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マイコプロテイン

D. A.ジョナス博士
英国農漁食糧省食品科学局II

1. 検討する概念の要点

 「無害であることの合理的確実性」という概念では、意図する用途と予想される摂取条件を考慮する。
 この概念を裏付ける証拠は、マイコプロテインに対して実施された広範にわたる毒性・栄養試験で得られた。詳細は第6項に示す。
 このケーススタディでは、マイコプロテインが新規性の連続の開始点に位置するために実質的同等性の判断ができず、したがって安全性試験を行って無害であることの合理的確実性を示す必要があることを「連続体」の概念により示す。これについては第5項と6項で述べる。
 所定の工程を用いて生産されたマイコプロテインが安全だと宣言されたあかつきには、工程をわずかに変更して生産されたマイコプロテインに対して「実質的同等性」の概念を当てはめることができるようになる。これについては「補遺」に述べる。

2. 生物/ 製品

 マイコプロテインは高繊維質低脂肪食品で、天然に存在する非病原性の糸状菌Fusarium graminearumの菌株に由来する。タンパク質の含有量は全卵と同じくらいで、赤身の肉に似た食感がある。
 マイコプロテインは、炭水化物の培地中で糸状菌を連続制御無菌培養して生産される。収穫時には菌糸体と発酵培地を一緒に取りだし、それに温度衝撃を加えて菌糸体のRNA含量を減らしてから、濾過して発酵培地を除去する。このマイコプロテインは、野菜の風味と卵白を加えてから調理され、使われる製品の種類に応じて輪切り、さいの目切り、みじん切りなどにされる。

3. 伝統的な製品評価

 マイコプロテインに対応する伝統的な食品はない。この製品の評価には、まったく新しい手順を作成しなければならなかった。
 この評価と得られた経験を参考にすれば、今後は、これと同等の新しい微生物タンパク質製品の評価がやりやすくなるはずである(連続体の概念)。

4. 伝統的評価に利用できるデータベース

 マイコプロテインは新しい食品であり、これに対応する伝統的な食品はないので、この種の製品の評価に利用できるデータべースはなかった。この評価は、マイコプロテインの生産に使われたF. graminearum菌株に関する組成情報と安全情報に基づいて行われた。

5. 新規の成分/ 製品

 マイコプロテインは、本当の意味で新しい食品として利用の安全性評価を受けた英国初の食品であった(連続体の概念)。

6. 追加される評価手順

 開発者は、審査用に製造工程と製品に関する広範なデータを提出した。

 a) 生物

 F. graminearumの分類学的な情報が提示され、マイコプロテインの生産に用いた菌株によるマイコトキシン生成の可能性が探られた。発酵条件下でも、またF. graminearumの他の菌株を誘導してマイコトキシンを生産するようにできる試験条件下でも、検出可能なマイコトキシンの生成は認められなかった。

 b) 工程

 培地はいくつもの微量栄養素を添加した炭水化物の水溶液である。この炭水化物は、最終規格のなかで承認された原料からのみ得ることができた。
 種菌の培養は無菌状態で行う。発酵の全段階で汚染試験と菌株安定性試験を行う。
 発酵は無菌状態で行い、オンライン監視、オフライン監視の両方により制御する。溶存酸素、pH、浮遊物質など、いくつものパラメータを測定する。さらに、外来生物と変異体が確実に入らないようにするため、発酵を定期的に監視する。
 成人の微生物タンパク質摂取によるRNA摂取量は1日当たり2gを超えてはならないとする世界保健機関(WHO)の1972年勧告にしたがい、収穫される糸状菌に含まれるRNAを減らすための有効な方法が探索された。その結果、温度衝撃により製品中のRNA含量をおよそ90%減らせることが判明した。
 温度衝撃処理の後、培地とRNA分解産物からなる混合物を濾過して回収したマイコプロテインには、およそ30%の固形分が含まれている。

 c) 製品

 標準的なマイコプロテインの組成に関して提出された分析データには、窒素含有物質、アミノ酸、炭水化物、繊維質、脂質、ミネラル、ビタミンに関する詳細なデータが含まれていた。異例の窒素化合物(アミノ酸のD異性体など)や脂肪酸は認められず、炭水化物はほとんどがキチンであった。
 安全性評価は、マイコプロテインに毒性物質が含まれているかどうかを確定することを目的としていた。だが毒性物質が含まれている可能性があるとしても、果たしてそれが何なのかは予測できず、したがってそれらに対して抽出や濃縮によってどのような影響が生じうるのかも予測できなかったので、まるごとの製品に対して一連の毒性試験が実施された。
 実施されたいずれの試験でも、ヒトに対する安全性評価に関わるような用量依存性の悪影響は記録されなかった。だが試験動物の餌に高濃度のタンパク質を加えたために、餌の配合による問題が生じた。
 タンパク質の質を調べるため、アミノ酸、アミノ酸利用率、代謝エネルギーを制限した上で、マイコプロテインに関する動物投与試験が行われた。また、キチンがアミノ酸、ビタミン、ミネラルの吸収に及ぼす作用についても評価が行われた。
 マイコプロテインからの抗栄養作用を示す結果は得られなかった。それどころかヒトの栄養試験では、マイコプロテインが良質のタンパク源であることが示された。
 ヒトによるマイコプロテインの消化からは、大きな毒性作用は認められなかった。ボランティアを用いたアレルゲン性試験では、ヒトにおけるアレルギー反応を示す確証は得られなかった。だがマイコプロテインに対する臨床反応を同定できるように、スキンテスト用の標準抗原が製品発売前に開発された。
 マイコプロテインの特性上、潜在的な市場はわかっていたので、摂取量の算定は可能だった。
 毒性試験の結果と潜在的なマイコトキシン産生に関するFusarium株の評価結果からは、マイコプロテインをヒト用食品として用いても、潜在的な毒性作用は生じないことが示された。ただしそれは、市販される製品が試験された製品と同一の規格であることが条件であった。
 栄養試験では、マイコプロテインが良質のタンパク源となること、および抗栄養因子は存在しないことが示された。
 英国当局はこのデータを評価した後、製品と工程規格に同意し、マイコプロテインを地域限定で試験的に販売することを承認した。約4000人が参加した販売試験では、副作用は報告されなかった。これを受けて、英国全土での販売が許可された。

7. 追加される評価手順の理論的根拠

 マイコプロテインには摂取された歴史はなかった。ヒト用食品としての使用の安全性評価では、製品がタンパク質諮問委員会(PAG)の微生物タンパク質に関する微生物規格に適合していたため(PAG Bulletin, 1970, Vol.4, No. 3参照)、潜在的な毒性作用と栄養効果に重点が置かれた。
 分析データからは、マイコプロテインの主成分(タンパク質、脂肪、炭水化物)から毒性上の問題が生じることは予測されなかった。しかしながら、マイコトキシン産生と含まれるキチンの栄養価という明らかに懸念される領域に対処するため、特定の試験が設計された。さらに、未知の毒素の有無を判定するため、一連の試験が適用された(逐次評価の概念)。

補遺

 マイコプロテインの評価が行われ、ヒトの食品用としての安全性が確認された後、生産能力を上げて販売に十分な量の製品を供給するため、生産工程の変更が必要になった。

生物/ 製品: マイコプロテイン

伝統的な製品評価: 最初の製品申請の際に手順はすでに確立されている。

伝統的評価に利用できるデータベース:最初の製品申請時に提出された情報がデータベースとなっている。

新規の成分/製品:英国当局は、エアリフト発酵槽で生産されたマイコプロテインが、ヒト用食品として利用する場合の安全性という点で攪拌型発酵槽で生産されたものと十分に類似していることを示す追加データを請求した。

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