ハンス・バーグマンズ博士
遺伝子改変臨時委員会(VCOGEM)
オランダ
イーブ・クヌーセン博士
食品庁毒性研究所長
デンマーク
1. 検討する概念の要点
a) 連続体の概念
伝統的に、乳酸菌の使用は食品安全上問題にならないとみられている。これについては第3項で扱う。
b) 現時点での考察事項
遺伝子組換え乳酸菌は、卵白リゾチームやニューバイオテクノロジーで得られたキモシンなど、酪農業で使われている新しい化合物と併用されている。これについては第5項と6項で述べる。
c) 無害であることの合理的確実性の概念
第5項と6項で述べる。
d) 実質的同等性の概念
第5項と6項で述べる。
e) 変異性の概念
該当せず
f) 逐次評価の概念
第5項と6項で述べる。
g) マーカー遺伝子の評価
第6項で述べる。
2. 生物/ 製品
「乳酸菌」。これはLactobacillus属、Leuconostoc属、Lactococcus属、Pediococcus属、Streptococcus属などの細菌の属を含む総称である。
3. 伝統的な製品評価
乳酸菌は乳製品の成分とも食品添加物ともみなすことができる。乳酸菌は酵母と同じく、伝統的なバイオテクノロジーでもっとも古くから使われた生物の部類に入る。
もともとは発酵させていない乳製品に含まれる乳酸菌が使われていた。オランダの酪農業では、このような乳酸菌が依然として大量に使われている。工業的な酪農生産では、発酵をより適切に調節するためにいわゆるスターター・カルチャーが使われている。スターター・カルチャーは従来の乳製品に含まれる乳酸菌に由来している。
従来よりほとんどの国では、使われた乳酸菌が無害であるという点を除いて、新種の乳酸菌の評価手順を正式に定めていない。そのほかには、酸、香料および細胞外多糖類の生産が評価基準となっている。工業用スターター・カルチャーの使用について正式な規定のある国では、乳酸菌には毒素産生性も病原性もないとみなされているのがふつうである。場合によっては(ヨーグルトなど)、最終製品に含まれる乳酸菌の必要最低数が食品法で定められている。
4. 伝統的評価に利用できるデータベース
オランダ、デンマークともなし
5. 新規の製品
次の2種類の製品について考察しなければならない。
i) クローン相同遺伝子、または他の乳酸菌に由来するクローン遺伝子を持つ乳酸菌。このような遺伝子の例には、タンパク質分解酵素、ならびに糖代謝、ナイシン産生、バクテリオシン産生、およびバクテリオファージ抵抗性に関与する酵素をコードする遺伝子などがある。
ii) 非相同遺伝子を持つ乳酸菌。このような遺伝子の例には、他の原核生物のソース(バクテリア)からフィムビリエをコードする遺伝子、卵白リゾチームやプロキモシンをコードする遺伝子、真核植物のソースからタンパク質分解酵素をコードする遺伝子などがある。
グループi)の生物は、伝統的な生物に比べて発現の程度が異常に高くない限り、おそらく新規性があるとはみなされない。
グループii)の生物は、乳製品に添加される可能性はあるけれども(卵白リゾチーム、キモシン)、少なくとも乳製品中で活性によって生成されたのではない遺伝子産物であるという点で、新規性がある。尚、遺伝子組換えEscherichia coliの生産したキモシンを乳製品に添加することは認められている(ケーススタディ参照のこと)。
6. 追加される評価手順
乳酸菌の伝統的な菌株の場合、特別の評価は要求されない。グループi)の生物に対する安全性評価では、細菌が無害であるという基準を満たさなければならない。これらの細菌については、導入遺伝子の発現程度に応じて実質的同等性を求めることができる。
グループii)の生物に対する評価は、原則として、これらの生物を新規性ありとみなすという考え方を土台にしている。当該評価は、伝統的な乳製品と比べた場合の化合物としての遺伝子産物を考慮するとともに、新たな形質の効果が食品の安全性に関わる限り、伝統的な生息環境中の生物の機能と比べた場合の当該効果を考慮しながら、ケースバイケースで行う。特別な場合、グループii)の評価では、これに続いて実質的同等性を求めることができる。
遺伝子の水平移行は、食品における遺伝子改変細菌の利用にとって追加的安全性の問題とみなされる。いずれかの伝統的な転移機序(接合、形質導入、形質転換、およびこれらのうちのいずれかによる影響)により、遺伝子が移行する可能性があるので、食品連鎖に悪影響を及ぼすおそれのある新規微生物が消化管または廃水中に出現する可能性をなくすため、追加的なリスク評価が必要になることがある。
7. 追加される評価手順の理論的根拠
乳酸菌から別の乳酸菌に遺伝子をクローニングしても、過剰産生や経路からの影響を排除できるならば、食されたことのない新規化合物は生産されないのがふつうである。ただし特別な場合には(バクテリオシン遺伝子の移行など)、個体群動態の考察を評価に加えなければならないことがある。
原核生物に真核遺伝子が発現すると、原核細胞系の翻訳後修飾がない場合を除き、真核細胞中に見られるのと同じ遺伝子産物が生じる。評価手順では、これらの細菌を新規のものとみなして、ケースバイケースで審査する。
マーカー遺伝子は、乳酸菌の伝統的な個体群にも存在するならば、おそらく問題にはならない。