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緒言

 お手ごろで高品質なシーフードに対する消費者の要求の増大、また海洋および淡水資源を過剰捕獲から保護する必要性から、経済的に重要な生物種の性能向上を目標とした水産養殖の研究、また水産資源の生物多様性および持続可能な利用に関連した問題など、基本的な問題への対処を目標とした水産養殖に対する関心が高まっている。さらに、水生動物はバイオ医薬や環境汚染研究においてモデル生物として使用されることが増えている。バイオテクノロジーの進歩は、研究者たちにこういった人類の必要性と関心に対応するための新たな機会を提供してくれている。

目的

 この自主的な実施基準は、研究者および機関が、遺伝子改変された魚類、甲殻類、軟体動物を取り扱う研究活動の生態学的および進化上の安全性を評価するうえで、その補助となることを目的としている。必要性が同定された場合には、実施基準は、自然の水生生態系に有害作用を及ぼすことなく研究が実行できるよう、適切なリスク管理手段を研究者が開発するうえでの補助となることも目的としている。本実施基準は、限られた知識に研究者が体系的に取り組み、また同定された場合にはリスク管理を助けることによって、遺伝子改変水生生物を取り扱う研究および開発が促進されることを目的としている。本実施基準は、研究者がそのような作業を進めることに対する妨害を意図するものではない
 研究活動を計画する全ての場合と同様、科学者は、自分の研究の安全性とリスクについて考慮し、有害効果を最小限にとどめるため適切に研究をデザインし、管理しなければならない。遺伝子改変魚類、甲殻類、軟体動物を取り扱う研究に関する特定の安全問題の審査に対応し、安全な研究管理に関する科学的な原理を提供する技術的ガイダンスは、科学界に利益をもたらすものとなるだろう。科学界全体を通じて広く支持を受けている技術的ガイダンスは、増大する消費者の要求に水産養殖が応え、バイオ医薬および環境汚染問題に対処するうえで必要とされる研究に対し、そのような研究の実行に関して受容できる基準において現在ある不明瞭さを低減することで、これを促進させるものとなるだろう。またそのような基準は、生態学的および進化上の安全性問題への対処において、適切なガイダンスを研究者たちが利用可能である、と一般社会に保証するものともなるだろう。本基準は、遺伝子改変された魚類および貝類を取り扱う研究における特定の必要性に的を絞ることで、より概括的な文書「遺伝子改変生物の環境への計画的導入が関与する研究に関するガイドライン」(ABRAC 1991)のアプローチに基づいて構築されている。

環境的に安全な研究を振興することの重要性

 本実施基準の使用を通じて環境的に安全な研究を促進させることは、魚類、軟体動物、甲殻類が持つ3つの特徴のため、特に重要である。第一に、これらの研究動物は野生型であるか、ほぼ野生型である。これらの生物は、しばしば野生で捕獲された配偶子から孵化される。現時点で、水産養殖生物種の個体群あるいは遺伝系統の家畜化は、脱走した個体が自然の環境条件の下で生存することを防ぐには不十分である。第二に、米国は、遺伝子改変が関与する研究および開発で関心が持たれている数多くの魚類および貝類生物種において、その多様性の源となっている。この自然の多様性を遺伝子、個体群、種のレベルで保護することは、米国の水生生物の生物多様性が劇的な減少を蒙っていることからしても、非常に重要である(Miller他 1989、Williams他 1989、WilliamsおよびMulvey 1994、Norse 1994)。残っている水生生物の多様性のうち(HughesおよびNoss 1992により評価)、27%の魚類は、絶滅危惧種、準絶滅危惧種、危惧種であり、またムール貝全種のうちほぼ50%が、絶滅危惧種法のもと、準絶滅危惧種あるいは絶滅危惧種として現在リストに載っているかあるいは掲載が提案されている。また北米のイセエビの3分の2が希少種あるいは絶滅の危険がある種である。第三に、魚類、軟体動物、甲殻類の野生個体群の多くは、漁業、スポーツフィッシング、その他のレクリエーション活動のため、それ自体で経済的に莫大な重要性がある。言い換えれば、経済活動および重要性は、水産養殖される魚類および貝類に留まるものではない。

研究および開発

 自主的な本基準は、下記で述べる該当生物を使った公共および民間分野で実行される研究ならびに開発での適用を意図したものである。商業的な水産養殖あるいは漁業管理プログラムにおける意図的な環境導入については、本基準に含まれる情報がその環境安全性の評価をする上での有用な開始地点を提供してくれるかもしれないが、これらの活動では本基準が対応している考慮事項を越えたさらなる考慮が必要とされる。

実施基準の柔軟性

 「実施基準」という用語は、本文書の名目においては、特定の意図されたガイダンスの性質を表し、通常「デザイン基準」で提供されるガイダンスからこれを区別するために使われている。実施基準は、達成すべきエンドポイントあるいは目標を定義し、これらの目標を達成するためのガイダンスおよび基準を提供する。実施基準は、それが固定されておらず規定的なものではない、という点でデザイン基準とは異なっている。実施基準は、目標を達成し、基準を満たす上で最良かつ最も適切な方法を選択するための柔軟性を提供している。この柔軟性を保証するため、実施基準は、ダイナミックにそして急速に変貌しつつある最先端技術に対応できるよう構築されている。

環境への影響に関する研究の促進

 遺伝子改変魚類あるいは貝類が関与した研究あるいは開発プロジェクトの多くにおいて、そのプロジェクトが環境に対して安全であるか否かを明確に判断するには、現時点での知識は不十分である。本実施基準はそのような事例を同定し、適切に封じ込めされた研究室での実験あるいは野外での実験の実施方法について、推奨を提供することを意図している。本実施基準の適用は、特定の遺伝子改変魚類および貝類が環境にもたらす影響に対する重要な情報のギャップに対応し、これらの改変生物の安全な開発を促進するための、安全な研究の実行を奨励するものでなければならない。環境への影響について封じ込めによって研究を実践することに関しては、HallermanおよびKapuscinski(1993)のさらなる記述を参照されたい。

環境安全性

 本実施基準は、環境安全性に関連した問題について、水生生物の自然個体群に対する遺伝的影響および水生生物生態系に対する生態学的な影響に関してのみ対応している。食品安全性に関連した問題に対するガイダンスが必要な研究者は、米国食品医薬品局に問い合わせ、また経済協力開発機構が最近公表した「最新バイオテクノロジー由来の食品に関する安全性評価:概念および原則」(OECD 1993)などの公刊ガイドラインを参照しなくてはならない。しかし、食品安全性に関する問題が解決しない場合、リスク管理の推奨事項が研究者にとって有用なものとなる可能性がある(本文書のVI章を参照)。プロジェクトの承認あるいは実行が、米国環境政策法(NEPA)への準拠を必要とする連邦行為である場合、全て記入したワークシート(下記で説明)が、環境への影響に関するNEPA書類の基礎となりうるだろう。
 いくつかの州および多くの機関では、組み換えDNA分子を保有する生物が関与した実験に対し、国立保険衛生研究所(NIH)の「組み換えDNA分子の関与した研究のガイドライン」(NIH 1994)について、その最新の訂正(例:NIH 1995)を含め、これに準拠することを求め、また組織のバイオセーフティ委員会、バイオセーフティ係官、その他の機関から承認されることを求めている。連邦から助成金を受けた全ての研究は、このNIHのガイドラインを遵守しなければならない。組み換えDNAを保有する生物の関与するプロジェクトを開始するには、研究者は自組織のバイオセーフティ委員会あるいはバイオセーフティ係官に連絡し、NIHガイドラインへの遵守に対するガイダンスを受ける必要がある。本実施基準は、魚類および貝類を取り扱う研究者全てに対し、NIHガイドラインおよび適正安全性基準を遵守する上で、さらに補助となることを目的としている(関連する記述については、VI章「リスク管理の推奨事項:プロジェクトの立地、デザイン、運営、審査」の副節「プロジェクト開始に先立つ審査」を参照のこと)。

実施基準の構成内容

 本実施基準は、相互に関連した3つの文書から成り立っている。第一が、研究プロジェクトの審査および管理に関する意思決定の手順を提供するフローチャートである。第二が補助文書(本文書)であり、これはフローチャートの質問に関する科学的背景および代替的な決定を提供、またより詳細なリスク管理の推奨を提示し、科学的用語の説明およびその他の補助的な補遺を提供する。フローチャートを進めていく上で、研究者は、下記の補助文書のうち、自分のプロジェクトに適用されるフローチャートおよび質問に対応した部分のみを読む必要がある。第三はワークシートで、研究者がこれにすべて記入すれば、フローチャートでの研究者の意思決定の順序を追跡し、これらの決定を支持する文書を提供し、また該当する場合にはプロジェクトのリスク管理における手段の根拠を記述するものとなる。

エキスパートシステムへの変換

 水産バイオテクノロジーに関するABRAC作業部会および全ABRACは、本実施基準の3構成要素を、相互に関連し、意思決定のためのコンピュータ化されたひとつの補助ツールへと変換することを推奨した。米国農務省農業バイオテクノロジー局は、コンピュータ化されたバージョンのプロトタイプを有しており、完全な変換への道を探っている。コンピュータ化されたバージョンでは、利用者は印刷された様々なフローチャートをめくる代わりに画面に表示される質問に答えるため、煩雑さは軽減されることになるだろう。説明文書、参考文献、用語説明は、意思決定の道筋のどの時点においても利用可能となるだろう。コンピュータプログラムは、利用者が意思決定の質問に答えた順序についてその追跡を自動的に作成するため、ワークシートのほとんどの記入は自動化される。本基準のコンピュータバージョンは、更新および普及がより容易となるだろう。

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