(electric vibrator)を用いて週3回行う。ここ数年、これと同じ目的のために、マルハナバチ、Bombus terrestrisが使用され、専門の供給者からハチの群体を入手した温室栽培者は、高い満足度を得ている。ハチが温室から逃げ、近くのトマト区画に行くという非常にわずかなリスクがあり、これは完全には排除できない。
Lycopersiconのある種の野生種は、強い自殖性であるが、他のものは他殖性、場合によっては自家不和合性である。他殖は、その原産地に他家受粉を行う昆虫が存在することによって、また、花の構造が、雄蕊円錐体よりかなり長い(最高5mm)花柱を有するものであることによって確実になる。

d) 近縁種との交雑能

L. esculentumが雌として用いられる場合、異種交配のみが上手くいく。いくつかの交雑種は、(L. pimpinellifoliumL. cheesmaniiL. chmielewskiiL. parviflorumL. hirsutumL. pennelliiを用いて)容易に得られる。L. peruvianumおよびL. chilenseを用いる場合、これはかなり難しく、育種のこの障害を乗り越える一つの方法は、F1未熟胚を培養することである。
本来、自然発生的な交雑が考えられるのは、熱帯および亜熱帯地域におけるL. esculentum var. cerasiformeとの交雑、ならびにLycopersicon属が発生した場所におけるいくつかの野生種との交雑のみである。

毒物学

緑色のトマトは、トマチン、すなわち苦味があるが成熟すると消失するアルカロイドの含有濃度が低い。しかし、野生型に近いある種のトマトの果実(例えばアンティル(Antilles)における「トマドス(tomadoses)」)は、成熟しても少量のトマチンを含む。このアルカロイドは、品種改良によって容易に取り除くことができる。

a) 生活環に関する環境要件

トマトの最適温度は、夜間15°C〜18°C、日中20°C〜25°Cである。33°C以上、または7〜10°C(品種によって異なる)より低い温度では、花粉の減数分裂が、完全に阻害される。温度が10°C未満になると、植物の生育が止まる。
トマトは、光周期に鈍感である。しかし、この種は、特に開花が始まるときに、かなり多くの光を必要とする。北ヨーロッパ、特にオランダの育種者は、日が短い曇りの日に適合した植物を育種してきたので、非常に収率が高く、温室で一年中実を付ける能力がある栽培品種を育種することができる。

B. 現行の育種の実践および品種開発の研究

a) 育種の主要技術

i) 生殖質の維持管理

L. esculentumの様々な遺伝形質は、自家受精によって維持される。野生種では、その多くが他殖性、さらには自家不和合性であり、1つのサンプルを得るために、およそ10本の植物が必要である;各植物は、それぞれ雌として使用され、他の10本の植物からの花粉の混合物を用いて人の手によって受粉が行われる。これは、最初のサンプルの多様性および異型接合性が、できるだけ確実に維持されるようにするためである。

ii) 基本育種

現在使用されているトマトの栽培品種はすべて、制御された交雑および各世代における最も優れた植物の選抜を使用して開発された。これらは、優れたF1雑種がますます求められる場合に、自殖性植物を改良するための典型的な方法である。系統法が、圧倒的に一番広く普及している:遺伝子の決定が簡単である形質を固定することは、効率のよい方法である。これらは、トマトでは多数存在し、欠陥のある遺伝形質、特に果実の外観に関する遺伝形質を素早く排除する助けとなり、これは、特定の品種の栽培を不可能にする。トマトの重要な形質の多くは単一遺伝子的であるので、戻し交雑法が非常に有用である。遺伝率の低い形質(果実の可溶性固形物含量(soluble dry-matter content)など)を改良するために、単粒系統法(Single Seed Descent;SSD)が使用される。最後に、交雑世代と自家受精世代を交互に繰り返す循環選抜が、いくつかの遺伝子によって決定されるある特定の形質を与える遺伝子を組み合わせる方法である。様々な方法が互いに補い合い、育種プログラムの一部として交互に行われる。

iii) 品種開発

最も優れた系統を、自家受精によって維持された純粋な栽培品種/品種として増殖および分配することができる。
しかし、今日、栽培品種は、ますますF1雑種になりつつある。多くのF1雑種について、試験が行われ、これらの系統の、組み合わせに対する一般的な、および特有の能力が評価されている。F1雑種の栽培品種からの種子は、雌親の花が除雄され、雄として選ばれた植物からの花粉を用いて受粉が行われた後に、手作業で得られる。

b) 育種の主要目的

主な目的は、異なる環境および栽培方法への適応、果実の品質、ならびに寄生生物への耐性に関する。Lycopersiconの野生種は、これらすべての点で非常に価値があることが判明している。Rick(1986年)は、これを非常によくまとめている。
適応の目標は、様々な種類の栽培に十分に適応した品種の育種によって達成される。植物は、区画されているいないには関わらず屋外で栽培されることもあれば(この場合、単一の作物または数種の作物が存在することとなる)、暖房付きまたは暖房無しで、土壌または人工栽培液(media)で、覆いの中、すなわちプラスチックまたはガラスの中で栽培されることもある。
様々な異なる栽培条件、および様々な播種時期に適合する品種の育種は、当然、適切な育種場(breeding site)を必要とする。したがって、育種者は、標的とされる栽培地域と気候条件が最も良く似ている場所であればどこでも、すなわち世界中の多くの育種場で作業している。したがって、育種のために使用される遺伝物質は、世界中の広範囲の地域に分散する。新しい品種の成功が保証されるべきである場合、この物質が大きく異なる環境条件下でどのようにふるまい、反応するかどうか知ることが重要である。
育種者は、非常に多様な気候および土壌条件、特に、今日の栽培者にとっての制約である条件に適合する品種を探求している。オランダでの研究では、新しい品種が、日が短い曇りの日に適合するために育種されたおかげで、一年中温室でトマトを栽培できるようになった。極度の高温および低温への適合を高めるための研究は、いくつかの国で行われている。高標高型生体型の野生種L. hirsutumは、特に、低温への耐性に関わる場合(種子の発芽、生育、結実)に価値ある親植物となる。L. cheesmanii種は、塩分に耐性がある植物を育種するために、親として一般的に使用される。
青果市場のために、外観(色、形、大きさ)のみならずトマトの堅固さや貯蔵寿命も向上させるための研究が行われている。長距離を輸送される品種のために、堅固さや長期の保存性が、ますます必要となってきている。こうした品種は、現在、市場で見つけることができる。長期の保存性のための遺伝子の構造は複雑であり、多遺伝子性で半優性であると思われる。ある種の雑種品種はまた、単一の非成熟(non-maturation)遺伝子(rin = 成熟抑制因子、またはnor = 非成熟(non-ripening))をもつ。こうした遺伝子をもつヘテロの雑種は、よりゆっくりと成熟する。残念ながら、こうした遺伝子は、食味にあまり好ましい影響を与えない。
育種によって品種に高ビタミン含有量(ビタミンC、bカロチン)を組み込むことが可能であり、また、食味も改良することができる。しかし、こうした研究は、採算がとれなければならず、取引業者や消費者は、ヘクタールあたりの収量の損失見込みの埋め合わせをした価格を支払うこととなる。現在販売されている唯一の例は、チェリートマト、すなわち市場が非常に小さく固形物含量が多い、製品用トマトである。現在、ヘクタールあたりのメートルトンという概念が、ヘクタールあたりの乾物生産(dry-matter)という概念へと徐々に置き換わりつつある。
トマトは、非常に様々な環境で栽培されているので、しばしばその発育に対する理想とは離れた条件下で、非常に多くの病原因子の影響を受ける可能性がある。世界全体で、ほぼ200の病気が挙げられている。野生種は、寄生生物に対する耐性の非常に価値ある供給源であることが判明しており、実際、現在までに、栽培種のトマトに組み込まれるあらゆる形の耐性が、野生種によって提供されている。野生種に見られ、現在育種プログラムで使用されている様々な形の耐性を、表7.2に列挙する。

c) 育種の重要な目標のための試験

病気への耐性についての試験(人工接種試験)、また、様々な形のストレスへの耐性についての試験(例えば、種子の発芽、生育、低温での花粉形成)は、空調された室内で実施される。育種試験および農学的試験は、温室内で、あるいは屋外で実施される。


表7.2. トマト栽培品種に導入された寄生生物耐性

- L. pimpinellifolium

 

O+++
O++
O+++

O++
O+
O+
O+
O+++
O+
O++
O++

O+

I
I-2
Ve
-
Cf-2
Cf-5
Cf-6
Cf-9
Sm
Ph-2
Pto
-
-
-

Fusarium oxysporum f. sp. lycopersici 病原型0(以前は種1)
Fusarium oxysporum f. sp. lycopersici 病原型1(以前は種2)
Verticillium ssp. 病原型0(以前は種1)
Verticillium ssp. 病原型1(以前は種2)
Cladosporium fulvum (= Fulvia fulva
Cladosporium fulvum (= Fulvia fulva
Cladosporium fulvum (= Fulvia fulva
Cladosporium fulvum (= Fulvia fulva
Stemphylium ssp.
Phytophthora infestans
Pseudomonas tomato

Pseudomonas solanacearum (熱帯の国々)
Corynebacterium michiganense
トマト黄化えそウイルス(TSWV)

- L. cheesmanii

 
 

-

Liriomyza ssp.

- L. hirsutum

 

O+
O+

Tm-1
Cf-4
-
-

タバコモザイクウイルス(TMV)
Cladosporium fulvum

Oidium lycopersicum
Corynebacterium michiganense

- L. peruvianum

 

O++
O+
O+

O+
O+++
O+

O+++

Frl
pyl
Cf-4
Lev
Tm-2
Tm-22
-
-
Mi

Fusarium oxysporum f. sp. radicis lycopersici
Pyrenochaeta lycopersici

Cladosporium fulvum
Leveillula taurica

タバコモザイクウイルス(TMV)
タバコモザイクウイルス(TMV)
トマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)
トマト黄化えそウイルス(TSWV)
Meloidogyne ssp.

- L. pennellii

 
 

1-3

Fusarium oxysporum f. sp. lycopersici、病原型2(以前は種3)

O 市販されている栽培品種に導入された耐性の、作物栽培における現在の
 重要性(+、++、または+++)と、 確認されている場合、遺伝子記号を示す。
- 示された野生種にもともと見られる耐性。


d) 一般性能の評価

病気への耐性に関する試験のために、一連の指標が作成されている。栽培期間を通して温室および屋外試験をモニターし、果実を収穫して計量およびカウントを行い、外観や化学組成を分析する(製品用品種については固形物含量および酸味)。

C. 商業利用のための種子増産

a) 種子生産の段階

純粋な品種の種子増産およびF1雑種の種子生産は、世界中の多くの民間企業によって実施される。毎年世界中で使用されるトマト種子の総量は、約300〜500メートルトンであり、このうち30パーセントは、F1雑種種子である。どの位の土地がこの作物によって覆われているのか正確に述べることは難しいが、おそらく約3,000ヘクタールと推定される。
種子生産地は、世界全体−ヨーロッパ、北および南アメリカ、およびアジアに見られる。
F1雑種種子は、専門企業(specialist firm)によって生産され、長い間、ブルガリアや台湾のようないくつかの国が、この分野における先駆者であった。今日、F1雑種トマトの生産地は、アジア、南アメリカ、および北ヨーロッパ(温室内)に、さらに広がっている。

b) 隔離の実施

トマトは、自殖性の種のようにふるまうので、生産区画を隔離する必要はない。自然発生的な他家受精という偶発的な実例も起こりうるが、その割合が1パーセントを超えることは決してない。種子の育種者および生産者は、純粋な品種およびF1雑種品種の種子を、適合性(compliance)および発芽の確実性についてチェックしなければならない。

c) 種子の保証および承認の役割

ほとんどの先進国、特にヨーロッパおよびアメリカ合衆国では、種子を販売することが認められるためには、国または共同体のリストへの、新しい品種の登録が必要である。公的な登録試験の目的は、使用者に、その品種が、安定であり、均質であり、以前の品種と異なるという保証を提供することである。しかし、品種がリストに含められることで、その農学的価値が自動的に認められるというわけではない。園芸用種子については、生産企業以外の組織体による保証は存在しない。各企業は、顧客に対して完全に責任を負う。
トマト種子の育種者および栽培者は、一連のすべての規制に従うことによって、彼らが生産したものの品質を保証することができる。これらは、種子用植物(seed plant)(原種子(basic seed))および市販の種子に適用される。F1雑種では、その方法は、以下の通りである:

各親系統について:
- 均質性および病気への耐性をチェックする;
- 遺伝的浮動の変動を予防するために、一定の数(10〜15)の系統の原原種(breeder’s seed)を生産する;
- 原種(foundation seed)の生産は、原原種を用いて制御される;
- 原種に関する植物検査、植物試験、およびRFLP。
雑種種子生産:
- 生産組織および生産地に対する規制;
- 収穫された種子に対する規制;
  発芽;
  種子伝達性の寄生生物が存在しないこと;
  時々または計画的な消毒;
  純度検査:自家受精、偶発的な他家受精、交雑のリスク;
- 品種の同定:
  植物の検査;
  RFLP(制限酵素断片長多型)。

市販のトマト種子では、管轄官庁によって定められる公的な保証規定を必要としないが、業界で定められた最低限の品質基準を守らなければならない。

d) 品種の監視;市場に出された後の寿命

新しい品種は、市場に出される前に、実地で品種の特性を確認し、最も適切な栽培方法を決定するために、栽培者による2年間の屋外試験が課される。その後この情報は、種子会社の開発スペシャリストおよび普及機関(extension institute)と生産者協会の技術者とともに取り組んでいる育種家に送られる。
ひとたび品種が市販された後は、育種者、販売およびマーケティングチーム、作物の専門家、および生産者の間で情報交換が続けられる。この共同は、新しい品種が成功するべきであり、育種者が作物の適応(新しい栽培技術)、品質(消費市場への適合)および植物の衛生(新しい病気)によって提起される多くの新しい潜在的問題を理解するべきであるならば、必須である。

栽培条件および消費市場の非常な多様性により、トマトは、市場向け農園の種の中で、青果としても加工市場用としても、間違いなく最も多くの変種を有するものである。新しい品種が、非常に突然出現し、特に、非常に特化された生産地域で栽培されるものでは、きわめて短命の品種もある:これらの例としては、ヨーロッパの温室用品種や、スペインおよびモロッコにおける輸出用作物が挙げられる。

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